異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第19章ドエニプラ攻防戦2編

第10話 妖魔帝国軍一大反攻作戦『鉄槌と復讐と蹂躙と』

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 ・・10・・
 11の月30の日
 午後1時半頃
 妖魔帝国・トゥラリコフ市
 妖魔帝国軍前線総司令部


 十一の月下旬。アカツキ達の懸念通り、妖魔帝国軍はその動きを活発化させていた。
 南部アルネンスクではゼバストゥーポラを経由して一個軍が到着しさらに前進しようとする様子を見せていた。東部方面のプレジチェープリでもトゥラリコフでも第八軍を主体として約十万が到着した。
 無論、人類諸国統合軍もこの援軍については察知している。だからこそ士気が低下している協商連合軍の一部を後方へ配置転換し、広い戦線を極力カバーするように軍を配置しながら主戦線になりそうな地区には重点配備をしていた。少なくとも人類諸国統合軍は現状の敵戦力に対して優勢を保てるような自軍戦力を確保した上で備えを進めていたのである。
 しかし、人類諸国統合軍にとって致命的になりかねない一撃の時は刻一刻と迫っていた。
 十一の月末。
 最前線に近いプレジチェープリより北東に位置する、妖魔帝国中南部の重要都市トゥラリコフには、多くの将官クラスや参謀本部の面々が集結していた。全ては明日より始まる一大的反攻作戦の為である。
 トゥラリコフにある前線総司令部の大会議室。彼等はリシュカを待っていたのである。彼女も無論この地には到着しているが、作戦会議開始時刻前だからなのかまだこの場にはいなかった。
 となると、帝都ならともかく前線にいる彼等の話題にあがるのはリシュカについてである。

「なあ。お前はリシュカ特別相談役閣下がどんな方か知っているか?」

「いや、何も。帝都で陛下のお傍に仕え、正室ルシュカ様の家庭教師役もしていた事は知っているが」

「俺は参謀本部にいる後輩から色々聞いた事がある。休戦期間中に様々な改革を成し遂げる為に定期的に顔を出していたとか、参謀本部の面々が驚愕するほどの知識を持っていたとか、にも関わらずとてつもない魔法の才能を持っているとか」

「ふむ。参謀本部ではそのような噂が話されているのか。同期が言っていたのだが、陛下肝煎りの近衛師団強化に関する訓練は特別相談役閣下が関わっているらしい。精強無比、帝国最強の師団に仕立てあげたのは彼女で、直々に訓練も施したとか。遠距離戦闘から白兵戦に至るまで、特別相談役閣下が最強だったとも言っていた」

「特別相談役って帝都中央の要職だろう? 机に座っているか陛下のお傍に仕える非戦闘職なのに信じられ、いや……、噂が真ならあながち間違いではないのか……」

「しかし信じられんな……。実はここに来る前に帝都で彼女の姿を見たのだが、噂通り外見はただの子供だった。中等学校にいても違和感が無いくらいのな」

「その子供のような者が特別相談役で第八軍を率いる司令官なんだろう……? しかも陛下の名代という事はつまりこの作戦の総司令官に等しい」

「俺は納得してるがな。何せこの作戦自体だけでなく協商連合の暴動、明日に控えたアレすらも特別相談役閣下の発案。逆襲の機会を与えられたシェーコフ大将閣下が気に入るのもおかしくはない」

「何にせよ、実際に姿を見て話を聞いて見ねば分からんな」

 彼等は口々にリシュカの事を語っていると、噂していた人物がやってきた。会議室にいたとある士官が少しだけ開いた扉の先にいた人物と話していたからである。

「レオニード皇帝陛下が名代にして第八軍特務司令官、リシュカ特別相談役大将相当官閣下がご到着されました。全員ご起立ください」

 皇帝陛下名代。
 第八軍特務司令官。
 特別相談役大将相当官。
 いずれも皇帝レオニードがリシュカに与えた役職である。周知の事実ではあるが、余程皇帝陛下に重用されているのだとこの場にいた全員が心中で感想を抱く。
 扉が開くと現れたのは、今や皇帝直属諜報機関のトップになったゾリャーギ。リシュカの副官として才能を遺憾無く発揮しているオットー少将。ドエニプラにて敗北するも統合軍を長期間拘束し、副官の命を賭した行動により生き残って反撃の機会を与えられたシェーコフ大将。
 そして、大将の階級章がつけられている軍服を身に纏った外見は可憐な少女であるリシュカ・フィブラだった。
 反応は二つ。
 一度でも彼女の姿を見たことがある者は動揺はしなかった。ただ、やはり街にいる子供にしか見えないという偏見は拭えなかったが。
 もう一つは、周りの話通り本当に見た目が幼い事に驚く者達。ざわめきが起きていた。
 リシュカは二つの反応に一瞥もせず涼しい顔で席に座る。場所はシェーコフ大将の隣。つまりは名目上二番目の席次である。
 シェーコフ大将は親しげにリシュカと何やら会話を交わすと、会議室に集まった面々を見回してから、

「諸君。一大作戦を前によく集まってくれた。知っている者ばかりだろうが、デオルグ・シェーコフだ。この度陛下より先の戦いで受けた屈辱をそそぐ機会をお与えくださり、本作戦の総司令官となった。隣にいるのはリシュカ・フィブラ。陛下の右腕たる特別相談役であり大将相当官。本作戦の副司令官でもあり、第八軍特務司令官も担っている。本作戦はリシュカ大将相当官考案の為、これよりは彼女に説明してもらおう。リシュカ大将相当官」

