異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
264 / 555
トリュフともふもふ

エディとの再会と開店準備

しおりを挟む
 焼肉店とのかけ持ちが続く中、ついにオープンの日が訪れた。
 自宅を出てレストランに向かって歩くと、見覚えのある人影が目に入った。
 サミュエルがエディを散歩させているところだった。

「マルクくん、あの店に向かうところかな」

「はい、今日が初日で」

「やっぱり、そうだったか。町長からまとまった量のトリュフがいると言われて、つい最近エディと駆り出されたばかりだよ」

 サミュエルは疲れをにじませるような声で言った。
 一方のエディはつぶらな瞳でこちらを見て、控えめにしっぽを振っている。

「相変わらず、エディは愛くるしいですね」

「さすがだね。この子の魅力を分かってる」

 サミュエルは喜ばしいと言わんばかりに表情を緩めた。
 正直なところ、そこまでエディに懐かれているように見えないものの、飼い主として愛情を注いでいる点は好感が持てる。 
 エディは毛並みが整っており、健康的な体格から十分に食べさせられていることが見て取れた。

「ちょっと触っても大丈夫ですか?」

「そりゃ、もちろん。エディ、一緒にトリュフを採りに行ったマルクくんだぞ」

「ワンッ」

 サミュエルが促した後、エディは楽しそうに短く吠えた。
 こちらが姿勢を低くして近づくと、撫でてほしそうに寄ってくる。

「ところで、バラムの町ではあんまり犬を見かけませんね」

「それなら、犬を売っているのは都市部だけだからだよ。禁じられているわけではないけど、バラムみたいに周囲に壁がない上に野山が近い町ではいい顔はされないだろうね。逃げた犬が野犬化したら大問題だから」

「ああっ、なるほど」

 本格的に犬を飼おうと考えたことがないため、そういったことは初めて聞いた。
 過去に聞いたことがあるかもしれないが、日常的に考えるようなことではない。  

「トリュフ採りは競争率が高いけど、狩猟はけっこう狙い目だから、相棒に必要になった時は声をかけてよ。信用できる業者を紹介する」

「狩猟はいいですね。シカの肉は好きなんですよ」

「いいね、シカ肉」

 俺はエディをもう一度撫でてから、サミュエルと別れた。
 朝からいい気分だと思いつつ、目的地に向かって歩いた。  
 
 レストランに到着すると、立派な花飾りが入り口に置かれていた。
 開店祝いに贈る文化はないため、町長辺りが取り寄せて設置したのだろう。
 店が始動する空気を感じつつ、店内へと足を運んだ。

「おはよう、マルクくん」

「おはようございます」

 声のした方に振り向くと、町長自らテーブルを拭いていた。
 彼の近くでは給仕係も一緒に準備を進めている。

「プレオープンは好調だったから、今日もよろしく頼むよ」

「はい、頑張ります」

 町長に会釈をして、給仕係にも声をかけてから調理場へと移動した。
 荷物置き場で身支度を整えてから、在庫確認のために簡易冷蔵庫を開く。

「トリュフは常温保存で、冷蔵保存してある分のストックは十分っと」

 うんうんと二、三度頷いて扉を閉めた。
 今度はかまどに火をつけておくか確認するために向かう。

「マルクさん、おはようございます」

「あっ、おはようございます」

 パメラが先に来ていた。
 彼女はかまどの手入れをしている。

「今朝は早いですね」

「従業員の皆さんが私の負担が減るようにしてくれて、こちらを優先しても大丈夫になりました」

 そう話すパメラの顔は誇らしげに見える。
 彼女の気持ちは十分に理解できるものだった。
 
「うちの店も似たような感じです。新しく入った人たちがどんどん仕事を覚えて、最近は開店前の準備まで任せられるようになって」

「従業員の成長を見られるのは経営者の醍醐味ですね」

「あははっ、言われてみればたしかに」

 焼肉店を始めた頃を思えば、ここまで進展することは予想できなかった。
 それに同じ経営者同士で意見を交わせるようになることも。

「話の途中ですみません、今日の予約の話をしてもよろしいでしょうか?」

「はい、大事なことなので、続けてください」

 今回はトリュフという高級食材を使うこと、遠方から足を運んでもらうことを考慮して、完全予約制をすることになっている。
 期間限定とはいえ、バラム随一の高級店が誕生したことになる。
 
「開店初日で評判が出ていないことで、まだ様子見をされていたり、そもそも知らなかったりという状況みたいです。ただ、王都には私やマルクさんの顔見知りがいるので、興味を示す方がちらほらといるように聞きました」

「そうですね。王城の関係者に何人かいます」

 大臣のカタリナ、城仕えのブルームに優れた衛兵のリリア。
 彼らの顔をすぐに思い浮かべることができる。

「……それでいきなり高貴な方がいらっしゃるのですが、カタリナ様が来られるそうです」

「えっ、カタリナが来るんですか!?」

「はい。カタリナ様とお連れの方がもう一名と記載がありました」

「もう一人……誰だろう」

 考えてみても答えが出るはずはなかった。
 誰が来るにせよ、万全の準備をして備えたい。

「その後に地元の方が一組、予約が入っています」

「とりあえず、合計二組分の下準備が必要ですね」

「開店する時間にはクレマンさんとベランさんも来てくださるので、そこまでバタバタせずに済むと思います」

 パメラは意見を述べてから、ホッとしたような表情を浮かべた。
 彼女も人間なので、過密スケジュールは避けたいのだと思うと微笑ましい気持ちになる。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました

黒崎隼人
ファンタジー
過労の果てに命を落とした青年が転生したのは、痩せた土地が広がる辺境の村。彼に与えられたのは『万能農具』という一見地味なチート能力だった。しかしその力は寂れた村を豊かな楽園へと変え、心優しきエルフや商才に長けた獣人、そして国の未来を憂う王女といった、かけがえのない仲間たちとの絆を育んでいく。 これは一本のクワから始まる、食と笑い、もふもふに満ちた心温まる異世界農業ファンタジー。やがて一人の男のささやかな願いが、国さえも救う大きな奇跡を呼び起こす物語。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!

さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語 会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?

処理中です...