28 / 39
翼が生えた王子、辺境伯領へ
28.とまどう心
しおりを挟む
「迎えに来てくれたの?」
エドマンドは部屋の真ん中で呆然と佇んでいた。僕がもう一度名を呼ぶと、はっとしたように歩いてくる。金色の髪を後ろに撫でつけ、形のいい額を出した姿はきりりと男らしい。瞳と合わせたのだろう、濃い青紫の上下は陽が落ちた後の美しい夜の色だ。胸元には明るい青の布が薔薇を象って飾られている。
王宮でもエドマンドが歩く先には人の波ができていたことを思い出して、ほうっと息を吐いた。
「エドマンド、とても素敵だ。コートもエドマンドの瞳によく似合ってる」
「いえ、私などとても……。ミ、ミシューこそ、た、大変……」
「ん?」
うつむいてしまったエドマンドの声は小さく聞き取りづらい。僕はエドマンドのすぐ側まで行って顔を見上げた。そして、目が合ったところで「見て!」とくるりとその場で回って見せた。針子たちが頑張ってくれた成果をよく見てほしかったのだ。ぐっ!とうめくような声が聞こえ、エドマンドが口元を抑えた。
「エドマンド?」
「……そ、その背は」
「ああ、綺麗だろう? 翼が出るところをちょっと細工してもらったんだ」
光沢のある白絹のシャツは袖にも胸元にもふんだんにひだがついており、背は大きく開いている。そこには、首から背にかけて細い金の鎖と小粒の宝石たちがきらめいていた。髪を背に流したので時折見える程度だが、黒の脚衣にも合っていると思う。
「ペテル!」
「はっ」
「殿下に何か羽織るものを!!」
「……別に寒くないよ、エドマンド」
「お体を冷やしてはなりません!」
エドマンドは眉を跳ね上げて僕を見た。そのくせ、目が合うとさっと逸らしてしまう。
侍従から薄地の織物を受け取ったエドマンドは、僕の肩にふわりとかけた。小さく息をついたかと思うと、僕の手をぎゅっと強く握って歩き出す。いつもとの違いに驚きながら広間に向かった。
(どうしたんだろう……。僕にはやっぱり派手すぎただろうか)
素っ気ないエドマンドの態度に急速に心が萎んでいく。握られた手は痛いほどに力がこめられて熱いのに、互いに言葉も無く廊下を進んだ。
隣国の使者を迎えた晩餐の席には思ったよりも多くの人々が集まっていた。僕たちが入っていくと、空気が揺れるのを感じた。人々が一斉にこちらに向かって礼をとる。
上座にいた者が立ち上がったかと思うと、「ミシュー殿下!」と叫んだ。焦げ茶の髪に青の瞳の男性が満面の笑みを浮かべている。
(ああ、確かにこの声は聞き覚えがある)
正直、顔は全くと言っていいほど覚えていなかった。ただ、張りのある声に散々話しかけられて逃げ出したことを思い出した。
他国の使者との晩餐の席とは公の場である。公の席だということは、笑顔に紛れて今後の展望やら希望やらがさり気なくねじ込まれる場なのである。単に親睦や交流を深めることが目的なのではない。
「ミシュー殿下と再びお会いできるとは運命を感じます」
こちらは何も感じないが、人の感覚とは勝手なものだ。第二王子がやたら話を向けてくるので、その度に微笑んでみた。一瞬相手が黙り込むところで、エドマンドと補佐官たちがさっと話を引き戻す。
王宮という華やかだが権謀術数が繰り広げられる魔窟で僕は育った。そのおかげで、どんな場でも笑顔でのらりくらりとやり過ごす術だけは身に着いている。そうでもしなければ、母のいない第五王子なぞどうなるかわからなかったのだ。
エドマンドは部屋の真ん中で呆然と佇んでいた。僕がもう一度名を呼ぶと、はっとしたように歩いてくる。金色の髪を後ろに撫でつけ、形のいい額を出した姿はきりりと男らしい。瞳と合わせたのだろう、濃い青紫の上下は陽が落ちた後の美しい夜の色だ。胸元には明るい青の布が薔薇を象って飾られている。
王宮でもエドマンドが歩く先には人の波ができていたことを思い出して、ほうっと息を吐いた。
「エドマンド、とても素敵だ。コートもエドマンドの瞳によく似合ってる」
「いえ、私などとても……。ミ、ミシューこそ、た、大変……」
「ん?」
うつむいてしまったエドマンドの声は小さく聞き取りづらい。僕はエドマンドのすぐ側まで行って顔を見上げた。そして、目が合ったところで「見て!」とくるりとその場で回って見せた。針子たちが頑張ってくれた成果をよく見てほしかったのだ。ぐっ!とうめくような声が聞こえ、エドマンドが口元を抑えた。
「エドマンド?」
「……そ、その背は」
「ああ、綺麗だろう? 翼が出るところをちょっと細工してもらったんだ」
光沢のある白絹のシャツは袖にも胸元にもふんだんにひだがついており、背は大きく開いている。そこには、首から背にかけて細い金の鎖と小粒の宝石たちがきらめいていた。髪を背に流したので時折見える程度だが、黒の脚衣にも合っていると思う。
「ペテル!」
「はっ」
「殿下に何か羽織るものを!!」
「……別に寒くないよ、エドマンド」
「お体を冷やしてはなりません!」
エドマンドは眉を跳ね上げて僕を見た。そのくせ、目が合うとさっと逸らしてしまう。
侍従から薄地の織物を受け取ったエドマンドは、僕の肩にふわりとかけた。小さく息をついたかと思うと、僕の手をぎゅっと強く握って歩き出す。いつもとの違いに驚きながら広間に向かった。
