Ωの愛なんて幻だ

相音仔

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本編

女神の名に誓う

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 番になったからって、何が変わるんだって思ってた。
 俺にとってのイメージはαがΩにこれは俺のって印をつけるくらいのものだった。関係を結ぶのだって、Ωの頂をαが噛むのだ。なんか原始的だろ?結局は俺は噛まれる側なわけ。
 でも、それは違うと今なら分かる。これは、相互関係だった。リュミエールから俺に、俺から彼に、うまく言えないけれど、俺たちはお互いを選んだと分かる。
 目には見えない、形は無い、そんな不確かなものを信じる日が来るとは、人生は分からないものだ。
 衝動的に望んだ事だったけど、心から望んでいたと言える。
 俺は人生で初めて、誰かに大切にされている事を実感し、また大切にしたい人を得た。



 生活が大きく変わったわけではない。
 リュミエールが仕事の日はエンデさんが変わらず来てくれていた。
 ただ、なんとなく俺の中でここが、ただ一時的にいる場所ではなく、自分の家だという気持ちがやっと出てきた気がする。

「エクレ、今度の休日出かけないか? 中央区の中ではあるんだが、一緒に行きたい場所があるんだ」
「良いよ、何処にいくの?」
「いくつか回りたくて、君も何処か寄りたいところはない?」
「じゃあ本屋に行きたい」
 手持ちの園芸の方は読み込んだし、そろそろ新しい本を買っても良いかもしれない。
「もちろん、園芸店にも寄るかい? 新しい植物を買うのもいいね」
「時間があるなら、お願いしたいな」
 そうだ、アザレの花の事、こっそり聞けたらお店の人に聞いてみよう。



 ◇



 当日リュミエールはなんだかそわそわと落ちつきが無かった。いつも以上に気合いが入っている気がした。
 中央区とはいえ、あんなことがあった後なので、護衛の人はついてきた。うちと専属契約を交わした会社から来ている人たちだ。俺も多少なれたし、変わらず気配を消すのが上手いので気にならなかった。
 
 午前中は俺がみたいと言った店を回った。まずはお気に入りの園芸店。
 今後の季節に合わせて、庭をどう整えたらいいのか、相談に乗ってもらった。
 こっそり、彼に贈る花を育てたいことを相談すると、これからの咲く花の中でも、いくつか勧められた。アザレはもう季節が終わってしまったから、来年でも良いかもしれない。
 いくつかの植物と、そのための肥料を予約して、家に届けてもらう事になった。
 その後は書店に寄る。リュミエールもかなり読書家なので、お互いに何冊か本を買った。
 彼が読む本の中には難しいものも多く、俺はほとんど手をつけていない。
 物語とかなら同じ物を読んで、感想を共有出来るかもしれないと言うと、喜んでおすすめを吟味していた。
 
 お昼を食べる前に服屋に寄りたいといわれて、言われるがままについて行く。
 思っていたよりも高そうな服屋だった。正装……とまではいかないだろうけど、それに準ずる程度にはかしこまった服。略礼装とでも言うのだろうか。
 リュミエールはグレーの、俺にはネイビーのスーツを渡された。光沢と生地の質感に気後れする。これ絶対高いだろう。
 既に注文は終えていたようで、その場で着替えて、仮縫いの補正をされた。
 カフスやネクタイピンまで用意された服を着るのは、初めてのことだった。
 靴まで変えて、全身すっかり別物である。

「ねぇ、何処に行くの?」
「とりあえず、食事に行こう。メインはその後かな」
 こんな格好をしていく食事に、すこし不安を覚えながらも、彼について言った。
 いかにも高級レストランですといった様子の店だ。個室に通される。二人っきりな事に安心した。俺はマナーなんて当然しらない、人目があって彼に恥をかかせたくはなかった。
「ごめん、緊張してる? ここは友人の店だし、気楽にして良いから」
「こういうお店、初めて来るから、緊張しないのはむり。どうして急に?」
「番になったお祝いをしたくて、二人きりだし、気にしないで食べよう。服は店に対しての礼儀でもあるから着たけど、汚しても大丈夫だよ」
 クリーニングに出せばいいとは言うけれど、着たこともない服に、初めての雰囲気の店に俺はだいぶのまれていた。

 ドリンクを運んで来た人は、リュミエールを見て頷き、俺をみてから微笑んだ。たぶんお友だちってこの人かな?でも、余計な話とかしないで、粛々とテーブルを整えて下がる。
「乾杯しよう。なんだか、浮かれてる私に付き合わせてしまってるけど」
「ううん、嬉しいよ。びっくりしてるだけ」
 こういう場でお祝いしようと言われたことがなかったから、戸惑っているけど、リュミエールの気持ちは嬉しかった。
「私と君の素晴らしい日々に、乾杯」
「か、乾杯」
 アルコールは入っていないというけれど、シュワシュワとしたドリンクは雰囲気がそれぽかった。味もすこしお酒ぽい雰囲気がある。
 料理はどれも美味しかった。
 この国の人はよく食べる。あらかじめ言っておいてくれたのか、俺の前に運ばれる料理は少なめにしてくれるみたいだった。
 給仕される際に、足りなければいつでもおっしゃってくださいと言われたけれど、正直これでも多いのだ。
 何皿か食べる頃には店の雰囲気も大分慣れてきた。個室というのも良かったのかもしれない。



