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18.似たもの親子
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「弟の大地は、小さくて我慢がわからないからと、大和にばかり、我慢を強いてしまったんです。その方が、私が楽だったから」
お母さんはのどをつまらせながら、話した。
「大地は一度泣くと、なかなか止まらなくて。できるだけ泣かさないように、先回りするようにしていたんです。欲しがるものはすぐに与えて、機嫌を取っていました。それを五歳になっても続けていて、我が家では当たり前になっていました」
お母さんは、まるで罪を告白しているようで。聞いていて心が少しつらくなった。
僕は不思議の世界で見たダイチ君を知っているから。
火がついたみたいにギャーと泣き叫ぶダイチ君を見たから。
泣かさないようにしようとするお母さんの気持ちがわかる。
「今回のことで、私が大和に甘えていたことがわかって。昨日、大和と話して、謝りました」
「だからって物に当たっちゃダメだよ。弟の目の前で」
ヤマト君がぽつりと言う。
ヤマト君はお母さんと仲直りしたのに、それでも自分を責めているんだ。
「大和はとても優しいんです。私はその優しさに甘えてしまいました。もっとしっかりしなくちゃダメですね」
お母さんは鼻をすすった。かばんからハンカチを取り出して、目元を拭く。
ダイチ君は唇を引き結んでいた。
静かな店内。一人いたお客さんがコーヒーを飲んだのか、食器がカチリと小さな音を立てた。
「お二人は、よく似ていますね」
カウンターの中にいたじいじが、お母さんに話しかけた。
「そうですか?」
お母さんはハンカチで顔を拭いてから、顔を上げた。少し嬉しそうにしているように見える。
「ええ。ご自分を責めるところがね」
すごく優しい口調で、じいじが続ける。
「そんなに自分を責めたらいけませんよ。人間なんて不完全なものなんです。間違いを起こします。大切なのは、間違ったことに気がついて、その後どう行動するか、です」
「その後の行動ですか?」
お母さんが首を傾けた。
じいじがヤマト君に顔を向ける。
「大和君は、やってしまったことを後悔しましたね。同じことがあった時、また物に当たりますか? 人に当たりますか?」
「もうしません」
じいじに訊かれたヤマト君は、強く頭を横に振った。
「反省したのなら、もう気に病まなくていいんですよ。おもちゃは直りました。これからは大切に遊んでください。そしてまた壊れてしまったら、修理をしましょう。おもちゃは壊れてしまうものです。修理ができるなら、直せばいいんです」
ヤマト君の全身から、重たい雰囲気が消えた。
ようやく明るい笑顔になって、「はい」と答える。
じいじはお母さんにも目を向けた。
「お母さんは、周囲への気遣いができる、すばらしい方ですよ。子供さんが泣くと、周りに迷惑をかけてしまうと思っているのではないですか」
お母さんは、はっとしたように、目を見開いた。そしてうなずいた。
「子供は放っておいても育つ、なんて言うけれど、そんなわけないわよねえ」
今度はばあばが口を開いた。
「教育をしないと迷惑をかけてしまった時に周囲は冷たいし。どうしても場当たり的な対応をしてしまうわよね。大丈夫。あなたは頑張っているわよ」
ばあばも優しい。
「人に頼ったり甘えたりして、気を抜いていい時間を作れるといいわね。コーヒー、美味しかったでしょう。疲れたときは、また飲みに来てちょうだいな。弟さんもぜひ一緒に」
ばあばの口調と言葉は、温かくて、包みこんでくれるような優しさで溢れていた。
武井親子はジュースとコーヒーを飲み干し、帰っていった。
じいじは修理代金だけ受け取った。飲み物代はサービスですと。
お母さんとヤマト君は「また来ます」と、明るい笑顔を浮かべた。
武井親子が帰ってから、僕はじいじに質問をした。
「ねえじいじ。修理した場所にわざと傷をつけていたけど、どうして他の場所の傷を取ろうとしなかったの?」
新品同様になった方が、ヤマト君の心がすっきり晴れたんじゃないかなと思った。
僕を見たじいじが、優しく微笑んだ。
「じいじはな、傷のひとつひとつが思い出だと思うんだ。それが知らないうちについた傷でもな。遊んだからこそ、手によくなじむ。遊んだからこそ傷がつく。大和君は汚れや傷を含めて大切にしている子だと思ったからだよ」
僕はじいじが言ったことを、頭の中でゆっくりと理解していった。
