65 / 80
第9章 ラスボス確定:縁故採用と「ルールの悪用」
縁故採用リスト公開
しおりを挟む
個別案内の通知を“本丸”で出した瞬間、法務の顔色が一段落ちた。期限の刃を、ここでは振れない。振れば振るほど、調査妨害として形になる。
外部弁護士が言った。
「では次に、“人の選別”に関する資料を確認します」
その言葉で、会議室の空気が変わる。異動テンプレも、証言の切り貼りも、全部ここに繋がる。——誰を守って、誰を捨てる会社なのか。
外部弁護士は、封筒を一つ置いた。社外持ち込みの封筒じゃない。会社の管理番号が振られた、内部資料用の封筒だ。
「本日の追加提出物です」
視線が、監査室長に向く。監査室長は頷くだけで、何も言わない。言えば、責任が発生するからだ。
封筒から出てきたのは、A4の一覧表。タイトルは、あまりにも無味乾燥だった。
「採用ルート区分一覧(2019–2025)」
注記:「閲覧範囲:第三者調査チーム/社長/監査/法務のみ」
さらに太字で一行。
「個人名の社内共有は禁止」
——限定的。公開したくない証拠ほど、“限定”の衣を着る。
外部弁護士が淡々と言った。
「本資料は、社内への公表を目的としません」
「ただし、調査上の必要性から“縁故採用ルート”の存在と、当該ルートが今回の事案にどう絡むかを確認します」
法務が、柔らかい声を作る。
「それはプライバシーの観点から——」
外部弁護士が遮らない。遮らずに、短く刺す。
「だから“限定閲覧”です。こちらは遵守します。代わりに、事実を確認します」
一覧表の中に、区分があった。一般/紹介/提携/転籍——その中に、ひとつだけ異質な欄。
「特別(役員推薦)」
その欄の人数だけが、別の色で囲われている。数字が少ないのに、影が長い。
外部弁護士が言う。
「今回、告発の“焦点ずらし”に使われた人物が、このルートと重なっています」
「つまり、構造として——“守られる人”と“守られない人”の差が、制度として存在する可能性がある」
会議室の端で、社長が一度だけ息を吐いた。感情じゃない。“認めざるを得ない”息だ。
私は黙っていた。ここで「縁故は悪だ」と言ったら、物語になる。必要なのは善悪じゃない。因果だ。
外部弁護士が、次の紙を出す。縁故枠の採用フロー図。承認欄に、名前が並ぶ。
・人事
・法務
・監査(形式チェック)
・役員(推薦)
そして、右下に小さく。
※緊急時は「監査形式チェック」を省略可(後追い)
——省略可。省略できるルートは、逃げ道があるルートだ。逃げ道がある人間は、守られる。
外部弁護士が、私にだけ視線を落とした。
「福本さん、あなたが昨日から戦っている“例外が存在しない”設計と、真逆ですね」
私は頷くだけで返した。言葉にしたら、燃える。
監査室長が、初めて口を開いた。乾いた声。
「……この資料は、社内に出すべきじゃない」
外部弁護士が即答する。
「出しません。だから“限定”です」
一拍。
「ただし——限定で出した以上、隠し通せない事実になりました」
その瞬間、法務の柔らかい声が切り替わる。柔らかさが消え、事務の声になる。
「関係者を不必要に刺激するのは——」
外部弁護士が言った。
「刺激ではなく、構造の確認です」
そして、最初の“限定公開”が、ここで意味を持つ。
「特別(役員推薦)」欄の中に、告発者と同じ部署の人物がいる。さらに、その人物が——HR-SEP-015の配布線に、ほんの一瞬だけ接触しているログ。
情シス担当が、静かに言った。
「アクセス権付与の履歴に、該当アカウントが一度だけ出ています。時刻は、外部流出前」
会議室の空気が凍った。凍った空気は、切り貼りを止める。
外部弁護士が、最後にこう言った。
「縁故採用リストの“限定公開”は、守るための限定ではありません」
「責任の所在を限定するための限定です」
——本丸の中で、守られる側の輪郭が、初めて紙になった。
そして私は理解する。このリストが社内に“全面公開”されることはない。でも全面公開がなくてもいい。限定公開の記録が残った時点で、構造は外部の原本になった。
次に問われるのは、ひとつだけだ。
誰が、誰を守るために、何を省略できる形にしたのか。
外部弁護士が言った。
「では次に、“人の選別”に関する資料を確認します」
その言葉で、会議室の空気が変わる。異動テンプレも、証言の切り貼りも、全部ここに繋がる。——誰を守って、誰を捨てる会社なのか。
外部弁護士は、封筒を一つ置いた。社外持ち込みの封筒じゃない。会社の管理番号が振られた、内部資料用の封筒だ。
「本日の追加提出物です」
視線が、監査室長に向く。監査室長は頷くだけで、何も言わない。言えば、責任が発生するからだ。
封筒から出てきたのは、A4の一覧表。タイトルは、あまりにも無味乾燥だった。
「採用ルート区分一覧(2019–2025)」
注記:「閲覧範囲:第三者調査チーム/社長/監査/法務のみ」
さらに太字で一行。
「個人名の社内共有は禁止」
——限定的。公開したくない証拠ほど、“限定”の衣を着る。
外部弁護士が淡々と言った。
「本資料は、社内への公表を目的としません」
「ただし、調査上の必要性から“縁故採用ルート”の存在と、当該ルートが今回の事案にどう絡むかを確認します」
法務が、柔らかい声を作る。
「それはプライバシーの観点から——」
外部弁護士が遮らない。遮らずに、短く刺す。
「だから“限定閲覧”です。こちらは遵守します。代わりに、事実を確認します」
一覧表の中に、区分があった。一般/紹介/提携/転籍——その中に、ひとつだけ異質な欄。
「特別(役員推薦)」
その欄の人数だけが、別の色で囲われている。数字が少ないのに、影が長い。
