異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第19章ドエニプラ攻防戦2編

第9話 協商連合の暴動にアカツキ達は懸念する

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 ・・9・・
 11の月22の日
 午後3時10分
 妖魔帝国・ドエニプラ市西部
 簡易建造物内・仮設司令部アカツキ執務室

 十一の月下旬に入って、遂にドエニプラにも雪が降り始めた。昼の気温も氷点下を少し越えるくらいで、夕方ともなればマイナスになる。連合王国出身の僕達は冬の寒さに慣れているからいいけれど、兵士に至るまでコートなど防寒具があるとはいえ法国出身の人達は辛そうだった。
 司令部内では暖房魔導具が、あちこちで暖を取るたき火がされるようなチラつく雪の中、ドエニプラの復興作業と帝国軍の冬季攻勢に備えて野戦築城は攻防戦終了直後から急速に進んでいた。予定では月末までには最低限は完成するようだ。
 多数の兵士が防衛線の構築に働く中、僕達は妖魔帝国軍への備えを進める以外にもう一つの火種に悩まされていた。

「遂に協商連合が爆発かぁ……。しかもデモ隊に向けての発砲をきっかけに大暴動に発展。未だにロンドリウム市街は収拾がつかない状態で戒厳令が続行。『亡国救済党』本拠地の北部方面も大荒れ。ったく、今の政権は本当にロクなことをしないね……」

「各国大使館はロンドリウム市街の安全が保障されないからって一時的にドゥーターへ退避したそうよ。当然よね。あんな混沌の地にいたら、大使館員の身が危ないもの」

「状況整理。現在のロンドリウム市は機能停止。数万人規模からさらに拡大して警官隊やぐ軍と衝突しています。負傷者だけでなく死者まで発生しており、秩序は崩壊。現地在住の連合王国民はドゥーターへ避難を始めているようですが、情報が錯綜しており把握が困難とのこと」

 十九の日。
『亡国救済党』のデモ隊数万人に対して、治安維持を理由に軍部隊が出動。ここまではまだいいんだけど、あろうことか暴発寸前のデモ隊に向けて軍部隊は威嚇射撃を敢行。
 デモ隊はこれに対して命の危険を感じて軍部隊と衝突。同様に兵士も恐慌に陥って誰かが発砲。そのあとは言うまでもない。
 この事件が発生してからもう三日が経つけれどロンドリウム市街はあちこちかれ火の手が上がり暴徒達は増員された軍部隊や巻き添えの警官隊と戦闘状態に陥っている。
 あらゆる機能が停止し、治安も最悪。無関係の市民まで巻き込まれていて、秩序は崩壊していた。

「軍は協商連合に対して連合王国民の保護を理由に派兵したいけど、許可がなかなかおりなくてイライラしてるってのは報告にあがってきていたね。いつでも派遣出来るようにオランディアには陸軍部隊だけでなくギルドにも国家依頼として動員。海軍も軍艦だけじゃなくて民間にも依頼して必要分を確保したってね」

「恐らく協商連合政府が機能していないから許可も出ないんでしょうね。今の政権は無能ばかりだけど、こんな愚かな行動をするなんて思わなかったわ」

「協商連合の手法は愚策中の愚策。各国にも悪影響を及ぼしています。勿論、この地にいる協商連合軍将兵にも動揺が広がっています」

「当たり前だよね。ある日突然祖国が大暴動状態に陥って、家族や友人達が危険かもしれないなんて誰だって動揺するさ。あのいけ好かない方の協商連合軍司令官もさすがに人の心があるのか、単純にあやつり人形だからか、怒ったらしい。『本国は何をやっとるんだ。我々が命を懸けて戦争してるというのに、何故あんな馬鹿な真似をした!』ってね」

「彼も今の政府に愛想を尽かすのも無理はないわね」

「彼の感情については僕には関係ないからいいよ。どう思おうが知らないし。ただ、この件が僕達にとっては迷惑過ぎるのは変わらない。動揺した兵士は前線に置けないから配置転換が決定。余計な仕事が増えているのは間違いないよ」

 厳冬期に入って今までのような大規模攻勢を仕掛けられなくなる以上、この時期だけはどうしても僕達が守勢に転ずる事になる。
 ところがこの状況下で発生した、協商連合が抱えていた爆弾の爆発は協商連合軍にとって良い事は一つもない。士気が下がっている部隊を置くのは得策ではないから、総司令部は協商連合師団の一部を後方転換を決定。割を食うことになった連合王国軍や法国軍兵士は案の定ぼやいていた。

「本当に厄介よね、今の協商連合は。私達にデメリットしかもたらさないもの。この様子だと、植民地の方も怪しくなりそうだし」

「南方植民地は万が一に備えて協商連合軍が展開してるけど、あっちでも暴動が起きてしまったら最悪だね。もしこのタイミングで帝国軍が現れたら終わりだよ」

「懸念。情報部によると帝国陸軍の動きが活発化しており、トゥラリコフ方面に複数の師団が到着したとのこと。また、南部アルネンスク方面でも同様に数個師団が援軍として現れたと」

