俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬

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入学編

第八話 : 魔法オタクの二人組

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いたっ⋯!くっそぉ、やっぱ早起きは慣れるもんじゃないだろ!」

午前五時。右手首にチクリと針を指したような痛みが走り、慌てて起き上がった俺は、隣のベッドで寝ているウィーリアを起こさないように、静かにベッドから立ち上がった。
まだ少しじんわりと痛みを帯びた右手首には、昨日の夜に書いた魔法式の影響により、直径1センチほどの赤い楕円の跡が、くっきりと残っていた。

「⋯やっぱり今回も消えないか。にしても毎回、地味に痛いんだよな。」

ウィーリアを起こさないようにゆっくりとベッドから立ち上がった俺は、そっと自身の机の引き出しを開け、中から一つの紙を取り出した。
そこには、以前からストックしていた“転移魔法”の魔法式が書かれていた。

魔法式を書いた紙を床に広げ、自身の魔力を注いだ俺は、眠っているウィーリアに一言、「行ってきます」と呟くと同時に、紙と共にその場から姿を消した。



◆◆◆◆◆



「ふぅ、いやぁ~やっぱりここは落ち着くな!」

壁一面を埋め尽くす本の数々。床一面を覆い尽くす数多あまたの論文⋯⋯
昔の魔導書から、最新の研究で発見された魔法式の論文まで、ここにはほぼ全ての魔法についての知識が集結している。そう、ここは魔法オタクにとってこれ以上ない楽園!オアシス!そして俺の、秘密基――

「おい、なにしてるんだ」

「うわっ!?オっ、オリアス先生、なんで居るんですか!!?」

突然の後ろからの見知った声に、俺は体をビクつかせ、声を大にして驚きの声を上げた。

「居るもなにも、ここは俺の部屋だろ」

「はい、そうでしたね⋯⋯」

し、心臓飛び出るかと思ったぁ⋯⋯
⋯そう、ここは俺の秘密基地。そう言いたいが、実際は、この鬼教師、ギン-オリアスの作業部屋だ。

オリアス先生は俺の所属している、いや、俺だけが所属している魔術部の顧問兼、高等魔法学の教師をしている。

《高等魔法⋯⋯魔法式には「初級・中級・上級・高級」とあり、その中でも会得が難しいとされる「上級・高級魔法」のこと。》

“鬼のオリアス”というあだ名が付けられる程の厳しさぶりはもはや学校内での常識だ。
校則厳守、よく居眠りしている生徒を死なない程度の上級魔法で叩き起こしたり、実践訓練では一人、上級魔法を連発して生徒たちを保健室送りにする⋯まぁ、つまり生徒をいたぶるのが好きな先生なわけだが、俺は案外、この先生を気に入っている(まぁ鬼なのは認めるが)。

授業を真面目に取り組む生徒はきちんと評価するし、上級魔法を習得したいという生徒には忙しい中、授業の合間を縫って教えたり。⋯まぁそれでも、生徒をいたぶる事のが特段多いから、人を全然寄せ付けないんだよな⋯⋯

「先生、今仕事終わりですか?」

「あぁ、テストの採点が思ったより時間がかかった」

眉間にかなりのシワを寄せ、少し掠れた声でそう言うと、先生はドア付近の床に置かれた、人一人ひとひとり丸々包み込める程の包容力を持ったクッションに、倒れ込み、身を任せた。

「悪いが、今日はお前の創作に付き合えない。寝させてもらう」

「分かりました、ゆっくり寝てください。あ、俺が作った目覚まし魔法使いますか?」

「⋯あれは痛みを伴うだろう。朝はゆっくり起きたい派なんだ」

そう言うと先生はクッションに身を委ねたまま、深い眠りについた。
⋯さてと、じゃあ俺は今のうちに目覚まし魔法の改良でもやりますか。


魔法を使う事において魔法式は、なくてはならない存在だ。
魔法を使うには二種類の方法があり、一つは古代文字で書かれた魔法式を、現代の言葉に置き換えて唱える詠唱魔法。そしてもう一つは、魔法式を魔法陣の形や、文字式のように変形し、魔力を流し込んで発動させる出力魔法だ。
俺がさっき使った“転移魔法”は出力魔法で、魔法陣の形に魔法式を変形させたものだ。ていうか詠唱魔法は、俺みたいな魔力少量派のやつがバンバン使えるものじゃない。あれは、魔法陣を“書く”労力がいらない代わりに、魔法陣の倍程の魔力を消費するからな。はぁ、俺も魔力が多かったら、もっといろいろ試せたりするんだけど⋯


