10 / 20
10
しおりを挟む
目を覚ますと自室のベッドの上だった。
なんで自分は寝ていたんだろうと考える。そして思い出す。
昨日、お父様の帰りをずっと待っていたが帰ってこなかった。だから、朝まで起きて待っていようとしたら、お母様とユリに怒られてしまったので泣く泣く自分の部屋に戻ったのだ。それで横になっているうちに寝てしまっていたらしい。
お父様はもう帰っているかしら? もしかして何かあったとか……
そう考えたら、居ても立っても居られなくなり、起きるとすぐに部屋を飛び出す。しかし、飛び出した瞬間、驚いてしまう。目の前になぜかウルフイット第三王子が立っていたから。
私は声も出せず、驚いていたが段々と状況を理解する。
「これは夢の中なのね……」
私はこのあり得ない状況に納得して頷いていると、ウルフイット第三王子が顔を慌てて背けながら否定した。
「ち、違う。夢じゃない……」
「えっ……。なぜでしょうか? 王族であるあなた様がこんな場所におられるはずはございません。きっと私の願望が願って、夢の中に出てしまったのですね……」
「が、願望だと? お前は俺に夢の中で会いたいと思ってくれていたのか?」
「はい、もちろんです……」
私は夢の中なのでつい本音で言ってしまったが、やはり途中から恥ずかしくなり俯く。
しかし、欲がまた出てしまったのだ。夢の中だしウルフイット第三王子のお顔をもっと間近で見てしまおうと……
だから、私は顔を上げてウルフイット第三王子をしっかりと目に焼き付けようとしたら、目の前には怒った表情のユリが立っていたのだ。
「あらっ? 今度はユリが怒った顔をして立っているわ。なぜかしら?」
「怒るのは当たり前です。お嬢様、なぜ、その様なお姿で部屋から出られているのですか?」
「はい?」
私はユリに言われて自分がまだ、ネグリジェだということに気づく。しかし、それがなんだというのだろう。だって、今は夢の中なのだから気にする必要はないのだ。
だから、私はユリが消えてまたウルフイット第三王子が現れるように念じる。しかし、全くユリは消えずに仁王立ちになって私を睨んでいた。だから、私は思わずユリに言ったのだ。
「夢の中くらい良いじゃないの。さあ、また、ウルフイット第三王子が私の前に出てきて……」
私は今度は祈りのポーズを取ると、ユリが私の肩をがっちり掴んで言ってきた。
「夢ではなく、現実です。ちゃんと目を覚ましましょうね。お嬢様」
ユリはそう言って可哀想な人を見るような目で私を見てきた。そのユリの憐れみの瞳と、肩に感じる手の温もりで私は現実を知り固まる。
そして辺りを見回し、離れた場所でこちらを見ないようにしているウルフイット第三王子の姿を見つけると私は卒倒してしまうのだった。
◇
私はなんとか意識を取り戻し、今は応接間でウルフイット第三王子と一緒にいる。別にアルバン様とダーマル男爵令嬢みたいにイチャイチャしているわけではない。
真剣な話をこれからしようとしているのだ。私は早速、口を開いた。
「……あの、ウルフイット第三王子が来られたのはやはり、昨日お父様が王宮にお話しに行ったからでしょうか?」
「ああ。昨日ホイット子爵が来て隣国の件を話してくれたんだ。それで、情報共有や今後のことを話し合うためホイット子爵は二、三日王宮に泊まることを伝えにきたんだ」
ウルフイット第三王子の説明を聞き、お父様が無事である事にほっとすると同時に疑問も浮かんだ。
「そうだったのですか……。でも、なぜわざわざウルフイット第三王子が来られたのですか?」
「それはお前に……いや、俺なら伝令より早く動けるからな」
「そうだったのですか。それはわざわざ申し訳ありません」
「い、いや、気にする必要はない。俺が勝手に動いてるだけだからな。それよりもホイット子爵家は厄介な事に巻き込まれたな」
「はい……」
「だが、安心しろ。今、王家が全力で動いている。だから、お前は普段通りにしていればいい」
「普段通りですか……。そうなるとアルバン様との事はどうしたら……」
するとウルフイット第三王子は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「残念だが隣国との繋がりが取れるまでは刺激をしないで欲しい。誰と誰が繋がっているかわからないからな……」
「やはり、そうなりますか……」
せっかくアルバン様との婚約を取り消せると思っていたのに落胆する。ウルフイット第三王子が頭を下げて謝ってきた。
「すまないな……」
「頭をお上げ下さい。悪いのはダナトフ子爵家とダーマル男爵家です」
「……ああ、そうだな」
ウルフイット第三王子は頷くと立ち上がった。
「……俺はそろそろ戻る。少し調べたいこともあるからな」
「……あまり、無理をなさらないで下さいね」
「ふふ、良いものだな」
なぜかウルフイット第三王子は嬉しそうに笑うので私は首を傾げる。
「……良いものですか?」
「ああ、出かける時にこうやって毎回言われたいものだ……」
「ウルフイット第三王子……何度でも言いますわ。その時が来たら……」
私が微笑むと、ウルフイット第三王子も優しげに微笑んでくるのだった。
