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番外編 - 紙ヒコーキ大会
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なんでこんな大事に。
そうは思っても、原因は自分だった。
新年を迎えるにあたって、何かイベントを、と思ったのはいい。
ただ、目からビームで飛距離を測るというのは早々に却下された。――少し面白そうだったのに。
結局、紙ヒコーキの話題が盛り上がって――試しに作ったセリアスとルーエンが同着だったのが、おそらく火を注いだ。
自分の紙ヒコーキが遥か前に落ちたのは、もう何もつっこまないでおこう。
だから、この場で“特別審査委員長”の任を与えられたのも、素直に受け入れた。――決して、不器用だからではない。発案者だからだ。
「ヒナタ様、この戦況どう思われますか。」
実況者の彼が、こちらを見てくる。
正直よく分からないので神妙な面持ちを作って頷いた。
「大事な戦況だね――紙をどれだけ折り込んでいるか、それが重要……らしい。」
当たり前のことを、さも重要そうに言えば、実況者も神妙に頷く。
「その通りですね――この競技は、魔法の使用も許されていません。その分、風の流れや、紙をどれだけ複雑に折っているか……それが勝敗の決め手です。」
頷いて、思う。
実況者も当たり前のことしか言っていない。多分このままで大丈夫だ。
複雑な折り方などよく知らなかったが、きっと問題はないだろう。
「第一レーンのセリアス殿下には注目が集まりますが。」
向けられた声に頷く。
「彼には期待しています。」
「第二レーンのルーエン学園長にも注目が集まっております。」
「彼にも、期待しています。」
返答して――そろそろ何も考えていない事がばれそうで言葉を重ねた。
「皆に期待してる。……きっと、平和の象徴になるイベントだと思う。」
たぶん、それなりに良さそうな言葉で締めれば問題ない。
くっと目を抑えた実況者の彼の背中を撫でた。
第一レーンからの強い視線は気にしない。
「では、第一回、カミヒコーキ大会、開催いたします…!」
声高々に宣言されたと同時、青い空に白い紙が舞った。
一斉に舞うそれに感動しかけたのは、思い入れがあったからかもしれない。
「ぐんぐんと伸びるカミヒコーキ、おっと、あれは誰のものか…!現地での報告が待たれます。」
――これ、実況、必要なのかな。
さすがに目の前で笑えずに顔を伏せた。元々、笑いの沸点は低い。
愉快な気持ちでいると、唐突に子供の声が響いた。
「かあさまのカミヒコーキ!お願い、飛んで……!」
強い声が耳に残る。
――たしか、あれは。
その少年を知っている気がした。
浄化に訪れた際、見覚えのある子供だった。
たしかあの子の母親は――…。
手元にあった紙を、気づけば折っていた。感情のまま、咄嗟に飛ばしたそれは、少年の気配を帯びた紙ヒコーキに触れて、背を押した。
果てなく飛び切った二つの紙ヒコーキは、明るい空の彼方に消えていった。
はしゃぐ子供にほっとすると同時――その場にいる者たちの視線が集まって、困って付け加えた。
「――子供たちすべてに、特別賞……ってことで、どうかな?」
心底手を合わせてお願いすれば、審査員と周りの人たちのくしゃりとした破顔が見えて、言葉を重ねた。――優しそうなので、どうにかなりそうだ。
「それで、子供たちにおかしをあげる。……どう?」
鷹揚に頷いた彼らは、それでもやはり容赦はなかった。
「リュミエール辺境伯領より、この場に参加した子供たち全てに下賜がある!」
――そのニュアンスで気づいた。“下賜”ではない、“お菓子”のつもりだったのに。
そう思っても、今更否定はできない。
勝負はルーエンが優勝したようで、誇った顔をしている。
きっとそうなると思っていた。
なぜなら、昨日複雑な図面を出されて意見を求められたから――もちろん、何の意見も出せないほどの精密さだった。
図面まで持ち出されては、誰も敵わないだろう、と思っていたが、正しくその通りだった。
――ルーエン先生、恐るべし。
またひとつ、彼の才能を知ってしまった。
***
そうやって大盛況で終わった紙ヒコーキ大会だったのだが、少し余計な事をした気がして、胸の奥が重かった。
