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第一章「愛されぽっちゃり双子と悪役令嬢の姉」
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「会ったこともないのに、婚約者だって。つまりその方は、私の旦那様になるってことよね」
二人の体を何人並べても足りないほどに長い廊下を歩きながら、ケイティベルがぽつりと呟く。誰が聞いても、喜んでいるとは思えない声色だ。
「嫌なら、僕からお母様に頼んであげようか?」
「だけど、すごく喜んでいたわ。私の為に一生懸命素敵な人を探してくれたのに、わがままなんて言えない」
今回婚約が決まったのは、ケイティベルだけ。ルシフォードは内心「僕はまだで良かった」と思いながらも、大好きな双子の片割れを心から心配する。
「婚約するのが嫌なんじゃなくて、遠い外国の第二王子っていうのが悲しいの。だって、結婚したら私はこの国にはいられないし、大好きな家族と離れ離れになっちゃう」
ふっくらした頬っぺたはいつも持ち上がり、にこにこと笑っていることの多いケイティベルが、悲しげに眉を下げている。ルシフォードの方が泣きそうになり、姉の左手をぎゅっと握った。
ただでさえさっき、リリアンナの言葉に傷付けられたばかり。今日はあまり素敵な一日じゃないと、彼の眉も自然と下がる。
「大好きなルーシーと会えなくなるなんて、そんなの耐えられない」
「そうだ、僕の婚約者も同じ国の令嬢にしてもらえばいいんだ。ベルと一緒にトレンヴェルド王国に住むよ!」
「ダメよ!貴方はこの家の後継なんだから」
ケイティベルは弟の手を握り返すと、ぶんぶんと首を左右に振った。
「でも、僕もベルと離れたくない」
「どうにかして、ずっと一緒にいられる方法はないかしら?」
「やっぱり、お父様とお母様にお願いしてみようよ!二人で一生懸命説得したら、なんとかなるかも!」
「そうよね、そうしてみましょう!」
二人は互いに涙を拭いながら、顔を見合わせて笑う。まだまだ世間を知らない子どもは、当然この婚約の意味を深く理解していない。エトワナ公爵家は王族の傍系であり、その血を受け継ぐケイティベルを外国の妃とすることは双方にとって大きな意味を持っている。
母ベルシアが彼女の幸せを願う気持ちに偽りはないが、国王を含む王家に打算がないといえば嘘になる。いくら絶大な権力を有する公爵家だとしても、家族と離れたくないからなどという理由でこちらから断れないことは明白だった。
「……泣き顔も愛らしいけれど、二人が悲しむ姿は見たくないわ」
双子の様子をこっそりと見守っていたのは、姉であるリリアンナ。結局彼女は、馬車を使わずドレスにヒール姿で中庭から屋敷へと戻ってきた。心拍数は普段の数倍に跳ね上がっているが、それを感じさせないポーカーフェイスは得意中の得意。
ルシフォードとケイティベルの会話を盗み聞いていたリリアンナは、大切な弟妹をなんとかして救ってやりたいと、人知れず心を痛めるのだった。
それから時は経ち、いよいよ十歳の誕生日パーティー当日。母ベルシアからの婚約話を聞いてからというもの、ケイティベルの表情は浮かないまま。ルシフォードと二人で「外国の王子様とは結婚したくない」と両親に訴えたが、慈愛に満ちた表情で慰められるだけ。
「私も、貴女と離れるのはとても辛いわ。けれど彼が一番好条件の相手であることは確かなの。必ず貴女を幸せに導いてくれる」
ベルシアはケイティベルを優しく抱き締めながら、柔らかな金髪を撫でる。彼女はちゃんと母の気持ちを理解しているが、それでも寂しいものは寂しい。
「ベル、元気出して。色んな人に聞いて回ったけど、君の婚約者は良い人だってみんな言ってた」
「分かってるけど、外国に行きたくない」
フリルがたっぷりあしらわれたレモンイエローのドレスは、彼女の白い肌によく映えている。髪はティアラのように編み込まれ、ドレスと同じく黄系統の生花が散りばめられていた。首元には、真新しい宝石のペンダントがぴかぴかと輝いている。
「まだまだ時間はあるし、大丈夫だよ。もしエドモンド王子がベルを嫌いになったら、結婚もなしになるかもしれないし」
ケイティベルとお揃いの、レモンイエローのスーツ。白いシャツや靴を合わせて、悪目立ちしないように上手くコーディネートされている。
ぽっちゃりした体型にフィットするようにあつらえたドレスとスーツは、二人の可愛らしさをこれでもかと引き立てていた。
「確かに!じゃあ、嫌われるように頑張ればいいんだ!」
「どうやって?」
「どうしよう」
膝を突き合わせてひそひそと作戦会議をしてみても、一向に名案が浮かばない。誰からも愛され素直に育ってきた二人は、どんなふうに振る舞えば嫌われることが出来るのか分からなかったし、いたずらに人を傷付けるのも嫌だった。
