6 / 14
第六話
しおりを挟む「ごちそうさまでした」
丁寧に手を合わせ、落ち着いた声でそう言う弟は、まるで王子様のような気品を醸し出していた。
長年一緒に育ってきたはずなのに、俺と違って品行方正なのは、きっと生まれ持った王子気質が絶賛発揮中だからだろう。うん、さすが俺の弟だ。
「ねぇ兄さん。この後って用事ある?」
「ん?いや、特に無いけど」
どうしたんだ?もしかして一緒に祭りに行きたいって言いたいのか?
よし、今まで祭りではロイに散々勝負を挑んでは負けてきた俺だが、俺も馬鹿じゃない。⋯いや、成績は良くないけど。これまでの高校生活で培った技術を用いてこの戦い、今度こそ勝ってや――
「⋯その、良かったら兄さんの部屋を見に行きたいんだけど⋯⋯」
「⋯へ?」
「だ、だめかな⋯?」
「だめ」だって?⋯⋯もちろん良いに決まってるだろ!!!
――そう言いかけた時、出入り口の付近の席からじっと、俺達を見ている二人組に気がついた。
遠目からでも分かる鮮やかな金色の髪を結っている男と、その正面に座る濃い青色の髪を持つ短髪の男。
どちらも赤色のネクタイを身に着けていることから、一年生だろう。
⋯⋯ここ一年で、周りも俺も慣れてはいたが、そうか。確かに俺達は二人とも“黒髪”だったな。
そりゃ平民とともに生活を送るのが嫌って思う奴がいてもおかしくない。特に入学したての一年生はなおさらだ。
⋯ま、何かしてくるようなら考えるけど、見てるだけなら別にいっか。
弟が気づく前にさっさとここを出よう。そう俺は視線を前に戻した。が、その頃にはもう遅かった。
「⋯兄さん、僕、あいつらと少し話してくる」
そう言って立ち上がったロイは俺でも分かる不機嫌そのもので、必死になだめようとするも、「兄さんはここにいて」の一点張りだった。こうなったロイは俺でも止めるのは難しい。確かに俺も平民を差別的に見る貴族には苦手意識がある。それでも、ここで今日貴族たちと騒ぎを起こせば今後のロイの学校生活に大きく関わるのは容易に想像できる。それは絶対にダメだ。
ロイを必死に説得し、ロイの後ろでひたすらくっついておく、という条件の元、弟についていくことになった俺は、どうやって穏便に終わらせようと頭をフル回転させ考えていたが、それは全くの杞憂に終わった。
「やあロイ、久しぶり!」
俺達が近くに来たと同時に、立ち上がった二人の元へ行ったその時、右にいた金髪の男が晴れやかな顔つきで弟の名前を口にした。
「⋯⋯ロイって呼ばないでくれます」
「あれ、君さっきと喋り方が違――」
「で、なんであんたがここに?ていうかその左のは⋯」
「俺はケイ。カインの護衛役だ。」
「⋯なんでついてきたりしたんだ」
三人がそう仲良く(?)話している姿にだんだんと置いてけぼりになっていた俺だが、一つだけわかったことがある。
――この二人は、弟の新しい友だちだ!!!
てことは、さっきは俺達じゃなくて、ロイを見てたのか。良かったぁ。ロイに初めての学校の友達かぁ。
家でもずっと一匹狼で俺がいないと、わざわざ敷地の外に出るのも嫌がっていたあのロイに、友達ができたのか。
まるで母親が自分の子供に感じるような気持ちを俺も持つのは、きっと母親よりも長い年月を弟と過ごしてきたからだろう。
「⋯そちらの方が、君のお兄さん?」
一旦話が終わったのか、ふと首を傾かせた、金髪の男と目があった。
こちらを見つめるその顔は、やけに整っていて、青色の目がよく映えていた。美しい結われた金色の髪の中に、一束だけ毛色の違う色があった。
そうして彼の髪に見惚れていると、彼が首を傾げる仕草をしたので、急いで視線を彼に合わせた。
「あぁ、俺の名前は⋯」
すると、前にいたロイが俺と彼の間を遮るように、左手で俺の腹部を優しく抑えた。
「⋯あんたには、関係ないだろ。⋯ごめん兄さん、やっぱり部屋に行くのは明日でも良いかな?」
「わ、分かった」
⋯かっ、悲しっ!!⋯けどまぁ、せっかくの新しい友達がなんだ。俺が邪魔するわけには行かないよな。
「んじゃ、またな、ロイ。いつでも待ってるからな」
そう言って手を伸ばした俺は、ロイの頭をワシャワシャと撫で、前にいた二人組に弟をよろしく伝えると、向きを変え、部屋へと向かった。
その足取りは軽やかで、弟が成長することへの少しの寂しさとだいぶの嬉しさが混ざりあったものだった。
122
あなたにおすすめの小説
牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
生まれ変わったら俺のことを嫌いなはずの元生徒からの溺愛がとまらない
いいはな
BL
田舎にある小さな町で魔術を教えている平民のサン。
ひょんなことから貴族の子供に魔術を教えることとなったサンは魔術の天才でありながらも人間味の薄い生徒であるルナに嫌われながらも少しづつ信頼を築いていた。
そんなある日、ルナを狙った暗殺者から身を挺して庇ったサンはそのまま死んでしまうが、目を覚ますと全く違う人物へと生まれ変わっていた。
月日は流れ、15歳となったサンは前世からの夢であった魔術学園へと入学を果たし、そこで国でも随一の魔術師となった元生徒であるルナと再会する。
ルナとは関わらないことを選び、学園生活を謳歌していたサンだったが、次第に人嫌いだと言われていたルナが何故かサンにだけ構ってくるようになりーーー?
魔術の天才だが、受け以外に興味がない攻めと魔術の才能は無いが、人たらしな受けのお話。
※お話の展開上、一度人が死ぬ描写が含まれます。
※ハッピーエンドです。
※基本的に2日に一回のペースで更新予定です。
今連載中の作品が完結したら更新ペースを見直す予定ではありますが、気長に付き合っていただけますと嬉しいです。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
従者は知らない間に外堀を埋められていた
SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL
転生先は悪役令息の従者でした
でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません
だから知らんけど精神で人生歩みます
僕はただの妖精だから執着しないで
ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜
役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。
お願いそっとしてて下さい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
多分短編予定
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる