悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜

華梨ふらわー

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衛生の基本は手洗いから

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「私達、先生のところに行くからちゃんと新しい服着てきたよ?」

 流しの前で彼らは“手洗い”をするのが不満という顔で私を見る。確かにボロボロの服だが、洗濯したばかり、という印象を受ける。彼らの自尊心を傷つけないように私は言葉を選ぶことにした。

「リタとレオだから手を洗って欲しいというわけではないのよ。私も梅干しを作る時、料理を作る時、食事をする時は手を洗うわ」

「なんで?」

 確かにこれまで手洗いをしてこなかった人間からしたら、当然といえば当然の質問だ。

「外だけじゃなくて、家の中には見えない菌がたくさん存在しているの。手でそれを触ってしまうと、その菌が色々な場所に広がってしまうでしょ?だから手を洗うのよ」

「ふ~~~ん」

 二人はまだ納得していないという様子だが、少しは手を洗ってくれる気になったに違いない。

「まず水で手を濡らして、石けんを手に取ります」

「これってお風呂屋さんあるやつでしょ?」

 リタが嬉しそうに石けんを手に取ると、レオは自慢げに

「俺の家ではそんなの使わないぞ。布でごしごし擦れば汚れが取れるんだ」

 と胸を張る。

「彼らの自宅には風呂がないからね。大衆浴場に週に一回行くか行かないか。あとは井戸の水で行水するぐらいだから石けんは珍しいのかもね」

 キースさんにそう言われ、私はなるほど、と静かに納得する。石けんは決して高いものではないが、風呂に毎日入る習慣がない人間からしたら、珍しいアイテムなのだろう。

「だから感染症が広がるんですね」

「なるほどね……そうかもしれない」

 新たな課題が見えてきたが、今はそれよりもリタ達に手洗いを教える方が先だ。

「石けんを泡立ててね。その泡でまず手の甲を洗うの。右手の甲を洗う時は左手の平を使うようにして交互に洗ってね」

 二人は不器用そうな手つきで恐る恐るといった様子で手を洗い始める。みるみるうちに泡が黒く変色した。一度洗い流してしまいたかったが、一通り教えてからにしようとグッとこらえる。

「次は指の間を洗うわよ。こうやって両手の指を組むようにして……あ、親指も握るようにしてくるくる洗ってね」

「これで終わり?」

 既に泡と格闘することに飽きてきたのだろう。そう言ったリタの言葉を私はあっさりと却下する。

「ここからが大事なの!手のひらで指の先を研ぐようにごしごしと洗って。指と爪の間も綺麗にできるのよ。最後は手首をつかむようにしてクルクル洗ってね」

「随分、念入りに洗うんだな。神官学校でもそんなこと習わなかったぞ」

「それは、キース様は診療前後に魔法で手を殺菌されているからですわ」

「なるほど……。確かに入学して最初にあの魔法を習った」

 いわゆるアルコール除菌のような魔法を医者達は使うことができる。道具も必要なく短い呪文を唱えると一瞬にして衛生的な状態になり非常に便利だが、そんな魔法が使えるのはごく一部の人間だけだ。

「これでいいの?」

 泡を洗い流し、若干本来の肌の色を取り戻した彼らの手を見て私は、にっこりと微笑む。

「あと三回繰り返してね」

 勿論、彼らから抗議の声と悲鳴が上がったのは言うまでもない。


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【参考文献】
SARAYA:せいけつ手洗い(最終閲覧日:2019年5月10日)
https://family.saraya.com/tearai/index.html

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