異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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新たな始まり

強敵の出現

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「けっこうな数が向かってますけど!?」
「冷静になれ。おれたちの戦力なら負けることはねえ」

 ハンクの一言で気が動転していることに気づいた。
 アデルとハンクが魔法を放つ準備をしてフランは槍を構えている。
 三人が頼りになることを忘れてはいけない。
 遅れを取らないようにもらったばかりの刀を鞘から引き抜く。
 両手で構えてから魔法を放てるように魔力にも意識を向けておいた。

 接近してきたハチたちが弾丸のように降り注ぐ。
 大きな胴体は空気抵抗が生じるようで目で追えないほどの速さではない。
 アデルとハンクが魔法で火球を連発して次々に撃ち落としていく。
 フランは魔法の巻き添えを回避しながら槍で突き刺していた。

「予想通りとはいえ出番はないかも」

 元冒険者としてしょんぼりするような気持ちだった。
 するとそこでフランの死角から瀕死のキラービーが襲いかかるのに気づいた。

「危ない――」 

 一気に飛び出して手にした刀を振り抜いた。
 鋭い切れ味でハチの胴体が真っ二つになっている。

「もしかして、助けてくださったの?」
「危なかったので」
「……きれいに両断されてますわ。意外とやりますのね」

 フランは優雅な笑みを浮かべた後、すぐに表情を引き締めた。

「わたくしたちに任せて、自分の身を守るのに集中すべきですわね」

 彼女なりの気遣いを感じる言葉だった。
 ハンクにフランと組めと言われた時、連携して戦うことができたらと思った。
 しかし、肩を並べて戦うには予想以上に実力に開きがあった。
 せめて彼女が言うように己の身だけは守らねばならない。

 キラービーは群れで襲いかかってくるようで次から次に現れている。
 アデルたちは持久戦を強いられても、持ちこたえられるだろうか。
 三人の心配をしていると目の前に一匹のキラービーが接近して、巨大な顎で噛みつこうとしたり、毒針を突き刺そうとしたりしてきた。
 必死に刀で追い払っていると、こちらに気づいたハンクが素早い動作でハチに剣を突き立てた。

「大丈夫か?」
「はい、どうにか」
「このままだと時間がかかりそうだな」

 わずかではあるが、ハンクは疲れの色を見せた。

「――ここは私に任せて」

 アデルがこちらに近づいてきてフランにも集まるように言った。
 
「お姉さま、何か作戦がありますの?」
「私の魔法でまとめてやっつけるから、ここを離れないで」
「ああ、なんて凛々しいお姿」

 恋する乙女のようなフランをスルーして、アデルはキラービーの群れを見据えた。 

「――フレイムブレス」

 彼女が両手を掲げると上空に向けて激しい炎が広がっていった。
 その名の通りにドラゴンが火を吹いたような光景だった。
 前方から迫っていたキラービーたちが次々と燃え尽きていく。
 やがて炎が収まるとわずかな灰が落ちてくるだけだった。

 功労者のアデルに視線を向けると、彼女はふうっと一息ついた。

「すげえじゃねえか。あんな魔法が使えたんだな」
「お姉さまの実力が認められるなんて、いい気分ですわ」
「とても魔力を使うから、なかなか使う機会はないのよ」

 俺は言葉が出てこなかった。
 アデルの範囲魔法は凄まじい威力だった。

「キラービーはひとまず途切れたし、先へ行くとするか」
「……は、はい」

 ハンクは俺の肩をポンッと叩いてから先頭に立った。
 ここまでと同じように彼が先導するかたちで草をかき分けながら進んでいく。
 やがて草むらから岩肌が露出するような道に変化していった。

「あそこに七色ブドウがある。もう少しだ」

 草の生えた道を越えたところでハンクが口を開いた。 
 切り立った岩壁にツタのような植物が広がるのが目に入った。

「山ブドウの一種なんですね」
「その通りだ」
「どこかから甘い香りがするわね」
「これは七色ブドウの匂いだな」

 俺たちは会話をしながら岩壁に向かって足を運んだ。
 七色ブドウが目前に迫ったところでハンクが歩みを止めた。 
 それに続いて俺を含めた三人も同じように止まった。

「……妙な感じがするんだよな」

 ハンクは腕組みをしたまま前方を見つめた後、足元の石をそっと拾い上げた。
 続いてゆったりとした動作で七色ブドウの手前にそれを投げた。
 その石は地面に落下するかと思いきや、近くの岩陰から何かが飛び出して石を破壊した。

「マジか、こいつがいたのか!?」

 ハンクが驚くような素振りを見せた。そんな姿を目にするのは始めてだった。
 現れたのは巨大なクモでギルドの資料で見たことがある気がする。
 人の背丈よりもずいぶん大きく全身を黒い毛で覆われており、実物はかなりの迫力がある。

「あれはベノムスパイダーだ。マルクとフランはキラービーの邪魔が入らないようにしてくれ。アデル、まだいけるか?」
「言うまでもないわね。この状況で引き下がるわけにいかないわ」

 アデルは魔力を消費したはずだが、気力が充実しているように見えた。
 
「キラービーが来ましたわ。わたくしたちで足止めしますわよ」
「そのつもりです」

 騒ぎを聞きつけたのか、複数のキラービーが上空から向かっていた。


 あとがき
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