心配するな、俺の本命は別にいる——冷酷王太子と籠の花嫁

柴田はつみ

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第30章「共闘の誓い」

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 王宮に広がる空気は、もはや疑念そのものだった。
 「殿下は兵を犠牲にした」
 「命令書の写しが出てきた」
 「妃殿下もそれを知りながら隠しているのでは」

 人々の囁きは絶え間なく、セレーネの心を鋭くえぐった。



 夕暮れ、彼女は王宮の薔薇園に立っていた。
 赤く染まる空の下、花々の香りさえ苦しく感じられる。

 そこへ足音が近づいた。
 「ここにいたのか」
 低く響く声。振り返ると、レオニスが立っていた。

 「殿下……」
 「噂に心を乱されているな」

 琥珀の瞳が射抜くように彼女を見つめる。
 セレーネは思わずうつむいた。
 「私は……殿下を信じています。でも……皆が、殿下を疑い、私まで……」

 その声は震えていた。



 レオニスは歩み寄り、彼女の手を取った。
 「俺は罪を隠さぬ。だが、その罪を抱えて生き続ける。
 お前が信じると言うなら……俺もまた、お前を信じよう」

 セレーネの瞳が大きく揺れる。
 「殿下……」

 彼は真剣な眼差しで続けた。
 「共に立て。俺一人ではなく、お前と共に。
 この宮廷がどれほど揺らごうとも、俺とお前の誓いがあれば揺るがぬ」

 その言葉に、胸の奥が熱く震えた。

 「……はい。私は殿下と共に立ちます。どんな影に覆われても」

 二人の誓いは、薔薇園に沈む夕陽の光に包まれて重なった。



 しかし、その光景を遠くの廊下から見つめる影があった。
 イリスだ。
 忠実な侍女の仮面をつけたまま、唇を噛みしめている。

 ——なぜ、皆が妃殿下を信じるの。
 なぜあの方だけが、殿下に選ばれるの。

 胸の奥から嫉妬と渇望が渦巻き、彼女は拳を握りしめた。
 「伯爵家の娘として、私は必ず……」

 その瞳は冷たい闇に沈み、黒幕の囁きが再び脳裏をよぎった。
 「妃殿下を孤立させろ。誓いなど、脆い鎖にすぎぬ」



 その夜。
 レオニスの私室で、セレーネは再び彼に向き合っていた。
 「殿下……本当に私に務まるのでしょうか。
 影に覆われるばかりの私に」

 レオニスは彼女の肩に手を置き、静かに言った。
 「影が濃いほど、光は強く見える。
 お前はその光だ、セレーネ」

 彼女の胸に熱い涙があふれた。
 ——これからは、一人ではない。
 罪を抱えた殿下と共に立ち、共に戦うのだ。

 その誓いは確かに、夜の宮廷に刻まれた。
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