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第七章 完璧な拒絶と、真意を探る公爵
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侯爵夫妻の「円満」という噂は、瞬く間に社交界の既定路線となった。
その裏側で、リリーがクリス公爵に向けて突きつけた拒絶の態度は、皮肉にも彼を公の場で追い詰めていく。
ある昼下がりの宮廷サロン。
リリーはカイル侯爵の隣に寄り添い、穏やかな笑みを浮かべながら談笑していた。話題は、侯爵が関心を寄せている新規事業の展望や、侯爵家が支援する慈善活動の成果。いずれも、「模範的な侯爵夫人」としてこれ以上ない題材だった。
「リリー夫人は本当に素晴らしい。これほど献身的に侯爵を支える妻は、そうおりませんわ」
周囲から投げかけられる賞賛の声は、リリーの耳には心地よい背景音のように流れていく。
この完璧な演技こそが、クリスの疑念を遠ざけ、同時にカイルの脆い自尊心を満たしている――彼女はそう確信していた。
その輪の中へ、クリス公爵が伯爵令嬢アメリアを伴って現れた。
間近で目にしたリリーの姿に、昨夜、ハンカチ一枚で揺らいだ心が、再び凍りつく。
完璧すぎる笑顔。淀みのない言葉。
それはまるで、「私とカイル侯爵は、あなたとは無関係な、揺るがぬ絆で結ばれています」と、無言で突きつけられているかのようだった。
リリーがカイルへの忠誠を示すたび、クリスの胸には、鷲掴みにされるような痛みが走る。
彼女が本当に侯爵を選んだのなら――なぜ、ここまで執拗に、自分を拒絶する演技を公然と重ねるのか。
しかし同時に、クリスは見逃せずにいた。
リリーとカイルの間に漂う、不自然な緊張。
そして、彼女の瞳の奥に、一瞬だけ宿る、消しきれない哀しみを。
その夜、クリスは密かに侯爵邸の執事、老齢のグレイと接触した。
グレイは、リリーが嫁ぐ以前から侯爵家に仕えており、冷え切った夫婦関係を知る唯一の人物だった。
「グレイ。リリー夫人は、本当にカイル侯爵を愛しているのか」
冷静を装った問いの奥に、隠しきれぬ焦燥が滲む。
「クリストファー様。奥様は、侯爵夫人としての務めを、完璧に果たしておられます。それ以上でも、それ以下でもございません」
「義務、だと?
社交界の誰もが、深い愛情ゆえの献身だと信じているぞ」
グレイは答えず、視線を伏せたまま沈黙した。
「カイル侯爵は、夫人に冷淡だと聞く。それでもなお、なぜ彼女は耐え、侯爵を支え続ける?」
長い沈黙の末、グレイは意を決したように、低く答えた。
「奥様は……強い責任感をお持ちです。侯爵家が危機にあれば、決して逃げ出されない。その行動に、侯爵様への愛情があるかどうかは……私には、分かりかねます」
それ以上、グレイは語らなかった。
リリーがクリスを愛している事実を知りながらも、彼女の立場と秘密を守るため、口を閉ざしたのだ。
侯爵邸を後にしたクリスは、深く思案に沈んだ。
「義務」と「責任感」――その言葉は、リリーの完璧な振る舞いと、どこか噛み合わない。
もし彼女がカイルを愛していないのなら、なぜ、あそこまで公然と彼を擁護し、自分を拒み続けるのか。
(彼女は、カイル侯爵を愛している。
だからこそ、公爵家との過去を断ち切り、侯爵家を守ろうとしているのだ)
グレイの言葉は、クリスの中で、「愛する男の家を守るための責任感」へと歪めて解釈された。
そして、その夜。
クリスは静かに決断する。
「リリー。君がカイルを選んだのなら、私もまた、公爵としての道を選ぼう。
だが――君を、あの愚かな男の独占物にはさせない」
彼は侯爵家への援助をさらに強化し、経営への関与を深めることで、リリーとカイルを切り離せない状況を作り出すつもりだった。
同時に、伯爵令嬢アメリアとの公的な交流も進め、リリーが自分への未練を完全に断ち切れるよう仕向ける。
互いを想い、互いの未来を案じているにもかかわらず。