二人の体を何人並べても足りないほどに長い廊下を歩きながら、ケイティベルがぽつりと呟く。誰が聞いても、喜んでいるとは思えない声色だ。
「嫌なら、僕からお母様に頼んであげようか?」
「だけど、すごく喜んでいたわ。私の為に一生懸命素敵な人を探してくれたのに、わがままなんて言えない」
今回婚約が決まったのは、ケイティベルだけ。ルシフォードは内心「僕はまだで良かった」と思いながらも、大好きな双子の片割れを心から心配する。
「婚約するのが嫌なんじゃなくて、遠い外国の第二王子っていうのが悲しいの。だって、結婚したら私はこの国にはいられないし、大好きな家族と離れ離れになっちゃう」
ふっくらした頬っぺたはいつも持ち上がり、にこにこと笑っていることの多いケイティベルが、悲しげに眉を下げている。ルシフォードの方が泣きそうになり、姉の左手をぎゅっと握った。
ただでさえさっき、リリアンナの言葉に傷付けられたばかり。今日はあまり素敵な一日じゃないと、彼の眉も自然と下がる。
「大好きなルーシーと会えなくなるなんて、そんなの耐えられない」
「そうだ、僕の婚約者も同じ国の令嬢にしてもらえばいいんだ。ベルと一緒にトレンヴェルド王国に住むよ!」
「ダメよ!貴方はこの家の後継なんだから」
ケイティベルは弟の手を握り返すと、ぶんぶんと首を左右に振った。
「でも、僕もベルと離れたくない」
「どうにかして、ずっと一緒にいられる方法はないかしら?」
「やっぱり、お父様とお母様にお願いしてみようよ!二人で一生懸命説得したら、なんとかなるかも!」
「そうよね、そうしてみましょう!」
二人は互いに涙を拭いながら、顔を見合わせて笑う。まだまだ世間を知らない子どもは、当然この婚約の意味を深く理解していない。エトワナ公爵家は王族の傍系であり、その血を受け継ぐケイティベルを外国の妃とすることは双方にとって大きな意味を持っている。
母ベルシアが彼女の幸せを願う気持ちに偽りはないが、国王を含む王家に打算がないといえば嘘になる。いくら絶大な権力を有する公爵家だとしても、家族と離れたくないからなどという理由でこちらから断れないことは明白だった。
「……泣き顔も愛らしいけれど、二人が悲しむ姿は見たくないわ」
双子の様子をこっそりと見守っていたのは、姉であるリリアンナ。結局彼女は、馬車を使わずドレスにヒール姿で中庭から屋敷へと戻ってきた。心拍数は普段の数倍に跳ね上がっているが、それを感じさせないポーカーフェイスは得意中の得意。
ルシフォードとケイティベルの会話を盗み聞いていたリリアンナは、大切な弟妹をなんとかして救ってやりたいと、人知れず心を痛めるのだった。
それから時は経ち、いよいよ十歳の誕生日パーティー当日。母ベルシアからの婚約話を聞いてからというもの、ケイティベルの表情は浮かないまま。ルシフォードと二人で「外国の王子様とは結婚したくない」と両親に訴えたが、慈愛に満ちた表情で慰められるだけ。
「私も、貴女と離れるのはとても辛いわ。けれど彼が一番好条件の相手であることは確かなの。必ず貴女を幸せに導いてくれる」
ベルシアはケイティベルを優しく抱き締めながら、柔らかな金髪を撫でる。彼女はちゃんと母の気持ちを理解しているが、それでも寂しいものは寂しい。
「ベル、元気出して。色んな人に聞いて回ったけど、君の婚約者は良い人だってみんな言ってた」
「分かってるけど、外国に行きたくない」
フリルがたっぷりあしらわれたレモンイエローのドレスは、彼女の白い肌によく映えている。髪はティアラのように編み込まれ、ドレスと同じく黄系統の生花が散りばめられていた。首元には、真新しい宝石のペンダントがぴかぴかと輝いている。
「まだまだ時間はあるし、大丈夫だよ。もしエドモンド王子がベルを嫌いになったら、結婚もなしになるかもしれないし」
ケイティベルとお揃いの、レモンイエローのスーツ。白いシャツや靴を合わせて、悪目立ちしないように上手くコーディネートされている。
ぽっちゃりした体型にフィットするようにあつらえたドレスとスーツは、二人の可愛らしさをこれでもかと引き立てていた。
「確かに!じゃあ、嫌われるように頑張ればいいんだ!」
「どうやって?」
「どうしよう」
膝を突き合わせてひそひそと作戦会議をしてみても、一向に名案が浮かばない。誰からも愛され素直に育ってきた二人は、どんなふうに振る舞えば嫌われることが出来るのか分からなかったし、いたずらに人を傷付けるのも嫌だった。
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お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
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