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第1章 黒領主の婚約者
5 届いた手紙
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豊穣祭で領地のみんなと踊って以降、私は時間があればできる限り自分の足で領地を歩くようにしていた。領民たちも変わらず「黒領主様」と呼ぶ者も多いが、そこに親愛の情が込められていることを肌で感じる。
こうなるきっかけを、ユージーンとエリカが作ってくれたのだ。私は領主としてしっかり責務を果たし、経験のない小娘を受け入れようとしてくれたみんなの気持ちにちゃんと答えて行こうと、気持ちを新たにしていた。
「クローディアさまー!」
「リオ君!」
リオ君は、豊穣祭の時一番に私と踊ってくれた男の子。走って来てガバっと腰にしがみついてきたリオ君の頭をよしよしと撫でる。
「僕ね、お祭りでクローディア様と踊ったんだって、いっぱい友達に自慢してるんだ!」
「まあっ! そんなことを自慢だなんて……。でも嬉しいわ」
「みんな、僕が月の女神様と踊ったことを羨ましがってるんだよ――ぎゃっ!!」
楽しそうに喋っていたリオ君が、ユージーンにひょいと摘み上げられた。
「クローディア様は領地の見回り中です。さっさと離れて下さい」
「離せよ!! リンキ太陽!!」
「随分とませた子どもですね。一体どこでそんな言葉を……」
リンキ? りんき? 臨機? って、悋気!?
「父ちゃんが言ってたぞ! お前みたいにすぐにリンキを起こして、カンキン? するようなヤんでる奴は、女性に嫌われるってな!」
「あれは役を演じていただけですよ!」
リオ君が『ヘヘン』と、胸を反らしながらユージーンを見上げている。その姿を冷たい目で見おろすユージーンは、ちょっぴり大人気ない……。
「違うな! あれはあの男の素だって、みんな言ってたんだからな!!」
「なにっ!!」
本来なら黄金の輝きを持つ光属性のユージーンは、領民たちから憧れの的になっているはず。なのに、私のために太陽神を演じたせいで、ユージーンはみんなから誤解されてしまったみたい。
なんだか申し訳ない気持ちになる。
「クローディア様、参りましょう」
「えっ!? ええ」
言い争う二人をそのまま残し、エリカに連れられ再び領地を見て回る。
「ユージーンを置いてきてしまって、良かったのかしら……?」
「男同士の会話があるのでしょう。いいんですよ」
そういうものなのかもしれないと納得し、エリカと二人でゆっくり領民たちの話しを聞いた後屋敷に帰った。
「クローディア様、見回りお疲れ様でした。エリカさんも、私を置いて行かないで下さいね」
「……」
「先に戻って来てしまってごめんなさいね、ユージーン」
私たちよりも少し遅れて、ユージーンが若干疲れた顔をしながら屋敷に戻って来た。返事をしないエリカの方を見て何か言いたそうにしているが、目を合わせようとしないエリカに断念したらしい。
「ところでクローディア様の婚約者殿についてですが……。手紙が届いておりました」
そうだった。問題は山積みで、まだまだ片付けなければならないことだらけだったのだ……。
***
婚約者のサディアス・オルディオ様と会ったのはたったの三回。顔合わせの時と、婚約者した時と、その後一度だけ。
オルディオ子爵家の四男で、お互い十二歳の時に婚約して翌年会った切りだったから、存在さえ忘れていた……。
言い訳をするのなら、叔父が張り切って婚約者を押し付けてきたのは最初だけだったし、私も生きることに精一杯で婚約者どころではなかったから……。取り敢えず、三年振りに思い出した名前の人物から届いた手紙を確認してみる――
「……。嘘……」
どうせ相手も同じように忘れていたのだろう。婚約解消でもされるのかと思って読んでいたら、ずっと放ったらかしていたのに、近いうちに会いに行くと書かれていた。
「会いに来ると書かれていたわ……。どうしましょう……」
「婚約者、……サディアス様でしたね。関係は良好だったのですか?」
ユージーンに問われ、何とか捻り出しながら答える。
「全くそんなことないわ。プレゼントどころか、手紙の一つもずっと無かったのよ。会った時も、黒い色を持つ私を大分嫌っていたの……。婚約が決まった席では、『私にお前みたいな黒女は相応しくない』って、ハッキリ言われたのよ?」
思い出してみると、なかなかに嫌な人だった。大人が勝手に決めて仕方がないからお前と婚約するんだぞと、本人を目の前に言うような短絡的な人。
仕方がないにしても、もし、結婚までして夫婦になるのなら、せめて少しでも良好な関係を築こうとは思わないのかしら……。
「そうでしたか……」
「間違いなく私が伯爵領を継いだから、領地を狙っているだけだと思うわ……」
本当に最悪な男だ……。やっと軌道に乗り出した領地経営を、サディアス様に掻き回されたくはない。
「子爵領ではなく王都の消印ですか……。ハイド領は交通の便が良いですからね。すでにこちらに向かっているとすれば、王都からですと……、明後日には着いてしまいますね」
「一度は会ってみるしかなさそうね……。相手の言い分も聞いてみないと、こちらも動きようがないし……」
三年ぶり、四度目となるサディアス様との面会をしなければならなくなった。とっても憂鬱。気が重い……。
こうなるきっかけを、ユージーンとエリカが作ってくれたのだ。私は領主としてしっかり責務を果たし、経験のない小娘を受け入れようとしてくれたみんなの気持ちにちゃんと答えて行こうと、気持ちを新たにしていた。
「クローディアさまー!」
「リオ君!」
リオ君は、豊穣祭の時一番に私と踊ってくれた男の子。走って来てガバっと腰にしがみついてきたリオ君の頭をよしよしと撫でる。
「僕ね、お祭りでクローディア様と踊ったんだって、いっぱい友達に自慢してるんだ!」
「まあっ! そんなことを自慢だなんて……。でも嬉しいわ」
「みんな、僕が月の女神様と踊ったことを羨ましがってるんだよ――ぎゃっ!!」
楽しそうに喋っていたリオ君が、ユージーンにひょいと摘み上げられた。
「クローディア様は領地の見回り中です。さっさと離れて下さい」
「離せよ!! リンキ太陽!!」
「随分とませた子どもですね。一体どこでそんな言葉を……」
リンキ? りんき? 臨機? って、悋気!?
