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第五話
しおりを挟む「――どうした、ウィーリア?」
話始めたと思ったら、ウィーリアは急に怪訝な顔をして、黙り込んでしまった。
「おい」
そうして、一人の世界に潜りこんでいたウィーリアは、その威圧が消えた後も恐怖の対象であり続けるロイに名前を呼ばれるやいなや、「はっ、はいっ!?」と、肩が上がるほど驚いたと同時に、先程の思考を頭の片隅に放り出した。
「ごっ、ごめん!うん、いや、なんでもないよ。ちょっと気になることがあって⋯」
「あぁ、まだ資料集めの途中なのか?」
「あっ、そ、そうなんだ」
カメラを持つ手とは反対の手で、自身の頬を掻く彼は、内心どこか焦っているような漢字がした。
「そっか。⋯あ、そういや飯頼む途中だったな。ロイ、一緒に食うだろ?」
そういえば、と後ろにある食券機の存在を思い出したレイは、そう、ロイに声をかけた。
「うん!」
久しぶりのレイとのご飯タイムに胸を躍らせるロイは、見えない尻尾をブンブンに振りまくると同時に、レイをぎゅっと強く抱きしめた。
「ウィーリアも一緒に食うか?」
「いっ、いや、僕はいいかな!ほら、資料集めに戻らないと!」
そう言うと、まるで逃げるように足早に出入り口へと駆けていくウィーリアの後ろ姿を見送ったレイは、ロイのホールドを解除して一緒に食券機を見に行った。
◆◆◆◆◆
そうして、レイはいちごとクリームがたっぷり入った激甘クレープ、ロイはサラダやコーンが入った、さっぱり系クレープを頼み、食券をカウンターで渡し終えると、カウンター近くの四人席で互いに向き合う形で座った。
名前が呼ばれるまでの間、ロイは、注文を終えて満足げにしている兄をじっと眺めていた。
⋯⋯兄さんは相変わらず甘党だな。デザートと兄さん。すっごく可愛い。すっごく可愛いんだけど、あの量のホイップは心配だ。
そう視線を横に向け、カウンター上に置かれているポップ看板に目をやった。そこには、“いちごクレープ超超超ホイップ乗せ”という商品名とともに、山のように盛られたホイップと飾り付けされたいちごが乗ったクレープの写真があった。
⋯日替わりメニューらしいけど、もしや兄さん、毎日あんな甘いデザート食べてるんじゃないだろうな。明日から授業も始まるし、昼食の時間帯は基本一緒だから、また確認してみるか。
そうして名前を呼ばれた二人は、同時に立ち上がると、一緒に受け取りにと向かった。
「⋯兄さん、本当にそれ、食べれるの?」
「おいおい甘党舐めんなよ?こんなんペロリだわ」
「ペロリ⋯兄さんが⋯ペロリ⋯⋯」
兄さんが発する言葉にいちいち心臓がギュンとなるのは、久しく会っていなかった分、過剰に反応しやすいからだろう。
そうして食べ始めた二人だったが、程なくしてロイは大好きな兄に対して恐怖心を抱いた。
「ふぅ、ごちそうさまぁ。いやぁ、美味かった!」
「う、嘘でしょ⋯」
小さな口で、口いっぱいにクレープを頬張る姿はさながらハムスターのよう。頑張ってモゴモゴと口を動かす様子に心身ともに癒やされていたロイは、兄が持つクレープがどんどん減っているのに気が付かなかった。
そうして、あんなにてんこ盛りになっていたクレープをさらりと平らげた兄は、今度は俺の番、と言わんばかりに弟のロイの食べている姿をじっと見始めた。
「な、なに、兄さん⋯」
「いやぁ、普通に。一生懸命食べてて、可愛いなって」
だからそれはこっちのセリフだってば、そう言いたい。そんなもどかしさを抱えつつも、自分を見ている兄が楽しげにしているので言い出せないロイであった。
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