腹ペコ令嬢は満腹をご所望です【連載版】

古森きり

文字の大きさ
12 / 37

十五歳になりました!

しおりを挟む

 そんなわたくしの生活は瞬く間に五年の歳月が過ぎていきました。
 クリスティア・ロンディウヘッド、十五歳——……。

「ん~! これも美味しいです!」
「そうかそうか。たくさん食べろよ」
「はい! ありがとうございます、ミリアム様!」

 その日はこの国の王立学園への入学日。
 本日から寮住まいになります。
 そして今は寮の食堂です。
 寮の食堂は男女共有です。
 ミリアム様は王族用の個室なのですが、そこからわたくし用に朝のケーキを作って持ってきてくださいました。

「本当は弁当も作りたかったんだが、アークに『学業を優先しろ』と言われてしまってな」
「そうなのですね」

 もぐもぐ。ごくん。ぱく。もぐもぐ……。

「美味しいです……!」

 にこ。
 ミリアム様に微笑ましく眺められてしまいました。
 ミリアム様の作ったケーキ、本当に美味しいです。

「おはようございます、ミリアム、クリスティア」
「おはようございます、アーク様」
「おはよう、アーク。相変わらず朝弱いなお前」
「いやー、朝とか一番眠い時間じゃないですか。早起きして甲斐甲斐しくクリスティアにケーキ作ってあげるミリアムは本当に偉いですよ」
「ま、まぁな」

 もぐもぐ。もぐもぐ。ごくん。

「美味しいですっ」
「そうですか。良かったですね」
「はい」

 にこ。
 アーク様にも微笑まれました。

「まあ、それはそれとして、クリスティアは色々気をつけてくださいね」
「はい?」
「貴女は一応、僕の婚約者という事になっているんですから。色々他の令嬢に嫌がらせをされたり嫌味を言われるかもしれません。その時は容赦なく僕に教えてくださいね?」
(アーク、牽制の仕方がえぐいな~)
「? はい」
(まあ、クリスティアはこのぐらい言っても分かってないみたいだが……)

 もぐもぐ。もぐもぐ。
 アーク様は時々よく分からない事をおっしゃいますね。
 いえ、言っている事は分かります。
 わたくしの身を心配してくださっているんですよね。

「…………」

 もぐ……。
 でも、やはり未だに分かりません。
 これでいいのか。わたくしはこのままでいいのか。
 ミリアム様の作ってくださるケーキは永遠に食べていたいですが……こんな中身空っぽなわたくしが王妃になる事を目指していいのでしょうか。
 ミリアム様はお優しいしケーキは美味しいです。
 だからとても大好きです。
 アーク様もお優しいし次期王に相応しいと思います。
 親切にしてくださいますし、わたくしが困る前に先回りもしてくださってとても頼りがいのある方だと思います。
 お二人ともご自分の目標に向かって頑張っておられる。
 でも、わたくしは?
 親に言われて王妃を目指し、いずれ王となるお二人のどちらかの婚約者となる……。
 そこに自分の意思などなく、いえ、それは貴族の令嬢として生まれた以上、ある意味当たり前の事でもあるのですが……。
 やはりわたくしは『空っぽ』。
 わたくしなんかが王妃になって本当によいのでしょうか。
 もっと相応しい方がいるのでは。

「もぐもぐもぐもぐ」
「クリスティア、おかわりはいるか?」
「いただきますっ!」
「入学式が終わったらお昼は三人で食べましょうね」
「はい!」

 本日もケーキが美味しいです!



「ちょっと! ロンディウヘッド令嬢!」
「ふぇ?」

 ミリアム様とアーク様、お二人と別れてから入学式の行われる講堂へ移動中の事です。
 数人のご令嬢に呼び止められました。

「なんでしょうか」

 困りました、お名前が分かりません。
 学園の中だとルイナもいないので孤立無縁です。
 ……今更ですがわたくしやっぱりちょっとほわほわしすぎですね。
 自分でも分かっているのですが、いまいち他人に興味が持てません。
 アーク様は「幼少期に対人関係が希薄だった弊害でしょうね。まあ、そのうち治しましょう」と言ってくださいましたけど、これって治るものなのでしょうか。
 いえ、治した方がいいのは自分でも分かるんですけれども。
 ……人に興味を抱くってどうしたらいいんでしょうか。

「!」

 そうだ、「まずはお友達から」というのはどうでしょう!
 思えばわたくし、同世代で同性のお友達はおりませんわ!

