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第十九章 黒幕の影
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誘拐から三日後、私はまだ王宮の自室で安静を命じられていた。
身体の傷は浅かったが、心の奥には冷たい影が残っている。
アランは日々忙しく、城中を動き回っていた。
――私を狙った者たちを、必ず突き止めるために。
その日の午後、執務室へ呼び出された私は、扉を開けて息を呑んだ。
そこには、縛られたグレイス伯爵が跪かされていた。
顔は蒼白で、汗が頬を伝っている。
「……お前が誘拐を命じたのか」
アランの声は鋼のように冷たい。
「わ、私は……確かに従者に命じました。しかし……背後には別の者が……」
「誰だ」
問い詰める声に、伯爵は目を伏せた。
「……宰相殿です」
その名が出た瞬間、空気が張り詰める。
宰相――王国の政務を司る最も有力な臣下であり、アランが即位する前から宮廷を取り仕切ってきた男。
王妃の座に彼の遠縁の姪を据えようとしている、という噂は耳にしていた。
「宰相は聖銀の冠を……?」
私が呟くと、アランは頷いた。
「冠は王妃の正統性の象徴だ。お前からそれを奪えば、王妃の座を揺るがせると考えたのだろう」
怒りが胸に込み上げる。
民を守るべき立場の者が、権力のためにそんな卑劣なことを――。
その夜、アランは私の前にひざまずき、手を取った。
「エリシア……宰相を討つには時間がかかる。奴は古くから宮廷に根を張っている。だが、必ず裁く」
「……わたくしも、できることをします」
金の瞳が細められ、低く熱い声が落ちた。
「危険だ。それでも俺の隣に立つというのか」
「はい。わたくしはもう、逃げません」
アランはゆっくりと立ち上がり、私を抱き寄せた。
その胸の奥から響く声は、誓いのように強かった。
「ならば……この国の王妃として、共に戦え」
こうして、冠を巡る陰謀は、宰相という巨大な敵を表に引きずり出した。
だが、その戦いはこれまで以上に危険で、そして苛烈になることを、私はまだ知らなかった――。
身体の傷は浅かったが、心の奥には冷たい影が残っている。
アランは日々忙しく、城中を動き回っていた。
――私を狙った者たちを、必ず突き止めるために。
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そこには、縛られたグレイス伯爵が跪かされていた。
顔は蒼白で、汗が頬を伝っている。
「……お前が誘拐を命じたのか」
アランの声は鋼のように冷たい。
「わ、私は……確かに従者に命じました。しかし……背後には別の者が……」
「誰だ」
問い詰める声に、伯爵は目を伏せた。
「……宰相殿です」
その名が出た瞬間、空気が張り詰める。
宰相――王国の政務を司る最も有力な臣下であり、アランが即位する前から宮廷を取り仕切ってきた男。
王妃の座に彼の遠縁の姪を据えようとしている、という噂は耳にしていた。
「宰相は聖銀の冠を……?」
私が呟くと、アランは頷いた。
「冠は王妃の正統性の象徴だ。お前からそれを奪えば、王妃の座を揺るがせると考えたのだろう」
怒りが胸に込み上げる。
民を守るべき立場の者が、権力のためにそんな卑劣なことを――。
その夜、アランは私の前にひざまずき、手を取った。
「エリシア……宰相を討つには時間がかかる。奴は古くから宮廷に根を張っている。だが、必ず裁く」
「……わたくしも、できることをします」
金の瞳が細められ、低く熱い声が落ちた。
「危険だ。それでも俺の隣に立つというのか」
「はい。わたくしはもう、逃げません」
アランはゆっくりと立ち上がり、私を抱き寄せた。
その胸の奥から響く声は、誓いのように強かった。
「ならば……この国の王妃として、共に戦え」
こうして、冠を巡る陰謀は、宰相という巨大な敵を表に引きずり出した。
だが、その戦いはこれまで以上に危険で、そして苛烈になることを、私はまだ知らなかった――。
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