外部弁護士が言う。
「今回、告発の“焦点ずらし”に使われた人物が、このルートと重なっています」
「つまり、構造として——“守られる人”と“守られない人”の差が、制度として存在する可能性がある」
会議室の端で、社長が一度だけ息を吐いた。感情じゃない。“認めざるを得ない”息だ。
私は黙っていた。ここで「縁故は悪だ」と言ったら、物語になる。必要なのは善悪じゃない。因果だ。
外部弁護士が、次の紙を出す。縁故枠の採用フロー図。承認欄に、名前が並ぶ。
・人事
・法務
・監査(形式チェック)
・役員(推薦)
そして、右下に小さく。
※緊急時は「監査形式チェック」を省略可(後追い)
——省略可。省略できるルートは、逃げ道があるルートだ。逃げ道がある人間は、守られる。
外部弁護士が、私にだけ視線を落とした。
「福本さん、あなたが昨日から戦っている“例外が存在しない”設計と、真逆ですね」
私は頷くだけで返した。言葉にしたら、燃える。
監査室長が、初めて口を開いた。乾いた声。
「……この資料は、社内に出すべきじゃない」
外部弁護士が即答する。
「出しません。だから“限定”です」
一拍。
「ただし——限定で出した以上、隠し通せない事実になりました」
その瞬間、法務の柔らかい声が切り替わる。柔らかさが消え、事務の声になる。
「関係者を不必要に刺激するのは——」
外部弁護士が言った。
「刺激ではなく、構造の確認です」
そして、最初の“限定公開”が、ここで意味を持つ。
「特別(役員推薦)」欄の中に、告発者と同じ部署の人物がいる。さらに、その人物が——HR-SEP-015の配布線に、ほんの一瞬だけ接触しているログ。
情シス担当が、静かに言った。
「アクセス権付与の履歴に、該当アカウントが一度だけ出ています。時刻は、外部流出前」
会議室の空気が凍った。凍った空気は、切り貼りを止める。
外部弁護士が、最後にこう言った。
「縁故採用リストの“限定公開”は、守るための限定ではありません」
「責任の所在を限定するための限定です」
——本丸の中で、守られる側の輪郭が、初めて紙になった。
そして私は理解する。このリストが社内に“全面公開”されることはない。でも全面公開がなくてもいい。限定公開の記録が残った時点で、構造は外部の原本になった。
次に問われるのは、ひとつだけだ。
誰が、誰を守るために、何を省略できる形にしたのか。
0
あなたにおすすめの小説
You Could Be Mine ぱーとに【改訂版】
てらだりょう
恋愛
高身長・イケメン・優しくてあたしを溺愛する彼氏はなんだかんだ優しいだんなさまへ進化。
変態度も進化して一筋縄ではいかない新婚生活は甘く・・・はない!
恋人から夫婦になった尊とあたし、そして未来の家族。あたしたちを待つ未来の家族とはいったい??
You Could Be Mine【改訂版】の第2部です。
↑後半戦になりますので前半戦からご覧いただけるとよりニヤニヤ出来るので是非どうぞ!
※ぱーといちに引き続き昔の作品のため、現在の状況にそぐわない表現などございますが、設定等そのまま使用しているためご理解の上お読みいただけますと幸いです。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
なぜ私?スパダリCEOに捕獲され推しの秘書になりました
あいすらん
恋愛
落ち込んでいた私が見つけた最高の趣味。
それは完璧スパダリCEOの「声」を集めること。
動画サイトで最高のイケボを見つけた私、倉田ひかりは、声を録音するためだけに烏丸商事の会社説明会へ。
失業中の元ピアノ講師には、お金のかからない最高のレクリエーションだったのに。
「君、採用」
え、なんで!?
そんなつもりじゃなかったと逃げ出したのに、運命は再び私と彼を引き合わせる。
気づけば私は、推しの秘書に。
時短の鬼CEO×寄り道大好き迷子女。
正反対な2人が繰り広げる、イケボに溺れるドタバタラブコメ!
決して飼いならされたりしませんが~年下御曹司の恋人(仮)になります~
北館由麻
恋愛
アラサーOLの笑佳は敬愛する上司のもとで着々とキャリアを積んでいた。
ある日、本社からやって来たイケメン年下御曹司、響也が支社長代理となり、彼の仕事をサポートすることになったが、ひょんなことから笑佳は彼に弱みを握られ、頼みをきくと約束してしまう。
それは彼の恋人(仮)になること――!?
クズ男との恋愛に懲りた過去から、もう恋をしないと決めていた笑佳に年下御曹司の恋人(仮)は務まるのか……。
そして契約彼女を夜な夜な甘やかす年下御曹司の思惑とは……!?
こじらせ女子の恋愛事情
あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26)
そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26)
いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。
なんて自らまたこじらせる残念な私。
「俺はずっと好きだけど?」
「仁科の返事を待ってるんだよね」
宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。
これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。
*******************
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる