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第341章『選択』
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第341章『選択』
自らの判断ミスによって招いた苦い敗北、それに上乗せされた悲劇、突然明かされたそれに三人は今度こそ動きを失った。
敦賀と黒川の二人にとっては、今迄ずっと自分がして来た事、彼女に我が子を孕ませてこの大和の地に、そして自分の隣に繋ぎ止めておこうとした行為が、高根にとっては二人にそれを嗾けていた事が、今のタカコの話を聞いてしまってはひどい侮辱に思えてくる。
敦賀と黒川の二人にとっては、少し前に何の因果か偶然か、夫々が別の切っ掛けでタカコが何等かの原因により不妊である可能性に思い至り、夫々が一人自らの行為が取り返しのつかない行為だったのではと思い至ったばかり。最悪の一手を打ち続けていたのだと彼女自身によって思い知らされ、それでも視線を逸らす事も出来ずに彼女の顔を黙したまま見詰め続けた。
「……敦賀とタツさんは、私の不妊、気付いてたんじゃないか?まぁ、気付くよな、一年以上も身体の関係が、しかも複数と有るのに、一向に妊娠しないんだからさ」
見透かす様なタカコの言葉、それにどう返せば良いのかも分からずに彼女を見詰めれば、穏やかな笑みを浮かべてタカコは言葉を続ける。
「最初はそんな事考えてなかったかも知れないけど、二人共、私を妊娠させようとしてただろ。それで遠慮無しに中に出してたんじゃないのか?どうだ?で、途中で私に生理が一度も来てない事に気付いて不妊に思い至ったとかじゃないか?真吾は真吾で私を大和に繋ぎ止めておく為に二人に発破掛けてたと思うんだけど、どうだ?」
「……そういう事直球で聞くかてめぇ……」
「実際どうなのよ?」
その問い掛けに誰からも答えは無い。
「沈黙は承認也と取るぞ、この場合……私の同意も得ずに孕ませて強引にここに留めておくつもりだったって事で決定だな。本当に三人共狡い男だよなぁ。まぁ、私も自分の身体の事を何も言わずに好きにさせてたんだから、あまり人の事をあれこれ言えんとは思うが」
勘付かれていたとはと舌を打つ敦賀、視線を逸らす黒川、がしがしと頭を掻く高根、タカコはそんな彼等の様子を見てまた笑い、話を続けた。
「……タカユキが追放される事が決まって、私も軍を去る決意をしたんだ、自分が好き放題やれてたのはタカユキという女房役がいたからであって、自分一人だけじゃ自滅するのは分かってたから……だから、下野してタカユキと一緒に軍事企業でも興そうと思ってた。そんな時に奴が……ヨシユキが私とタカユキの前に姿を現した」
そこで一度言葉を切ったタカコ、何処か遠くを、恐らくは過去を見ているのであろうその様子に敦賀は入院着を捲くり上げたままになっている彼女の手を取り包帯を戻し入院着の裾を下ろしてやる。
「……少し、休むか?」
「いや……良い……それでその時に聞いたんだよ、何故こんな事をしたのかってな……何て答えたと思う?」
そこで気付いたのは握られたタカコの両の拳、血の気を失う程にきつく握り締められ小さく震え、双眸は絶望と怒りに燃えている。その彼女を少しでも落ち着かせようと敦賀と、そして黒川が自由にならない手を上げ、きつく握り締められた手に触れれば、僅かに力を弱めつつ彼女は話し出した。
「奴にとって私は自分が作り上げた最高の芸術作品なんだそうだよ、戦い、殺し、その為だけに育て上げた存在を凡庸な弟が奪った事が許せなかったんだそうだ。だから壊そうとしたんだと、それで虚偽の情報を流し私を部隊ごと抹消しようとしたんだとよ。そんなクソくだらねぇ事の為に私は我が子を失い仲間の、部下の殆どを失ったんだ……許せるわけが無いだろうが……!絶対にこの手で殺してやる、誓ったのはあの夜だ、それも奴にとっての狙いだってのは分かってる、育て上げた作品が自分に絶え間無い憎悪を抱いてる、それを翻弄するのが快感の最低のゲス野郎だよ、あいつは……それでも、私は……あいつを、許せない」
いつの間にか解かれていたタカコの拳、それを包んでいた二人の手に、タカコの指が優しく絡められる。。
「……それで……後は退官するだけとなった時、上に呼ばれた、汚れ仕事専門の特殊部隊を創設する事になったからお前が指揮官を務めろ、お前なら経歴を見ても実力を見ても相応しいと。仕事の内容的に特殊部隊とは言え正規軍にやらせるのは憚られる、だから、表面的にはこのまま退官した形をとり会社を興せと、その会社そのものが特殊部隊となると……隊員の選別は私の自由、その彼等も纏めて機密扱いへと変更し身分はそのままとする、それが私に提示された話だった。受けたよ、私は。それで目星を付けてた人間に声を掛けて引き抜いて……ケインもヴィンスもマリオもジェフもアリサもその中の一人。そうして生まれたのが特殊部隊Providence、通称Pだ。階級も就任時に中尉から大佐に昇進……特殊部隊の指揮官クラスは大佐が就くのが慣例なんでな、階級だけで見れば小隊長級がいきなり連隊長級だよ」
「……そりゃ随分と出世したもんだ」
「四階級特進だからな……戦死しても二階級特進が精々なのにな。……それで表面的には退官して会社を興し本来の任務が無い時はそっちで細々と仕事をしててさ……それはそれで楽しかったよ、顔馴染みばかりで気心の知れた人間の集まりだったから、平和な時は階級も役職も関係無く悪友としてふざけたり悪戯仕掛けたり。そんな中でPを統括する統合参謀本部議長のウォルコット陸軍大将から呼び出しが有った、四年程前の話だ。そこで今回の任務を持ちかけられた、内容については、以前話した通りだよ」
「それが……ヨシユキとはどう関係が有るんだ?」
静かな、静かな高根の言葉。敦賀も黒川も心理的にタカコに近過ぎるだけに明かされた内容は重過ぎて、先を話せとという言葉は口に出来ず、それを察した高根のその促しにより、タカコは小さく、そして悲しそうに笑って続きを口にする。
「……火発占拠の前に、JCS副議長のマクマーンが議長を失脚させる為に策を弄している、そう言ったな?あには言ってなかった部分が有る。軍部だけを動かすには計画が大掛かり過ぎた、これだけの規模の作戦を水面下で動かすには外部との協力が必要不可欠になって来る……その野心に目を付けたのが、民間か、若しくは国外の軍事的勢力……私の推測に過ぎないがな」
「……それが、奴か」
「……正確には奴を雇用しているところと、いったところだろう。奴が下野してからまだ数年、これ程の大掛かりな作戦を遂行出来る能力を持つ組織を一から作り上げるには時間が無さ過ぎる、現状はヨシユキが全権を掌握していたとしても、元から在った組織に入り込み乗っ取りを成功させた、恐らくはそんなところだ。奴がそこ迄する理由……それは、私が未だ生きてるから。奴は……ヨシユキは、私を苦しめる為なら何でもする、だからこそヨシユキは今この大和にいるだから――」
そこでタカコは言葉を区切り、ふ、と、窓の外へと視線を蹴る。長い、長い話、それによって明らかになされたのは重い事実。その内容の異様さと重さにその場の誰もタカコへと掛ける言葉は持ち合わせず、この二年七ヶ月の間、彼女はたった一人で一体どれだけの重圧をこの小さな身体で耐え続けて来たのだろうか、と、そんな事を考えた。
「――だから……だから、修に、私が来たからこの大和に禍が齎されたんだ、修の子供も、皆も、沢山、沢山死んだ、殺されたんだって言われて、反論出来なかった……本当の事だから。済まなかった、私がいなかったら、多分、大和は今でも平和なままだった筈なんだ……本当に、申し訳無い」
そう言いながら、三人へと向かって深々と頭を下げるタカコ。小さな肩、一つに括った髪の下から覗く細い頸、けれどそれは弱さを盾にして庇護を求めるものではなく、言葉も無く見詰める三人へと向けて、全てを己が責とし受け止める覚悟は出来ていると、幾百の言葉よりも雄弁に、武人としての潔さを物語っていた。
自らの判断ミスによって招いた苦い敗北、それに上乗せされた悲劇、突然明かされたそれに三人は今度こそ動きを失った。
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見透かす様なタカコの言葉、それにどう返せば良いのかも分からずに彼女を見詰めれば、穏やかな笑みを浮かべてタカコは言葉を続ける。
「最初はそんな事考えてなかったかも知れないけど、二人共、私を妊娠させようとしてただろ。それで遠慮無しに中に出してたんじゃないのか?どうだ?で、途中で私に生理が一度も来てない事に気付いて不妊に思い至ったとかじゃないか?真吾は真吾で私を大和に繋ぎ止めておく為に二人に発破掛けてたと思うんだけど、どうだ?」
「……そういう事直球で聞くかてめぇ……」
「実際どうなのよ?」
その問い掛けに誰からも答えは無い。
「沈黙は承認也と取るぞ、この場合……私の同意も得ずに孕ませて強引にここに留めておくつもりだったって事で決定だな。本当に三人共狡い男だよなぁ。まぁ、私も自分の身体の事を何も言わずに好きにさせてたんだから、あまり人の事をあれこれ言えんとは思うが」
勘付かれていたとはと舌を打つ敦賀、視線を逸らす黒川、がしがしと頭を掻く高根、タカコはそんな彼等の様子を見てまた笑い、話を続けた。
「……タカユキが追放される事が決まって、私も軍を去る決意をしたんだ、自分が好き放題やれてたのはタカユキという女房役がいたからであって、自分一人だけじゃ自滅するのは分かってたから……だから、下野してタカユキと一緒に軍事企業でも興そうと思ってた。そんな時に奴が……ヨシユキが私とタカユキの前に姿を現した」
そこで一度言葉を切ったタカコ、何処か遠くを、恐らくは過去を見ているのであろうその様子に敦賀は入院着を捲くり上げたままになっている彼女の手を取り包帯を戻し入院着の裾を下ろしてやる。
「……少し、休むか?」
「いや……良い……それでその時に聞いたんだよ、何故こんな事をしたのかってな……何て答えたと思う?」
そこで気付いたのは握られたタカコの両の拳、血の気を失う程にきつく握り締められ小さく震え、双眸は絶望と怒りに燃えている。その彼女を少しでも落ち着かせようと敦賀と、そして黒川が自由にならない手を上げ、きつく握り締められた手に触れれば、僅かに力を弱めつつ彼女は話し出した。
「奴にとって私は自分が作り上げた最高の芸術作品なんだそうだよ、戦い、殺し、その為だけに育て上げた存在を凡庸な弟が奪った事が許せなかったんだそうだ。だから壊そうとしたんだと、それで虚偽の情報を流し私を部隊ごと抹消しようとしたんだとよ。そんなクソくだらねぇ事の為に私は我が子を失い仲間の、部下の殆どを失ったんだ……許せるわけが無いだろうが……!絶対にこの手で殺してやる、誓ったのはあの夜だ、それも奴にとっての狙いだってのは分かってる、育て上げた作品が自分に絶え間無い憎悪を抱いてる、それを翻弄するのが快感の最低のゲス野郎だよ、あいつは……それでも、私は……あいつを、許せない」
いつの間にか解かれていたタカコの拳、それを包んでいた二人の手に、タカコの指が優しく絡められる。。
「……それで……後は退官するだけとなった時、上に呼ばれた、汚れ仕事専門の特殊部隊を創設する事になったからお前が指揮官を務めろ、お前なら経歴を見ても実力を見ても相応しいと。仕事の内容的に特殊部隊とは言え正規軍にやらせるのは憚られる、だから、表面的にはこのまま退官した形をとり会社を興せと、その会社そのものが特殊部隊となると……隊員の選別は私の自由、その彼等も纏めて機密扱いへと変更し身分はそのままとする、それが私に提示された話だった。受けたよ、私は。それで目星を付けてた人間に声を掛けて引き抜いて……ケインもヴィンスもマリオもジェフもアリサもその中の一人。そうして生まれたのが特殊部隊Providence、通称Pだ。階級も就任時に中尉から大佐に昇進……特殊部隊の指揮官クラスは大佐が就くのが慣例なんでな、階級だけで見れば小隊長級がいきなり連隊長級だよ」
「……そりゃ随分と出世したもんだ」
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「それが……ヨシユキとはどう関係が有るんだ?」
静かな、静かな高根の言葉。敦賀も黒川も心理的にタカコに近過ぎるだけに明かされた内容は重過ぎて、先を話せとという言葉は口に出来ず、それを察した高根のその促しにより、タカコは小さく、そして悲しそうに笑って続きを口にする。
「……火発占拠の前に、JCS副議長のマクマーンが議長を失脚させる為に策を弄している、そう言ったな?あには言ってなかった部分が有る。軍部だけを動かすには計画が大掛かり過ぎた、これだけの規模の作戦を水面下で動かすには外部との協力が必要不可欠になって来る……その野心に目を付けたのが、民間か、若しくは国外の軍事的勢力……私の推測に過ぎないがな」
「……それが、奴か」
「……正確には奴を雇用しているところと、いったところだろう。奴が下野してからまだ数年、これ程の大掛かりな作戦を遂行出来る能力を持つ組織を一から作り上げるには時間が無さ過ぎる、現状はヨシユキが全権を掌握していたとしても、元から在った組織に入り込み乗っ取りを成功させた、恐らくはそんなところだ。奴がそこ迄する理由……それは、私が未だ生きてるから。奴は……ヨシユキは、私を苦しめる為なら何でもする、だからこそヨシユキは今この大和にいるだから――」
そこでタカコは言葉を区切り、ふ、と、窓の外へと視線を蹴る。長い、長い話、それによって明らかになされたのは重い事実。その内容の異様さと重さにその場の誰もタカコへと掛ける言葉は持ち合わせず、この二年七ヶ月の間、彼女はたった一人で一体どれだけの重圧をこの小さな身体で耐え続けて来たのだろうか、と、そんな事を考えた。
「――だから……だから、修に、私が来たからこの大和に禍が齎されたんだ、修の子供も、皆も、沢山、沢山死んだ、殺されたんだって言われて、反論出来なかった……本当の事だから。済まなかった、私がいなかったら、多分、大和は今でも平和なままだった筈なんだ……本当に、申し訳無い」
そう言いながら、三人へと向かって深々と頭を下げるタカコ。小さな肩、一つに括った髪の下から覗く細い頸、けれどそれは弱さを盾にして庇護を求めるものではなく、言葉も無く見詰める三人へと向けて、全てを己が責とし受け止める覚悟は出来ていると、幾百の言葉よりも雄弁に、武人としての潔さを物語っていた。
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