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入学編
第六話 : 弟の友人
しおりを挟む「ごちそうさまでした」
丁寧に手を合わせ、落ち着いた声でそう言う弟は、まるで王子様のような気品を醸し出していた。
長年一緒に育ってきたはずなのに、俺と違って品行方正なのは、きっと生まれ持った王子気質が絶賛発揮中だからだろう。うん、さすが俺の弟だ。
「ねぇ兄さん。この後って用事ある?」
「ん?いや、特に無いけど」
どうしたんだ?もしかして一緒に祭りに行きたいって言いたいのか?
よし、今まで祭りではロイに散々勝負を挑んでは負けてきた俺だが、俺も馬鹿じゃない。⋯いや、成績は良くないけど。これまでの高校生活で培った技術を用いてこの戦い、今度こそ勝ってや――
「⋯その、良かったら兄さんの部屋を見に行きたいんだけど⋯⋯」
「⋯へ?」
「だ、だめかな⋯?」
「だめ」だって?⋯⋯もちろん良いに決まってるだろ!!!
――そう言いかけた時、出入り口の付近の席からじっと、俺達を見ている二人組に気がついた。
遠目からでも分かる鮮やかな金色の髪を結っている男と、その正面に座る濃い青色の髪を持つ短髪の男。
どちらも赤色のネクタイを身に着けていることから、一年生だろう。
⋯⋯ここ一年で、周りも俺も慣れてはいたが、そうか。確かに俺達は二人とも“黒髪”だったな。
そりゃ平民とともに生活を送るのが嫌って思う奴がいてもおかしくない。特に入学したての一年生はなおさらだ。
⋯ま、何かしてくるようなら考えるけど、見てるだけなら別にいっか。
弟が気づく前にさっさとここを出よう。そう俺は視線を前に戻した。が、その頃にはもう遅かった。
「⋯兄さん、僕、あいつらと少し話してくる」
そう言って立ち上がったロイは俺でも分かる不機嫌そのもので、必死になだめようとするも、「兄さんはここにいて」の一点張りだった。こうなったロイは俺でも止めるのは難しい。確かに俺も平民を差別的に見る貴族には苦手意識がある。それでも、ここで今日貴族たちと騒ぎを起こせば今後のロイの学校生活に大きく関わるのは容易に想像できる。それは絶対にダメだ。
ロイを必死に説得し、ロイの後ろでひたすらくっついておく、という条件の元、弟についていくことになった俺は、どうやって穏便に終わらせようと頭をフル回転させ考えていたが、それは全くの杞憂に終わった。
「やあロイ、久しぶり!」
俺達が近くに来たと同時に、立ち上がった二人の元へ行ったその時、右にいた金髪の男が晴れやかな顔つきで弟の名前を口にした。
「⋯⋯ロイって呼ばないでくれます」
「あれ、君さっきと喋り方が違――」
「で、なんであんたがここに?ていうかその左のは⋯」
「俺はケイ。カインの護衛役だ。」
「⋯なんでついてきたりしたんだ」
三人がそう仲良く(?)話している姿にだんだんと置いてけぼりになっていた俺だが、一つだけわかったことがある。
――この二人は、弟の新しい友だちだ!!!
てことは、さっきは俺達じゃなくて、ロイを見てたのか。良かったぁ。ロイに初めての学校の友達かぁ。
家でもずっと一匹狼で俺がいないと、わざわざ敷地の外に出るのも嫌がっていたあのロイに、友達ができたのか。
まるで母親が自分の子供に感じるような気持ちを俺も持つのは、きっと母親よりも長い年月を弟と過ごしてきたからだろう。
「⋯そちらの方が、君のお兄さん?」
一旦話が終わったのか、ふと首を傾かせた、金髪の男と目があった。
こちらを見つめるその顔は、やけに整っていて、青色の目がよく映えていた。美しい結われた金色の髪の中に、一束だけ毛色の違う色があった。
そうして彼の髪に見惚れていると、彼が首を傾げる仕草をしたので、急いで視線を彼に合わせた。
「あぁ、俺の名前は⋯」
すると、前にいたロイが俺と彼の間を遮るように、左手で俺の腹部を優しく抑えた。
「⋯あんたには、関係ないだろ。⋯ごめん兄さん、やっぱり部屋に行くのは明日でも良いかな?」
「わ、分かった」
⋯かっ、悲しっ!!⋯けどまぁ、せっかくの新しい友達がなんだ。俺が邪魔するわけには行かないよな。
「んじゃ、またな、ロイ。いつでも待ってるからな」
そう言って手を伸ばした俺は、ロイの頭をワシャワシャと撫で、前にいた二人組に弟をよろしく伝えると、向きを変え、部屋へと向かった。
その足取りは軽やかで、弟が成長することへの少しの寂しさとだいぶの嬉しさが混ざりあったものだった。
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