異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第19章ドエニプラ攻防戦2編

第8話 混沌のロンドリウム

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 ・・8・・
 11の月の19の日
 午前10時25分
 ロンドリウム協商連合・首都ロンドリウム
 中心市街地・国会議事堂周辺


 妖魔帝国本土でドエニプラ攻防戦の死闘が集結してから約十日が経過した十一の月も下旬。連合王国王都アルネセイラではいよいよ冬に差し掛かり小雪がちらつきそうな天候になる日も増えてきた。
 人類諸国では戦地から遠く離れていることもあって、各国間で多少の差はあれど戦時に伴う僅かな不便を除いて平和な生活を送っていた。
 ところが、ある国は平和とは言えない状況に置かれてしまっている。かつては連合王国と並ぶ大国と称されていたロンドリウム協商連合である。
 ロンドリウム協商連合は以前の隆盛は何処へやらといった様子で、今や政情不安に満ちる国家と成り果てていた。
 原因は遂に真相を知らぬ民衆を巻き込んで大規模化した『亡国救済党』。発足した当初は取るに足らぬ小さな集団だったが、今や謎の多い中核人員と自身が国を救うと信じてやまない狂信的な党員、そして他国より鈍い経済成長率や政争を繰り広げる政府に堪忍袋の緒が切れた庶民達まで加わり最近は集会やデモなどの活動も目立つようになった。
 その中でも今日、十九の日の国会議事堂周辺で朝から始まったデモは最大規模だった。午前十時の段階で既に参加者は数万人にもなっており、不満が溜まっているその場限りで参加する市民達も続々と集まっていた。
 デモ隊の中心、そこには扇動者である男性が叫びながら声高に自らの主張を国会議事堂へ向けていた。

「現政権の暴虐を許すな!!」

『許すな!!』

「現政権は退陣しろ!!」

『退陣しろ!!』

「我々市民の生活に目も向けず、己の私利私欲ばかり求める政治家に正義の鉄槌を!!」

『鉄槌を!!』

「亡国のロンドリウムに救済を!!」

『救済を!!』

 国会議事堂の周辺に集まったデモ参加者からは場の空気を支配するほどのシュプレヒコールが巻き起こっていた。
 扇動というものは恐ろしいものである。結成当初は白い目で見られていた――連合王国との差が今程広がってなかった事。リシュカの一件から日が浅くまだ現政権に淡い期待は抱いていたから――ものの、政治家達によるあまりにもお粗末な有様も手伝って過激な発言すらも庶民からは受け入れられてしまっている。
 結局妖魔帝国の目論見通り、今のロンドリウムは暴発寸前にまで状況が悪化していた。
 もし首相にせよ国防大臣にせよ主要人物達がデモ隊を恐れていればまだ良かった。
 しかし、リシュカを陥れた者達はとことん愚かだった。
 時刻が正午前になりデモ隊の勢いが止まない中、新たな動きがあった。元から警備にあたっていた警官隊だけでなく、軍部隊約数百名まで投入されたのである。
 この光景をアカツキが目撃したら激怒どころでは済まないだろう。リシュカが目撃したら嘲笑するだろう。
 ともかくして、協商連合は悪手を取ってしまったのである。当然だが扇動者を含めてデモ隊は軍の登場にざわめいた。

「お、おい。あれって軍じゃないか……?」

「なんで軍がここに……。俺達は暴力行為には出てないぞ」

「建物を壊してもいない」

「まさか、このデモそのものがいけないっていうのか……?」

「今の政権はデモすら許さないのか!!」

「不当だ!!」

「ふざけるな!!」

「帰れ!!」

「軍は帰れ!!」

「利権食らいで私腹を肥やす国防大臣の犬共は帰れ!!」

 困惑から怒りへの転換は早かった。デモ隊の市民達はそのうち軍の部隊に向かって暴言まで吐き始めた。
 ただでさえ彼等は沸騰寸前だったのだ。当たり前の結果である。
 軍の兵士達も浴びせられる暴言に唇を噛む。彼等は善良な兵士ではない。デモ隊の市民達が言うように、国防大臣の忠犬である。
 互いに憤怒と憎悪のボルテージは上昇していく。
 状況はさらに悪化する。軍の隊長は拡声魔法でデモ隊に向かってこう叫んだ。

