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第一部 海野麻帆
10 お供え
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姉が亡くなってから、あたしは料理をしなくなった。
もともと姉が美味しいと褒めてくれるから、嬉しくていろいろ作るようになった。一緒に作ることも楽しかったから。
姉を失うとの同時に、料理への意欲を失くしていた。
でも、求めてくれるなら。
お供えをすれば味わえるなら、喜んでくれるなら。
「わかった。何がいい?」
「そうだね。何がいいかなあ」
お姉ちゃんは部屋をうろうろと歩きながら考えている。その姿はとても楽しそう。
「カップケーキ。ホイップクリームとチェリーかイチゴがのってると嬉しいな」
「よし、久しぶりに作ってみようかな。材料買ってこないとだね」
「お姉ちゃん、楽しみだな」
わくわくしているお姉ちゃんを見ていると、あたしもわくわくしてきた。
◇
「じゃあ、カップケーキ作ります」
「嬉しい♡」
目尻を下げたお姉ちゃんが、ニコニコと微笑んでいる。
こんなわくわくした顔を見せられたら、失敗はできないと、気合が入る。
ママに必要な材料を買っておいてもらって、土曜日の朝からキッチンに立った。
プレーンとチョコの二種類のカップケーキを作ろうと思っている。
ホットケーキミックスは使わない。
バターと卵と牛乳を冷蔵庫から取り出す。常温に戻さないとうまく混ざらないから。
量った薄力粉とベーキングパウダーをふるって粉を均一に。こっちはプレーン用。
チョコ用の分には、砂糖の入っていないココアを一緒にふるう。
温度が上がって柔らかくなったバターを、泡立て器で混ぜる。クリーム状になったら、砂糖を加えて、白っぽくなるまですり混ぜる。
「すり混ぜるって何?」
スマホで作り方を見ていたお姉ちゃんの質問に、「こうやるの」と見せる。
ボウルの底に泡立て器をつけて、こすりつけるように混ぜる。
姉は「へえー」と言いながら、頷いた。
溶いた卵を数回に分けて加えてよく混ぜてから、牛乳を半分、粉を半分、混ざったら残りの牛乳、粉を入れて粉っぽさがなくなるまで混ぜると、プレーン用の生地ができあがり。
生地をカップの七分目くらいまで入れると、六個分になった。
チョコ用の生地も同じようにして作ってから、オーブンを180度になるように予熱。
カップに流し込み、一口サイズのチョコをトッピング。こっちは半分にしたので、七個分になった。
ピピピと予熱完了の音が鳴って、天板にカップを載せて、スタート。
「何分?」
「20分ぐらいかな」
「楽しみだなあ♪」
オーブンの前で中を覗き込んでいるお姉ちゃんが子どもっぽくて可愛いい。
焼き上がるまでの間に、あたしはホイップ作り。
冷蔵庫でよく冷やした生クリーム、棚からハンドブレンダーを取り出す。泡だて器用のアタッチメントを装着。
ブレンダーで攪拌していく。
動物性の生クリームを買ったから、すぐにホイップができあがり。
絞り袋に半分ぐらいの量のホイップを入れて、残りはタッパへ。
「膨らんできたよ~」
声を弾ませた姉の背中から、オーブンの中を覗き込む。
「良い感じ」
生地がカップからぷくりと膨らんで、美味しそうな色合いをしている。
「匂いもすごく良いよ」
「お姉ちゃんは匂わない。鼻が詰まってるような気分だよ」
残念そうに呟きながら、じっとケーキを見つめる。
姉の注意が逸れている間に、あたしはフルーツを切り、サンドイッチ用のパンにホイップとフルーツを乗せて、さらにホイップでサンドして、ラップで包んで冷蔵庫に入れておいた。
焼き上がりを知らせるブザーが鳴った。
「開けて開けて」
請われるままにオーブンの扉を開けた。
熱気とともに、濃厚なケーキの香りが溢れるように出てくる。
「きゃあー、美味しそう」
匂いがしなくても、心待ちにしているのが伝わってくる。
竹串を刺して、生地がついてこないのを確認した。
ホイップをフロスティングするには冷ましてからでないとできない。
待ちわびているお姉ちゃんのために、熱々のプレーンとチョコを一個ずつ取り出してお皿に置き、お姉ちゃんの骨壺の前にお供えした。
「いただきます」
手を合わせたお姉ちゃんの横顔を見ながら、あたしも出来立てのプレーンを食べる。
『おいしい~』
お姉ちゃんと声が合わさる。ふんわりと軽く、何個でも食べられそう。
「焼き立ては手作りの特権だね」
「うん、最高だね。麻帆、ありがとう」
美味しい物を食べられる喜び以上に、お姉ちゃんが喜んでくれているのが、なによりも幸福。
頑張って作って良かったと思える瞬間だった。
冷めてからホイップを絞って、上にチェリーを乗せる。
色付きのチョコもふりかけると、可愛らしさが増した。
「フルーツサンドも作っておいたんだ」
「ええ?! フルーツサンド、食べたい」
お姉ちゃんが驚きで丸まった目を輝かせる。この顔が見たくて、注意がケーキに向いている間にフルーツサンドを作っておいた。
ラップの上から切って割る。
「おお~、映え」
お姉ちゃんの感嘆の声が聞けて、あたしは嬉しくて仕方がない。
イチゴとオレンジとキウイが、白いクリームの中で色鮮やか。まるで花が咲いているかのよう。とてもきれいな断面図になった。
もちろんお供えして、お姉ちゃんに味わってもらった。
実際に手に取って味っているわけではないけれど、目をつぶって幸せそうな顔をしているのを見ると、満足してくれているのがよくわかった。
堪能してくれた姉が、もう冷蔵庫に戻しておいていいよというので、冷やしておく。
そして仕事を終えて帰ってきたママと一緒に、お昼に食べた。
ママも喜んで味わってくれていた。
もともと姉が美味しいと褒めてくれるから、嬉しくていろいろ作るようになった。一緒に作ることも楽しかったから。
姉を失うとの同時に、料理への意欲を失くしていた。
でも、求めてくれるなら。
お供えをすれば味わえるなら、喜んでくれるなら。
「わかった。何がいい?」
「そうだね。何がいいかなあ」
お姉ちゃんは部屋をうろうろと歩きながら考えている。その姿はとても楽しそう。
「カップケーキ。ホイップクリームとチェリーかイチゴがのってると嬉しいな」
「よし、久しぶりに作ってみようかな。材料買ってこないとだね」
「お姉ちゃん、楽しみだな」
わくわくしているお姉ちゃんを見ていると、あたしもわくわくしてきた。
◇
「じゃあ、カップケーキ作ります」
「嬉しい♡」
目尻を下げたお姉ちゃんが、ニコニコと微笑んでいる。
こんなわくわくした顔を見せられたら、失敗はできないと、気合が入る。
ママに必要な材料を買っておいてもらって、土曜日の朝からキッチンに立った。
プレーンとチョコの二種類のカップケーキを作ろうと思っている。
ホットケーキミックスは使わない。
バターと卵と牛乳を冷蔵庫から取り出す。常温に戻さないとうまく混ざらないから。
量った薄力粉とベーキングパウダーをふるって粉を均一に。こっちはプレーン用。
チョコ用の分には、砂糖の入っていないココアを一緒にふるう。
温度が上がって柔らかくなったバターを、泡立て器で混ぜる。クリーム状になったら、砂糖を加えて、白っぽくなるまですり混ぜる。
「すり混ぜるって何?」
スマホで作り方を見ていたお姉ちゃんの質問に、「こうやるの」と見せる。
ボウルの底に泡立て器をつけて、こすりつけるように混ぜる。
姉は「へえー」と言いながら、頷いた。
