234 / 237
最後の戦いの後日譚
畑の様子と農場主
しおりを挟む
カナタはどのような獣がいるか確かめようとするが、すでに逃げた後のようで、姿を見ることはできなかった。
彼は農夫たちの様子が落ちついてから、そのうちの一人に声をかけた。
「相談所の依頼で訪れた者です。害獣について教えてもらえますか?」
十代後半の若者から中年までと年齢層は幅広いようだ。
その中で精悍な顔立ちの男性がカナタに応じた。
「おおっ、よく来てくれた。オレは農場主のクンツだ」
「カナタです。よろしく」
「それで害獣についてだったな。ちょうど逃げられたところだが、シカがよく来るんだ。それとイノシシも。シカは姿を現すからマシな方で、イノシシは人間を警戒して夜中に来るんだ。そもそも見回りは畑仕事じゃないからな。ホント、こればっかりはたまらんよ」
クンツのことを気の毒に思いつつ、カナタは害獣について知ることができたと思った。
ウィリデでは巨大なウサギだったが、ここではモンスターというよりも野生動物の食害などに困っているようだ。
「まずはシカから何とかしましょうか。日中かつ姿を見せるなら、何かしらできることはあると思います」
「よしっ、そういうことか。シカは懲りずに来るだろうから、その辺で待ってれば、そのうちに現れるだろうよ」
「今日は様子見になりそうですけど、お邪魔じゃなければ待ってみます」
「ああっ、よろしく頼んだぜ。――あと、これをやるよ」
クンツが何かを投げて、カナタに手渡した。それはトウモロコシだった。
もっとも、日本で見かけるような黄色い粒のものとは色が異なる。
紫キャベツのように、粒が紫色に染まっているのだ。
「これ、食べれるってことですか?」
「そこそこ甘くてみずみずしいから、のどを潤すのにいいぜ」
「ありがとうございます」
カナタはトウモロコシを掲げて、感謝を示した。
彼がそれをかじると、クンツの説明通りにほのかな甘みがした。
「とりあえず、オレは畑仕事に戻る。シカなりイノシシなりが近づいたら、よろしく頼むぜ」
「ええ、任せてください」
カナタはしっかりとした声で言った。
同じところで立ったままというわけにもいかず、彼は畑の周りを歩き出した。
広大な面積に色んな作物が育っている。
ウィリデにも農耕地は存在したが、こことは野菜の種類が異なるようだ。
クンツたちが追い払ったばかりであるため、害獣の気配は感じられない。
周囲の木々や茂みが隠れみのになっている感もあるが、全て伐採するわけにもいかないだろう。
日本人のカナタからすれば、自然破壊のようなことは提案しにくい面もある。
「……まずは見回りをしてみるか」
すぐに姿を現すようには見えないが、依頼を引き受けた以上は状況を把握する必要がある。
カナタは周囲の状況を観察しながら、畑の周囲を歩き回った。
広大な土地を二回りしたところで、カナタはクンツに声をかけることにした。
動物の気配はなく、やることが何もなかった。
「あの、害獣の気配がないみたいで、いるだけなのは依頼としてどうなのかなと」
「いや、いるだけでいいんだ。人がいるだけで近づく可能性が下がる。まあ、いても関係なく来ることもあるんだが……。魔法が使えるなら、それで追い払ってくれてもいいんだぜ」
「ああっ、そういうことですか」
カナタはクンツと意思疎通が十分ではなかったと気づいた。
依頼を引き受けた者としてやるべきことも、会話を通じて明確になった。
彼がクンツから離れたところで、少し離れた茂みが動いたように見えた。
「――おっ、あれは」
じっと見守っていると、一頭のシカが姿を現した。
日本にいるものよりも体毛が黒く、角の生え方も変わっている。
目当ては作物のようで、葉物野菜をかじろうとするところだった。
「……ここからだと距離が遠いか」
カナタは体内の魔力に意識を向けると、片方の手を掲げて火球を放つ。
それは直線的にシカへと飛来して、角先をかすめていった。
「――ビャッ!?」
シカは甲高い鳴き声を出すと、一目散に茂みの中へと引き返していった。
「これで同じ個体はしばらく来ないけど、他にもいるんだよな」
カナタはシカの出てきた茂みへと足を運んだ。
近くで確かめると背の高い草がびっしりと生えている。
とてもではないが、奥まで歩いていくのは難しそうだ。
いつかの巨大なウサギの時は勝手を知るエルネスと二人だった。
しかし、今は一人で対応せざるを得ない状況にある。
過去を思い返すことで、カナタの中に懐かしい気持ちが湧き上がった。
感傷に浸りつつ、彼はあることに気づいた。
害獣に困っているという割には柵のようなものもなければ、接近を知らせるような音た出る類(たぐい)のものも見当たらない。
これでは農夫たちがいる時にしか、害獣に気づくことはできないだろう。
「彼らは意図的に設置していないのか、あるいはそういった意識を持ち合わせていないのか……。いずれにしても、提案するだけしてみる意味はありそうな気がするな」
カナタは茂みの前から離れると、クンツの元へと移動を開始した。
彼は農夫たちの様子が落ちついてから、そのうちの一人に声をかけた。
「相談所の依頼で訪れた者です。害獣について教えてもらえますか?」
十代後半の若者から中年までと年齢層は幅広いようだ。
その中で精悍な顔立ちの男性がカナタに応じた。
「おおっ、よく来てくれた。オレは農場主のクンツだ」
「カナタです。よろしく」
