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【11】頼もしい援軍と変われる予感
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「でかしたぁぁぁ!!」
デザイン部に、小早川を始めとする女子社員達の歓喜の声が鳴り響いた。
彼女達が歓喜している理由は、言うまでもなく、菜乃が五十嵐との飲み会をセッティングしたことに対するものだった。
そして、その飲み会には更に嬉しい特典が付いていた。
「五十嵐さんが用意してくれた参加者のリストヤバくない!? 」
「分っかる! マーケティング部の田丸さんに、営業部の渡さん。広報部の八神君に会社が運営するレストランのシェフ早乙女さんて……。皆、仕事が出来て独身のイケメン揃いっ! 」
「何このチョイス! 神か、神なのか! 」
「私の運、ここで使いきってない? 死ぬの?ねぇ、 明日私死ぬのぉ!? 」
うぉぉぉ――!! と興奮冷めやらない女子社員の雄叫びを聞きながら、菜乃は彼女達の熱気に圧倒され、静かに一人凪いだ様子で、彼女達の狂喜乱舞する様を眺めていた。
(凄いなぁ……。五十嵐さんの『面倒だから自分以外の男の人に目を向けさせる作戦』にまんまと引っ掛っている)
五十嵐の本音を聞いているので、菜乃にはこの飲み会の、五十嵐側の人選の理由が手に取るように分かった。
だとしても、この面子をあっさりと呼ぶことが出来る五十嵐の人脈よ。
あんなに性格終わってるのに。いや、案外皆さんも同じ性格とか?
一瞬、モテメンが五十嵐の女子マーケティングを愉快そうに聞いている場面が浮かび、菜乃はブンブン頭を振り、嫌な考えを打ち消した。
そんな菜乃の頭を、ガシッと誰かが両手で掴んで動きを止めた。
菜乃の頭を掴んだ人物。
それはデザイン部一華やかな女子、小早川だった。
小早川はじっと無言のまま、真剣な眼差しで菜乃を見つめていた。
「あの、小早川さん? どうしたんですか?」
小早川は、菜乃を爪先から頭のてっぺんまで目を細めながら注意深く眺めると、意を決したように口を開いた。
「……レベル上げが必要だわ」
「は? 」
何に対するレベル上げなのか。ド○ク○でないのは確かだ。
頭を押さえられ、動かすことが出来ない菜乃は、怪訝な表情で小早川を見つめ返した。
「今回の飲み会は、あくまでこの間の飲み会で、気分の悪くなった小森さんを、介抱してくれた五十嵐さんへお礼を兼ねた、仕切り直しの飲み会。当然、当事者である小森さんの参加は必須。今回の相手側の参加者は、どの方もハイレベルのイケメンエリート集団。つまり――」
「つ、つまり……? 」
小早川の謎に醸し出される迫力に、菜乃がごくりと唾を飲み聞き返す。
それを受けて、小早川のまつエクの施された、パッチリとした華やかな目元が、くわっと一際大きく見開かれた。
「私達も彼らのレベルに合わせる必要があると言うことよ! 特に小森さん。今のあなたでは、到底彼らの前に立つことなど許されない」
「えぇ、ひど……。というか、私、別にその飲み会、初めから参加する気全くなかったんですけど……」
「何言ってるのよ。迷惑かけた当事者が参加しないなんて、これ程失礼な話ないでしょ? 」
「はぁ……」
『迷惑かけられたのは私なんで、全然問題ないのですが』と言うわけにはいかず、菜乃は力なく曖昧な返事をした。
「ぽちゃった体型はそう簡単にどうにかすることが出来ないにしても、それ以外が問題ね」
「確かに。自分の顔を隠すように伸ばされた前髪と、面倒臭さ丸出しの後ろに一つに縛っただけの髪の毛。化粧はほぼノーメーク。服は身体の膨張を増大させて見せる大きめな横のボーダー柄のサマーニットにパツパツ感丸出しのベージュのパンツ」
「うぐっ! 」
女子社員達の冷静な分析が、お洒落に疎い菜乃の心をグサグサと抉る。
「小森さん、これあげる」
小早川から渡されたのは、一枚の名刺だった。
「ここ、私が通っている美容サロン。先ずは髪の毛を整えて、当日はそこでメイクもして貰った方がいいわ。そして、今日は仕事が終わり次第、飲み会の服を見つけに行くわよ」
