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第9章 ラスボス確定:縁故採用と「ルールの悪用」
合法の中の不正
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縁故採用リストは“合法”の顔をしていた。制度としては、ある会社もある。書面も整っている。でも——外部弁護士が見ているのは制度じゃない。運用だ。
「合法の中に、不正は隠れます」
外部弁護士が淡々と言った。
「今回は“運用の証拠”を出してください」
情シス担当が、会議室の画面を切り替えた。一覧表でも、フロー図でもない。ログだ。
タイトルは短い。
「アクセス権付与・取り消し履歴(HR-SEP-015関連)」
そこに、三つの“合法”が並んでいた。
1. アクセス権の付与(権限者が実行)
2. アクセス権の取り消し(権限者が実行)
3. ファイルのコピー(許可された操作)
全部、合法。規程上、できる。だからこそ、不正が混じる。
情シス担当が言った。
「問題は“順番”です」
画面に、時刻が並ぶ。
・22:11:HR-SEP-015 編集権限付与(Legal_Desk)
・22:17:文言変更(“週明けの午前”→“月曜の午前”)
・22:19:閲覧権限付与(特別ルート採用アカウント)
・22:20:閲覧権限取り消し(同アカウント)
・22:42:外部流出(外部で確認された文言と一致)
外部弁護士が、ペンを止めた。
「19分から20分、たった1分」
情シス担当が頷く。
「はい。1分だけ“見せる”運用です」
監査室長が低い声で言った。
「閲覧しただけなら問題ない」
情シス担当が、冷たく返す。
「閲覧だけなら、1分で消しません」
——合法の中の不正。それは“やったこと”じゃなく、“やり方”に出る。
外部弁護士が言う。
「このアカウントに閲覧させた理由は?」
法務が答えようとした。
「業務上の必要性——」
外部弁護士が遮らず、質問を重ねる。
「業務上、1分だけ見せる必要性とは?」
法務の声が止まった。
沈黙が、証拠になる。合法の説明ができないとき、運用は不正に寄る。
外部弁護士が、縁故採用フローの注記を指した。
「緊急時は監査形式チェックを省略可(後追い)」
「“緊急”は便利な言葉です」
「緊急を使うと、誰がいつ省略したかが曖昧になる」
情シス担当が、別のログを出す。
「省略フラグ:ON」
その横に、入力者。
Legal_Desk
外部弁護士が、静かに確認した。
「省略をONにできるのは誰ですか」
情シス担当が答える。
「法務の管理者権限です」
——合法。権限の範囲内。でも、権限を使うタイミングが“外部流出直前”なら、話は変わる。
社長が、初めて視線を上げた。
「省略は、後追いで必ず埋めるルールだ」
外部弁護士が頷く。
「では“後追いの記録”を出してください」
情シス担当が、静かに首を振った。
「ありません」
会議室の空気が、また凍る。
“ありません”は、最強の運用証拠だ。やったことより、埋めなかったことが残る。
法務の柔らかい声が、もう出てこない。代わりに、事務の声で言った。
「権限付与は通常運用です」
外部弁護士が返す。
「通常なら、なぜその人に“1分”だけ?」
「……」
「通常なら、なぜ“省略ON”が必要?」
「……」
「通常なら、なぜ後追い記録が“ない”?」
質問は、刃じゃない。逃げ道を塞ぐ壁だ。
監査室長が絞り出すように言った。
「運用が乱れたのは、外部流出で現場が混乱して——」
外部弁護士が淡々と言う。
「混乱は“前”です。時刻がそう言っています」
時刻は嘘をつかない。だから私は、まだ喋らない。
外部弁護士が私に目配せする。
「先ほどの勤務地変更の個別案内、提出してください」
私はスマホの画面を見せた。件名、期限、同席不可。テンプレと同じ文言。例外なし。
外部弁護士が言う。
「この個別案内が“今この場”で送られた理由は?」
法務が言いかける。
「業務上の——」
外部弁護士が静かに切る。
「調査の場で、対象者に圧をかける運用は妥当ですか?」
社長が低い声で言った。
「妥当ではない」
その一言で、会社の言い訳が崩れる。崩れた瞬間、運用は“意図”に近づく。
外部弁護士が最後にまとめた。短く、切れ味だけ残す。
「制度は合法でも、運用が“口封じ・責任回避・証拠消し”に向いた瞬間、不正の疑いは成立します」
「今出たのは、運用の証拠です。——次は“誰が指示したか”です」
佐伯の瞬きが、また増えた。神谷の名前は、まだ出ていない。でも運用の線は、もう一本に収束し始めている。