溶いた卵を数回に分けて加えてよく混ぜてから、牛乳を半分、粉を半分、混ざったら残りの牛乳、粉を入れて粉っぽさがなくなるまで混ぜると、プレーン用の生地ができあがり。
生地をカップの七分目くらいまで入れると、六個分になった。
チョコ用の生地も同じようにして作ってから、オーブンを180度になるように予熱。
カップに流し込み、一口サイズのチョコをトッピング。こっちは半分にしたので、七個分になった。
ピピピと予熱完了の音が鳴って、天板にカップを載せて、スタート。
「何分?」
「20分ぐらいかな」
「楽しみだなあ♪」
オーブンの前で中を覗き込んでいるお姉ちゃんが子どもっぽくて可愛いい。
焼き上がるまでの間に、あたしはホイップ作り。
冷蔵庫でよく冷やした生クリーム、棚からハンドブレンダーを取り出す。泡だて器用のアタッチメントを装着。
ブレンダーで攪拌していく。
動物性の生クリームを買ったから、すぐにホイップができあがり。
絞り袋に半分ぐらいの量のホイップを入れて、残りはタッパへ。
「膨らんできたよ~」
声を弾ませた姉の背中から、オーブンの中を覗き込む。
「良い感じ」
生地がカップからぷくりと膨らんで、美味しそうな色合いをしている。
「匂いもすごく良いよ」
「お姉ちゃんは匂わない。鼻が詰まってるような気分だよ」
残念そうに呟きながら、じっとケーキを見つめる。
姉の注意が逸れている間に、あたしはフルーツを切り、サンドイッチ用のパンにホイップとフルーツを乗せて、さらにホイップでサンドして、ラップで包んで冷蔵庫に入れておいた。
焼き上がりを知らせるブザーが鳴った。
「開けて開けて」
請われるままにオーブンの扉を開けた。
熱気とともに、濃厚なケーキの香りが溢れるように出てくる。
「きゃあー、美味しそう」
匂いがしなくても、心待ちにしているのが伝わってくる。
竹串を刺して、生地がついてこないのを確認した。
ホイップをフロスティングするには冷ましてからでないとできない。
待ちわびているお姉ちゃんのために、熱々のプレーンとチョコを一個ずつ取り出してお皿に置き、お姉ちゃんの骨壺の前にお供えした。
「いただきます」
手を合わせたお姉ちゃんの横顔を見ながら、あたしも出来立てのプレーンを食べる。
『おいしい~』
お姉ちゃんと声が合わさる。ふんわりと軽く、何個でも食べられそう。
「焼き立ては手作りの特権だね」
「うん、最高だね。麻帆、ありがとう」
美味しい物を食べられる喜び以上に、お姉ちゃんが喜んでくれているのが、なによりも幸福。
頑張って作って良かったと思える瞬間だった。
冷めてからホイップを絞って、上にチェリーを乗せる。
色付きのチョコもふりかけると、可愛らしさが増した。
「フルーツサンドも作っておいたんだ」
「ええ?! フルーツサンド、食べたい」
お姉ちゃんが驚きで丸まった目を輝かせる。この顔が見たくて、注意がケーキに向いている間にフルーツサンドを作っておいた。
ラップの上から切って割る。
「おお~、映え」
お姉ちゃんの感嘆の声が聞けて、あたしは嬉しくて仕方がない。
イチゴとオレンジとキウイが、白いクリームの中で色鮮やか。まるで花が咲いているかのよう。とてもきれいな断面図になった。
もちろんお供えして、お姉ちゃんに味わってもらった。
実際に手に取って味っているわけではないけれど、目をつぶって幸せそうな顔をしているのを見ると、満足してくれているのがよくわかった。
堪能してくれた姉が、もう冷蔵庫に戻しておいていいよというので、冷やしておく。
そして仕事を終えて帰ってきたママと一緒に、お昼に食べた。
ママも喜んで味わってくれていた。
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