翼が生えた王子は辺境伯令息に執心される

尾高志咲/しさ

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翼が生えた王子、辺境伯領へ

27.お試しの三日間

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 控えめに扉が叩かれ、入るように言えばペテルがまじまじと僕を見た。無理もない、自分だって慣れないのだ。僕もペテルも、いつのまにか翼のある生活に馴染んでしまっていた。
 ペテルが申し訳なさそうに着替えを差し出した。どうしたのかと思えば、背が大きく開いた服しかないという。確かに僕の服は翼があっても平気なようにと作られた特注品ばかりだ。とりあえず、ストールを上に羽織ってしのぐことにした。
 僕はペテルに、森に棲む魔女に会ったことと三日間だけ元の姿に戻っていることを話した。

「三日間ですか……」
「うん。魔女はお試しだって言ってた」
「エドマンド様が、殿下のお体を心配しておられました。急激な変化が起こると何があるかわからないからと」

 昨夜、ぐっすり眠りこんでしまった僕を寝室まで運んでくれたのはエドマンドだと言う。彼の手の温かさを思い出して、心がほっと温かくなる。

「そういえば、エドマンドは?」
「ただいま隣国の使者の方々と協議中です」

 ペテルの言葉に、昨日から隣国の使者が訪れていたことを思い出した。エドマンドは貿易協定の協議のために城にいたはずだ。

「……じゃあ、エドマンドはどうして森に?」
「エドマンド様は、突然泉の前に現れたんですよ。ミシュー様が消えてしまわれた後、騎士たちが何度も泉に飛び込もうとしていた時に」
「突然?」
「そうです。そして、殿下のことを聞いてすぐに泉に飛び込まれました」

 アヴィの水鏡の中から現れたエドマンド。彼はすぐに僕を抱きしめてくれた。

『貴方が泣いていらっしゃるのが見えました。ただ待っているなんて、できるわけがない』

 宵闇色の瞳が浮かび、なぜか背にあった翼が体を包む暖かさを思い出した。

 遅めの朝食をとった後、エドマンドの侍従のギースがやって来た。晩餐を隣国の使者たちと共にどうかとの伺いだった。ギースは声を潜めて殿下のご負担なきようにと言い添える。僕の晩餐会への出席をエドマンドは渋ったが、使者がぜひ僕に会いたいと言っている。しかし、少しでも体調に問題があれば断ってくれてかまわないと言う。

(翼の無い今の方が、人に会いやすいだろうな)

 隣国トライアの使者について聞くと、第二王子が中心となっていた。彼とは王宮の夜会で会ったことがある。王太子である兄やエドマンドと同年で、我が国の王立学園に短期留学していたのだ。挨拶だけのつもりが延々と話しかけられ、隙を見て逃げたのを覚えている。
 数年前の事でぼんやりとしか記憶にないが、兄やエドマンドと親交のある相手だ。他国の王族の言葉を無碍むげにもできないだろう。僕は晩餐会に参加することにした。

「とりあえず、衣装を何とかしないと……」

 今日だけの話だ。今から仕立てられるはずもない。エドマンドの弟たちに何か譲ってもらえないかと言えば、すぐにギースが走っていく。少しして、今度はエドマンドの弟たちが走ってきた。

「殿下が晩餐会に参加されるとうかがいまして。華奢な御体に合うものを、ただいま探させております!」
「大変恐縮ですが、我らは武人の体ですので体形が合わず……」

 なるほど、薄っぺらな体の僕と日々鍛えている彼らとでは、厚みが全く違う。ならば僕の服を少々手直したほうが早い。僕は彼らに衣裳係と針子を貸してほしいと頼んだ。すぐに呼ばれた者たちの中には王都から付いてきた者もいた。

「恐れながら、お衣装の元の形をかしてはいかがでしょう?」
「でも、どれも背中が大きく開いている」
「少々詰めまして、首から背には真珠か宝石を使った金鎖を垂らしたらと思います。殿下のお背中を美しく彩りますでしょう」

 王都の貴婦人たちが身に着ける夜会服ドレスの中にそんな形のものを見たことがある。肩や背中を大きく開けて、宝飾品で着飾るのだ。ただ、あれは豊満な肢体や妖艶さを持つ女性が似合うのではと思われた。自分に合うのかと聞けば、その場にいた者たちは、ドン!と胸を叩き「お任せを!」と答えた。その意気込みに思わず頷いてしまった。

 すぐに宝石商が呼ばれ、きらきらと輝く装飾品がずらりと差し出された。そっと様子を見に来た家令に「殿下の気に入りがなければ宝物庫を開けましょう」と言われて驚いた。
 僕は長めの金鎖に小粒の金剛石と深い青紫の宝石がついたものを選んだ。すぐに職人に加工させると言う。口の悪い兄が昔、北の辺境伯家に嫁いだ者はどんな贅沢も思いのままなんて言っていたことが頭をよぎる。

 数刻しか時間のない中、辺境伯家お抱えの職人たちは予想以上に見事な働きをしてくれた。
 湯浴みまでしてペテルに磨き上げられた僕が果実水を飲んでいると、「ミシュー!」と声を上げてエドマンドが部屋に飛び込んできた。
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