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揺れる異世界 ―戦乱のフォンス編―

カルマン偵察計画

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 レギナの街中を歩いていたクルトとヘレナは、探検者組合に到着した。
 クルトは移動の途中で衛兵に声をかけて、シルデラのところで寝込んでいる男と道端で襲いかかってきた男を捕らえるように伝えてあった。
 
 探検者組合は二階建ての建物で、外観の雰囲気からあまり新しくは見えない。
 さほど手入れに関心がないようで、外壁のところどころに劣化が見える。
 
 入り口の前には木製の椅子が並んでおり、そこにシモンが座っていた。
 彼は穏やかな表情で空を眺めている。

「シモン、調子はどうだ?」
「おやっ、クルトか。……う、うん、まあまあかな」

 シモンは最初だけ普通な様子だったが、クルトの隣りにヘレナがいることに気づくと落ち着かない様子に変わった。

「なんだ、まだヘレナに慣れないのか」
「……んっ?」

 それを聞いたヘレナが不思議そうにクルトの顔を見た。
 彼女はシモンの様子に自分が関係しているとは気づいていないようだ。

「……シモンはエルフに会ったことがないから、ヘレナと会うと緊張してしまうらしいんだ。何といったいいのか、あまり気にしなくていい」
「ううん、ぜんぜん。わたしは気にしないから」

 ヘレナは我関せずといった感じで、シモンに関心がないような様子だった。
 クルトは二人が連携する場面があった際、円滑に戦えるか不安を覚えた。

「この件はここまでにして、シモンに用事があるんだ」
「はいはい、おれに何か?」

 ヘレナに近づきすぎないように頼みながら、クルトはシモンに刺客に襲われたことを説明した。
 クルトが話し終えると、シモンは少しの間だけ考えこむように唸った。

「……うーん、内通者はいるでしょうね。それで、数少ないカルマンへの抵抗勢力になりそうなクルトを狙ったと読めるんじゃないですか」 
「あまり考えたくないことだったが、やはりその可能性があるか」
 
 クルトは苦しげな表情でいった。
 
「こういっちゃ何ですけど、わりとよくある話ですね。ありがちな流れだと、カルマンに攻めこませておいて、漁夫の利を得るように内通者はおいしいとこだけ持っていく。そんなところかと」
「……そう上手くいくものか」

「さあ、カルマン人は好戦的らしいんで、そいつも最後に裏切られるんじゃないですかね。こればっかりは結果を見てみないことには」
 
 二人が話していると、黒い羽をした鳩のような鳥がやってきた。
 その鳥は流れるような動きで、クルトの肩に止まった。

「……僕が送りこんだ密偵からの情報だ」

 クルトは鳥の足に結ばれた細い糸をほどいて、小さく丸められた紙を持った。
 すぐさまその鳥は羽ばたき、彼は落ち着かない気持ちでその紙を解いた。

 ドワーフの優れた鍛冶師が行方不明になって混乱が広がっていると書かれていた。
 その影響で、武器及び防具の生産に遅れが出ているらしい。
 
 さらに遅れが出た分だけ、進軍の準備が遅れる見込みとも書かれている。
 クルトはその言葉を吉報として受け取った。

 彼は紙の内容を頭に入れてから、そのドワーフが水の宮殿にやってきた者と同一人物である可能性を推察した。
 しかし、門前払いにされたまま行方知れずで確かめようがなかった。
 
「何が書かれてました?」

 シモンが興味深そうな様子で問いかけた。

「……ドワーフの鍛冶師が行方不明になってちょっとした騒ぎになっているようだ。それが影響して、進軍の予定が先送りになっているらしい」
「うーん、なるほど。いい情報ではあるんですけど、具体的にいつ攻めてくるか分からないままですよね?」