なんで自分は寝ていたんだろうと考える。そして思い出す。
昨日、お父様の帰りをずっと待っていたが帰ってこなかった。だから、朝まで起きて待っていようとしたら、お母様とユリに怒られてしまったので泣く泣く自分の部屋に戻ったのだ。それで横になっているうちに寝てしまっていたらしい。
お父様はもう帰っているかしら? もしかして何かあったとか……
そう考えたら、居ても立っても居られなくなり、起きるとすぐに部屋を飛び出す。しかし、飛び出した瞬間、驚いてしまう。目の前になぜかウルフイット第三王子が立っていたから。
私は声も出せず、驚いていたが段々と状況を理解する。
「これは夢の中なのね……」
私はこのあり得ない状況に納得して頷いていると、ウルフイット第三王子が顔を慌てて背けながら否定した。
「ち、違う。夢じゃない……」
「えっ……。なぜでしょうか? 王族であるあなた様がこんな場所におられるはずはございません。きっと私の願望が願って、夢の中に出てしまったのですね……」
「が、願望だと? お前は俺に夢の中で会いたいと思ってくれていたのか?」
「はい、もちろんです……」
私は夢の中なのでつい本音で言ってしまったが、やはり途中から恥ずかしくなり俯く。
しかし、欲がまた出てしまったのだ。夢の中だしウルフイット第三王子のお顔をもっと間近で見てしまおうと……
だから、私は顔を上げてウルフイット第三王子をしっかりと目に焼き付けようとしたら、目の前には怒った表情のユリが立っていたのだ。
「あらっ? 今度はユリが怒った顔をして立っているわ。なぜかしら?」
「怒るのは当たり前です。お嬢様、なぜ、その様なお姿で部屋から出られているのですか?」
「はい?」
私はユリに言われて自分がまだ、ネグリジェだということに気づく。しかし、それがなんだというのだろう。だって、今は夢の中なのだから気にする必要はないのだ。
だから、私はユリが消えてまたウルフイット第三王子が現れるように念じる。しかし、全くユリは消えずに仁王立ちになって私を睨んでいた。だから、私は思わずユリに言ったのだ。
「夢の中くらい良いじゃないの。さあ、また、ウルフイット第三王子が私の前に出てきて……」
私は今度は祈りのポーズを取ると、ユリが私の肩をがっちり掴んで言ってきた。
「夢ではなく、現実です。ちゃんと目を覚ましましょうね。お嬢様」
ユリはそう言って可哀想な人を見るような目で私を見てきた。そのユリの憐れみの瞳と、肩に感じる手の温もりで私は現実を知り固まる。
そして辺りを見回し、離れた場所でこちらを見ないようにしているウルフイット第三王子の姿を見つけると私は卒倒してしまうのだった。
◇
私はなんとか意識を取り戻し、今は応接間でウルフイット第三王子と一緒にいる。別にアルバン様とダーマル男爵令嬢みたいにイチャイチャしているわけではない。
真剣な話をこれからしようとしているのだ。私は早速、口を開いた。
「……あの、ウルフイット第三王子が来られたのはやはり、昨日お父様が王宮にお話しに行ったからでしょうか?」
「ああ。昨日ホイット子爵が来て隣国の件を話してくれたんだ。それで、情報共有や今後のことを話し合うためホイット子爵は二、三日王宮に泊まることを伝えにきたんだ」
ウルフイット第三王子の説明を聞き、お父様が無事である事にほっとすると同時に疑問も浮かんだ。
「そうだったのですか……。でも、なぜわざわざウルフイット第三王子が来られたのですか?」
「それはお前に……いや、俺なら伝令より早く動けるからな」
「そうだったのですか。それはわざわざ申し訳ありません」
「い、いや、気にする必要はない。俺が勝手に動いてるだけだからな。それよりもホイット子爵家は厄介な事に巻き込まれたな」
「はい……」
「だが、安心しろ。今、王家が全力で動いている。だから、お前は普段通りにしていればいい」
「普段通りですか……。そうなるとアルバン様との事はどうしたら……」
するとウルフイット第三王子は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「残念だが隣国との繋がりが取れるまでは刺激をしないで欲しい。誰と誰が繋がっているかわからないからな……」
「やはり、そうなりますか……」
せっかくアルバン様との婚約を取り消せると思っていたのに落胆する。ウルフイット第三王子が頭を下げて謝ってきた。
「すまないな……」
「頭をお上げ下さい。悪いのはダナトフ子爵家とダーマル男爵家です」
「……ああ、そうだな」
ウルフイット第三王子は頷くと立ち上がった。
「……俺はそろそろ戻る。少し調べたいこともあるからな」
「……あまり、無理をなさらないで下さいね」
「ふふ、良いものだな」
なぜかウルフイット第三王子は嬉しそうに笑うので私は首を傾げる。
「……良いものですか?」
「ああ、出かける時にこうやって毎回言われたいものだ……」
「ウルフイット第三王子……何度でも言いますわ。その時が来たら……」
私が微笑むと、ウルフイット第三王子も優しげに微笑んでくるのだった。
793
あなたにおすすめの小説
どうして私にこだわるんですか!?
