恋愛禁止条項の火消し屋は、子会社社長を守る側に立つ

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第9章 ラスボス確定:縁故採用と「ルールの悪用」

縁故採用リスト公開

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個別案内の通知を“本丸”で出した瞬間、法務の顔色が一段落ちた。期限の刃を、ここでは振れない。振れば振るほど、調査妨害として形になる。

外部弁護士が言った。

「では次に、“人の選別”に関する資料を確認します」

その言葉で、会議室の空気が変わる。異動テンプレも、証言の切り貼りも、全部ここに繋がる。——誰を守って、誰を捨てる会社なのか。

外部弁護士は、封筒を一つ置いた。社外持ち込みの封筒じゃない。会社の管理番号が振られた、内部資料用の封筒だ。

「本日の追加提出物です」

視線が、監査室長に向く。監査室長は頷くだけで、何も言わない。言えば、責任が発生するからだ。

封筒から出てきたのは、A4の一覧表。タイトルは、あまりにも無味乾燥だった。

「採用ルート区分一覧(2019–2025)」
注記:「閲覧範囲:第三者調査チーム/社長/監査/法務のみ」

さらに太字で一行。

「個人名の社内共有は禁止」

——限定的。公開したくない証拠ほど、“限定”の衣を着る。

外部弁護士が淡々と言った。

「本資料は、社内への公表を目的としません」
「ただし、調査上の必要性から“縁故採用ルート”の存在と、当該ルートが今回の事案にどう絡むかを確認します」

法務が、柔らかい声を作る。

「それはプライバシーの観点から——」

外部弁護士が遮らない。遮らずに、短く刺す。

「だから“限定閲覧”です。こちらは遵守します。代わりに、事実を確認します」

一覧表の中に、区分があった。一般/紹介/提携/転籍——その中に、ひとつだけ異質な欄。

「特別(役員推薦)」

その欄の人数だけが、別の色で囲われている。数字が少ないのに、影が長い。

外部弁護士が言う。

「今回、告発の“焦点ずらし”に使われた人物が、このルートと重なっています」
「つまり、構造として——“守られる人”と“守られない人”の差が、制度として存在する可能性がある」

会議室の端で、社長が一度だけ息を吐いた。感情じゃない。“認めざるを得ない”息だ。

私は黙っていた。ここで「縁故は悪だ」と言ったら、物語になる。必要なのは善悪じゃない。因果だ。

外部弁護士が、次の紙を出す。縁故枠の採用フロー図。承認欄に、名前が並ぶ。

・人事
・法務
・監査(形式チェック)
・役員(推薦)

そして、右下に小さく。

※緊急時は「監査形式チェック」を省略可(後追い)

——省略可。省略できるルートは、逃げ道があるルートだ。逃げ道がある人間は、守られる。

外部弁護士が、私にだけ視線を落とした。

「福本さん、あなたが昨日から戦っている“例外が存在しない”設計と、真逆ですね」

私は頷くだけで返した。言葉にしたら、燃える。

監査室長が、初めて口を開いた。乾いた声。

「……この資料は、社内に出すべきじゃない」

外部弁護士が即答する。

「出しません。だから“限定”です」

一拍。

「ただし——限定で出した以上、隠し通せない事実になりました」

その瞬間、法務の柔らかい声が切り替わる。柔らかさが消え、事務の声になる。

「関係者を不必要に刺激するのは——」

外部弁護士が言った。

「刺激ではなく、構造の確認です」

そして、最初の“限定公開”が、ここで意味を持つ。

「特別(役員推薦)」欄の中に、告発者と同じ部署の人物がいる。さらに、その人物が——HR-SEP-015の配布線に、ほんの一瞬だけ接触しているログ。

情シス担当が、静かに言った。

「アクセス権付与の履歴に、該当アカウントが一度だけ出ています。時刻は、外部流出前」

会議室の空気が凍った。凍った空気は、切り貼りを止める。

外部弁護士が、最後にこう言った。

「縁故採用リストの“限定公開”は、守るための限定ではありません」
「責任の所在を限定するための限定です」

——本丸の中で、守られる側の輪郭が、初めて紙になった。

そして私は理解する。このリストが社内に“全面公開”されることはない。でも全面公開がなくてもいい。限定公開の記録が残った時点で、構造は外部の原本になった。

次に問われるのは、ひとつだけだ。

誰が、誰を守るために、何を省略できる形にしたのか。
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