【完結】二度目のお別れまであと・・・

衿乃 光希

文字の大きさ
47 / 59
第三部 仲良し姉妹

47 受賞発表

しおりを挟む
「第1位、最優秀賞は、タイカービング、藤村アルンさん」
「おおーーー!!!」
 拍手と同時に、どよめきが上がった。
 胸を張って、堂々と歩いて行く藤村くんを目で追う。

「残念。お姉ちゃんは悔しい」
 お姉ちゃんが悔しがっている。
「藤村くんの作品、圧倒的だったもん」
 あたしは、この結果に納得していた。

 イチゴ・みかん・オレンジ・りんご・バナナ・パイン・キウイ・アボカド・パパイヤに、大きさの違う花が咲き、ニンジンや大根のカラフルなウサギや蝶が遊んでいる。ブロッコリーの茎を半分に切った中にはリスの親子が。
 メルヘンな世界の頂点を統べるのは、もはやどうやって切ったのか想像もできない、ニンジンの孔雀。
 同い年の高校生が作ったとは思えないその出来、華やかさは、芸術作品の域に達していた。

 藤村くんは頭の上で賞状を掲げて、満面の笑みで盛大に喜んでいた。

「どの作品も三年間の学びを活かし、申し分ない出来栄えでした。みなさん、よく頑張りました」
 歓びムードと、落胆ムードの漂う食堂を見渡した安堂先生が続ける。
「いくつかの作品に、特別賞を贈ります」

「おー!」
 生徒たちの期待が込められた歓声が上がる。

「西洋料理部門、西尾友加ゆかさん、日本料理部門、井手真人いでまなとさん、製パン・スイーツ部門、山口美郷みさとさん、最後に校長賞、海野麻帆さん。全員前に集合してください」

「え?」
「麻帆! 呼ばれたよ! 校長賞だって、すごい。すごいよ!」
 お姉ちゃんが頭の中ではしゃぐ中、あたしは驚きで体が動かず、山口さんに腕を組まれて連れて行ってもらった。

 やるだけのことはやった。ベストを尽くした。結果に繋がらなくても構わないと、本気で思った。
 それなのに。
 クラスメイト43人いる中の、7人に入れた。選んでもらえた。

 クラスメイトや保護者たちが目の前で拍手をしてくれている。
 でもあたしの手は震え、足が震え、どこを見たらいいのかわからない。
 校長先生から手渡された賞状をうまく掴めず、落としそうになるほどの、パニック状態だった。

「麻帆、やったじゃない」
「よくやった。おめでとう!」
 元の場所に戻ってきて、ママにハグされた。パパは頭を撫でてくれた。

「ママ、嬉し過ぎて泣いちゃう」
 体を離したママの顔を見ると、涙でぐしょぐしょだった。

 やっと、パニック状態から抜け出し、あたしは今こそパパとママに感謝の気持ちを伝えないと、と思った。
「あのね‥‥‥」
 切りだそうとしたタイミングで、「海野さん」としゃがれた声がかかった。
 
 振り返ると、校長先生が立っていた。
「海野さんの作品、大変楽しかった。味はもちろんだが、食べたことのない世界中の料理を目でも舌でも楽しめた。きっとたくさん考えて、練習もしたのだろうと、伝わった。その頑張りと遊び心を評価したかった。今後も研鑽を続けてください」

「はい! 校長先生、ありがとうございました」
 わざわざ理由まで伝えに来てくれた校長先生に、自然と頭が下がった。

「頑張りと遊び心を評価してくれたって。良かったわね、ちゃんと見てもらえて」
 ハンカチで顔を拭ったのに、ママはまた目を潤ませている。

 あたしは、両親に向き直る。
「ママ、パパ。たくさん心配かけてきて、ごめんなさい。調理科に転科させてくれてありがとう」

 改まって言ったことはなかった。
 だけど、いつかきちんと伝えないと、とは思っていた。
 照れずにちゃんと言えてよかった。
 さっき以上に決壊した両親の涙を見て、心から思った。

 ♢

「麻帆、校長賞だって。良かったね~」
 片付けを終えて、帰路に着く。
 パパとママは先に帰って、あたしはお姉ちゃんと小声で話しながら歩いていた。

「お姉ちゃん、賞状受け取ってくれてありがとう。落としちゃうところだったよ」
「もらった直後に落とすなんて、もったいないでしょ」

 震える手で力が入らず、受け取り損ねて落としかけたところ、お姉ちゃんが指に力を入れて、賞状を掴んでくれた。

「あたしの体使うの、慣れてきたんじゃない」
「わりと滑らかに動かせるようになったけど、麻帆は気持ち悪くないの? 自分の体、他人に使われて」

「お姉ちゃんなら平気だよ。ここっていう時にしか、動かさないでしょ」
「まあ、あまりやったら悪いと思ってるからね」

「信頼してるから、大丈夫だよ。料理してる時は、止めて欲しいけど」
「それは絶対にしない。見てる方が楽しいもん」
「それわかる。きれいな包丁さばきは、見てて気持ち良いよね」

 お弁当の詰める作業を終えてから、藤村くんのカービングの技術を見た時には、見惚れてしばらく動けなかった。
 専用のナイフで切り込みをいれ、切り取った箇所を取り除く。それを繰り返すと、きれいな花が出来上がった。
 これずっとみていられるやつだ、と興味を惹かれた。

 そして、出来上がった芸術作品に、惜しげもなく包丁を入れて、カットし、食べた。フルーツはそのまま、野菜は火を入れて、味をつけて。

 あたしたちは食べる物として調理をする。それとは違う気がしたから、藤村くんがふつうにみんなに配っていて、驚いた。

 食べられる芸術。
 と言われているらしい。

「タイカービング、いつかあたしもやってみようかな」
「教室に習いに行くのもいいかもね」
「そうだね」
 やってみたいな、そんな衝動に突き動かされた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら

赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。 問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。 もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?

処理中です...