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最後の戦いの後日譚
農場への提案
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「作業中にすいません。今回のことで気になることがあって」
カナタは農作業をしているクンツのところまで近づいて話しかけた。
クンツは振り返って興味深げに声を返す。
「ほおっ、どんなことだ? 聞かせてくれよ」
クンツはこちらに振り向くと、額に浮かんだ汗を拭った。
「害獣の接近を知らせるようなものは設置してませんか?」
「いや、そんな仕掛けはしてないが、した方がいいのか?」
「あっ、その……」
カナタは異世界の住人と話していることを実感して、思わず口ごもってしまった。
日本人同士の会話なら仮に設置していなかったとしても、お互いに意図を汲み取って円滑に話せただろう。
しかし、クンツは別の世界の人間であり、カナタが慣れ親しんだウィリデとも異なる文化圏の者なのだ。
「順を追って説明するので、まずは聞いてもらってもいいですか?」
「分かった。続けてくれ」
「ありがとうございます」
カナタは接近を知らせる装置があれば、気づかないうちに作物を荒らされることが防げて、音が鳴ることで野生動物は驚いて逃げることもあるということを伝えた。
クンツは神妙な表情で聞いていたが、やがて納得したように頷いた。
「それはいい。その装置を作ってもらうことはできないか?」
「やはり、そうなりますよね……」
カナタは提案してみたものの、自分で作れるのか自信がないことに気づいた。
思いつきで言ったことに後悔しつつ、クンツを満足させる答えを考える。
「今すぐというわけにはいかないので、少し時間をもらっても?」
「いや、時間がかかるのは問題ない。工賃が必要だと思うが、負担が大きすぎるのは困る。追加の依頼料が必要になっても、膨らみすぎないようしてくれ」
「分かりました。できる限り低予算で完成させます。複雑な構造にはならないと思うので、そこまで割高にはならないはずです」
カナタが落ちついた口調で伝えると、クンツは納得したように頷いた。
異世界への扉をくぐる前のことが脳裏をかすめる。
彼は転移する前、営業マンとして顧客に提案することが業務の一環だった。
「難しいことは分からないから、後のことは任せた」
「分かりました。今日はこの辺で失礼します」
「じゃあな、よろしく頼む」
クンツに見送られて、カナタは農場を後にした。
カナタはトリムトの町に戻ってから、魔法使い相談所のアロイスを訪ねた。
彼に相談して害獣を追い返すための警報装置を作るつもりだった。
アロイスは所長室におり、カナタが事情を話すと歓迎した。
「私は魔法が専門ですから、そういったものは得意ではない。町の職人の中には得意な者がいるはずでしょう」
「それは助かります。トリムトに知り合いはいないので、誰か紹介してもらえると」
「では、鍛冶職人のホイヤーはいかがでしょう。私もたまに依頼する時があります。仕事が丁寧で依頼人の話を聞き入れる男ですから、きっとお役に立つはずです」
「ちなみにホイヤーさんの店はどの辺りですか?」
カナタがたずねると、アロイス万年筆を手に取ってベージュの紙に地図を描いた。
相談所からホイヤーのところまでの道が簡略的に示してある。
「これなら分かりそうです」
「さほど距離はないので、大丈夫かと思います」
「ありがとうございます」
カナタはアロイスに感謝を伝えると所長室を後にした。
それから、地図を眺めながら相談所の敷地を出て、ホイヤーの店までの道を歩いた。
トリムトの町に鍛冶屋は少なく、目的の店はすぐに見つかった。
「――こんにちはー」
軒先からあいさつをすると、店の中に人影が目に入った。
作業中の男はカナタに気づくと、手を止めてゆっくりと歩いてきた。
「はいはい、何か用事かね」
「アロイスさんの紹介で来ました。ホイヤーさんに作ってほしいものがありまして」
「ふむ、修理じゃないのか。店の中は灰で埃っぽいから、そこで話を聞こうか」
軒先には木製のベンチがあり、カナタとホイヤーはそこに並んで腰かけた。
「で、何だっけ、作ってほしいものがあるって?」
「はい。小さなベルのようなものに糸を通して、それに触れると鳴るようにしたいんです」
カナタが身振り手振りで用件を伝えると、ホイヤーは沈黙の後に独り言をぶつぶつと始めた。
一見すると心配になるような挙動だが、アロイスに紹介があるため、そのまま待つことにした。
「うちは糸問屋じゃないから、そっちは自分で用意してくれるかい」
「もちろんです」
「それまあ、何とかできそうだね。今日は残りの仕事があるから、明日の昼にでも来てくれれば完成しているよ」
「分かりました。また来ます……支払いはどうしましょう?」
「大したことじゃないから金はいい。アロイスに会ったら、ワインの一本でも持って来るように言っとくれ。お前さんは若いのにそんな白い髪で、さぞかし苦労したんだろう」
「うーん、まあ、そんなとこです」
強敵と死闘を繰り広げたわけだから、自信を持ってもいいだろう。
ただ、カナタは相手にそこまでの説明をする気にならず、曖昧な返事を返した。
あとがき