「はっ。お承り致しますの」

 シェーコフの言葉にリシュカは表向きの口調で返す。
 彼女が起立すると不思議な事に会議室の空気は変わり全員の背筋が伸びた。姿だけであれば背後に花でも咲きそうなものだが、その瞳は軍人そのものだったからである。えも言わぬ迫力もあるからだろう。

「明日に控えた作戦は、簡潔に言えばこれまで我々帝国軍が散々に味わった敗北を統合軍の連中に味あわせてやるのが目的です。作戦名は『鉄槌と復讐と蹂躙と』。主軸となるのが我々本土組ですが、作戦はほぼ同時期に多方面で行われますわ。しかし、ここでは帝国本土における作戦について話しておきましょう。貴官等は既に作戦を知り尽くしているでしょうが、手元にある資料を改めて確認してくださいまし」

 リシュカが発言すると、会議室にいた者達は資料に目を通していく。
 事前に作戦は確認しているものの、小さい声であるが幾つか声を発している者もいた。

「反攻作戦、逆襲に相応しいな」

「本土だけでもこれだけの兵力投入。これまで耐えてきた甲斐が有るとはまさにこのことだ」

「目にものを言わせてやる」

 彼等はここまで局地的ならともかく勝利した事がない。戦略的観点からすれば負けてはいないしこの時の為の敗北ではあるものの、とはいえ負け続きは気分がいいはずもない。
 故に今回の作戦に投入される戦力は彼等にとって大きな自信を与えるものであり、勝利を確信させるものであった。
 何せ、帝国本土における作戦だけでも新たに三個軍集団と三個軍の計一〇〇万が投入されるのだから。
 下記は帝国軍の本作戦投入戦力である。


【作戦名『鉄槌と復讐と蹂躙と』参加戦力】
<従来戦力>
 ・プレジチェープリ方面軍:約二五〇〇〇〇人(トゥラリコフ方面からの補充戦力含む)

 ・アルネンスク方面軍:約二〇〇〇〇〇人

<新規投入戦力>
 ・北部軍(※妖魔諸種族連合共和国統治地域方面担当):約一〇〇〇〇〇人

 ・北東部軍集団(※ドエニプラ及びコルロフカ方面担当):約二五〇〇〇〇人

 ・中部軍集団(※ドエニプラ及びホルソフ方面担当):約二五〇〇〇〇人

 ・南部軍集団(※ホルソフ方面担当):約二五〇〇〇〇人

 ・第八軍(※北東部軍集団担当地域と同様。既にプレジチェープリに到着):約八〇〇〇〇

 ・第一五軍(※南部軍集団担当地域と同様。既にアルネンスクに到着):約八〇〇〇〇


 総投入戦力:約一四六〇〇〇〇人


 人類諸国統合軍が広い戦線をカバーする為にも約一一〇万もの兵を展開している中で、妖魔帝国軍は人的資源が豊富なのを背景に約一五〇万もの兵力を投入。
 これで妖魔帝国軍の将兵が勝利を確信しない訳がないだろう。
 リシュカは作戦内容を確認していくと、その場にいる全員は自信に満ちた顔つきになる。
 彼女はそれを満足気に見つめるとこう言った。

「なお、本作戦投入戦力だけでも我々は勝利を掴むことが出来るでしょう。ですが、それだけではないのは貴官等も知っての通り。既にヴォルティック艦隊が統合軍協商連合等がいる南方植民地方面へ艦隊と陸軍及び海兵隊約八〇〇〇〇の上陸戦力を引き連れ進軍中。また、秘匿作戦『炎獄』も明日発動致しますの。第一の火たるロンドリウム方面の大暴動は大炎上。ここに南方植民地方面と『炎獄』によって統合軍を大混乱に陥れた上で、主軸たる我々が統合軍を蹂躙します。――つまるところ、貴官等お待ちかねの復讐の時ということですわ」

 リシュカは歪に口角を曲げると、この場にいた全員が背筋にゾワゾワとしたものを感じる。
 決して不快はものではない。むしろ快感であった。

「ついにこの時がやってきた訳ですな!」

「素晴らしい! 奴等の顔が大きく歪むのを早く見てみたいものだ!」

「いくら統合軍でもこれには抗えまいて」

「我々がしていいようにやられ続けたあのアカツキとやらも、尻尾をまいて逃げるであろう!」

「いいやむしろ捕虜にしてしまえ! つるし上げろ!」

「帝国万歳!! 皇帝陛下万歳!! 帝国に栄光あれ!!」

 彼等の士気は最高潮まで高まる。
 自国からふっかけた開戦から一度も勝利を得ていない帝国軍。耐え難きを耐え、いつか訪れる反抗の時を待っていたからこそ将官達の『絶望のドン底に叩き落としてやる』という気概は海よりも深く山よりも高かった。
 リシュカはこの光景を見て心中で声高らかに嗤っていた。

(全ての準備は終わった。クソッタレに復讐を果たす為に何年も掛けて揃えた。本土だけでも逆襲の嚆矢の象徴になるシェーコフに、勝利を渇望する将兵。質だけじゃなく圧倒的な量も揃えた。南方植民地にはヴォルティック艦隊と約一個軍。そして、あのクソ英雄の首都に『煉獄の太陽』。さぁ、さぁさぁさぁ私を貶め侮辱したクソッタレ共!! 今度はてめえらが絶望を味わう番だよ!! きひひひひひひ!!!!)

 人類諸国が犯した大きな過ち。
 精算するハメになるのはもう目前。
 リシュカという悪魔は翌日の作戦開始が、来る日が楽しみで楽しみで仕方が無かった。
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