「父ちゃんが言ってたぞ! お前みたいにすぐにリンキを起こして、カンキン? するようなヤんでる奴は、女性に嫌われるってな!」
「あれは役を演じていただけですよ!」
リオ君が『ヘヘン』と、胸を反らしながらユージーンを見上げている。その姿を冷たい目で見おろすユージーンは、ちょっぴり大人気ない……。
「違うな! あれはあの男の素だって、みんな言ってたんだからな!!」
「なにっ!!」
本来なら黄金の輝きを持つ光属性のユージーンは、領民たちから憧れの的になっているはず。なのに、私のために太陽神を演じたせいで、ユージーンはみんなから誤解されてしまったみたい。
なんだか申し訳ない気持ちになる。
「クローディア様、参りましょう」
「えっ!? ええ」
言い争う二人をそのまま残し、エリカに連れられ再び領地を見て回る。
「ユージーンを置いてきてしまって、良かったのかしら……?」
「男同士の会話があるのでしょう。いいんですよ」
そういうものなのかもしれないと納得し、エリカと二人でゆっくり領民たちの話しを聞いた後屋敷に帰った。
「クローディア様、見回りお疲れ様でした。エリカさんも、私を置いて行かないで下さいね」
「……」
「先に戻って来てしまってごめんなさいね、ユージーン」
私たちよりも少し遅れて、ユージーンが若干疲れた顔をしながら屋敷に戻って来た。返事をしないエリカの方を見て何か言いたそうにしているが、目を合わせようとしないエリカに断念したらしい。
「ところでクローディア様の婚約者殿についてですが……。手紙が届いておりました」
そうだった。問題は山積みで、まだまだ片付けなければならないことだらけだったのだ……。
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婚約者のサディアス・オルディオ様と会ったのはたったの三回。顔合わせの時と、婚約者した時と、その後一度だけ。
オルディオ子爵家の四男で、お互い十二歳の時に婚約して翌年会った切りだったから、存在さえ忘れていた……。
言い訳をするのなら、叔父が張り切って婚約者を押し付けてきたのは最初だけだったし、私も生きることに精一杯で婚約者どころではなかったから……。取り敢えず、三年振りに思い出した名前の人物から届いた手紙を確認してみる――
「……。嘘……」
どうせ相手も同じように忘れていたのだろう。婚約解消でもされるのかと思って読んでいたら、ずっと放ったらかしていたのに、近いうちに会いに行くと書かれていた。
「会いに来ると書かれていたわ……。どうしましょう……」
「婚約者、……サディアス様でしたね。関係は良好だったのですか?」
ユージーンに問われ、何とか捻り出しながら答える。
「全くそんなことないわ。プレゼントどころか、手紙の一つもずっと無かったのよ。会った時も、黒い色を持つ私を大分嫌っていたの……。婚約が決まった席では、『私にお前みたいな黒女は相応しくない』って、ハッキリ言われたのよ?」
思い出してみると、なかなかに嫌な人だった。大人が勝手に決めて仕方がないからお前と婚約するんだぞと、本人を目の前に言うような短絡的な人。
仕方がないにしても、もし、結婚までして夫婦になるのなら、せめて少しでも良好な関係を築こうとは思わないのかしら……。
「そうでしたか……」
「間違いなく私が伯爵領を継いだから、領地を狙っているだけだと思うわ……」
本当に最悪な男だ……。やっと軌道に乗り出した領地経営を、サディアス様に掻き回されたくはない。
「子爵領ではなく王都の消印ですか……。ハイド領は交通の便が良いですからね。すでにこちらに向かっているとすれば、王都からですと……、明後日には着いてしまいますね」
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