「ソラネ。」
セリアスの声が耳に届く。
甘い声がくすぐったくて、怒ってはいないと気づいた。
「セリアス。」
「領地の税収を早々に使うとは――少し驚いたぞ。」
「ごめん……」
豊かな土地とはいえ、民税だ。心底申し訳ない気持ちになって項垂れた。
「それでいい。」
柔らかな声に顔を上げる。
「そなたと築きたいのは、そういった平和な土地だ。……今回のことも、良いように動くだろう。」
「……そうなの?」
ほっとして息をつくと、頬に口付けられる。
「ソラネと共にあって、共に領主をすることにも満足している。やるべき事を迷うな。――そなたは、そなたのままでいい。」
「ごめん……実は“お菓子”のつもりで。」
そっと付け加えると、一拍して意味が伝わったのが、愉快そうにシリアスが笑った。
「なるほど……それは、」
その様子は耐えきれないとばかりだったが、いくら笑われても何の文句も言えない。
「大丈夫だ。どちらにしろ、これからの立て直しに金銭が要るのは確かだ。
そこの出所が豊かな土地であるというのは必然だ。王に命じられるか、こちらが進んで出すかの違いだ。なれば、後者がよい。」
ふっと笑って寄り添われる。
「そういったところも含めて“ソラネ”だ。」
すべてを受け止められるかのように深く口付けられて、安堵と共に――これからの領主の自覚を、少しずつ持たなければと思った。
「ごめん……気をつけるよ。――それから、二着、おめでとう。」
途端に微妙な顔をするセリアスに、声を立てて笑った。
「……一位になりたかった?」
「当たり前だろう。」
若干ぶすくれているセリアスが可愛い。
「大体、設計図まで作り上げるルーエンがおかしい。」
ぶつぶつと文句を言う姿は珍しい。よほど一番になりたかったらしい。
「……ソラネの発案なのに。」
小さく付け加えられた一言に笑いがとまった。
まじまじと目の前の美貌を見つめて――どうにも可愛く思えて口付けた。
「ね、今度は二人でやってみようよ――多分、俺は惨敗だけどさ。」
「ならば、私の紙ヒコーキがその背を押そう。」
言われた言葉にくすぐったさを感じて頬に擦り寄った。
「ずっと……期待してる。」
はにかむような笑顔に幸せを思って、静かに瞼を閉じた。
そうは思っても、原因は自分だった。
新年を迎えるにあたって、何かイベントを、と思ったのはいい。
ただ、目からビームで飛距離を測るというのは早々に却下された。――少し面白そうだったのに。
結局、紙ヒコーキの話題が盛り上がって――試しに作ったセリアスとルーエンが同着だったのが、おそらく火を注いだ。
自分の紙ヒコーキが遥か前に落ちたのは、もう何もつっこまないでおこう。
だから、この場で“特別審査委員長”の任を与えられたのも、素直に受け入れた。――決して、不器用だからではない。発案者だからだ。
「ヒナタ様、この戦況どう思われますか。」
実況者の彼が、こちらを見てくる。
正直よく分からないので神妙な面持ちを作って頷いた。
「大事な戦況だね――紙をどれだけ折り込んでいるか、それが重要……らしい。」
当たり前のことを、さも重要そうに言えば、実況者も神妙に頷く。
「その通りですね――この競技は、魔法の使用も許されていません。その分、風の流れや、紙をどれだけ複雑に折っているか……それが勝敗の決め手です。」
頷いて、思う。
実況者も当たり前のことしか言っていない。多分このままで大丈夫だ。
複雑な折り方などよく知らなかったが、きっと問題はないだろう。
「第一レーンのセリアス殿下には注目が集まりますが。」
向けられた声に頷く。
「彼には期待しています。」
「第二レーンのルーエン学園長にも注目が集まっております。」
「彼にも、期待しています。」
返答して――そろそろ何も考えていない事がばれそうで言葉を重ねた。
「皆に期待してる。……きっと、平和の象徴になるイベントだと思う。」
たぶん、それなりに良さそうな言葉で締めれば問題ない。
くっと目を抑えた実況者の彼の背中を撫でた。
第一レーンからの強い視線は気にしない。
「では、第一回、カミヒコーキ大会、開催いたします…!」
声高々に宣言されたと同時、青い空に白い紙が舞った。
一斉に舞うそれに感動しかけたのは、思い入れがあったからかもしれない。
