大和―YAMATO― 第四部

良治堂 馬琴

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第340章『喪』

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第340章『喪』

 今迄聞いた事の無かったタカコの過去、彼女から話す事は無く、三人の誰も無理に聞き出す事もしなかった。それが今自分達の目の前で彼女自身によって紐解かれていく中、それを誰も何も制する事無く聞き続ける。
「色々有ったけど……楽しかったよ、沢山殺して殺されて……でもな、楽しかった。貧民街で持て余していた自分の能力を全開以上に発揮出来て、それが時には誰かを助けて役に立って……充実してた。それから成長して少しずつ世界が広がって、当たり前の話だけど、敵も自分と同じ人間で彼等にも正義が有って人間らしさが有ってとかそんな事を理解して、一丁前にちょっと悩んでみたりもして、更にそれを乗り越えて……気が付いたら入隊十年目前だ」
 穏やかな口調で話される壮絶な内容、そのちぐはぐさが今は何故かタカコらしく感じられ、敦賀は彼女の頭に手を伸ばし数度撫で付けてやる。
「てめぇのこった、どうせ無茶ばっかしてたんだろうが」
「いや?寧ろそれから先だったなぁ、私が数々の伝説を打ち立てたのは。それ迄は兵士として指揮官の下で作戦に従事する生活だったが、丁度その頃に士官教育課程に進む話が有ってな、それを受けて一時期前線からは遠ざかって、それを修了した後に小隊だけど部隊を任される様になったんだ。自分の裁量権限で人員を動かせるとなりゃぁそりゃもう好き放題したもんだよ、隊長の癖に自分が単騎で出て行く事も多かったけどな。その時から私の副官としてついたのがタカユキでな、毎度毎度お小言やら泣き落しやら……もううぜぇのなんの」
「……俺はその点について旦那に同情するがな……って、旦那が副官?年齢から言っても逆じゃねぇのか?」
 昔を懐かしみながら笑うタカコ、その彼女の言葉に違和感を感じて問い掛けた。
「普通ならね……何の因果か私の素質ってのは戦場に於いて最大限の力を発揮するもんだったようでな……その頃には総合評価はタカユキもヨシユキも抜いてたんだ、それで数十人抜きで抜擢された、色々言われたぜぇ?女がとかガキがとか、枕営業で手に入れたとかな。喜んでたのはタカユキとヨシユキの二人だけだったよ」
「……てめぇらしい話だな」
「……失うものも多かったけどな……どんなに緻密に計画を立てても作戦の度に部下を失い、帰還する度に遺族に遺書を届け悲嘆に暮れる彼等を慰める……あれだけは何度経験しても慣れない、逆にどんどん嫌になる……お前達も分かるだろ?」
「……ああ……、嫌って程な」
「……或る時に間違った情報を与えられてそれを元にした作戦が大失敗した事が有った……酷いもんだったよ、部隊の九割が戦死した……引責を迫られる事は無かったが手塩に掛けた我が子同然の部下の殆どを失って流石にボロボロになってなぁ……その時に初めて……旦那に抱かれた」
 突然タカコの口から飛び出した生々しい話、三人揃ってそれに思わず固まりどう反応したら良いのか分からず彼女の方を見れば、その反応が面白かったのかくつくつと喉で笑う様子が目に入る。
「っ……、いや、悪ィ……余りにも反応がウブだったから……ま、そんなこんなでタカユキとそういう関係になってさ、あいつは愛情表現が物凄いストレートだったんだけど私はそうじゃないから、暫くは付き合うとかじゃなくてズルズルと身体の関係なんて宜しくない事やっててさ、まぁそれも落ち着くところに落ち着いてさ……随分長い時間が掛かったけどな」
 タカコの言葉がそこでふと途切れ、笑われた事で気恥ずかしさに視線を外していた敦賀が彼女へと視線を戻せば、そこには鋭い眼差しで天井を睨み付けるタカコがいた。何が、どうした、そんな心持ちで問い掛けようとすればそれより先に話し出したのはタカコ。
「……タカユキと結婚して少し後の事だ……また作戦に出る事になった。その時に情報を仕入れた先はヨシユキ、奴は当時情報部にいてな……正確性では抜群の信用度が有った、正規の手続きで仕入れる情報が何とも心許なくてな、ヨシユキからの情報のみで動いたんだ……そして、あの事件が有った」
「……しんどいのなら無理して話す必要は――」
「いや、良い、話すよ……潜入した先で待ち伏せをされてかなりの損害を出した。そこから退避した先で集中砲撃を食らって……また壊滅だ、生き残って帰還したのはたったの数人だったよ……それで私は部隊の指揮官を解任された。ヨシユキが故意に虚偽の情報を流していた事が発覚して軍事法廷にかけられる事になったが、奴は既のところで逃げ出して行方知れず、旦那も肉親という事で私の副官の地位を剥奪されて執拗な取り調べを受ける事になった。結果下されたのが不名誉除隊だ、軍しか知らない人間が不名誉除隊の烙印を押されて下野しても生きていける筈も無い……実質死刑宣告だよ」
 不名誉除隊――、軍に所属するものであれば、その五文字がどれ程重い意味を持っているのかは嫌という程に理解している。軍の表の道を歩いて来た自分達ですらそれは死刑宣告とそう大して変わらない意味と捉えているのだ、タカコ達の様に専門性の高い特殊部隊の人間であれば尚更重い意味を持つだろう。
「……それから、どうなった」
 静まり返る室内、空調の低く単調な音が響く中、タカコに先を促したのは、今度は黒川。
「私も抗議したが正規で入手した情報を全く無視していた事が問題視されてな、説得力は全く無し……後で分かった事だが、正規の情報にはヨシユキが裏から手を加えて精度を故意に落としてた……私はそれを見抜けなかったんだ。その判断ミスで部下の殆どを失い、旦那は軍から追われる事になった……それと、その時にもう一つ失ったものが有る」
「……今聞いた以上に何を失うってんだよ、その状況で」
 敦賀のその問いにタカコは直ぐには答えず、代わりに寝台から降りて立ち、着ている入院着の上着を捲くり上げた。その下から覗いたのは包帯の巻かれた身体、彼女は自らの胴体へと手を伸ばし、包帯を上に寄せ腹部に走る一際大きな、下腹部をほぼ横断する程の傷痕へと触れて見せる。

「……妊娠、してたんだ、その時。気付く前だったけど腹に……ここに……子供がいた。砲撃の時に爆片を食らってな……子宮ごと持って行かれたよ、この手に抱いてやる事も出来なかった」
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