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ダンジョンのフォアグラを求めて
洞窟からの帰還
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塞がれた通路が元に戻り、仕かけの解除に向かったゴブリンたちが合流した。
彼らは仲間のゴブリンに迎えられて、ボードルアの切り身を食べ始めた。
「よかった、これで出られる」
「ふむ、そうじゃな」
「そういえば、ムルカという街から連れ去られたみたいで、この洞窟からどれぐらい離れているか知りたいんですけど」
「ほう、ムルカか。人の多い場所には近づかんようにしとるんじゃが、ここからはそこまで離れとらんぞ」
具体的にどれぐらい時間がかかるのかたずねようと思ったところで、こちらに近づく足音が聞こえた。
単独かつ気配を隠そうとする素振りはなく、足音の主は盗賊ではないようだが。
「んぅっ? この足音はもしや……」
「どうしました?」
長老はこちらの質問には答えず、ゴブリンたちの方を見た。
同じように視線を向けると、一部の者たちが武器を手にしていた。
「落ちつけ。敵ではない」
長老が一喝するように言うと、一斉に武器を置いた。
緊迫した空気を感じる中、状況が見極めきれずに息を吞む。
足音はそのままこちらへと近づき、その正体が判明した。
「あれっ、ハンク……」
「おっ、無事だったか。街中を調べて回ったら、駆けつけるのが遅くなっちまった」
ハンクは少し息が上がっており、俺を探すために駆け回ってくれたのだと思った。
彼ほどの人が自分のために尽力してくれたことに胸が熱くなる。
「探しに来てくれたんですね」
「おう、当たり前だろ!」
ハンクの声は明瞭な響きだった。
彼は仲間を見捨てるような男ではないのだ。
「ところで、アデルはどうしました?」
「ムルカの街に待機してる。洞窟の中じゃ魔法は使いにくし、おれ一人の方が身軽に動けるからな」
俺とハンクの話に区切りがついたところで、長老が会話に加わってきた。
「久しぶりじゃな。強そうな冒険者」
「そうだな、元気にしてたか?」
「まあ、それなりに。おぬしも元気そうだのう」
「ああっ、元気だぜ」
状況が整理できたところで、ハンクにボードルアに関する進捗を伝えた。
すると、切り身を食べたことがないので、自分にも分けてくれとなった。
「そっちで捕まえたやつなのに悪いな。ついでにフォアグラも分けてもらえるとありがたいんだが」
どこかのタイミングで頼もうと思ったことだが、俺の代わりにハンクが頼んだ。
それを聞いた長老は少しの間を置いて口を開いた。
「仲間想いなのはいいことじゃからのう。お互いのために馴れ合いもよくないし、フォアグラを分けられたら解散にしよう」
「それで構わねえ。恩に着るぜ」
長老の口ぶりから、ハンクのことを認めているのだと思った。
解体はほぼ終わっていたのだが、最後にフォアグラに当たる部位がどこなのかを俺とハンク、長老の三者で確認することになった。
「長老の持ってるそれって、誰かに教わったんですか?」
俺はボードルアの図が書かれた紙を指して言った。
「そうじゃな。情報を集める中で、参考に書いてもらったものじゃな」
「解体の仕方も分かるし、肝というかフォアグラの位置も確認できて便利ですね」
「そうじゃのう。あれだけの巨体故に、これがなければ難儀するところじゃった」
ゴブリンたちが丈夫な紙のようなものを地面に敷いて、そこにフォアグラに当たると思われる部位が並べられた。
しっかりと脂が乗っており、少し前に採取したばかりなので、十分な鮮度とみずみずしさが見て取れる。
「量は十分にあるからのう。好きなだけ持っていくといい」
「すごいプリプリしてますね。多すぎても傷んでしまうと思うので、食べきれる量にしておきますか」
「そうだな。ここから街に戻らねえといけないし、控えめにしておくか」
俺とハンクは、必要になればボードルアを探すということで意見が一致した。
今回、この魚の習性を知れたので、次からはもう少し有利になるだろう。
シルバーゴブリンから切り身とフォアグラを薄手の紙に包んだ状態で手渡された。
急ごしらえではあるが、洞窟内の水を魔法で凍らせて保冷用の氷にして、一緒に運ぶことにした。
それらをハンクのバックパックに詰めてもらったところで、一体のシルバーゴブリンが近づいてきた。
「マホウノ氷、ワケテくれ」
「もちろん、いいですよ」
彼らもこれから運ぶことになるので、氷は必要になるのだろう。
俺はもう一度魔法を唱えて、水場の水を固めて渡した。
「アリガトウ」
「いえ、どういたしまして」
そのゴブリンは冷たそうに氷を抱えて、仲間のところへ歩いていった。
俺たちの分のフォアグラは回収できているので、長老たちとはここでお別れだ。
「長老と皆さん、危ないところをありがとうございました」
「達者でな。縁があればまた会うこともあるじゃろう」
「そんじゃあな。シルバーゴブリン相手でも攻撃する連中がいるから、気をつけるんだぞ」
「おぬし並みの人間が相手にならん限り、遅れを取ることはないがのう。お互い実力に胡坐(あぐら)をかかず、長生きしようじゃないか。強き冒険者」
