異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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ダンジョンのフォアグラを求めて

ムルカでの合流

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 長老たちと別れてから、ハンクと二人で洞窟の中を歩き始めた。
 ここは盗賊たちの拠点になっていたようで、ところどころに武器が転がっていたり、値打ちのありそうな品々が放りこまれた木箱が置かれたりしていた。
 時折、盗賊と思われる者が息絶えており、シルバーゴブリンたちに負傷者がいなかったことを考えれば、戦力差があったことは容易に想像できる。

「バラムの辺りに盗賊はいないので、こういう光景を目の当たりにすると考えさせられます」

 近くにいるハンクに話しかけつつ、ホーリーライトで足元を照らした。
 注意して歩かないと転んでしまいそうだった。

「モルネアという国自体の治安と豊かさの問題だろうな。よその国でも同じぐらいの規模だと、似たり寄ったりなことが起こる」

「始まりの三国が発展しているだけで、世界には色んな国があるんですね」

「ああっ、そういうことになるな。同じような国っていうのは一つもなくて、それが面白くもあるんだ」

 ハンクの言葉は説得力があるように感じられた。
 俺が知らないような世界を知っているのだろう。

 周囲を警戒しつつ、一歩ずつ足を運ぶ。
 先ほどは残党らしき者が仕かけを作動させたが、ここまでに生きた人間の姿は見なかった。
 ハンクが同行する以上、よほどのことがない限り、危険が及ぶこともないと思う。 

「そろそろ、出口だな」

 ハンクの言葉に前方を見据えると、遠目に光が差しこむのが見えた。
 すでに夕日のような色を纏っているので、俺が連れ去られてから数時間は経過しているのだろう。

「それにしても、こんなかたちでフォアグラが手に入るとは思いませんでした」

「ははっ、おれも同じだ。シルバーゴブリンたちと再会するとも思わなかった」

「たしかにそうですね」

 俺たちは笑い合いながら、洞窟から外に出た。
 暗闇に目が慣れていたので、日の当たる場所は眩しかった。

 徐々に目が慣れてきたところで周囲の景色に目を向けた。
 ムルカの街からは距離があるようで、見渡してもどこなのかは分かりそうにない。
 ハンクが一緒でなければ、街に戻るのもままならないような場所にあるようだ。

「馬は一頭だけだから、二人乗りで帰るぜ」

「分かりました。手綱は任せてもいいですか?」

「ああっ、もちろんだ」

 香水の店で何かを嗅がされた影響なのか、まだ本調子とは言いがたい。
 乗馬は平衡感覚が重要なので、この状態では不安があった。

 俺はハンクに馬を任せて後ろ側に乗った。
 彼がバックパックを背負ったままなので、そこに掴まらせてもらうことにした。

 遠くの方に夕日が見えて、風は日中よりも涼しく感じられた。
 洞窟の近くから走り出すと流れていく景色に目を向けた。
 冒険者の時に染みついた癖なのか、ついつい周囲の状況を確認してしまう自分に気づかされる。

 乾燥した空気の影響は大きいようで、木々の緑と豊かな草原が広がるバラムに比べて、全体的に荒涼な印象を受ける。
 砂漠とまではいかないものの、この辺りで育てられる作物は限定されるような気がした。

「部外者のおれが言うこっちゃねえが、土地が瘦せてるんだろうな」

 ハンクの声は馬に乘った状態でも聞き取れた。
 彼も同じことを考えているようだ。
 
「畑はほとんどなさそうで、誰も歩いてませんね」

「別の方角に行けばもう少し耕されてるが、この辺りは盗賊のアジトがあったり、土地がいまいちだったりで、地元の人間は寄りつかないみたいだな」

 馬上でやるせない気持ちになりながら、ハンクと会話を続けている。
 滅多に出会わない盗賊に出くわしたことで影響を受けたのかもしれない。

 二人で馬に乘っていると道なき道は街道に変わり、馬から伝わる揺れが和らいだ。
 通行人がほとんど見当たらない状況から、周囲には人の気配が増えている。

「もう少しでムルカの街だ」

「はい」

 やがて来た時と同じように城壁のような外壁が見えてきた。
 そのまま手前まで移動して、俺たちは馬を下りた。
 ハンクが馬を引いて、二人で通用門のところへと歩いていく。

「――ご無事でしたか!」

 何ごとかと思い、声のした方へ視線を向けた。
 すると、アデルの知り合いのローサが駆け寄ってくるところだった。

「えっ、何ですか?」

「そこの男性とアデルから、あなたがさらわれたと聞きまして」

「そうなんですか。心配してくれてありがとうございます」

 俺が感謝を伝えると、ローサは端正な顔に笑みを浮かべた。
 そして、笑顔を見せたかと思ったら、次は怒りを露わにするように表情を歪めた。

「悪党、倒すべし。盗賊、滅ぶべし――」

「ちょ、ちょっと……」

 おそらく、ローサは騎士だと思うのだが、立場を疑うような物騒なことを口走っている。騎士の役割に正義の味方は含まれない。

「こ、これは失礼しました。盗賊共の仕業のようだったので、つい心の声が……」

「は、はぁっ……とにかく、無事に戻ってこれたので、大丈夫です」

「ほい、今度も馬を頼むぜ」

 ハンクは用件だけローサに伝えると、俺の肩をポンと叩いて歩いていった。

「あっ、馬をお願いします」

 俺はそう言い添えて、彼の後を追った。

「騎士にもあんな人がいるんですね」

「おそらく、この街ならではじゃねえか。本人が盗賊にイヤな目に遭わされたか、近しい人間に何かあったか……あんまり考えたくねえことだな」

「なるほど、もっともといった感じです」

 俺はハンクに同意を示しつつ、ムルカの街並みを歩いた。

 それから案内されたのは立派な城のような建物だった。
 何となくアデルがここにいるのは予想できるが、念のためにたずねてみる。

「えーと、アデルはここに?」

「ああっ、そうだ。この街で最も防犯がしっかりしているのがここらしい」

 自分では彼女がどこにいるのか分からないので、ハンクに従って中に入った。

 長い通路の先の大きな扉の部屋。
 その中に足を踏み入れると、アデルの姿があった。

「あっ、戻りました――」

 彼女に帰還を伝えると、椅子から立ち上がってこちらに駆け寄った。

「もう、心配したわ」

「……二人で探してくれてありがとうございます」

 アデルの目にはうっすらと涙が浮かび、こちらのことを真剣に探そうとしてくれたことが伝わってきた。
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