嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~

めもぐあい

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第1章 黒領主の婚約者

6 婚約者

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「お前、成人したんだろ? 薄気味悪いお前のところに私が婿に入ってやるんだ。ありがたく思え! ハイド領の経営は安心して、優秀なこの私に任せると良い!」

 とうとうサディアス様が、ハイド伯爵領にやって来た。土色の髪を後ろに撫でつけ、ソバカスが乗った上向きの鼻をさらに上に向けながら、久しぶりに会った婚約者の私に向かって言い放った第一声がこれ。
 とても残念な御方だ……。サディアス様の御付きの従者の方もフリーズしている……。それにも関わらず、空気が読めないのか彼はペラペラと続けて喋る……。

「お前とは特別にこのまま籍を入れてやるが、私はお前と一緒に暮らす気もないし、子を作る気もない。まあ、どうしても私の子が欲しいと言うのなら、一人だけなら協力してやらなくもないが、――参ったなぁ」

 プクッとした頬を気持ち悪く桃色に染め、下品なことを言ってきやが――あら、まあ。私としたことが。下品が伝染したのかもしれないわね。大変大変!!

 もう、叔父の言いなりになる必要もない。私はこんな人と結婚するくらいなら、一生独り身で構わない。こちらから頭を下げてもいいから、婚約を取り消してもらおう。
 その気持ちを一刻も早く伝えたいのだが、彼はまだ喋り続けている……。口を塞いでしまいたい……。

「慣れない領地経営は、さぞ苦労したのだろう? 結婚の手続きをした後は、とっとと屋敷を出てどこかでゆっくりと休むが良い。金はある程度送ってやるから、好きな所で好きに暮らせ」
「……」

 私に都合の良いことを言っていると思っているのだろうか? 瞳をうっとりさせながら、クニクニと前髪をいじっている。禿げればいいのに。

「まあ、どうしても私の側が良いと言うのなら、特別このまま屋敷に置いてやってもいいが、本当に特別だぞ?」

 どうしてだろう。今まで忍耐力があったお陰で色々な理不尽に耐えることができたと自負していたのに、この方だけは耐えられそうもない。
 生理的に受けつけないんだわ。もう、今すぐここで関係性を終わりにしよう……。

「婚約してからこうしてお会いするのは二度目ですが、この三年間私たちは婚約者として良い関係を築いてはきませんでしたよね?」
「ムグッ。それはだな……、私も忙しかっただけだ」
 
 手紙くらい書けたでしょうね。欲しくはありませんが。

「いえ、私はサディアス様との婚約を解消することにいたしました。あなた様の妻となる気は一切ございません。こちらの都合ですから、三年分の慰謝料をお支払いいたします。ですから、今日限りで婚約を解消し、手続きをしてください!」

「ダメだっ!! そんなの許さないぞ! 絶対に、婚約の解消はしないからな! もしすることになったとしても、慰謝料は通常の倍出してもらうからな! ――クソッ。極めて不愉快だ! 私は帰る!!」

 ドスドスと足音を響かせながらサロンを出て行くサディアス様。御付きの方が困惑顔で私たちに頭を下げ、サディアス様の後を追いかけた。





「いくらハイド領の経営状態が良くなっても、あの男には一イェンも渡したくはないですね」
「ヘイデンに横領されたお金も、まだ半分以上回収できていないしね……。勝手をしてごめんなさい……」

 さすがに自分の事でお金を使うのは良くなかったと反省する。

「いえ、賢明なご判断でした。あの方が領地を経営したら、間違いなくまた傾いて破綻していたでしょう」
「ええ。ご立派でしたよ!」

 立ち会ってくれたユージーンとエリカに慰められる。心が軽くなっても、状況は変わらない。

「そうですね……。クローディア様、私が王都に行くことをお許しください」
「えっ! ユージーンが王都に?」

 毎日顔を合わせるのが当たり前になっていたからだろう、心がザワリとし何だか寂しい気がした。

「すぐ、ハイド伯爵領に戻ります。家業を継いだ兄たちから、サディアス・オルディオの情報を集めてくるだけです。以前から良い噂を聞きませんでしたから、きっと、何か新しい情報が入っていると思います」

 ユージーンが、サディアス様の悪い情報を掴んでくれれば、婚約解消にあたっては有利になる。私は参加することもできず耳にする機会はなかったが、もし、社交界にまで広がっているほどの悪い噂話なら、それを理由に婚約解消すれば良い。

「ありがとう、ユージーン。是非、お願いするわ。でも、けして危険なことはしないでね?」
「はい。お任せくださいクローディア様。あの男なら必ずや悪い噂が広がっているはずですよ。安心して吉報をお待ちください」

 確かに、サディアス様はいたるところでやらかしていそう。商家出で有能なユージーンが調べたら、すぐにゴロゴロと証拠まで出てきそうだ。

「ユージーン様。くれぐれもご無理をなさいませんように」
「エリカさんも心配性ですね。ハハハハハ。――では、早速準備に取りかかりますので、私は失礼いたします」

「よろしくお願いするわね」
「はいっ」
「……」


 心配するあまりか、眉間に皺を寄せて見つめるエリカに、わざと高笑いで誤魔化すようにしてユージーンがサロンを出た。二人はすごく通じ合っている感じがする。
 私だってユージーンが心配だし、本格的に不在となるとやっぱり寂しいのに……。

 いけない。二人にのけ者にされた気持ちになるなんて……。アイツのせいで、ちょっと心が弱ってしまったのかもしれない。
 プルプルとかぶりを振って、心の中に湧いてきた重苦しい感情を振り払っていた――
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