「汚れも傷も思い出……それじゃ、勝手に消して新品みたいになってたら、悲しいね」
「わかってるじゃないか」
じいじは僕の頭をなでて、ほめてくれた。
お母さんはのどをつまらせながら、話した。
「大地は一度泣くと、なかなか止まらなくて。できるだけ泣かさないように、先回りするようにしていたんです。欲しがるものはすぐに与えて、機嫌を取っていました。それを五歳になっても続けていて、我が家では当たり前になっていました」
お母さんは、まるで罪を告白しているようで。聞いていて心が少しつらくなった。
僕は不思議の世界で見たダイチ君を知っているから。
火がついたみたいにギャーと泣き叫ぶダイチ君を見たから。
泣かさないようにしようとするお母さんの気持ちがわかる。
「今回のことで、私が大和に甘えていたことがわかって。昨日、大和と話して、謝りました」
「だからって物に当たっちゃダメだよ。弟の目の前で」
ヤマト君がぽつりと言う。
ヤマト君はお母さんと仲直りしたのに、それでも自分を責めているんだ。
「大和はとても優しいんです。私はその優しさに甘えてしまいました。もっとしっかりしなくちゃダメですね」
お母さんは鼻をすすった。かばんからハンカチを取り出して、目元を拭く。
ダイチ君は唇を引き結んでいた。
静かな店内。一人いたお客さんがコーヒーを飲んだのか、食器がカチリと小さな音を立てた。
「お二人は、よく似ていますね」
カウンターの中にいたじいじが、お母さんに話しかけた。
「そうですか?」
お母さんはハンカチで顔を拭いてから、顔を上げた。少し嬉しそうにしているように見える。
「ええ。ご自分を責めるところがね」
すごく優しい口調で、じいじが続ける。
「そんなに自分を責めたらいけませんよ。人間なんて不完全なものなんです。間違いを起こします。大切なのは、間違ったことに気がついて、その後どう行動するか、です」
「その後の行動ですか?」
お母さんが首を傾けた。
じいじがヤマト君に顔を向ける。
「大和君は、やってしまったことを後悔しましたね。同じことがあった時、また物に当たりますか? 人に当たりますか?」
「もうしません」
じいじに訊かれたヤマト君は、強く頭を横に振った。
「反省したのなら、もう気に病まなくていいんですよ。おもちゃは直りました。これからは大切に遊んでください。そしてまた壊れてしまったら、修理をしましょう。おもちゃは壊れてしまうものです。修理ができるなら、直せばいいんです」
ヤマト君の全身から、重たい雰囲気が消えた。
ようやく明るい笑顔になって、「はい」と答える。
じいじはお母さんにも目を向けた。
「お母さんは、周囲への気遣いができる、すばらしい方ですよ。子供さんが泣くと、周りに迷惑をかけてしまうと思っているのではないですか」
お母さんは、はっとしたように、目を見開いた。そしてうなずいた。
「子供は放っておいても育つ、なんて言うけれど、そんなわけないわよねえ」
今度はばあばが口を開いた。
「教育をしないと迷惑をかけてしまった時に周囲は冷たいし。どうしても場当たり的な対応をしてしまうわよね。大丈夫。あなたは頑張っているわよ」
ばあばも優しい。
「人に頼ったり甘えたりして、気を抜いていい時間を作れるといいわね。コーヒー、美味しかったでしょう。疲れたときは、また飲みに来てちょうだいな。弟さんもぜひ一緒に」
ばあばの口調と言葉は、温かくて、包みこんでくれるような優しさで溢れていた。
武井親子はジュースとコーヒーを飲み干し、帰っていった。
じいじは修理代金だけ受け取った。飲み物代はサービスですと。
お母さんとヤマト君は「また来ます」と、明るい笑顔を浮かべた。
武井親子が帰ってから、僕はじいじに質問をした。
「ねえじいじ。修理した場所にわざと傷をつけていたけど、どうして他の場所の傷を取ろうとしなかったの?」
新品同様になった方が、ヤマト君の心がすっきり晴れたんじゃないかなと思った。
僕を見たじいじが、優しく微笑んだ。
「じいじはな、傷のひとつひとつが思い出だと思うんだ。それが知らないうちについた傷でもな。遊んだからこそ、手によくなじむ。遊んだからこそ傷がつく。大和君は汚れや傷を含めて大切にしている子だと思ったからだよ」
僕はじいじが言ったことを、頭の中でゆっくりと理解していった。
「汚れも傷も思い出……それじゃ、勝手に消して新品みたいになってたら、悲しいね」
「わかってるじゃないか」
じいじは僕の頭をなでて、ほめてくれた。
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