「冬季攻勢をする気満々なんだろうね。合計で十数個程度なら攻勢自体限定的だとは思うけど、どうにも引っかかる。まだ守りの戦争を続けるつもりなのかもしれないけど……」

「妖魔帝国は私達の補給線が伸びきった段階で反攻作戦に移るつもりなんでしょうけど、私達だって織り込み済みだわ。だからこそ再戦前までに兵站に重点を置いてきたんだもの」

「とはいえ限界はあるよ。ただでさえドエニプラまでに想定外が相次いでる。プレジチェープリを占領出来なかったのがその最たる例だ。主戦戦だけじゃない。内部に不安を抱えた状態で南方植民地に帝国軍が現れれば確実に負ける。リチリアの件もあるから……、現れない保障なんてないだろうね……」

「お父様が言っていたわね。本国の予備を南方植民地に向けるって。法国も同じ意見らしくて、リチリア駐留軍を増やす他に連合王国と共同で南方植民地へいつでも軍を派遣出来るようにするらしいわ」

「協商連合政府が機能不全に陥っている以上、やるしかないからね。元から妖魔帝国が副戦線として展開する恐れのある南方植民地方面を手薄にする訳にはいかないし」

 現在南方植民地に展開している協商連合軍は今年増員されていると言ってもそう多くはない。各国が統合軍として妖魔帝国の地にいるからだ。その数は今月になって遂に約一一〇万人を越えている。
 本国には当然ながら予備が置かれているし、留守師団も編成されている。ギルドもフル活用していて、輸送護衛任務についてもらっている。でも、決して後方予備が潤沢って訳じゃない。戦時動員中とはいえ、経済に大きな影響を与えないレベルに抑えられているからだ。
 だから、今回の南方植民地方面への連合王国及び法国軍の派遣はまたしても想定外ってやつで今頃中央じゃ頭を抱えている軍人も多くはないだろう。
 連合王国では元から決まっていた国内の別件で動いているにも関わらず、だ。

「年明けには国王陛下から王太子殿下へ王位が継承され式典が開かれるというのに、これじゃあ水を差されたも同然だよ。南方植民地の件で軍は仕事が増えているだろうし、とはいえ式典当日の警備計画は整えないといけない。本国方面がどうであれ他国の事だから、一ヶ月半後に迫った式典は今更中止出来ないよ。式典は決行。これは既定路線だ」

「でも私達はここからは動けない。プレジチェープリまで占領出来ていれば、予定通りに進んでいれば一時帰国も叶ったでしょうけど、無理よねえ」

「無理だね。前線では妖魔帝国軍の増援が多少なりとも現れているし、シェーコフ大将を捕虜に出来なかったのなら尚更。帝国軍の動きがまだ掴めてたいわけだし。もし十二の月も半ばになって何も起きなければ帰国出来る可能性はゼロじゃないけど、マーチス元帥にしても僕にしてもこんなんじゃ穴を空けるわけにはいかないさ」

「となると、リオにも会えないわねえ……」

「会えないね……。これは戦争なんだから仕方ないけど、いつ戻れるかは未定だよ」

 僕とリイナは揃ってため息をつく。
 当初の予定ではプレジチェープリまで占領して防衛線を構築。天然の防衛線と二重となれば、大損害を受けた帝国軍は戦線整理だけでなくプレジチェープリ奪還の為に必要以上に軍を揃えないといけなくなるだろうから、一時的に状況は膠着。だったら一ヶ月だけでもこの地を離れられるだろうから式典に合わせて帰国。リオにも僅かな日だけど会えるはず。
 のはずだった。だけど蓋を開けてみればドエニプラまでに受けた損害は大きかった上にプレジチェープリは占領出来なかった。さらに妖魔帝国軍の立て直しは予想より早い。そこへ敵地にいる協商連合軍を動揺させるロンドリウム全土に広がりつつある暴動。
 こんなんじゃ僕達は一時帰国出来るはずもなく、予定は台無し。国王陛下も王太子殿下も僕達が帰って来れないと知った時には大層残念がられていたらしい。
 はっきりいって帰国を楽しみにしていただけに気分は良くなかった。
 でも、これは戦争で僕達は軍人だ。無理やり帰れますとは言えない。

「はぁ……」

「気も落ちるわね……」

「提案。ワタクシ達が元気でいる事を写真で送りましょう。リオ様やマスターのご家族も喜ばれると思います。また、写真をご依頼すればきっと送って頂けるかと」

「そうだねえ……。手紙と写真を送ろっか」

「いいわね。戦地の様子を撮影している広報部あたりに頼めば撮ってくれるわ」

「よし。じゃあ明日あたりちょっと話してみるよ」

 暗い話題ばかりだと気が滅入る。ほんのちょっとした楽しみは必要だ。
 前線の状況を注視。厳冬期に備えての計画。協商連合の大暴動に対する現地協商連合軍への対処。
 やることは多いけれど、少しの時間を見つけたら必ずリオや家族へ送る写真を撮ろう。
 僕はそう決めて、この日の夕方からの軍務に励むのだった。
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