「ぐんぐんと伸びるカミヒコーキ、おっと、あれは誰のものか…!現地での報告が待たれます。」
――これ、実況、必要なのかな。
さすがに目の前で笑えずに顔を伏せた。元々、笑いの沸点は低い。
愉快な気持ちでいると、唐突に子供の声が響いた。
「かあさまのカミヒコーキ!お願い、飛んで……!」
強い声が耳に残る。
――たしか、あれは。
その少年を知っている気がした。
浄化に訪れた際、見覚えのある子供だった。
たしかあの子の母親は――…。
手元にあった紙を、気づけば折っていた。感情のまま、咄嗟に飛ばしたそれは、少年の気配を帯びた紙ヒコーキに触れて、背を押した。
果てなく飛び切った二つの紙ヒコーキは、明るい空の彼方に消えていった。
はしゃぐ子供にほっとすると同時――その場にいる者たちの視線が集まって、困って付け加えた。
「――子供たちすべてに、特別賞……ってことで、どうかな?」
心底手を合わせてお願いすれば、審査員と周りの人たちのくしゃりとした破顔が見えて、言葉を重ねた。――優しそうなので、どうにかなりそうだ。
「それで、子供たちにおかしをあげる。……どう?」
鷹揚に頷いた彼らは、それでもやはり容赦はなかった。
「リュミエール辺境伯領より、この場に参加した子供たち全てに下賜がある!」
――そのニュアンスで気づいた。“下賜”ではない、“お菓子”のつもりだったのに。
そう思っても、今更否定はできない。
勝負はルーエンが優勝したようで、誇った顔をしている。
きっとそうなると思っていた。
なぜなら、昨日複雑な図面を出されて意見を求められたから――もちろん、何の意見も出せないほどの精密さだった。
図面まで持ち出されては、誰も敵わないだろう、と思っていたが、正しくその通りだった。
――ルーエン先生、恐るべし。
またひとつ、彼の才能を知ってしまった。
***
そうやって大盛況で終わった紙ヒコーキ大会だったのだが、少し余計な事をした気がして、胸の奥が重かった。
「ソラネ。」
セリアスの声が耳に届く。
甘い声がくすぐったくて、怒ってはいないと気づいた。
「セリアス。」
「領地の税収を早々に使うとは――少し驚いたぞ。」
「ごめん……」
豊かな土地とはいえ、民税だ。心底申し訳ない気持ちになって項垂れた。
「それでいい。」
柔らかな声に顔を上げる。
「そなたと築きたいのは、そういった平和な土地だ。……今回のことも、良いように動くだろう。」
「……そうなの?」
ほっとして息をつくと、頬に口付けられる。
「ソラネと共にあって、共に領主をすることにも満足している。やるべき事を迷うな。――そなたは、そなたのままでいい。」
「ごめん……実は“お菓子”のつもりで。」
そっと付け加えると、一拍して意味が伝わったのが、愉快そうにシリアスが笑った。
「なるほど……それは、」
その様子は耐えきれないとばかりだったが、いくら笑われても何の文句も言えない。
「大丈夫だ。どちらにしろ、これからの立て直しに金銭が要るのは確かだ。
そこの出所が豊かな土地であるというのは必然だ。王に命じられるか、こちらが進んで出すかの違いだ。なれば、後者がよい。」
ふっと笑って寄り添われる。
「そういったところも含めて“ソラネ”だ。」
すべてを受け止められるかのように深く口付けられて、安堵と共に――これからの領主の自覚を、少しずつ持たなければと思った。
「ごめん……気をつけるよ。――それから、二着、おめでとう。」
途端に微妙な顔をするセリアスに、声を立てて笑った。
「……一位になりたかった?」
「当たり前だろう。」
若干ぶすくれているセリアスが可愛い。
「大体、設計図まで作り上げるルーエンがおかしい。」
ぶつぶつと文句を言う姿は珍しい。よほど一番になりたかったらしい。
「……ソラネの発案なのに。」
小さく付け加えられた一言に笑いがとまった。
まじまじと目の前の美貌を見つめて――どうにも可愛く思えて口付けた。
「ね、今度は二人でやってみようよ――多分、俺は惨敗だけどさ。」
「ならば、私の紙ヒコーキがその背を押そう。」
言われた言葉にくすぐったさを感じて頬に擦り寄った。
「ずっと……期待してる。」
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