「そんな手持ちはないのですが……」
「幸い今日は給料日じゃない。一万円以内で、今のあなたの着ている服よりは数倍ましな全身コーデ見繕ってあげるわ。いいわね、小森さん。この飲み会、私達の明るい未来が掛かっているの。絶対に失敗は許されないわ。あなたも腹を括って協力して頂戴」
「は、はい……」
ガシッ、と顔から肩へと小早川の手が降ろされる。
有無を言わせないその迫力に、菜乃は頷くほか術はなかった。
* * *
「ふひぃ~、疲れたぁ……」
アパートに戻ってくるなり、菜乃はどさりとベッドに倒れ込んだ。
その手には、小早川に言われるまま買わされた、飲み会用の服や靴が入った紙袋が握られていた。
まさに全身コーデ。
あちこちの店を周り、一体何着試着をさせられただろう。
菜乃はとにかくされるがままであったが、ようやく及第点なコーデを揃え終えると、小早川は満足な笑顔を浮かべ菜乃を解放した。
「うん、何とか見られるかもね。小森さんって、地味だけど、元々の顔立ちは悪くないし、手入れしてないわりに肌質はいいし、私の足元には到底及ばないけど、結構いいもの持ってると思うのよね。あとは自分の努力次第だと思うわ。飲み会まで二週間、死ぬほど自分を磨いて頂戴」
去り際に言われた言葉を思い出す。
(小早川さん、思ったよりも良い人だった……)
会社の同僚とショッピング。
入社二年目でそれを初めて経験した菜乃は、少しだけくすぐったい気持ちになった。
(最近の私、初めてのことだらけだ)
会社の飲み会で、初めて異性を自分のアパートに泊めたこと。
社食でマーケティング部の田丸と出会い、初めて一緒に社食を食べられる仲間が出来たこと。
寝ている時に、初めて異性から抱き締められたこと。
お腹の肉を摘ままれたこと。
会社の同僚と、ショッピングに出掛けたこと。
菜乃は財布から、ごそごそと小早川にもらった名刺を取り出すと、ドキドキしながら、そこに書かれたお店の電話番号を、スマホに打ち込んだ。
プルルル――♪
(そして、初めてお洒落な美容院を予約しようとしていること――)
『はい、美容サロンくすの木です』
「あ、あの知り合いに紹介されて――」
菜乃は今、自分に起きている奇跡のような出来事に、少しだけ心が沸き立っているのを感じていた。
今迄、頑なに閉ざしていた心の扉が、少しだけ開かれたような気がした。
自分は変われないと、決めつけ諦めていた思い。
みにくいアヒルの子が白鳥になれるように、子供の頃に憧れていた絵本の世界に、自分もほんの少しだけ、足を踏み入れることが出来るかもしれない。
それは、五十嵐によってもたらされた不運から始まった。
今迄、自分の人生に後ろ向きだった菜乃が、ようやく扉の取っ手に手をかけた瞬間だった。
デザイン部に、小早川を始めとする女子社員達の歓喜の声が鳴り響いた。
彼女達が歓喜している理由は、言うまでもなく、菜乃が五十嵐との飲み会をセッティングしたことに対するものだった。
そして、その飲み会には更に嬉しい特典が付いていた。
「五十嵐さんが用意してくれた参加者のリストヤバくない!? 」
「分っかる! マーケティング部の田丸さんに、営業部の渡さん。広報部の八神君に会社が運営するレストランのシェフ早乙女さんて……。皆、仕事が出来て独身のイケメン揃いっ! 」
「何このチョイス! 神か、神なのか! 」
「私の運、ここで使いきってない? 死ぬの?ねぇ、 明日私死ぬのぉ!? 」
うぉぉぉ――!! と興奮冷めやらない女子社員の雄叫びを聞きながら、菜乃は彼女達の熱気に圧倒され、静かに一人凪いだ様子で、彼女達の狂喜乱舞する様を眺めていた。
(凄いなぁ……。五十嵐さんの『面倒だから自分以外の男の人に目を向けさせる作戦』にまんまと引っ掛っている)
五十嵐の本音を聞いているので、菜乃にはこの飲み会の、五十嵐側の人選の理由が手に取るように分かった。
だとしても、この面子をあっさりと呼ぶことが出来る五十嵐の人脈よ。
あんなに性格終わってるのに。いや、案外皆さんも同じ性格とか?