風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。
それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから!
婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。
え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!?
おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。
※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。
婚約解消しろ? 頼む相手を間違えていますよ?
風見ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢である、私、リノア・ブルーミングは元婚約者から婚約破棄をされてすぐに、ラルフ・クラーク辺境伯から求婚され、新たな婚約者が出来ました。そんなラルフ様の家族から、結婚前に彼の屋敷に滞在する様に言われ、そうさせていただく事になったのですが、初日、ラルフ様のお母様から「嫌な思いをしたくなければ婚約を解消しなさい。あと、ラルフにこの事を話したら、あなたの家がどうなるかわかってますね?」と脅されました。彼のお母様だけでなく、彼のお姉様や弟君も結婚には反対のようで、かげで嫌がらせをされる様になってしまいます。ですけど、この婚約、私はともかく、ラルフ様は解消する気はなさそうですが?
※拙作の「どうして私にこだわるんですか!?」の続編になりますが、細かいキャラ設定は気にしない!という方は未読でも大丈夫かと思います。
独自の世界観のため、ご都合主義で設定はゆるいです。
無償の愛を捧げる人と運命の人は、必ずしも同じではないのです
風見ゆうみ
恋愛
サウザン王国の辺境伯令嬢であるララティア・シリルの婚約者は、王太子のフォークス・シェイン。サウザン王国の王子は先祖の暴挙により、生まれながらに呪われており、二十歳になった日から5年間の間に親族以外から無償の愛を捧げてもらわなければ、徐々に体が人間ではないものに変わってしまう呪いがかかっていた。彼に愛されなくても、彼を愛し続けると誓っていたララティアだったが、フォークスの二十歳の誕生日パーティーで、彼はララティアをライバル視している公爵令嬢、ウェンディが自分の運命の人だと発表し、ララティアとの婚約を破棄する。ショックを受けるララティアを救ったのは、パーティーに招待されていた隣国の王太子アーサーだった。
ララティアがアーサーと共にサウザン王国を去ってしばらくすると、フォークスの体にある変化が起こり始め、彼はウェンディの愛が『無償の愛』ではないことを知り――。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
二人ともに愛している? ふざけているのですか?
ふまさ
恋愛
「きみに、是非とも紹介したい人がいるんだ」
婚約者のデレクにそう言われ、エセルが連れてこられたのは、王都にある街外れ。
馬車の中。エセルの向かい側に座るデレクと、身なりからして平民であろう女性が、そのデレクの横に座る。
「はじめまして。あたしは、ルイザと申します」
「彼女は、小さいころに父親を亡くしていてね。母親も、つい最近亡くなられたそうなんだ。むろん、暮らしに余裕なんかなくて、カフェだけでなく、夜は酒屋でも働いていて」
「それは……大変ですね」
気の毒だとは思う。だが、エセルはまるで話に入り込めずにいた。デレクはこの女性を自分に紹介して、どうしたいのだろう。そこが解決しなければ、いつまで経っても気持ちが追い付けない。
エセルは意を決し、話を断ち切るように口火を切った。
「あの、デレク。わたしに紹介したい人とは、この方なのですよね?」
「そうだよ」
「どうしてわたしに会わせようと思ったのですか?」
うん。
デレクは、姿勢をぴんと正した。
「ぼくときみは、半年後には王立学園を卒業する。それと同時に、結婚することになっているよね?」
「はい」
「結婚すれば、ぼくときみは一緒に暮らすことになる。そこに、彼女を迎えいれたいと思っているんだ」
エセルは「……え?」と、目をまん丸にした。
「迎えいれる、とは……使用人として雇うということですか?」
違うよ。
デレクは笑った。
「いわゆる、愛人として迎えいれたいと思っているんだ」
愛しているなら何でもできる? どの口が言うのですか
風見ゆうみ
恋愛
「君のことは大好きだけど、そういうことをしたいとは思えないんだ」
初夜の晩、爵位を継いで伯爵になったばかりの夫、ロン様は私を寝室に置いて自分の部屋に戻っていった。
肉体的に結ばれることがないまま、3ヶ月が過ぎた頃、彼は私の妹を連れてきて言った。
「シェリル、落ち着いて聞いてほしい。ミシェルたちも僕たちと同じ状況らしいんだ。だから、夜だけパートナーを交換しないか?」
「お姉様が生んだ子供をわたしが育てて、わたしが生んだ子供をお姉様が育てれば血筋は途切れないわ」
そんな提案をされた私は、その場で離婚を申し出た。
でも、夫は絶対に別れたくないと離婚を拒み、両親や義両親も夫の味方だった。
※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる