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第二部

第14話

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 腰に重い蹴りを喰らった男は悲鳴をあげてその場に崩れ落ちる。その前に瀬尾君が小鳥遊君を抱き止めて避難させてくれた。しかし小鳥遊くんのフェロモンを浴びて呼吸が荒くなっており、苦しんでいるのが分かる。

「おら!くそ、このアホ!無能!変態!ボケー!」

「ぎゃ!ちょ、やめ!君、な、何をしてるのか分かって!ひぎゃあ!」

 男の腰を何度も蹴りながら電話を取り出して、押し慣れた番号にかける。彼は1回目のコールですぐに出てくれた。

『もしもし?どうしたんですか、幸尚さん?』

「小鳥遊君がヒートを起こしてる。今からいう場所にすぐ来れるか?あとαとΩの抑制剤をそれぞれ買ってきてくれるか?」

『っ!大丈夫です。瀬尾もいますよね?すぐに行きますのでなんとか耐えるようにあの馬鹿に言っといてください。』

 三目君の電話を切った後、すぐにまた別の人へと電話をかける。

「誰に電話をしてる!お前みたいな平凡なβがαであるこの俺にぃ!!ひぎぃ!」

「うるさい!黙っとけ!」

「ぎゃあー!」

 四つん這いになっていた男を足で蹴って仰向けに返し、股間の真下に勢いよく足を振り下ろしてやった。股間を潰される恐怖からか、男は固まってしまっている。そして今度の相手は3コール目で出てくれた。

『もしもし?久しぶりだなぁ。どうかしたのか?』

「リチャード。君のところの会社の男がうちの大事な大事な社員を襲ったんだ。いやぁ、とんでもない社員を雇っているんだね、君。」

『なんだと!お前、私の会社と取引のあるところで働いているのか!どうして先に言わない!っと、まずはその問題を解決しよう。その男の名前は?』

「おい、名前!」

 そういえばこのクズ男の名前も知らなかった。

「だ、誰が!」

「ちっ!山本さんの次の担当者だよ。名前も言えない無能みたいだね。」

「なんだと!!」

「うるさい。リチャードの声が聞こえないだろ。」

「ひぃ!」

 また股関スレスレに足を下ろしてやるとキュッと内股になって大人しくなった。

『…今確認させている。事実だとすれば本当にすまない。』

「事実だよ。あと山本さん、閑職に飛ばされたって本当?」

『何を言ってるんだ。彼は優秀だから海外支社に転勤になったんだ。帰ってきたら部長だぞ?』

「嘘つきやがったならお前!」

「ひぃ!!」

 大きな声で怒鳴りつけると、身を縮めて震えている。なんて情けない奴だ。

『…確認した。そいつの名前は野々村だ。私が海外にいる間に好き勝手やっていたみたいだ。本当にすまなかった。今から部下をそちらに向かわせる。』

「よろしくお願いします。」

『謝罪は改めてさせてもう。幸尚の会社の社員にも謝っておいてくれるかな?』

「海外のお土産楽しみにしておきますよ。」

『もちろんだ。…全く営業として働いているなら私の会社に来れば良かったんだ!後日ちゃんと説明してもらうぞ!ではまた。』

 短く挨拶して電話を切る。野々村は状況が分かっていないのか呆けた顔でこちらを見ていた。

「全部嘘だったみたいだな。優秀な社長が海外にいる間に無能な役員と結託したか?残念だったな。お前よりも俺の方があんたんところの社長とは長いんだよ。」

「ひいっ!」

 そういうと同時に店の入り口の扉が開き、スーツ姿の男たちが数名入ってくる。

「お久しぶりです、山口さん。お話したいのは山々ですが、今日はこのアホを回収しなくてはいけないので。また社長と会社にお伺いします。」

 店にやってきたのは社長の秘書である松戸さん。シルバーフレームの眼鏡が似合う超有能秘書であり、リチャードの幼馴染だ。

「こちらこそ素早い対応ありがとうございます。またゆっくりお話ししましょう。」

 松戸さんと野々村を見送って店の中を振り返る。そこにはヒートで苦しむ小鳥遊君と、そのフェロモンに苦しむ瀬尾君と四宮部長がいる。アルファの2人は自分の腕を噛んで、何とか小鳥遊君を犯そうとする衝動を抑えていた。店の中にいる人たちも小鳥遊くんのフェロモンに当てられて息を荒くしている。

「っ!山口さん!」

 素晴らしいタイミングで三目君が店に飛び込んでくる。

「よし!四宮部長、小鳥遊君は俺に任せてください。部長たちにはこの店の対応をお任せしていいですか?」

「っ、わかった。」

 部長に三目君に買ってきてもらった抑制剤を渡して、瀬尾君と小鳥遊君に歩み寄る。

「ぐぅっ、ゆ、幸尚さ、ん、こないで!」

「瀬尾君…。」

 瀬尾君はぐったりとしている小鳥遊君の体を抱え込んでフーフーと荒い息を吐いている。αとしての本能が彼にΩを守らせているのだ。

「おれは…ぐぅ、ゆき、なおさんが、すきなのに、くそ、こんな!」

 今にも小鳥遊君のうなじを噛みたそうに口を開け閉めしている。

 そんな瀬尾君の顔を無理やり上げさせる。




「君は俺のもんだろ。俺だけ見とけ。」

「んうっ!!!」

 その唇に噛みついてやった。
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