大和―YAMATO― 第四部

良治堂 馬琴

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第339章『想い出』

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第339章『想い出』

 話が有ると言いながら立ち上がり、三人に顔が見える様にして寝台に斜めに腰掛けたタカコ、その表情は今迄に見た事の無い、思い詰めているとすら感じさせる程のもので、それを見た三人は、どうやら途轍も無く重い話になりそうだ、と、そんな事を薄らと考える。
「……長い話になる、我が軍の内情や私の個人的な話も関わって来る……聞く気は有るか?」
「構わねぇよ……時間は有る」
 タカコの言葉に最初に口を開いたのは敦賀、残る二人も無言で首肯して見せ、タカコはそれを見渡すと
「そうか……」
 その言葉を最後に口を閉じた。その後長い時間ただ只管に天井を見詰め何かを考え込み、三人も何も言う事無くそんな彼女の様子を見つめ続ける。
 どれ程の時間が経過したのか、口を開いたのはタカコ。視線を天井から三人へと向けて語り始めたその内容は、三人が想像していた以上に重く、複雑なものだった。
「……奴の名前はヨシユキ・シミズ、私の旦那の、タカユキの双子の兄貴だ、敦賀とタツさんはあの場で聞いてたから知ってるな?もう退官したが私やタカユキや私の部下と同じ様に軍に所属してた……有能な軍人だったよ、とてもな」
 そう言って話し始めたのは、ヨシユキの事。タカコが他者を評価する時に不必要に持ち上げるとも思えず、彼女の言う通りに彼は有能なのだろうという事が窺い知れる。実際、三人から見ても、動きの一つ一つに計算高さを感じさせる振る舞いだった。
「でもなぁ……それ以上に壊れてた、狂ってたんだ……私も大概だが奴はそれ以上でな、私は自分の正しさと勝利の為に自分含めて仲間の、部下の命を賭けの机の上に放り出すクズだが、奴は……壊す事殺す事そのものが快感なんだよ。相手が勝利を確信した瞬間、幸せの絶頂、そんな時を狙いすまして、相手の一番大事なものを最も効果的な方法で奪い去る……それが奴の行動原理なんだ」
「だろうな……目がな……穏やかそうに見えて、狂ってる奴の目をしてた」
「うん、そうなんだ……初めて出会った時からそうだったよ、弟の、タカユキの方は真っ当だったんだがな。そんなだからさ、全く同じ顔をしてる位にそっくりだったんだけど、私には直ぐに見分けが付いたよ、目が違い過ぎてたから。隠すのも取り繕うのも上手かったから、気付く人は殆どいなかったんだけどな」
 そう話すタカコの眼差しは穏やかで、ヨシユキとの関わりは悪いだけのものではなかったのだと窺えた。悪いだけのものであれば、タカコは逆にああも怒りを顕にはしなかったのかも知れない、そうも思いながら黒川が静かにタカコへと先を促した。
「……それで?」
「うん、ちょっと前後するけどさ、これも敦賀とタツさんには前にも言ったけど、私は首都の貧民街の生まれでな、生まれと言うかそこの路地裏のゴミ捨て場に捨てられてたのが人生の始まりなんだ、親は当然いなくてな。そこで出会ったのが旦那、タカユキで、私が七歳か八歳か、それ位」
「……俺はその話は初めて聞くがよ、随分と重い話をサラッと言うなぁ……」
 次に口を開いたのは高根、彼はこの話を聞いたのは初めてだった事も有り、路地裏に捨てられていたという内容に流石に驚きの色を隠せず、タカコは高根のそんな様子に目を細めて笑うと再び口を開く。
「まぁ重く言っても軽く言っても事実には変わりは無いしな。タカユキは私の十歳上でな、当時既に軍に在籍してた、色々有って私は旦那と出会って一年後に軍に入隊する事になった、まだ十歳にもならないガキがだぞ?その辺りはまあ色々と有るんだけどさ、これは機密指定がまだ解除されてないから言えないんだ、すまんな。で、その入隊した先にいたのがヨシユキだった、教官役としてな」
 十歳にも満たない子供が、その事実は三人を少なからず驚かせる、大和では各軍への入隊の年齢下限は十六歳になる年度初めからだ。身体にも脳にも伸び代が有り、それでいて健全な成長の妨げにならないぎりぎりの年齢、そうやって設定されたものよりも遥かに幼い内から兵士としての教育を行うのかと。
「教官の中にはタカユキもヨシユキもいてな、私は彼等から様々な事を教わり叩き込まれた。脱落者も多い中元々素質が有ったのか何なのか、最後迄残った中に私はいて……それから先は一人の兵士として軍人としての生活が始まったよ、丁度教官の任期を終えたタカユキと……ヨシユキと一緒にな」
「っと……タカコ、話の腰を折って悪いんだが、ちょっと良いか」
「ん?どうかしたか?」
 そこで割って入ったのは高根、話か進む程にその顔には困惑の色が浮かび、何が有ったかと小首を傾げるタカコに、高根は何とも言い難そうにして口を開く。
「あの……旦那の名前って……タカユキ?」
「ああ、これも真吾には言ってなかったんだっけか。そう、タカユキ・シミズ、それが私の旦那の名前。序でに言えば、二年七ヶ月前のあの日、大和海兵隊が現着する直前迄生きてたんだ、でも、手の――」
「タカコ、それは――」
「良いんだ、敦賀、もう全部話すと決めたんだ。だから、良いんだ、私は、話さないといけない」
 まだ癒えていないであろう傷口に自ら塩を塗り込む様な真似はさせたくない、そう思った敦賀が腰を浮かせ制止しようとするのをタカコは優しく笑って往なし、再び高根へと向けて言葉を続ける。
「手の、施し様が無かった。だから、私が殺したんだ」
「……悪い、嫌な事思い出させちまったな」
「お前が謝る事じゃないさ」
 高根自身も敦賀から認識票の文字の解読を相談された時、文字の配列からこの事を予想しなかったわけではなかった。けれどあれ以降敦賀からその話題を振られる事も無く、二人の間の個人的な事なのであれば無理に聞き出す事はしない方が良いだろう、そう思って敢えて放置していたが、まさか予想が当たってしまっていたとはと何ともばつの悪い心持ちになる。敦賀と黒川も何とも言い表し様の無い気まずい心持ちになり黙り込み、タカコはそんな三人の様子を見てまた小さく笑うと、静かに続きを話し始めた。
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