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第104話 楽しくて美味しいヨツツメです #1
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軽く息を整えると周囲にそっと微笑みかけ、淀み無い仕草でカウンターを離れるピノ。
「ゴメン、ちょっと席を外すね」
そして奥へと入ってゆく。内に秘めた動揺を周囲に悟られぬよう、何事も無かったかのように。
「……あれだけ大騒ぎしておいて何事も無かった風を装えるとか、ある意味凄いって思うのです」
「……あれだけ大騒ぎする原因といったら、やはりあの優良物件ではないかと推測します」
当然もろバレなわけだが。
防音設備の整った機材室の扉を閉じた瞬間、ピノはそれまで顔に貼り付けていた取り繕った笑顔を払い捨てた。その下から現れた『大騒ぎ』時に見せた焦りの表情でワタワタと通信具を取り出すと、一転祈るような表情で頼れる親友にコールした。
「……はいはーい、どうしたのピノ様。今日は休み? それとも休憩中かし――」
「ロベリー聞いて、私どうしよう、ねえどうしたらいいと思う!?」
「ええと……?」
何の脈絡もなく『どうしたらいい?』とか訊かれてもね……
軽い頭痛を感じながらも、まずは状況を聞き出さなきゃと考えるロベリー。小さく息を吸ってから通信具の向こうの親友に語り掛ける。
「はいはい、まずは落ち着く。 ゆっくり10数えて……」
「……9……10………………ゴメン」
「よしよし、落ち着いたみたいね。そしたら次は、何があったのかを初めから説明。オーケー?」
いつだって冷静な頼れる親友――
そんなロベリーと話せた事で多少の落ち着きを取り戻せたピノは、ここでようやく説明を始める。
今日カルアがヨツツメの合宿に出発した事、そして先ほど立て続けにセンサーとアラートが反応した事を。
「成程ナルホド、話は分かったわ。……そうねえ、まずカルアラートだけど、鳴ってすぐに止まったんでしょ? だったら瞬間的に何かがあって、でもすぐに危険じゃなくなった、って事じゃない?」
「えっ、それってどういう……」
一瞬だけ命の危機?
そんな事ってある?
「そう、例えば……かわいい女の子ふたりに挟まれて息が止まりそうになった、とか?」
「なっ!?」
まるで現場を見ていたかのようなロベリーの推理。
だが当然ながら、適当に発した自分の言葉がほぼ事実を言い当てていた事など知る由もない。何しろ内心『そんなバカな』と自分自身にツッコんでるくらいなのだから。
「だからセンサーもそんな感じじゃない? 学校行事で馬車で集団移動してる頃なんでしょ? ダンジョンとかに入った訳じゃないし、事件なんて起きようがないじゃない」
「それは……そうだけど」
理解は出来るけど納得は出来ない……そんな微妙な心の内を隠しきれないピノ。
「大体ね、そんな細かい事で毎回駆けつけたら、カルア君にどう思われると思う?」
「どうって……お姉ちゃんってば心配性……とか?」
そんなピノの答えに小さく首を振ったロベリーは、親友のために心を鬼にする。面白がってなどはいない……はずだ。
「――愛が重い女」
「えっ!?」
「――ストーカー」
「なっ!?」
「――盗聴疑惑」
「うっ!?」
そのロベリーが人差し指とともに突き出した指摘は、一言ごとにピノの心を直撃する。
すでに足元が覚束ない程のダメージを受けたピノであるが、まだだ。まだロベリーのターンは終わらない。
「……このあたりで止まってくれればまだラッキーね。そうじゃなかった場合……最悪『ルピノス疑惑』にまで発展するかも」
「そっそんな……」
カルアを守る『ルピノス』が、カルアに正体バレした挙句ストーカー扱いされる未来が!?
「大体ピノ様、さっきは聞き流してあげたけど『お姉ちゃんってば心配性』って何よ。弟離れできてない困ったお姉ちゃんって事? それだって十分悪印象だからね」
「すん……」
ピノのライフは残り少ない。
「いいピノ様? 本当に危険だったら学校からでもギルドからでも情報が来るから。それが無いうちは大丈夫って事よ。で、それでもなお何があったのか知りたいって言うのなら、その時はカルアくんに気付かれないように情報を集めなさい。その辺り、何か伝手はないの?」
学校内の情報をゲットする伝手…………
ある!