一瞬、モテメンが五十嵐の女子マーケティングを愉快そうに聞いている場面が浮かび、菜乃はブンブン頭を振り、嫌な考えを打ち消した。
そんな菜乃の頭を、ガシッと誰かが両手で掴んで動きを止めた。
菜乃の頭を掴んだ人物。
それはデザイン部一華やかな女子、小早川だった。
小早川はじっと無言のまま、真剣な眼差しで菜乃を見つめていた。
「あの、小早川さん? どうしたんですか?」
小早川は、菜乃を爪先から頭のてっぺんまで目を細めながら注意深く眺めると、意を決したように口を開いた。
「……レベル上げが必要だわ」
「は? 」
何に対するレベル上げなのか。ド○ク○でないのは確かだ。
頭を押さえられ、動かすことが出来ない菜乃は、怪訝な表情で小早川を見つめ返した。
「今回の飲み会は、あくまでこの間の飲み会で、気分の悪くなった小森さんを、介抱してくれた五十嵐さんへお礼を兼ねた、仕切り直しの飲み会。当然、当事者である小森さんの参加は必須。今回の相手側の参加者は、どの方もハイレベルのイケメンエリート集団。つまり――」
「つ、つまり……? 」
小早川の謎に醸し出される迫力に、菜乃がごくりと唾を飲み聞き返す。
それを受けて、小早川のまつエクの施された、パッチリとした華やかな目元が、くわっと一際大きく見開かれた。
「私達も彼らのレベルに合わせる必要があると言うことよ! 特に小森さん。今のあなたでは、到底彼らの前に立つことなど許されない」
「えぇ、ひど……。というか、私、別にその飲み会、初めから参加する気全くなかったんですけど……」
「何言ってるのよ。迷惑かけた当事者が参加しないなんて、これ程失礼な話ないでしょ? 」
「はぁ……」
『迷惑かけられたのは私なんで、全然問題ないのですが』と言うわけにはいかず、菜乃は力なく曖昧な返事をした。
「ぽちゃった体型はそう簡単にどうにかすることが出来ないにしても、それ以外が問題ね」
「確かに。自分の顔を隠すように伸ばされた前髪と、面倒臭さ丸出しの後ろに一つに縛っただけの髪の毛。化粧はほぼノーメーク。服は身体の膨張を増大させて見せる大きめな横のボーダー柄のサマーニットにパツパツ感丸出しのベージュのパンツ」
「うぐっ! 」
女子社員達の冷静な分析が、お洒落に疎い菜乃の心をグサグサと抉る。
「小森さん、これあげる」
小早川から渡されたのは、一枚の名刺だった。
「ここ、私が通っている美容サロン。先ずは髪の毛を整えて、当日はそこでメイクもして貰った方がいいわ。そして、今日は仕事が終わり次第、飲み会の服を見つけに行くわよ」
「そんな手持ちはないのですが……」
「幸い今日は給料日じゃない。一万円以内で、今のあなたの着ている服よりは数倍ましな全身コーデ見繕ってあげるわ。いいわね、小森さん。この飲み会、私達の明るい未来が掛かっているの。絶対に失敗は許されないわ。あなたも腹を括って協力して頂戴」
「は、はい……」
ガシッ、と顔から肩へと小早川の手が降ろされる。
有無を言わせないその迫力に、菜乃は頷くほか術はなかった。
* * *
「ふひぃ~、疲れたぁ……」
アパートに戻ってくるなり、菜乃はどさりとベッドに倒れ込んだ。
その手には、小早川に言われるまま買わされた、飲み会用の服や靴が入った紙袋が握られていた。
まさに全身コーデ。
あちこちの店を周り、一体何着試着をさせられただろう。
菜乃はとにかくされるがままであったが、ようやく及第点なコーデを揃え終えると、小早川は満足な笑顔を浮かべ菜乃を解放した。
「うん、何とか見られるかもね。小森さんって、地味だけど、元々の顔立ちは悪くないし、手入れしてないわりに肌質はいいし、私の足元には到底及ばないけど、結構いいもの持ってると思うのよね。あとは自分の努力次第だと思うわ。飲み会まで二週間、死ぬほど自分を磨いて頂戴」
去り際に言われた言葉を思い出す。
(小早川さん、思ったよりも良い人だった……)
会社の同僚とショッピング。
入社二年目でそれを初めて経験した菜乃は、少しだけくすぐったい気持ちになった。
(最近の私、初めてのことだらけだ)
会社の飲み会で、初めて異性を自分のアパートに泊めたこと。
社食でマーケティング部の田丸と出会い、初めて一緒に社食を食べられる仲間が出来たこと。
寝ている時に、初めて異性から抱き締められたこと。
お腹の肉を摘ままれたこと。
会社の同僚と、ショッピングに出掛けたこと。
菜乃は財布から、ごそごそと小早川にもらった名刺を取り出すと、ドキドキしながら、そこに書かれたお店の電話番号を、スマホに打ち込んだ。
プルルル――♪
(そして、初めてお洒落な美容院を予約しようとしていること――)
『はい、美容サロンくすの木です』
「あ、あの知り合いに紹介されて――」
菜乃は今、自分に起きている奇跡のような出来事に、少しだけ心が沸き立っているのを感じていた。
今迄、頑なに閉ざしていた心の扉が、少しだけ開かれたような気がした。
自分は変われないと、決めつけ諦めていた思い。
みにくいアヒルの子が白鳥になれるように、子供の頃に憧れていた絵本の世界に、自分もほんの少しだけ、足を踏み入れることが出来るかもしれない。
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