床に散らかっている論文を踏まないように気をつけながら、部屋の一番奥にある机へと足を運ぶ。にしてもこの散乱具合⋯⋯師匠の事思い出すなぁ。元気にしてるといいけど。
洒落た窓枠の窓を正面に構えたこの場所は、外の景色がよく見えるため、俺と先生のお気に入りの場所となっている。

いつもは放課後に来てたけど、ここ最近は魔法式の改良とか創作やらで朝に来ることも多いんだよな。今の時期はこの時間帯でも朝焼けが見えて綺麗だし。
ほのかで落ち着く光を正面で浴びながら、俺は転移の際に持ってきたノートに、今朝の症状、これまでの結果と合わせた分析案、そして、思いつく限りの改善案や考察案をひたすら書き連ねた。

「目覚まし魔法かぁ。うーん、痛いのはまぁこの際、起きれたらなんでも良いんだが、問題は痛みと同時に跡が残ることなんだよな。この前なんて、この跡を見て勘違いしたウィーリアが「誰にされたの!?」なんて言って、説明するの大変だったし⋯⋯発動した瞬間には消えてるようにしたいんだけど、いったいどの部分が間違ってたんだか」

凝りに凝った肩を叩きながら、俺は魔法式から変形して作った文字式を手当たり次第に変えていき、跡を残さない方法をさぐり始めた。
本棚から目ぼしい魔導書を取り出しては、読んで考察、読んで改良を繰り返し、いつの間にか、机を照らす光が強くなっていた。

「ふあぁ、もうこんな時間か。んじゃ、そろそろ戻るとするか」

ノートの一番後ろに挟んでおいた転移魔法の紙を取り出し、床に置く。

「⋯⋯あ、そういや昨日、ウィーリアが隠した魔導書、あれ、どっかで見たことあるんだよな。放課後になったら調べてみるか、この部屋ん中にあるかもしれないし」

そうして魔法陣に魔力を注ぎながら、昨夜の記憶を辿っていると、いつの間にか俺は寮の部屋へと戻ってきていた。

⋯うーん、どこだったっけなぁ。父さんの職場の図書館?いやでも、そもそもあんな重厚で、しかも今まで一度も見たことのない、黒表紙の本。俺なら忘れないと思うんだけどな⋯
⋯⋯⋯少しだけなら、見てもいいよな?あの表紙だけでも⋯

持っていたノートを落とさないようにしっかりと掴んだ俺は、丸まって、魔導書を抱き枕のように抱えて眠るウィーリアの横まで行くと、しゃがみ込み、彼を起こさないように慎重に魔導書に顔を近づける―――すんでの所で、俺の計画は突如として失敗に終わった。

「⋯んん、レイ?どうしたの、そんなところで」

ウィーリアが重いまぶたをこすっている間に立ち上がって距離を取った俺は、なんとか誤魔化す事に成功した。あ、危なかったぁ⋯⋯ウィーリアは怒ったら怖いからな。いつもは元気ハツラツな大型犬なのに急に冷たくなる。うぅっ、前に魔力の使いすぎでぶっ倒れて寝込んだ時の、あのウィーリアの顔と言ったら、怖かったなぁ⋯⋯まぁ俺が悪いんだけど。

しばらくして体を起こしたウィーリアにつられ、大きく伸びをした俺は、食堂が開くまでの間、ウィーリアと共に朝の身支度を開始した。起きた彼が咄嗟に、隠すようにしまったあの黒表紙の魔導書の事を考えながら。
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