【完結】ひかりのそばで、またあした

香澄京耶

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おまけ - セリアスとのある日の会話

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 すっかり忘れていたそれを思い出したのは、第一王子アスティルの結婚話が進みそうだ、という話題を聞いてからだった。
 今まで情勢を鑑みて控えてきたそれがようやく進むと聞いて、素直に喜んだ矢先、ふと思い出した。

「そういえば。」

 セリアスの瞳がこちらを見る。
 ある程度反応が予測できて、迷いつつも口にした。
 
「もう一人の“俺”は結婚したみたい。」
「けっこん。」
 
 鸚鵡返しの声は、第一声からすでに許容量を超えていると伝えてくる。なら、畳み掛けるしかなかった。
 
「うん、実はもう子供もいて。」
「……こども。」
 
 もはや機械仕掛けのおもちゃのようだ。
 笑いたくなるのを堪えた。
 
「実は、向こうとこっちの時間の進み方が違うみたいで。
 魂がどこか繋がってるから、たまに強い感情が伝わってきてて。
 それを女神に、世間話ついでに話したら、」

「世間話ついで」
 本当にセリアスが壊れたかもしれない気もするが、今は気にしないことにした。

「そしたらね、女神が向こうの映像を渡してくれて、現状が分かったってわけなんだけど。一ヶ月前くらいかな。」
 面白い出来事だったので、けらけらと笑ってみせても、セリアスには届かない。
 
「なぜそんなに大切なことを今になって……。」

 信じられないような表情は、髪色のくだりの時に見た気がする。
 “ついうっかり”話しそびれてしまうのは、情緒が足りないせいなのか、考えなしのせいなのか、自分でもどちらか分からない。

「問題なさそうだったし、つい忘れてた。」
「ヒナタは自分のことに無頓着すぎるな……」
 どこかショックを受けたような顔にむっとする。
 もう一人の“俺”に意識を向けられすぎるのは何だか納得がいかない。
  
「同じ“俺”でも、セリアスがなにか思うのは嫌だよ。」
 率直に伝えれば、ふるふると頭を降りつつ納得いかない顔をされた。
 
「違う、どちらもヒナタと思えば気持ちが落ち着かないだけだ。」
 真面目な顔に嘘はない。それでも思わず疑わしげな目線を向けてしまうのは、自分のせいだけではないと思う。
 
 実は、わりと。
 そんなバカな、という思いとともに、あの日の言葉は耳に残っている。
 
 『そうしよう。二人とも私の傍に居るべきだ。』

 ――そんなの、いい訳がない。

「今ここにいる俺だけじゃ満足いかない?」

 多少唇をつきだして、あからさまに拗ねてみれば、あっという間にセリアスが“戻って”きて、慌てた様子を見せた。

「そんな事はない!」
 
 はっきりとした言葉にようやく納得した。
 
「俺のことは、セリアスが考えてくれてる。それでいいよ。」

 甘えきった言葉は、セリアスの嬉しそうな笑みに肯定された。
 甘い口付けに満たされて、つられて笑ったままに魔法を展開させた。

「この映像を女神がくれてさ。」

 展開した魔法には、一つの家族が写っていた。
 夫婦と、二人の子供が笑っている、微笑ましい映像だ。目を引くところと言えば、それは――

「ヒナタが成長している……」

 ――違う、そうじゃない。
 そう思いつつ、ぶれない視点に愛情を感じて、少しくすぐったい。

「や、そこじゃなくて……横、見て。誰かに似てない?」
 セリアスがまじまじと映像をみて、気づいたように自分の顔を触った。
 
「この女性、セリアスに似てるだろ――あっちの俺も、頑張って“セリアス”を探したみたい。ね、すごくない?」

 向こうの“俺”の、その途方も無い努力を想像して笑うしかない。
 
「俺たちの関係、世界を超えたみたい。」
 
 そう言ってセリアスを見上げると――真顔で抱きかかえられた。

「子供を作ろう。」
「え、」

 さすがにその流れは予想できなかった。
 ベッドに下ろされて、口付けは受け入れたが、深くなりそうなそれに胸を押す。

「なんでそこで張り合うんだよ。俺、男だから無理だよ。」
 
 はっきり言えば、今さら思い当たったように、手首飾りに触れられる。
 
「ああ――そちらの世界では無理だったのだな。こちらの世界では“できる”。」
「できる……?」
「その魔式も組み込んである。」

 ――だから。なんてものを組み込んでるんだ。

 つい言葉を失い、初めての夜を思い出して――かっと顔に血が昇った。
 そういえば、腕飾りに何を組み込んでいるのか、全部聞いていなかった。思ったより多機能の方向性が違いすぎて心配になる――いや、でも、今はそれより。

「他の世界から来てるから、多分、無理かもしれないし、それに。」

 言うべきか、しばらく悩んで、目の前の男の熱量に負けた。
 
「――それに、セリアスを大切にするので、いっぱいいっぱいだから……二人で、いい。」

「それは、」
 セリアスが言葉に詰まったように止まったあと、蕩けたように破顔した。

「……どこまでも、嬉しい言葉だ。」

 柔らかい口付けに、押し返したはずの手が、どこまで踏みとどまれるのかは分からなかった。
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