(どうしたんだろう……。僕にはやっぱり派手すぎただろうか)
素っ気ないエドマンドの態度に急速に心が萎んでいく。握られた手は痛いほどに力がこめられて熱いのに、互いに言葉も無く廊下を進んだ。
隣国の使者を迎えた晩餐の席には思ったよりも多くの人々が集まっていた。僕たちが入っていくと、空気が揺れるのを感じた。人々が一斉にこちらに向かって礼をとる。
上座にいた者が立ち上がったかと思うと、「ミシュー殿下!」と叫んだ。焦げ茶の髪に青の瞳の男性が満面の笑みを浮かべている。
(ああ、確かにこの声は聞き覚えがある)
正直、顔は全くと言っていいほど覚えていなかった。ただ、張りのある声に散々話しかけられて逃げ出したことを思い出した。
他国の使者との晩餐の席とは公の場である。公の席だということは、笑顔に紛れて今後の展望やら希望やらがさり気なくねじ込まれる場なのである。単に親睦や交流を深めることが目的なのではない。
「ミシュー殿下と再びお会いできるとは運命を感じます」
こちらは何も感じないが、人の感覚とは勝手なものだ。第二王子がやたら話を向けてくるので、その度に微笑んでみた。一瞬相手が黙り込むところで、エドマンドと補佐官たちがさっと話を引き戻す。
王宮という華やかだが権謀術数が繰り広げられる魔窟で僕は育った。そのおかげで、どんな場でも笑顔でのらりくらりとやり過ごす術だけは身に着いている。そうでもしなければ、母のいない第五王子なぞどうなるかわからなかったのだ。
60
あなたにおすすめの小説
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない
Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。
かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。
後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。
群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って……
冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。
表紙は友人絵師kouma.作です♪
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました
未希かずは(Miki)
BL
第13回BL大賞 奨励賞 受賞しました。
皆さまありがとうございます。
「ねえ、私だけを見て」
これは受けを愛しすぎて様子のおかしい攻めのフィンと、攻めが気になる受けエリゼオの恋のお話です。
エリゼオは母の再婚により、義妹(いもうと)ができた。彼には前世の記憶があり、その前世の後悔から、エリゼオは今度こそ義妹を守ると誓う。そこに現れた一人の騎士、フィン。彼は何と、義妹と両想いらしい。まだ付き合えていない義妹とフィンの恋を応援しようとするエリゼオ。けれどフィンの優しさに触れ、気付けば自分がフィンを好きになってしまった。
「この恋、早く諦めなくちゃ……」
本人の思いとはうらはらに、フィンはエリゼオを放っておかない。
この恋、どうなる!? じれキュン転生ファンタジー。ハピエンです。
現在番外編を連載中。
リナルド×ガルディア。王族と近衞騎士の恋。
――忠誠を誓った相手を、愛してはいけないと思っていた。切ない身分差、年の差の恋。恋の自覚は、相手が成人してからになります。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
カワウソの僕、異世界を無双する
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
本編完結いたしました♡コツメたん!無双おめでとう㊗️引き続きの番外編も完結しました💕
いつも読んでいただきありがとうございます♡ ほのぼのとワクワク、そしてコツメたんの無双ぶりを楽しんで下さい!
お気に入り1200越えました(new)❣️コツメたんの虜になった方がこんなにも!ʕ•ᴥ•ʔキュー♡
★★★カワウソでもあり、人間でもある『僕』が飼い主を踏み台に、いえ、可愛がられながら、この異世界を無双していく物語。
カワウソは可愛いけどね、自分がそうなるとか思わないでしょ。気づいたらコツメカワウソとして水辺で生きていた僕が、ある日捕まってしまった。僕はチャームポイントの小さなお手てとぽっこりお腹を見せつけながら、この状況を乗り越える!僕は可愛い飼い主のお兄さん気分で、気ままな生活を満喫するつもりだよ?ドキドキワクワクの毎日の始まり!
BLランキング最高位16位♡
なろうムーンで日間連載中BLランキング2位♡週間連載中BLランキング5位♡
イラスト*榮木キサ様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる