異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
15 / 555
新たな始まり

危険なハチとの遭遇

しおりを挟む
 武器屋を出た後もアルダンの町を散策した。
 精肉店の品揃えを確かめたり、香辛料を扱う店で調味料を探したりした。
 その後にカフェテリアへ向かうと、アデルとフランがテラス席に座っているのを見かけた。

 二人の様子が気にかかり店内に入って飲み物を注文した。
 のどが渇いていたので、冷やした果物を細かく砕いて氷水と混ぜたものを選んだ。 
 俺は飲み物を受け取ってからアデルたちと離れた席に腰かけた。
 氷水を口にするとしっかり冷えていてすっきりした味わいだった。
  
「お姉さま、聞いてくださる――」
 
 一息ついて店の周りを眺めているとフランの声が聞こえてきた。
 彼女の声は通りやすいので離れていても聞き取れた。
 一方のアデルは声を落としているようで、何を言っているか分からなかった。

「お姉さま――」
「お姉さま――」
「お姉さま~――」

 フランがどのような理由でアデルに懐(なつ)いているのか分からないが、何だか見てはいけないものを見た気がしてその場を後にした。

 最後に御者から勧められた食堂で夕食を済ませて宿屋に向かった。
 さすがに無双のハンクと相部屋は気を遣うと思ったが、部屋数の多い宿で個室が空いていた。
 翌日に備えて早めに眠りにつき一日目は終了した。


 宿屋のベッドで目が覚めると窓の向こうの太陽がまぶしかった。
 少しの間ベッドの上でまどろんだ後、起き上がって出発の準備をした。
 それから部屋を出て受付で宿屋の主人に挨拶を済ませた。
 宿屋から外に出るとハンクが準備運動のような動きをしていた。

「おはようございます」
「今日はいい天気だな」

 彼はいつも通り元気そうだった。 
 同じ場所で待っているとアデルが出てきて、次に眠そうな顔のフランが来た。

「お姉さまが隣の部屋でお休みになっていると思うと、目が冴えて眠れませんでしたわ」
「どうせなら同じ部屋の方がよかったか」
「ふふふっ、あんまり笑えないわよ」

 いつもと変わらない表情を保っているが、アデルから有無を言わせないような気迫を感じた。

「おいおい、冗談だぞ」
「あらそう。冗談もほどほどにね」 
「そ、それじゃあ、そろそろ出発するか」

 ハンクが先導するかたちで移動を開始した。
 今いるのは市街地ということもあって緊張感はほとんどない。
 これからキラービーの生息地に行くという実感は乏しかった。
 アルダンの町を出ると整備された石畳の道から砂利道へと変化した。
 道の先を見据えると建物はなく、遠くには大小さまざまな山々がそびえている。

「まだ町が近いから、キラービーは出ねえな」
「やっぱりこの先にいるんですね」
「どうした? ビビってるのか」

 意図せず不安の色を見せてしまったが、そんな俺をハンクは笑い飛ばした。

「フランもいる以上は心配ねえ。何かの間違いで針に刺されたら、町まで担いでいってやるぞ」
「いやいや、さすがにそこまでは」

 無双のハンクに運ばれたら、ずいぶんと気を遣いそうだ。
 できる限りキラービーに刺されないように努力しよう。
 危険な場所へ赴くにしては和気あいあいとした雰囲気で先へと進んだ。

 最初は平坦な道で安心していたが、徐々に道が険しくなってきた。
 歩きやすい遊歩道みたいな雰囲気が一変して、ごつごつした岩肌が露出した断崖が四方に見えるような景色に変わっている。
 ここまでは危険はなく、本当にキラービーは出るのだろうかと疑問に思い始めたところで先頭のハンクが立ち止まった。

「こいつを見てくれ」

 呼びかけに反応して指先で示された看板を見る。
 そこには大きな文字で、「キラービー注意! この先への進入禁止!!」と書かれていた。

「書いてある通り、ここを越えるとキラービーの出る領域だ」
「キラービーに詳しくないから知りたいんだけど、律儀に町の方へ出てこないものなの?」

 アデルが小首を傾げて言った。

「キラービーは知恵があって、討伐対象にされないように警戒しているのですわ」

 ハンクが答えるより先にフランが答えた。
 アデルは疑問が残るような表情だったが、だいたい理解したわと言った。

「知恵があるといっても小細工を仕掛けてくることはねえ。その点は安心してくれ」

 ハンクは付け加えるように言った。
 俺たちは立ち止まっていたが、看板の横を通過して移動を再開した。

 少し歩いたところで普段は人が通らない道だと理解した。
 途中から草の丈が長くなり、石が転がり放題で歩きにくい。 
 近くを歩くフランを見やれば武器の先端を覆う布が外されていた。
 彼女はいつでも戦えるように槍を手にしている。
 足元に注意して進んでいるとハンクが腕を伸ばして制止を促した。

「――いた。キラービーだ」

 慎重に彼の視線の先を見る。

「……あ、あれが」

 数匹のキラービーが道端の木の周りをゆっくりと飛んでいるところだった。
 普通のハチではありえない大きさだ。遠目からでも猫か小型犬ぐらいはある。
 
「ああして周囲を警戒してる。ここは任せとけ」

 ハンクはそう言うと右手を掲げてライトニングボルトを放った。
 雷光が迸り標的に直撃したのが見えた。  
 キラービーたちは地面に落下して弱々しく手足を動かした。

「お見事ですわ」
「大したことはねえよ」

 俺たちは安全を確認してから先に進んだ。
 ひとまず安心だと思いかけたところで耳障りな音が聞こえてきた。

「――これ、何の音ですか?」
「キラービーの羽音だな。見つかっちまったみたいだ」

 上空に目をやると複数のキラービーがこちらに向かって降下してくるところだった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

処理中です...