長老はハンクのことを認めており、畏敬の念を抱いている様子だった。
シルバーゴブリンがそこまで認めるのだから、彼の実力は底知れぬものがあると思った。
俺とハンクは彼らの元を離れて、洞窟の出口へと向かった。
彼らは仲間のゴブリンに迎えられて、ボードルアの切り身を食べ始めた。
「よかった、これで出られる」
「ふむ、そうじゃな」
「そういえば、ムルカという街から連れ去られたみたいで、この洞窟からどれぐらい離れているか知りたいんですけど」
「ほう、ムルカか。人の多い場所には近づかんようにしとるんじゃが、ここからはそこまで離れとらんぞ」
具体的にどれぐらい時間がかかるのかたずねようと思ったところで、こちらに近づく足音が聞こえた。
単独かつ気配を隠そうとする素振りはなく、足音の主は盗賊ではないようだが。
「んぅっ? この足音はもしや……」
「どうしました?」
長老はこちらの質問には答えず、ゴブリンたちの方を見た。
同じように視線を向けると、一部の者たちが武器を手にしていた。
「落ちつけ。敵ではない」
長老が一喝するように言うと、一斉に武器を置いた。
緊迫した空気を感じる中、状況が見極めきれずに息を吞む。
足音はそのままこちらへと近づき、その正体が判明した。
「あれっ、ハンク……」
「おっ、無事だったか。街中を調べて回ったら、駆けつけるのが遅くなっちまった」
ハンクは少し息が上がっており、俺を探すために駆け回ってくれたのだと思った。
彼ほどの人が自分のために尽力してくれたことに胸が熱くなる。
「探しに来てくれたんですね」
「おう、当たり前だろ!」
ハンクの声は明瞭な響きだった。
彼は仲間を見捨てるような男ではないのだ。
「ところで、アデルはどうしました?」
「ムルカの街に待機してる。洞窟の中じゃ魔法は使いにくし、おれ一人の方が身軽に動けるからな」
俺とハンクの話に区切りがついたところで、長老が会話に加わってきた。
「久しぶりじゃな。強そうな冒険者」
「そうだな、元気にしてたか?」
「まあ、それなりに。おぬしも元気そうだのう」
「ああっ、元気だぜ」
状況が整理できたところで、ハンクにボードルアに関する進捗を伝えた。
すると、切り身を食べたことがないので、自分にも分けてくれとなった。
「そっちで捕まえたやつなのに悪いな。ついでにフォアグラも分けてもらえるとありがたいんだが」
どこかのタイミングで頼もうと思ったことだが、俺の代わりにハンクが頼んだ。
それを聞いた長老は少しの間を置いて口を開いた。
「仲間想いなのはいいことじゃからのう。お互いのために馴れ合いもよくないし、フォアグラを分けられたら解散にしよう」
「それで構わねえ。恩に着るぜ」
長老の口ぶりから、ハンクのことを認めているのだと思った。
解体はほぼ終わっていたのだが、最後にフォアグラに当たる部位がどこなのかを俺とハンク、長老の三者で確認することになった。
「長老の持ってるそれって、誰かに教わったんですか?」
俺はボードルアの図が書かれた紙を指して言った。
「そうじゃな。情報を集める中で、参考に書いてもらったものじゃな」
「解体の仕方も分かるし、肝というかフォアグラの位置も確認できて便利ですね」
「そうじゃのう。あれだけの巨体故に、これがなければ難儀するところじゃった」
ゴブリンたちが丈夫な紙のようなものを地面に敷いて、そこにフォアグラに当たると思われる部位が並べられた。
しっかりと脂が乗っており、少し前に採取したばかりなので、十分な鮮度とみずみずしさが見て取れる。
「量は十分にあるからのう。好きなだけ持っていくといい」
「すごいプリプリしてますね。多すぎても傷んでしまうと思うので、食べきれる量にしておきますか」
「そうだな。ここから街に戻らねえといけないし、控えめにしておくか」
俺とハンクは、必要になればボードルアを探すということで意見が一致した。
今回、この魚の習性を知れたので、次からはもう少し有利になるだろう。
シルバーゴブリンから切り身とフォアグラを薄手の紙に包んだ状態で手渡された。
急ごしらえではあるが、洞窟内の水を魔法で凍らせて保冷用の氷にして、一緒に運ぶことにした。
それらをハンクのバックパックに詰めてもらったところで、一体のシルバーゴブリンが近づいてきた。
「マホウノ氷、ワケテくれ」
「もちろん、いいですよ」
彼らもこれから運ぶことになるので、氷は必要になるのだろう。
俺はもう一度魔法を唱えて、水場の水を固めて渡した。
「アリガトウ」
「いえ、どういたしまして」
そのゴブリンは冷たそうに氷を抱えて、仲間のところへ歩いていった。
俺たちの分のフォアグラは回収できているので、長老たちとはここでお別れだ。
「長老と皆さん、危ないところをありがとうございました」
「達者でな。縁があればまた会うこともあるじゃろう」
「そんじゃあな。シルバーゴブリン相手でも攻撃する連中がいるから、気をつけるんだぞ」
「おぬし並みの人間が相手にならん限り、遅れを取ることはないがのう。お互い実力に胡坐(あぐら)をかかず、長生きしようじゃないか。強き冒険者」
長老はハンクのことを認めており、畏敬の念を抱いている様子だった。
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