他作品も書いているため、久しぶりの更新となりました。
間隔が空いても読んでくださり、ありがとうございます。
カナタは農作業をしているクンツのところまで近づいて話しかけた。
クンツは振り返って興味深げに声を返す。
「ほおっ、どんなことだ? 聞かせてくれよ」
クンツはこちらに振り向くと、額に浮かんだ汗を拭った。
「害獣の接近を知らせるようなものは設置してませんか?」
「いや、そんな仕掛けはしてないが、した方がいいのか?」
「あっ、その……」
カナタは異世界の住人と話していることを実感して、思わず口ごもってしまった。
日本人同士の会話なら仮に設置していなかったとしても、お互いに意図を汲み取って円滑に話せただろう。
しかし、クンツは別の世界の人間であり、カナタが慣れ親しんだウィリデとも異なる文化圏の者なのだ。
「順を追って説明するので、まずは聞いてもらってもいいですか?」
「分かった。続けてくれ」
「ありがとうございます」
カナタは接近を知らせる装置があれば、気づかないうちに作物を荒らされることが防げて、音が鳴ることで野生動物は驚いて逃げることもあるということを伝えた。
クンツは神妙な表情で聞いていたが、やがて納得したように頷いた。
「それはいい。その装置を作ってもらうことはできないか?」
「やはり、そうなりますよね……」
カナタは提案してみたものの、自分で作れるのか自信がないことに気づいた。
思いつきで言ったことに後悔しつつ、クンツを満足させる答えを考える。
「今すぐというわけにはいかないので、少し時間をもらっても?」
「いや、時間がかかるのは問題ない。工賃が必要だと思うが、負担が大きすぎるのは困る。追加の依頼料が必要になっても、膨らみすぎないようしてくれ」
「分かりました。できる限り低予算で完成させます。複雑な構造にはならないと思うので、そこまで割高にはならないはずです」
カナタが落ちついた口調で伝えると、クンツは納得したように頷いた。
異世界への扉をくぐる前のことが脳裏をかすめる。
彼は転移する前、営業マンとして顧客に提案することが業務の一環だった。
「難しいことは分からないから、後のことは任せた」
「分かりました。今日はこの辺で失礼します」
「じゃあな、よろしく頼む」
クンツに見送られて、カナタは農場を後にした。
カナタはトリムトの町に戻ってから、魔法使い相談所のアロイスを訪ねた。
彼に相談して害獣を追い返すための警報装置を作るつもりだった。
アロイスは所長室におり、カナタが事情を話すと歓迎した。
「私は魔法が専門ですから、そういったものは得意ではない。町の職人の中には得意な者がいるはずでしょう」
「それは助かります。トリムトに知り合いはいないので、誰か紹介してもらえると」
「では、鍛冶職人のホイヤーはいかがでしょう。私もたまに依頼する時があります。仕事が丁寧で依頼人の話を聞き入れる男ですから、きっとお役に立つはずです」
「ちなみにホイヤーさんの店はどの辺りですか?」
カナタがたずねると、アロイス万年筆を手に取ってベージュの紙に地図を描いた。
相談所からホイヤーのところまでの道が簡略的に示してある。
「これなら分かりそうです」
「さほど距離はないので、大丈夫かと思います」
「ありがとうございます」
カナタはアロイスに感謝を伝えると所長室を後にした。
それから、地図を眺めながら相談所の敷地を出て、ホイヤーの店までの道を歩いた。
トリムトの町に鍛冶屋は少なく、目的の店はすぐに見つかった。
「――こんにちはー」
軒先からあいさつをすると、店の中に人影が目に入った。
作業中の男はカナタに気づくと、手を止めてゆっくりと歩いてきた。
「はいはい、何か用事かね」
「アロイスさんの紹介で来ました。ホイヤーさんに作ってほしいものがありまして」
「ふむ、修理じゃないのか。店の中は灰で埃っぽいから、そこで話を聞こうか」
軒先には木製のベンチがあり、カナタとホイヤーはそこに並んで腰かけた。
「で、何だっけ、作ってほしいものがあるって?」
「はい。小さなベルのようなものに糸を通して、それに触れると鳴るようにしたいんです」
カナタが身振り手振りで用件を伝えると、ホイヤーは沈黙の後に独り言をぶつぶつと始めた。
一見すると心配になるような挙動だが、アロイスに紹介があるため、そのまま待つことにした。
「うちは糸問屋じゃないから、そっちは自分で用意してくれるかい」
「もちろんです」
「それまあ、何とかできそうだね。今日は残りの仕事があるから、明日の昼にでも来てくれれば完成しているよ」
「分かりました。また来ます……支払いはどうしましょう?」
「大したことじゃないから金はいい。アロイスに会ったら、ワインの一本でも持って来るように言っとくれ。お前さんは若いのにそんな白い髪で、さぞかし苦労したんだろう」
「うーん、まあ、そんなとこです」
強敵と死闘を繰り広げたわけだから、自信を持ってもいいだろう。
ただ、カナタは相手にそこまでの説明をする気にならず、曖昧な返事を返した。
あとがき
他作品も書いているため、久しぶりの更新となりました。
間隔が空いても読んでくださり、ありがとうございます。
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