 食事の後に連れてこられたのは、大聖堂のような場所だった。
 歴史がある、古い建造物というものは、迫力がある。
「女神様をお奉りしている教会だよ」
「凄いね……。これ全部石かな? どうやって作ったんだろう」
「この国が出来た頃からある大事な建築物なんだ。さぁ、行こうか」
「え、ここ普通に入って良いの?」
「もちろん、一般公開されているよ。祭事の時は別だけれどね」
 確かに人の出入りはあったが、なんだかみんな高位の人のような雰囲気がある。一人だったら絶対に入らない。

「熱心に毎日お祈りに来る人もいるんだよ」
 リュミエールに手を引かれて中に進む。正面の祭壇の後ろには、一面のステンドグラスがはめ込んであった。女神を模しているのだろうか、色鮮やかでとてもきれいだった。
 中で何人か祈っている人もいた。みんな真剣な様子だった。
「俺たちも祈ろうか」
「え? 何を? というかどうしたら良い?」
「座って、手を組んで、あとは何を想ってもいいよ。私は、君に会えたことを感謝しようかな」
 特別決まりがある様子ではなかった。
 隣のリュミエールを真似して、俺もお祈りをする。……特に、祈りたい事はなかったけれど、お礼でも言っておくか。
(えーっと、女神さま、俺をパディーラに連れてきてくれて、ありがとうございました。おかげで、リュミエールと会えました。……俺、今幸せだと思います)
 この国の人には悪いけれど、俺は女神という存在をこの瞬間まで信じてはいなかった。だけど、隣のリュミエールが真剣に祈っているから、同じようにしたのだ。
 すると、パンッと何かが弾けるように音がして、キラキラと光の粒が、俺の上に降ってきた。
 花火か何かか?なんでこんなものがいきなり。

「女神様が喜んでおられる」
「祝福だ! まさか生でみられるなんて」
「まぁ、彼がうけたのかしら? なんて素晴らしい」
「今日は運が良いなぁ」
 静かだった教会内が、ざわめいて回りから様々な囁きが聞こえた。

「え、何これ。演出?」
 困惑してリュミエールにこっそり聞くと、彼は信じられないといったように興奮してこう言った。
「祝福を受けたんだ。凄い、私も実際に見たのは初めてだよ。あぁそうか、エクレだからこそかもしれない」
 女神の祝福といわれる現象は、教会に限らず各地で見られるらしい。国際行事などで起こると大変縁起が良いと、話題になるそうだ。
 一番目撃が多いのが、教会で祈っている人に希に降りかかる光の粒だという。
 定かではないが、中央区の教会なら月に一回か二回は見られるくらいの頻度だそうだ。
 リュミエールが言った俺だからの意味には、招かれビトだからという意味もこめられているのだろう。
 まさか、本当に女神が俺をこの世界に呼んだのだろうか。この時になってようやくそれを信じても良い気がしてきた。どんどん、パディーラという国の価値観に染まっていくようで、それも悪くない気分だった。



 教会の外にでて、敷地の庭園を散策する。日が傾いてきて夕日が辺りをあたたかく照らしていた。
「エクレ、聞いて欲しい」
 庭園の中の女神像の前で、リュミエールが跪く。せっかくの綺麗な服が汚れてしまうと、俺は慌てたけど、彼は気にもしなかった。
「私と結婚して欲しい。正式に家族になってくれないか?」
「えっ?あ、なるほど、これってそういう……」
 まさかこんな風に申し込まれるなんて、思いもしなかった。俺が知り合いにきいたプロポーズなんて、会話の流れでや、家で寝る前に急にとか、そんな感じだ。
「番になったから、なし崩しでとはしたくなかったんだ。君がまだこういうのは困るというなら、とりあえずは待つけど……」
 俺があっけにとられていると、乗り気じゃないと思ったのか、リュミエールがそんな事を言う。
「違うよ! えっと……嬉しいです。あの、お受けします、でいいのかな?」
 慌てて返事をした。こういうときの言葉って何を言えばいいのかすら分からない。
「本当かい?良かった!ありがとう。女神の名に誓うよ、君を大切にする」
 彼は心底ほっとした様子で俺を抱きしめた。
「これは婚約のネックレス、受け取って欲しい」
 この国の文化で、結婚を誓い合うと、特定の様式のネックレスを贈るそうだ。
 輝くような黄色の宝石は、リュミエールの瞳によく似ていた。台座の裏に刻まれたのは二人の名前と、リュミエールの家の家紋らしい。
「うわ、凄い高そう。えっと、ありがとう大事にする」
「普段からつけれるように、そんなに華美じゃないよ。式典用の結婚の証には、揃いのデザインでもう少し気合いを入れたのを作るのが通例だね。今度一緒に選びに行こう」
 この国では揃いのネックレスを付けるというのは、それなりに重い行為らしい。恋人同士でも、それをするということは結婚を誓い合っていると同義で、軽い気持ちで渡すものではないそうだ。

「今度、家族にも紹介させてほしい。ルナール兄さん以外の兄さんにも会わせたい」
「それはもちろん……。そっか、家族かぁ。嬉しいよ、ありがとう」
 驚きの方が多かったけれど、じわじわと実感が増してきた。
 もう、俺は一人ではない。そう思えたことが、無性に嬉しかった。





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