「あなた、王子殿下を二人も誑かすなんてどういう了見なのかしら?」
「…………」
「アーク様の婚約者なのでしょう!? なのに、朝から食堂でミリアム様と仲睦まじくされて! まさか両王子に取り入ろうと? 信じられませんわね!」
「とんだ淫乱女ではない!」
「アーク様の婚約者なら、ミリアム様に近づくのはおやめになった方がいいんではなくて?」
「婚約者のいる女性が婚約者のいない男性と二人きりでいるのはおかしいわ!」

 声をかけてきたご令嬢たちにそう言い放たれました。
 たぶ……たぶらかす?
 わたくし、ミリアム様たちを誑かしてなどいないのですが。
 ……というより……。

「……ひどい誤解ですわ。それに、侮辱です」
「え……な、なにが……侮辱なんて、それはこっちの台詞……」
「いえ、ミリアム様とアーク様への侮辱です。あのお二方がわたくしごときに誑かされるような方々に見えますの?」
「「「…………」」」
「それに、朝はアーク様を待っていただけです。ミリアム様はアーク様と異母兄弟。ミリアム様がアーク様を待っておられたので、アーク様の婚約者としてご一緒したのですわ。ミリアム様もいずれはわたくしのお兄様になりますから……なにかおかしな事でもありまして?」
「うっ……」

 もちろん皆様のおっしゃりたい事は分かるんですよ?
 分かるんですけど、朝ってお腹が空くではないですか。
 早くミリアム様の作ったケーキを食べたいではないですか。
 だから先に食べさせて頂いてたんですよ。
 アーク様は朝が弱いので、ちょっと遅れて来られるんですよね。
 仕方がないのです。うんうん。
 実際ミリアム様には妹のように可愛がられていますしね。
 というか、絶対妹だと思われていると思います。
 わたくしにも血の繋がったお兄様はいますが、わたくしにまるで興味がない方なので『兄妹』というものはよく分かっていませんけれど……きっと実際の『兄妹』はあんな感じなんではないんでしょうか。

「入学式が始まりますので、早く参りましょう」
「…………っ」

 よし! ちゃんと同級生となる方々と笑顔でお話出来ましたわ!
 他人にはどうしてもまだ興味は抱けませんけれど、アーク様が「頑張って治しましょう」と言ってくださいましたから、わたくし頑張ります!
 きっと人様とたくさんお話しすれば治せるはずですよね。
 ……まだなんかこう、「お友達はエルザ様がいるからいいや!」と思っている節があるので同年代、同性のお友達を作るのを今年一年の目標としましょう。
 ジーン様にも「学園は味方を作る場所。王妃になるには人望も必要ですよ」と言われましたし。
 ルイナにも「私はご一緒出来ないので、お友達を作って楽しくお過ごしください」と言われましたし!

「ところで、皆様は……あら?」

 せっかく話しかけて頂いたので、ここは新しい話題を振って仲を深めましょう。
 そう思ったけれど、ご令嬢たちはもうそこにはいませんでした。
 もう講堂の方に入って行ってしまった模様です。残念です。
 もう少しお話したかったですね。

「…………いえ、まだ学園生活は始まったばかりですし……頑張りましょう」

 わたくし、虚無すぎますけど、それを治すためにも……一つ一つ自分の中に目標を持って、達成していきましょう。

「…………」

 ぐう。
 お腹が鳴ります。お腹が空きました。
 お昼まで持ちそうにないんですが。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界にお助けキャラとして転生したリリアン。 無事ヒロインを王太子とくっつけ、自身も幼馴染と結婚。子供や孫にも恵まれて幸せな生涯を閉じた……はずなのに。 目覚めると、何故か孫娘マリアンヌの中にいた。 マリアンヌは続編ゲームの悪役令嬢で第二王子の婚約者。 婚約者と仲の悪かったマリアンヌは、学園の階段から落ちたという。 その婚約者は中身がリリアンに変わった事に大喜びで……?!

侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw

さこの
恋愛
「喜べリリアン! 第一王子の婚約者候補におまえが挙がったぞ!」  ある日お兄様とサロンでお茶をしていたらお父様が突撃して来た。 「良かったな! お前はフレデリック殿下のことを慕っていただろう?」  いえ! 慕っていません!  このままでは父親と意見の相違があるまま婚約者にされてしまう。  どうしようと考えて出した答えが【悪役令嬢に私はなる!】だった。  しかしリリアンは【悪役令嬢】と言う存在の解釈の仕方が……  *設定は緩いです  

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。 そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。 毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。 もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。 気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。 果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは? 意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。 とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。 自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。 ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。 とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。 彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。 聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて?? 大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。 ●他作品とは特に世界観のつながりはありません。 ●『小説家になろう』に先行して掲載しております。

【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~

吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。 ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。 幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。 仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。 精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。 ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。 侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。 当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!? 本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。 +番外編があります。 11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。 11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。

処理中です...