噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ

文字の大きさ
15 / 22

第十五章 濡れ衣

しおりを挟む
 ある日、王宮で開かれた晩餐会。
 王国の重臣たちが一堂に会し、華やかな音楽と香り高い料理が広間を満たしていた。
 私はアランの隣に座り、笑顔を絶やさぬよう心がけていた。
 しかし、その空気の下には、見えぬ緊張が潜んでいるのを感じていた。



 宴も半ばを過ぎたころ、突然、侍女が血相を変えて駆け込んできた。
「陛下! 宝物庫の聖宝が……盗まれました!」

 広間にざわめきが走る。
 盗まれたのは、王国の象徴とされる「聖銀の冠」。
 それは代々の王妃に受け継がれる宝であり、王妃の正統性を示すもの。

「なんと……!」
「まさか、この時期に……」

 重臣たちの視線が、徐々に私へと向けられていくのを感じた。
 心臓が早鐘を打ち、息が詰まる。

「奇妙なことに……」
 老臣のひとりが、低い声で告げる。
「盗みの直前、宝物庫に入られるエリシア様の姿が目撃されております」

 ――何ですって?

 広間の空気が一変した。
 疑いの視線が、一斉に私に突き刺さる。
 膝が震え、声が出なかった。



 そのとき、アランが立ち上がった。
 金の瞳が鋭く光り、怒りに震える声が広間を貫く。

「馬鹿な! 俺の婚約者が盗みなど働くはずがない!」

「で、ですが陛下……目撃証言が……」

「証言? 捏造に決まっている!」
 アランは声を荒げ、私を力強く抱き寄せた。
「俺が知っている。エリシアはそんな女ではない。誰よりも誇り高く、正しい女だ!」

 その言葉に広間が凍りついた。
 国王が自ら、揺るぎなく私を信じると公言したのだ。



 その夜、私室。
 私はまだ震えていた。
「……本当に、私を信じてくださったのですか?」

「当たり前だ」
 アランは私を抱き上げるようにしてベッドへ導き、そのまま瞳を覗き込む。
「俺のものを疑うこと自体、許せない。お前が罪を犯すくらいなら……王国の誰もが罪人だ」

 その言葉は甘く、そして恐ろしく強烈だった。
 けれど、その独占にも似た愛情が、私の不安を確かに打ち砕いていた。

「……必ず証明する。お前が潔白であると。そして、この国にお前以上の王妃などいないと」

 強く抱きしめられ、私は震える声で応えた。

「……わたくし、逃げません。たとえどんな罠があろうとも」

 胸の奥に、静かで確かな炎が灯るのを感じていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました

音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。 ____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。 だから私は決めている。 この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。 彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。 ……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。

氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。

吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!

柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」 『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。 セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。 しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。 だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。 失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。 そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……! 悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。

婚約破棄から始まる、ジャガイモ令嬢の優雅な畑生活

松本雀
恋愛
王太子から一方的な婚約破棄の書状を受け取ったその日、エリザベートは呟いた。 「婚約解消ですって?ありがたや~~!」 ◆◆◆ 殿下、覚えていらっしゃいますか? あなたが選んだ隣国の姫のことではなく、 ――私、侯爵令嬢エリザベートのことを。 あなたに婚約を破棄されて以来、私の人生は見違えるほど実り多くなりましたの。 優雅な所作で鍬を振り、ジャガイモを育て、恋をして。 私のことはご心配なく。土と恋の温もりは、宮廷の冷たい風よりずっと上等ですわ!

婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!

ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。 ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~ 小説家になろうにも投稿しております。

そんな世界なら滅んでしまえ

キマイラ
恋愛
魔王を倒す勇者パーティーの聖女に選ばれた私は前世の記憶を取り戻した。貞操観念の厳しいこの世界でパーティーの全員と交合せよだなんてありえないことを言われてしまったが絶対お断りである。私が役目をほうきしたくらいで滅ぶ世界なら滅んでしまえばよいのでは? そんなわけで私は魔王に庇護を求めるべく魔界へと旅立った。

処理中です...