どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき

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 その後は静かな日常を過ごせていた。アルバン様もウルフイット第三王子が生徒会に捕まえていてくれたので、この数日間は私の所に来ていない。
 そして、お父様も無事帰って来て今は普段通りに生活している。ただし、お母様いわく陰でダナトフ子爵家とダーマル男爵家を独自に調べているらしいのだ。
 それを聞いた私はダナトフ子爵家とダーマル男爵家がお父様の怒りを完全に買ったらしい事を理解する。
 
 きっとお父様は色々と調べあげて融資した分以上を回収するつもりだわ……。けど、自業自得よ。隣国との繋がりにホイット子爵家の資金を使ってるのだから。

 私はそう思いながら歯痒い気持ちだった。融資を断てば逃げられる可能性があり、続ければ悪事に使われてしまうから……

 本当に許せない……

 私はダナトフ子爵家とダーマル男爵家に怒りを覚える。しかし、所詮はただの子爵令嬢……いや、ただの力のない存在である。
 そんな自分に何ができようか……

 何もできないわね……

 私は自分の無力さに嘆きながら、学院の食堂でランチを摂っていると、突然、後ろで物音が聞こえた。

 何かしら?

 私は何事かと振り返ると、そこにはなぜかダーマル男爵令嬢がうつ伏せに倒れていたのだ。

 ダーマル男爵令嬢? 何があったの?

 私は席を立ち、ダーマル男爵令嬢に手を伸ばす。そして声をかけようとしたのだが、ダーマル男爵令嬢は私を見るなり悲鳴を上げたのだ。

「いやあああっーーー! やめてええぇーー!」

 ダーマル男爵令嬢のその行動に私は驚いていると、悲鳴を聞いた生徒が集まってきた。するとその中にいた女子生徒が私を指差してきた。

「わ、私、見ちゃいました。この人がリーシュ様の背中を突き飛ばしたんです……」

 周りにいた生徒達は驚いて私を見る。もちろん私は否定した。

「私ではありません。食事をこの席で摂っていたら、後ろで物音が……」
「嘘よ!」

 話している最中、ダーマル男爵令嬢が遮り私を睨んでくる。

「あなたが私を後ろから突き飛ばしたのよ!」
「私はしてません」

 再び否定すると先ほどの女子生徒がまた私を指差した。

「いいえ、私見たわ。この人がリーシュ様の背中を突き飛ばしたのを! なんで、こんな酷い事をするのよ!」

 女子生徒は怒りを含んだ口調で言ってくる。生徒は一斉に私を見てきた。その表情は怒り半分と疑念半分だ。正直、私は感心してしまった。
 問題児のダーマル男爵令嬢が女子生徒の力を借りたとはいえ、生徒の半数の心を掴めたからだ。
 
 だけど、残念ね。私はやり手のホイット子爵家の令嬢なの。ただ、だらだらと日々過ごしていたわけじゃないのよ。

 私は内心でそう思いながら、女子生徒の方を見て微笑む。

「あなた見たことない顔ね。お名前を教えてくださらない?」

 女子生徒はあからさまに動揺しだす。

「はっ、な、なんで私がそんな事を言わなきゃいけないのよ……」
「逆になぜ言えないのかしら。皆様、彼女のお顔に覚えがある方いらっしゃいますか?」

 私が周りを見回すと、生徒達は首を傾げたりかぶりを振る。すると女子生徒は表情を歪めながら後退りすると突然、踵を返して逃げ出したのだ。
 私は周りに向かって指示を出す。

「生徒に紛れて学院に入った不法侵入者よ。警備の者をお願いします」
「わかりました!」
「はい」
「俺はあいつを追いかける」
「私も行こう」

 一部の生徒達はそう言うとそれぞれ動きだす。そんな中、残っていた私や数名の生徒はダーマル男爵令嬢を囲う。もちろん逃がさないためである。
 すると、ダーマル男爵令嬢は舌打ちして立ち上がり、私を睨みつけてくる。

「あなただけは許さないから」
「何を許さないのかわかりませんが、とりあえずあなたの事は学院に報告します。それとホイット子爵家から抗議し、謝罪と慰謝料を請求させてもらいます」
「はっ? なんでよ⁉︎」
「もし、今回の事が上手くいけば私の子爵令嬢としての人生は終わりです。あなたは私の命を奪おうとした様なものなんですよ」
「私の背中を突き飛ばしたのは本当でしょう!」

 ダーマル男爵令嬢はそう叫ぶがもうこの場にその言葉を信じるものはいなかった。それどころか怒りの表情をダーマル男爵令嬢を向ける者まで出てきていた。それはそうだろう。ダーマル男爵令嬢の所為で場合によっては学院の品位が下がってしまう可能性があるのだ。すなわち自分の評価も下がるということである。
 そんなことを理解していないダーマル男爵令嬢は私を睨み続けていると、更に面倒な人物が来てしまったのだ。

「何をやってるんだ?」

 アルバン様は私とダーマル男爵令嬢の側に来る。ダーマル男爵令嬢は素早くアルバン様に抱きつき、嘘泣きをしながら私を指さしてきた。

「う、う、う……この女が私を虐めるのよ! 助けてアルバン!」
「な、なんだって⁉︎ 本当なのかフィーネ⁉︎」

 アルバン様は驚いた後に私を見る。もちろん私は否定した。

「違いますわ。ダーマル男爵令嬢は勝手に私の後ろで転び、それを私の所為にしたのですよ」

 そう答えると、アルバン様は困った表情になりダーマル男爵令嬢を見つめる。しかし、ダーマル男爵令嬢は最後の抵抗とばかりに黙りこんでしまうのでアルバン様は周りの生徒を見る。

「誰か見てないのか?」

 しかし、誰も見てなかったようで答えることはなかった。すると、アルバン様はしばらく悩んでから手を打つと私にとんでもない事を言ってきたのだ。

「フィーネ、もしかしてリーシュに嫉妬したのかい?」
「……はっ?」

 思わず固まってしまう。なぜ、ダーマル男爵令嬢に嫉妬をしなければいけないのだろう?
 私はつい言ってしまう。

「私がダーマル男爵令嬢に嫉妬する理由がないのですが……」
「いやいや、あるだろう。恥ずかしがる事ないだろう」

 アルバン様は嬉しそうに言ってくるが、私にはさっぱりわからなかった。すると更にアルバン様はわけのからないことを言ってきた。

「僕のことを愛してるから、こんな事をしてしまったのだろう。全くしょうがないなあ。でも、とても僕は嬉しいよ」
「……」

 私はあまりにも見当違いの事を言うアルバン様に絶句する。すると無言を肯定としてとったアルバン様は薄気味悪い笑みを浮かべてきたのだ。

「うんうん、恥ずかしくて言えないのはわかってるよ。けど僕を取りあっての喧嘩は駄目だよ。二人とも僕にとっては大切な存在なんだ」

 アルバン様は満足そうな顔で私とまだ泣き真似をしているダーマル男爵令嬢を交互に見つめのだった。
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