私は胃の痛みを抱えたまま、冷たい芯だけを保った。合法の皮を剥ぐのに必要なのは、正義じゃない。順番と、時刻と、原本。
「合法の中に、不正は隠れます」
外部弁護士が淡々と言った。
「今回は“運用の証拠”を出してください」
情シス担当が、会議室の画面を切り替えた。一覧表でも、フロー図でもない。ログだ。
タイトルは短い。
「アクセス権付与・取り消し履歴(HR-SEP-015関連)」
そこに、三つの“合法”が並んでいた。
1. アクセス権の付与(権限者が実行)
2. アクセス権の取り消し(権限者が実行)
3. ファイルのコピー(許可された操作)
全部、合法。規程上、できる。だからこそ、不正が混じる。
情シス担当が言った。
「問題は“順番”です」
画面に、時刻が並ぶ。
・22:11:HR-SEP-015 編集権限付与(Legal_Desk)
・22:17:文言変更(“週明けの午前”→“月曜の午前”)
・22:19:閲覧権限付与(特別ルート採用アカウント)
・22:20:閲覧権限取り消し(同アカウント)
・22:42:外部流出(外部で確認された文言と一致)
外部弁護士が、ペンを止めた。
「19分から20分、たった1分」
情シス担当が頷く。
「はい。1分だけ“見せる”運用です」
監査室長が低い声で言った。
「閲覧しただけなら問題ない」
情シス担当が、冷たく返す。
「閲覧だけなら、1分で消しません」
——合法の中の不正。それは“やったこと”じゃなく、“やり方”に出る。
外部弁護士が言う。
「このアカウントに閲覧させた理由は?」
法務が答えようとした。
「業務上の必要性——」
外部弁護士が遮らず、質問を重ねる。
「業務上、1分だけ見せる必要性とは?」
法務の声が止まった。
沈黙が、証拠になる。合法の説明ができないとき、運用は不正に寄る。
外部弁護士が、縁故採用フローの注記を指した。
「緊急時は監査形式チェックを省略可(後追い)」
「“緊急”は便利な言葉です」
「緊急を使うと、誰がいつ省略したかが曖昧になる」
情シス担当が、別のログを出す。
「省略フラグ:ON」
その横に、入力者。
Legal_Desk
外部弁護士が、静かに確認した。
「省略をONにできるのは誰ですか」
情シス担当が答える。
「法務の管理者権限です」
——合法。権限の範囲内。でも、権限を使うタイミングが“外部流出直前”なら、話は変わる。
社長が、初めて視線を上げた。
「省略は、後追いで必ず埋めるルールだ」
外部弁護士が頷く。
「では“後追いの記録”を出してください」
情シス担当が、静かに首を振った。
「ありません」
会議室の空気が、また凍る。
“ありません”は、最強の運用証拠だ。やったことより、埋めなかったことが残る。
法務の柔らかい声が、もう出てこない。代わりに、事務の声で言った。
「権限付与は通常運用です」
外部弁護士が返す。
「通常なら、なぜその人に“1分”だけ?」
「……」
「通常なら、なぜ“省略ON”が必要?」
「……」
「通常なら、なぜ後追い記録が“ない”?」
質問は、刃じゃない。逃げ道を塞ぐ壁だ。
監査室長が絞り出すように言った。
「運用が乱れたのは、外部流出で現場が混乱して——」
外部弁護士が淡々と言う。
「混乱は“前”です。時刻がそう言っています」
時刻は嘘をつかない。だから私は、まだ喋らない。
外部弁護士が私に目配せする。
「先ほどの勤務地変更の個別案内、提出してください」
私はスマホの画面を見せた。件名、期限、同席不可。テンプレと同じ文言。例外なし。
外部弁護士が言う。
「この個別案内が“今この場”で送られた理由は?」
法務が言いかける。
「業務上の——」
外部弁護士が静かに切る。
「調査の場で、対象者に圧をかける運用は妥当ですか?」
社長が低い声で言った。
「妥当ではない」
その一言で、会社の言い訳が崩れる。崩れた瞬間、運用は“意図”に近づく。
外部弁護士が最後にまとめた。短く、切れ味だけ残す。
「制度は合法でも、運用が“口封じ・責任回避・証拠消し”に向いた瞬間、不正の疑いは成立します」
「今出たのは、運用の証拠です。——次は“誰が指示したか”です」
佐伯の瞬きが、また増えた。神谷の名前は、まだ出ていない。でも運用の線は、もう一本に収束し始めている。
私は胃の痛みを抱えたまま、冷たい芯だけを保った。合法の皮を剥ぐのに必要なのは、正義じゃない。順番と、時刻と、原本。
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