 クルトは虚を突かれたように驚いた表情を見せた。
 それを目にしたシモンはさらに驚くような顔になった。

「えっ、今の状況だと待ちの一手になるので、圧倒的に不利ですよ」
 
 シモンは珍しく指摘するような言い方をした。

「……そうだ、君の言うとおりだ」
「それならもう、ぎりぎりまでカルマンに近づいて、戦況を確かめるのが一番じゃないですか? 密偵の情報も便利ですけど、現場を見るのが理想的です。この状況だと密偵が寝返った可能性もゼロではないんで」
「……カルマンに近づくか。そんなことは考えもつかなかった。それを実行するなら、カルマンが進軍を始める前にしなければ」

 クルトはシモンの話に理解を示していた。
 密偵はレギナに家族がいて寝返る可能性は低いと思ったが、その説明は省いた。 
 
 カルマンまでは距離があるが、時間をかければ行けない距離ではない。
 それに道の途中にある街はフォンスの領土だ。

「わたしは行くよ」

 口を挟まずに聞いていたヘレナが切り出した。
 クルトはそれを耳にして戸惑いの色を浮かべた。

「フォンス側にいるうちは問題ないが、カルマン側に行けば命の保証はできない」

 それにどんな目に遭わされるかわからないと思ったが、彼は口にしなかった。
 数十年前の先の戦いでは、カルマンの通り道だった町は悲惨な目にあったところが多いと記録されている。
 そのため、そういった歴史がある町ほどカルマンへの憎しみが深い。

「どうして分かってくれないの。森だって十分危険なのに」

 ヘレナは今まで見られなかったような、強い意思を示した。
 さほど大きな声ではなかったが、それはクルトの心に響いた。

「こ、こういっちゃなんだけど、彼女は貴重な戦力というのをもう少し理解しましょうよ。どのみち、このまま手をこまねいていたら、レギナの街は大変なことになりますから」
「まるで、見てきたように話すものだな」
「ええ、まあ、訳ありなんで……」

 シモンはヘレナに慣れないままだったが、彼女をかばおうとしていた。
 そして、今後の展開を俯瞰するような鷹揚さを見せた。

「君が聞かれたくないことがあるのは理解しているつもりだ。ちなみに、カルマン側からフォンスへ来る道はそうたくさんはないが、どうやって?」
「それなら、カルマンから外れた崖っぷちの方を通ってきました」
「もしやと思っていたが、クラビリスの獣道を通ってきたのか……」

 ――クラビリスの獣道。
 カルマンよりも向こうの地域からフォンスへ来られる道の一つだった。
 山道と周辺に潜む野盗の危険性から、通る者は少数といわれている。

 あちら側から来る時は手前で道を下りればカルマンに、その先で下りればフォンスにたどり着くという位置関係にある。

「それなら、途中でカルマンに行こうと思わなかったのか?」
「いや、ちらっと手前まで行ったんですけど、警備が厳しくてやめておきました」
「そうか……」

 クルトは何かを考えるように静かになった。
 シモンとヘレナはそんな彼に何も言わずに様子を見守っている。

「……分かった。君たちとカルマンの偵察に行こう」
「うん、行こう」 
「そうこなくっちゃ!」

 シモンとヘレナは乗り気な反応を見せた。
 それを見たクルトは二人を頼もしく思った。

「三人ならそう目立ちはしないだろう。得られるだけ情報を得たら引き返す。そして、それを王や大臣に話す。説得できれば理想的だが、むずかしければ他をあたって援軍を増やそう」
「おおっ、それでいいと思います。二人はおれが守るんで、大船に乗った気持ちでいてください」
「わたしは自分の身は自分で守れるから」
「は、はい」

 クルトはこの偵察を通じて、二人の関係が改善されたらいいと思った。
 二人がケンカをしているわけではないので、見守るつもりだった。
 
「準備といっても通り道に宿や食堂はあるからな。できるだけ早く出発したいが、今からでも構わないか?」
「おれは構いませんよ」
「わたしも、豪邸を手に入れるのは早い方がいい」

 二人の積極さにクルトは感心した。
 彼は足早に自宅へ戻り、さし当たって必要そうな現金を用意した。
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