ピノの脳裏に天啓の如く浮かび上がる、とある少女。
カルアと同学年であり、クラスは違えどもカルア達パーティと交流がある、とある少女。
つい最近まで特別授業としてブラックと共に直接指導を行っていた、とある少女。
緑あふれるダンジョンの一室で、消えてゆく表情と身につけた実力に綺麗な双曲線を見せた、とある少女。
そう、アイである。
ピノズクラブの会長である彼女ならば、カルアの周辺に関する情報収集を怠っていない筈。ならば……
「うん、情報が入るのを待つ事にする」
「そうね、それでいいと思うわ(そっか……情報網、持ってるんだ)」
「ありがとうロベリー。じゃあそろそろ私、仕事に戻るね」
「ええ、じゃあ頑張っ――『って室長! 何ニヤニヤしてるんですかっ!!』『いやぁ、カルア君愛されてるねえ。うんうん、実に微笑ましいし羨ましいよ。あっそうそう、今日この後なんだけどさ――』『ちょっ、室長!?』」
……そして通信は切れた。
「うあ……モリスさんに聞かれてたぁ……」
親友との会話で取り戻した落ち着きが、直後に落ち込みへと変わってしまったピノであった。
「ゴメン、ちょっと席を外すね」
そして奥へと入ってゆく。内に秘めた動揺を周囲に悟られぬよう、何事も無かったかのように。
「……あれだけ大騒ぎしておいて何事も無かった風を装えるとか、ある意味凄いって思うのです」
「……あれだけ大騒ぎする原因といったら、やはりあの優良物件ではないかと推測します」
当然もろバレなわけだが。
防音設備の整った機材室の扉を閉じた瞬間、ピノはそれまで顔に貼り付けていた取り繕った笑顔を払い捨てた。その下から現れた『大騒ぎ』時に見せた焦りの表情でワタワタと通信具を取り出すと、一転祈るような表情で頼れる親友にコールした。
「……はいはーい、どうしたのピノ様。今日は休み? それとも休憩中かし――」
「ロベリー聞いて、私どうしよう、ねえどうしたらいいと思う!?」
「ええと……?」
何の脈絡もなく『どうしたらいい?』とか訊かれてもね……
軽い頭痛を感じながらも、まずは状況を聞き出さなきゃと考えるロベリー。小さく息を吸ってから通信具の向こうの親友に語り掛ける。
「はいはい、まずは落ち着く。 ゆっくり10数えて……」
「……9……10………………ゴメン」
「よしよし、落ち着いたみたいね。そしたら次は、何があったのかを初めから説明。オーケー?」
いつだって冷静な頼れる親友――
そんなロベリーと話せた事で多少の落ち着きを取り戻せたピノは、ここでようやく説明を始める。
今日カルアがヨツツメの合宿に出発した事、そして先ほど立て続けにセンサーとアラートが反応した事を。
「成程ナルホド、話は分かったわ。……そうねえ、まずカルアラートだけど、鳴ってすぐに止まったんでしょ? だったら瞬間的に何かがあって、でもすぐに危険じゃなくなった、って事じゃない?」
「えっ、それってどういう……」
一瞬だけ命の危機?
そんな事ってある?
「そう、例えば……かわいい女の子ふたりに挟まれて息が止まりそうになった、とか?」
「なっ!?」
まるで現場を見ていたかのようなロベリーの推理。
だが当然ながら、適当に発した自分の言葉がほぼ事実を言い当てていた事など知る由もない。何しろ内心『そんなバカな』と自分自身にツッコんでるくらいなのだから。
「だからセンサーもそんな感じじゃない? 学校行事で馬車で集団移動してる頃なんでしょ? ダンジョンとかに入った訳じゃないし、事件なんて起きようがないじゃない」
「それは……そうだけど」
理解は出来るけど納得は出来ない……そんな微妙な心の内を隠しきれないピノ。
「大体ね、そんな細かい事で毎回駆けつけたら、カルア君にどう思われると思う?」
「どうって……お姉ちゃんってば心配性……とか?」
そんなピノの答えに小さく首を振ったロベリーは、親友のために心を鬼にする。面白がってなどはいない……はずだ。
「――愛が重い女」
「えっ!?」
「――ストーカー」
「なっ!?」
「――盗聴疑惑」
「うっ!?」
そのロベリーが人差し指とともに突き出した指摘は、一言ごとにピノの心を直撃する。
すでに足元が覚束ない程のダメージを受けたピノであるが、まだだ。まだロベリーのターンは終わらない。
「……このあたりで止まってくれればまだラッキーね。そうじゃなかった場合……最悪『ルピノス疑惑』にまで発展するかも」
「そっそんな……」
カルアを守る『ルピノス』が、カルアに正体バレした挙句ストーカー扱いされる未来が!?
「大体ピノ様、さっきは聞き流してあげたけど『お姉ちゃんってば心配性』って何よ。弟離れできてない困ったお姉ちゃんって事? それだって十分悪印象だからね」
「すん……」
ピノのライフは残り少ない。
「いいピノ様? 本当に危険だったら学校からでもギルドからでも情報が来るから。それが無いうちは大丈夫って事よ。で、それでもなお何があったのか知りたいって言うのなら、その時はカルアくんに気付かれないように情報を集めなさい。その辺り、何か伝手はないの?」
学校内の情報をゲットする伝手…………
ある!
ピノの脳裏に天啓の如く浮かび上がる、とある少女。
カルアと同学年であり、クラスは違えどもカルア達パーティと交流がある、とある少女。
つい最近まで特別授業としてブラックと共に直接指導を行っていた、とある少女。
緑あふれるダンジョンの一室で、消えてゆく表情と身につけた実力に綺麗な双曲線を見せた、とある少女。
そう、アイである。
ピノズクラブの会長である彼女ならば、カルアの周辺に関する情報収集を怠っていない筈。ならば……
「うん、情報が入るのを待つ事にする」
「そうね、それでいいと思うわ(そっか……情報網、持ってるんだ)」
「ありがとうロベリー。じゃあそろそろ私、仕事に戻るね」
「ええ、じゃあ頑張っ――『って室長! 何ニヤニヤしてるんですかっ!!』『いやぁ、カルア君愛されてるねえ。うんうん、実に微笑ましいし羨ましいよ。あっそうそう、今日この後なんだけどさ――』『ちょっ、室長!?』」
……そして通信は切れた。
「うあ……モリスさんに聞かれてたぁ……」
親友との会話で取り戻した落ち着きが、直後に落ち込みへと変わってしまったピノであった。
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