「即刻解散せよ!! 貴様等の行動は全て政府によって監視されている!! これ以上のデモは許されない!!」

「うるせえ!! 国防大臣の犬がガタガタ喚くんじゃねえ!!」

「あのクソッタレからどれだけ金を貰ったんだ? ああ!?」

「俺達は正当な行動をしたまでだ!! 貴様等のせいで景気が良くならねえ!! 政治はめちゃくちゃで機能してねえじゃねえか!!」

「挙句の果てに内輪揉めまでし始めやがって! てめえらロンドリウムをなんだと思ってやがる!!」

「お前らこそ帰れ!!」

 デモ隊の彼等のご最もな反論に軍の隊長は舌打ちをする。ただ、デモ隊もまたやってはならない行動に移る。どこからともなく投石がされた。さらには微力だが火炎瓶程度の火属性魔法が軍の二〇〇メーラ前に着弾する。
 売り言葉に買い言葉どころの騒ぎではない。状態は暴力に近しい水準にまでなる。
 相手が実力行使に出るならばと軍の隊長は考えた。彼はついに命じてしまった。

「総員構え!! デモ隊の連中に照準を向けろ!!」

「銃なんざ怖くねえ!! 撃てるもんなら撃ってみろ!!」

「正しいのは我々だ!!」

「もし撃ったら皆黙ってねえぞ!!」

「威嚇射撃! 上に向け、撃てぇ!!」

 国会議事堂に響く複数の銃声。
 隊長は国防大臣に場合によっては威嚇射撃も構わないと命じられた通りの行動をしてしまった。
 軍人ですら、いや軍人だからこそ銃声には敏感である。新兵であれば恐れるし、熟練の兵士なら警戒する。
 だが国会議事堂に集結しているのは非戦闘員の市民である。許される行いではない。

「撃ちやがった……」

「奴等本当にやりやがった……」

「あいつら俺達を殺す気だぞ……」

「横暴を許してなるものか」

「奴等はたかだか数百人。こっちは数万人だろ」

「捻り潰せ」

「暴虐を許すな」

「ロンドリウムに救済を」

 威嚇射撃によってデモ隊も臨界点を迎えた。恐怖による四散ではなく、軍部隊を標的とした秩序なき暴走である。

『ロンドリウムに救済をぉぉぉぉ!!!!』

 先陣を切ったのは誰か最早分からない。誰かが動いたからかもしれないし、皆一斉に歩を進め走り出したからかもしれない。
 しかしデモ隊が遂に暴徒と化したのは揺るぎない事実であり、故に悲劇は起きてしまう。

「ひ、ひぃ」

「このままじゃ殺される!」

「どうすんだよ!」

「撃つしかねえだろ死にたかねえ!」

 発砲音が連続した。
 今度は上に向けてでは無い。正面に向けてだ。
 撃たれた市民は倒れる。悲鳴も聞こえるが、それをかき消すかの如くに轟くは怒号。
 最悪に最悪を重ねた末路。
 市民と軍部隊、完全に巻き添えの形を受けた警官隊が入り乱れ国会議事堂周辺は騒乱場となる。
 後に『ロンドリウム騒乱』と呼ばれるこの事件は、十九の日だけでも双方合わせて死者数百から千数百。負傷者数千を生じる大惨事となる。また、『亡国救済党』の本拠地である北部方面でもロンドリウム程でないにせよ大規模なデモや反政府を掲げる破壊活動まで行われるようになってしまう。
 ロンドリウム協商連合に永遠の汚名を残したこの事件は各国大使館を通じて本国に報告が送られ、帝国本土で戦うアカツキ達の耳にも届くのだった。
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