「それで害獣についてだったな。ちょうど逃げられたところだが、シカがよく来るんだ。それとイノシシも。シカは姿を現すからマシな方で、イノシシは人間を警戒して夜中に来るんだ。そもそも見回りは畑仕事じゃないからな。ホント、こればっかりはたまらんよ」
クンツのことを気の毒に思いつつ、カナタは害獣について知ることができたと思った。
ウィリデでは巨大なウサギだったが、ここではモンスターというよりも野生動物の食害などに困っているようだ。
「まずはシカから何とかしましょうか。日中かつ姿を見せるなら、何かしらできることはあると思います」
「よしっ、そういうことか。シカは懲りずに来るだろうから、その辺で待ってれば、そのうちに現れるだろうよ」
「今日は様子見になりそうですけど、お邪魔じゃなければ待ってみます」
「ああっ、よろしく頼んだぜ。――あと、これをやるよ」
クンツが何かを投げて、カナタに手渡した。それはトウモロコシだった。
もっとも、日本で見かけるような黄色い粒のものとは色が異なる。
紫キャベツのように、粒が紫色に染まっているのだ。
「これ、食べれるってことですか?」
「そこそこ甘くてみずみずしいから、のどを潤すのにいいぜ」
「ありがとうございます」
カナタはトウモロコシを掲げて、感謝を示した。
彼がそれをかじると、クンツの説明通りにほのかな甘みがした。
「とりあえず、オレは畑仕事に戻る。シカなりイノシシなりが近づいたら、よろしく頼むぜ」
「ええ、任せてください」
カナタはしっかりとした声で言った。
同じところで立ったままというわけにもいかず、彼は畑の周りを歩き出した。
広大な面積に色んな作物が育っている。
ウィリデにも農耕地は存在したが、こことは野菜の種類が異なるようだ。
クンツたちが追い払ったばかりであるため、害獣の気配は感じられない。
周囲の木々や茂みが隠れみのになっている感もあるが、全て伐採するわけにもいかないだろう。
日本人のカナタからすれば、自然破壊のようなことは提案しにくい面もある。
「……まずは見回りをしてみるか」
すぐに姿を現すようには見えないが、依頼を引き受けた以上は状況を把握する必要がある。
カナタは周囲の状況を観察しながら、畑の周囲を歩き回った。
広大な土地を二回りしたところで、カナタはクンツに声をかけることにした。
動物の気配はなく、やることが何もなかった。
「あの、害獣の気配がないみたいで、いるだけなのは依頼としてどうなのかなと」
「いや、いるだけでいいんだ。人がいるだけで近づく可能性が下がる。まあ、いても関係なく来ることもあるんだが……。魔法が使えるなら、それで追い払ってくれてもいいんだぜ」
「ああっ、そういうことですか」
カナタはクンツと意思疎通が十分ではなかったと気づいた。
依頼を引き受けた者としてやるべきことも、会話を通じて明確になった。
彼がクンツから離れたところで、少し離れた茂みが動いたように見えた。
「――おっ、あれは」
じっと見守っていると、一頭のシカが姿を現した。
日本にいるものよりも体毛が黒く、角の生え方も変わっている。
目当ては作物のようで、葉物野菜をかじろうとするところだった。
「……ここからだと距離が遠いか」
カナタは体内の魔力に意識を向けると、片方の手を掲げて火球を放つ。
それは直線的にシカへと飛来して、角先をかすめていった。
「――ビャッ!?」
シカは甲高い鳴き声を出すと、一目散に茂みの中へと引き返していった。
「これで同じ個体はしばらく来ないけど、他にもいるんだよな」
カナタはシカの出てきた茂みへと足を運んだ。
近くで確かめると背の高い草がびっしりと生えている。
とてもではないが、奥まで歩いていくのは難しそうだ。
いつかの巨大なウサギの時は勝手を知るエルネスと二人だった。
しかし、今は一人で対応せざるを得ない状況にある。
過去を思い返すことで、カナタの中に懐かしい気持ちが湧き上がった。
感傷に浸りつつ、彼はあることに気づいた。
害獣に困っているという割には柵のようなものもなければ、接近を知らせるような音た出る類(たぐい)のものも見当たらない。
これでは農夫たちがいる時にしか、害獣に気づくことはできないだろう。
「彼らは意図的に設置していないのか、あるいはそういった意識を持ち合わせていないのか……。いずれにしても、提案するだけしてみる意味はありそうな気がするな」
カナタは茂みの前から離れると、クンツの元へと移動を開始した。
1
あなたにおすすめの小説
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?
嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】
ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。
見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。
大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!
神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。
「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
※本作は小説家になろうでも投稿しています。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる