異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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新たな始まり

七色ブドウを味わう

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 ベノムスパイダーの危険性はキラービーどころではないはずだが、この状況ではアデルたちの勝利を信じるのみだった。
 
 ――ヒュンと風を切る音が耳に届く。
 弱気になりそうな自分とは対照的にフランが華麗な身のこなしでキラービーを槍で仕留めた。
 舞を踊るように滑らかな動きで跳躍と着地を繰り返し、高いところにいる敵にも攻撃が届いている。

「まだまだいけますわよ」
「これがBランク冒険者の実力か……」

 すでに痛感したことだが、俺の技量ではキラービーが動いている時に斬り伏せるのは難しい。
 ちょうど近づいてきたキラービーに向けてファイアボールを放つ。
 当たらなかったものの、急に火の玉が飛んできたことで怯んだようだ。
 同じキラービーが向かってきたところでもう一度狙いを定める。

「――ファイアボール」

 しっかりと引きつけたことでキラービーは回避に失敗した。
 一匹目とは違い動き回る個体だったが、自分の魔法で倒せた手応えがあった。
 余韻に浸る間もなく連続してキラービーが向かってくる。手前に一匹、その後方にもう一匹。
 火球では効率が悪いと気づいた後、ハンクがライトニングボルトを使ったことを思い出した。
 再び魔力に意識を向けて集中力を高める。

「――ライトニングボルト」

 二匹のキラービーに向けて雷撃が放たれた。
 ファイアボールに比べて範囲が広く、両方に直撃させることができた。
 
 俺のライトニングボルトではハンクほどの威力は出せない。
 すぐに刀を引き抜いて近づき、急所を突くとすぐに動かなくなった。
 直接倒せたキラービーの数は多くないが、フランが怒涛の勢いで倒している。
 そのせいかいつの間にか羽音が聞こえなくなっていた。

「うーん、目を見張るような腕前です」
「大したことないですわ。これでわたくしのキラービー討伐数は累計二十と……」
「どうかしたんですか?」
「もうっ、二十を超えたところから数え忘れましたのー」

 フランは残念がっているようだった。
 キラービーをたくさん倒していれば冒険者として箔がつく。
 その気持ちが分からなくはなかった。

「次はアデルたちを援護しましょう」
「言われるまでもなく、そうしますわ」

 アデルたちから少し離れていたので俺たちは急いで合流した。
 戦いの場に到着するとアデルたちが魔法でベノムスパイダーを攻撃していた。
 威力が足らないようで決定的なダメージになっていないように見える。

「キラービーは退けましたわよ!」

 フランが二人に呼びかけた。

「二人ともよくやったな! おれたちの援護を頼む」

 ハンクは早口で言った後、すぐにベノムスパイダーへと向き直した。 
 二人に合流したところで奥に七色ブドウの蔦が伸びていることに気づいた。
 これでは狙いを誤ったり回避されたりすれば、果実を傷つけてしまう可能性がある。
 魔法の威力が抑えられているのはこれが理由だろう。

 俺の魔法では威力も精度もアデルとハンクに劣る。
 ただ指をくわえて待つことしかできないのか。

「ん? あれは……」

 ベノムスパイダーの真上に巨岩があることに気づいた。
 位置的に落下しても七色ブドウに当たることはなさそうだ。

「アデル、ハンク! あの岩を狙えますか」
「もちろん狙えるわ」
「おれもいけるぜ!」

 二人は力強く答えると掲げた手の位置を上方に向けた。

「仕方ありませんわね。少しの間、囮になりますわ」
「手伝ってくれてありがとう」

 フランも俺の狙いを理解したようだ。
 彼女は標的に向けて飛び出し、アデルとハンクは岩の方に狙いを定めた。  
 ここからは三人を信じて見守るだけだ。

 ベノムスパイダーは近づいてきたフランに気を取られて、糸の塊を吐き出して捕らえようとした。
 しかし、素早い動きの彼女に当たることはない。
 その隙を突くようにアデルとハンクが破壊力のある魔法を岩目がけて放った。
 爆発音がして巨岩が落下する。
 直前までフランに注意を向けていたベノムスパイダーは反応が遅れて下敷きになった。
 砂煙が引いた後、岩の下で潰れているのが目に入った。

「あいつを制圧するには今の方法しかなかったな」
「いい作戦だったわ」

 アデルとハンクに讃えられて素直にうれしかった。
 彼らと対等にはなれないとしても少しでも役に立ちたかった。

「意外と機転が利きますのね」

 こちらに戻ったフランが控えめな声で言った。

「さあ、七色ブドウを収穫するわよ!」

 勝利の余韻もそこそこにアデルが勇むように歩いていった。

「まだまだ元気ですね」
「あいつはすげえな。かなり魔力を使ったはずなんだが」

 ハンクは感心するように言った。
 フランを見るとアデルに遅れないように小走りでついていった。
 俺も七色ブドウに近づいていくと周りに甘い香りが漂っていた。  

「どれを収穫すればいいのかしら?」
「持ち帰るなら未熟なやつにしておけ。熟した実はすぐに食べれるぞ」

 ハンクの言葉を聞いてから各自ブドウ狩りを始めた。
 実際に七色ブドウをこの目で見るのは初めてだった。
 濃紺、緑、桃、黄などのカラフルな実が一房についている。
 広く生い茂るツタの中から熟した一房を探してもぎ取る。
 まずはブドウらしい紺色の果実を口に含んだ。

「おお! こ、これは……」

 ベリー系の果実を極限まで甘くして濃密にしたような味がした。
 甘い果物が流通しないことを考えれば希少価値はとても高い。
 今度は桃色の実を口に含むとみずみずしい口当たりで甘みと潤いが混ざり合う。
 じっくり味わいながら周りを見れば、三者三様に奇跡の果実を味わっていた。
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