リリーとクリスの行動は、歪んだ鏡のように相手の誤解を映し出し、それを確信へと変えていくのです。
その裏側で、リリーがクリス公爵に向けて突きつけた拒絶の態度は、皮肉にも彼を公の場で追い詰めていく。
ある昼下がりの宮廷サロン。
リリーはカイル侯爵の隣に寄り添い、穏やかな笑みを浮かべながら談笑していた。話題は、侯爵が関心を寄せている新規事業の展望や、侯爵家が支援する慈善活動の成果。いずれも、「模範的な侯爵夫人」としてこれ以上ない題材だった。
「リリー夫人は本当に素晴らしい。これほど献身的に侯爵を支える妻は、そうおりませんわ」
周囲から投げかけられる賞賛の声は、リリーの耳には心地よい背景音のように流れていく。
この完璧な演技こそが、クリスの疑念を遠ざけ、同時にカイルの脆い自尊心を満たしている――彼女はそう確信していた。
その輪の中へ、クリス公爵が伯爵令嬢アメリアを伴って現れた。
間近で目にしたリリーの姿に、昨夜、ハンカチ一枚で揺らいだ心が、再び凍りつく。
完璧すぎる笑顔。淀みのない言葉。
それはまるで、「私とカイル侯爵は、あなたとは無関係な、揺るがぬ絆で結ばれています」と、無言で突きつけられているかのようだった。
リリーがカイルへの忠誠を示すたび、クリスの胸には、鷲掴みにされるような痛みが走る。
彼女が本当に侯爵を選んだのなら――なぜ、ここまで執拗に、自分を拒絶する演技を公然と重ねるのか。
しかし同時に、クリスは見逃せずにいた。
リリーとカイルの間に漂う、不自然な緊張。
そして、彼女の瞳の奥に、一瞬だけ宿る、消しきれない哀しみを。
その夜、クリスは密かに侯爵邸の執事、老齢のグレイと接触した。
グレイは、リリーが嫁ぐ以前から侯爵家に仕えており、冷え切った夫婦関係を知る唯一の人物だった。
「グレイ。リリー夫人は、本当にカイル侯爵を愛しているのか」
冷静を装った問いの奥に、隠しきれぬ焦燥が滲む。
「クリストファー様。奥様は、侯爵夫人としての務めを、完璧に果たしておられます。それ以上でも、それ以下でもございません」
「義務、だと?
社交界の誰もが、深い愛情ゆえの献身だと信じているぞ」
グレイは答えず、視線を伏せたまま沈黙した。
「カイル侯爵は、夫人に冷淡だと聞く。それでもなお、なぜ彼女は耐え、侯爵を支え続ける?」
長い沈黙の末、グレイは意を決したように、低く答えた。
「奥様は……強い責任感をお持ちです。侯爵家が危機にあれば、決して逃げ出されない。その行動に、侯爵様への愛情があるかどうかは……私には、分かりかねます」
それ以上、グレイは語らなかった。
リリーがクリスを愛している事実を知りながらも、彼女の立場と秘密を守るため、口を閉ざしたのだ。
侯爵邸を後にしたクリスは、深く思案に沈んだ。
「義務」と「責任感」――その言葉は、リリーの完璧な振る舞いと、どこか噛み合わない。
もし彼女がカイルを愛していないのなら、なぜ、あそこまで公然と彼を擁護し、自分を拒み続けるのか。
(彼女は、カイル侯爵を愛している。
だからこそ、公爵家との過去を断ち切り、侯爵家を守ろうとしているのだ)
グレイの言葉は、クリスの中で、「愛する男の家を守るための責任感」へと歪めて解釈された。
そして、その夜。
クリスは静かに決断する。
「リリー。君がカイルを選んだのなら、私もまた、公爵としての道を選ぼう。
だが――君を、あの愚かな男の独占物にはさせない」
彼は侯爵家への援助をさらに強化し、経営への関与を深めることで、リリーとカイルを切り離せない状況を作り出すつもりだった。
同時に、伯爵令嬢アメリアとの公的な交流も進め、リリーが自分への未練を完全に断ち切れるよう仕向ける。
互いを想い、互いの未来を案じているにもかかわらず。
リリーとクリスの行動は、歪んだ鏡のように相手の誤解を映し出し、それを確信へと変えていくのです。
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