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第七話
しおりを挟む「⋯“黒魔術”か⋯⋯」
洗脳、調教、黒魔術―――人の思考を自分の思うがままに変えるには並大抵の魔法じゃ無理だ。それこそ、一万人に一人の確率で生まれる“闇魔法”の属性を持っているなら、分からないが。
小刻みに震える手で、茶色に変色した本のページを次々と捲る。所々に昔付いたであろう血の跡が今でも残っていた。
人の思考を強制的に操る―――
相手の思考を操り、行動すらも自由自在に変えてしまう。この能力は、あまりに多くの人間を魅了した。
“力を持たない者でも使えるようになりたい。”
そうして生まれたもの。それが“黒魔術”だ。
本来だと手にすることができない力を強制的に使えるようにする。そんな黒魔術は、時に生きた人間すらも材料としてしまうため、現在は自国に限らず、全ての国で禁止されている。
⋯⋯そうだ、黒魔術はあまりにも代償がでかすぎる。材料を揃えるのもそうだが、大量の魔力だって必要だ。いくらあの弟が首席だとしても、黒魔術を扱うほどの魔力を持ち合わせているとは考えにくい。それに、今の時代昔みたく協力者を募って魔力を合算することも難しい。
もし仮に何らかの方法で成功させても、黒魔術を使用した人間には“黒い模様”が体の何処かしらに現れる。そんな、いつバレてもおかしくないことを――少なくとも、彼が騎士団長の養子である以上、使ったとは考えづらい。
となると、やはり洗脳か調教の類いなのか⋯⋯
「?ウィーリア、どうした、ボーッとして。電気消すぞ?」
しかし、洗脳を受けた人を見分ける技術は今の僕にはない。確かに沢山の時間を共にした彼なら洗脳もできるかもしれないが、弟のロイが兄であるレイを洗脳する理由が思いつかない。
⋯でも、おかしいだろ。あんな、あんな凶暴で、身の毛のよだつような気配を放つ男を、さも当然のように“かわいい”と言うのは。全身鳥肌が立つほどの視線を持つあの猛獣相手に恐怖心を抱かないのは。
ただの人見知り?そんな訳無い。あれは、そんな次元じゃない。
そう、きっと何か理由があるはずだ。レイがあの気配を間近で受けてもなんとも無い、理由が。
きっとあるはずだ。僕が思いつかないだけで、なにか、まだ―――
「ウィーリア?」
⋯⋯でももし、何もレイが受けていない場合、この場合、あの威圧を一切感じないレイの方が、おかしいんじゃ―――
「うお、なんだこれ。見たことない魔法式だな―――」
「う、うわっ!!?」
やっと気づいたか、とでも言うような顔をするレイに謝罪の言葉を入れつつ、僕は持っていた本を急いで枕元へとしまった。
「さっきの何だったんだ?見たことない魔法式だったけど」
「そっ、そうなんだ。昔のやつで、考古学の本にちょうど載ってたんだ」
「ふーん。なぁ、その本読み終わったら貸してよ」
「だっ、だめ!!⋯⋯あ、こっ、これは僕の家で代々受け継がれてるものだからさ⋯⋯」
一瞬声を荒げてしまったせいで、レイを驚かせてしまった⋯⋯でも、しょうがないんだ。
そうしていると、廊下から見回り点検をしている先生の足音が徐々に近づいてくるのに気づいたレイが、急いで電気を消し、自分の布団に潜り込んだ。僕も後を追うように、急いで布団に潜ると、枕下にしまっていた本を抱えて、それを隠すように体を小さくまるめた。
⋯⋯これも、大切な親友のため。初めてできた、“本当の友達”のため。今はまだ、分からないけど。その時が来たら―――
やけに冷え込む初夏の夜。静寂に包まれた王都の中で一人、ウィーリア-メイは、そう固く心に刻んだ。
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