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第一章「愛されぽっちゃり双子と悪役令嬢の姉」
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「これはルーシーが私にくれたの、だからそんな言い方しないで!」
ふくふくした短い両手をいっぱいに伸ばして、大好きな弟を庇うように抱き締める。リリアンナを睨みつける瞳に傷付いたのは事実だが、それよりも「私も抱き締められたい」と羨む気持ちの方が遥かに勝っていた。
「そう、分かったわ」
「お、怒ってる……?」
「いいえ」
可愛い弟妹に怒りが湧くはずない。けれど不器用で恥ずかしがり屋で、意外と卑屈で臆病なリリアンナは、いつも素直な思いを伝えられずにいる。自分が両親から好かれていないと知っているから、仲良くすることで愛する二人に迷惑が掛かるのではないかと、そんな風に考えていたのだ。
「先に戻っているわ」
ブラックドレスの裾をひらりと翻しながら、リリアンナは視線だけを向ける。ルシフォードとケイティベルは顔を見合わせながら、あからさまにほっとした表情を浮かべた。
彼女が足を踏み出した拍子に、ケイティベルが落としていた花冠を誤って踏んでしまった。それはぐしゃりと崩れて、もう頭に被せることは出来ない。
「ごめんさい、ケイティベル。わざとではないの」
「そんなの分からないじゃない、お姉様のいじわる!」
彼女が編んだそれは、お世辞にも出来がいいとは言えなかった。先ほど萎れた花に言及したリリアベルは、きっと不出来な花冠が気に入らなかったのだと、そんなふうに思ってしまったのだ。
「待って、ベル!」
ルシフォードは、大粒の涙を流しながら駆け出す双子の姉を見て、すぐにその背中を追う。自身が泣きそうだったことなどすっかり頭から抜け落ちていた。
「……私が来ない方が、あの二人を傷付けずに済んだわね」
ひとりぼっちになったリリアベルの嘆きは、涼やかな時津風に流されて消える。どうしていつもこうなのだろうと、情けなくて泣きたくなった。
リリアンナと双子の母であるベルシアは、それは美しい女性だった。しかし根っからの貴族令嬢でプライドが高く、他者から非難されるのが大嫌い。リリアンナを産んだ時女児であることを夫に責められた瞬間、もうその子を可愛いと思えなくなってしまった。その後双子を出産するまでの八年間も決して順風満帆とはいかず、夫が妾を作るたびに虐めたおして追い出した。
やっと授かった第二子が男女の双子という事実は彼女を助け、同時に自尊心も満たしてくれた。ふくふくとした白い肌と、ころころと変わる表情。甘やかな香りを漂わせながら、母親を求めて可愛らしい声で泣く。
ベルシアの中にはもともと自分の手で子育てをするという選択肢がない為、もちろん双子の世話も乳母の役目。それでも顔を合わせている間はめいいっぱい愛の言葉を伝え、たくさんのプレゼントも贈った。
二人は両親を心から愛しているが、もしも乳母が人格者ではなかったならもっと横暴で意地悪に育っていたかもしれない。リリアンナは双子と違い、周囲に恵まれなかったのだ。
「お母様のお話って、私の婚約者のことだったのね」
「僕たちの誕生日パーティーで、皆にも発表するって言ってたね」
屋敷に戻った二人は、母ベルシアと共にパーラーでお茶とお菓子を楽しみながら、間近に迫った十歳の誕生日についての話を聞かされた。そして、ケイティベルの婚約相手がようやく決まったということも。
なかなかベルシアのお眼鏡に叶う相手が見つからなかったのだが、国王から推薦された他国の第二王子を可愛い娘の婚約相手に決めた。
名前はエドモンド・レスティン・トレンヴェルド。ケイティベルの五つ上で、剣の才能に恵まれた豪傑な美丈夫。英明果敢な兄の補佐役として、将来を有望視される素敵な青年だった。
ふくふくした短い両手をいっぱいに伸ばして、大好きな弟を庇うように抱き締める。リリアンナを睨みつける瞳に傷付いたのは事実だが、それよりも「私も抱き締められたい」と羨む気持ちの方が遥かに勝っていた。
「そう、分かったわ」
「お、怒ってる……?」
「いいえ」
可愛い弟妹に怒りが湧くはずない。けれど不器用で恥ずかしがり屋で、意外と卑屈で臆病なリリアンナは、いつも素直な思いを伝えられずにいる。自分が両親から好かれていないと知っているから、仲良くすることで愛する二人に迷惑が掛かるのではないかと、そんな風に考えていたのだ。
「先に戻っているわ」
ブラックドレスの裾をひらりと翻しながら、リリアンナは視線だけを向ける。ルシフォードとケイティベルは顔を見合わせながら、あからさまにほっとした表情を浮かべた。
彼女が足を踏み出した拍子に、ケイティベルが落としていた花冠を誤って踏んでしまった。それはぐしゃりと崩れて、もう頭に被せることは出来ない。
「ごめんさい、ケイティベル。わざとではないの」
「そんなの分からないじゃない、お姉様のいじわる!」
彼女が編んだそれは、お世辞にも出来がいいとは言えなかった。先ほど萎れた花に言及したリリアベルは、きっと不出来な花冠が気に入らなかったのだと、そんなふうに思ってしまったのだ。
「待って、ベル!」
ルシフォードは、大粒の涙を流しながら駆け出す双子の姉を見て、すぐにその背中を追う。自身が泣きそうだったことなどすっかり頭から抜け落ちていた。
「……私が来ない方が、あの二人を傷付けずに済んだわね」
ひとりぼっちになったリリアベルの嘆きは、涼やかな時津風に流されて消える。どうしていつもこうなのだろうと、情けなくて泣きたくなった。
リリアンナと双子の母であるベルシアは、それは美しい女性だった。しかし根っからの貴族令嬢でプライドが高く、他者から非難されるのが大嫌い。リリアンナを産んだ時女児であることを夫に責められた瞬間、もうその子を可愛いと思えなくなってしまった。その後双子を出産するまでの八年間も決して順風満帆とはいかず、夫が妾を作るたびに虐めたおして追い出した。
やっと授かった第二子が男女の双子という事実は彼女を助け、同時に自尊心も満たしてくれた。ふくふくとした白い肌と、ころころと変わる表情。甘やかな香りを漂わせながら、母親を求めて可愛らしい声で泣く。
ベルシアの中にはもともと自分の手で子育てをするという選択肢がない為、もちろん双子の世話も乳母の役目。それでも顔を合わせている間はめいいっぱい愛の言葉を伝え、たくさんのプレゼントも贈った。
二人は両親を心から愛しているが、もしも乳母が人格者ではなかったならもっと横暴で意地悪に育っていたかもしれない。リリアンナは双子と違い、周囲に恵まれなかったのだ。
「お母様のお話って、私の婚約者のことだったのね」
「僕たちの誕生日パーティーで、皆にも発表するって言ってたね」
屋敷に戻った二人は、母ベルシアと共にパーラーでお茶とお菓子を楽しみながら、間近に迫った十歳の誕生日についての話を聞かされた。そして、ケイティベルの婚約相手がようやく決まったということも。
なかなかベルシアのお眼鏡に叶う相手が見つからなかったのだが、国王から推薦された他国の第二王子を可愛い娘の婚約相手に決めた。
名前はエドモンド・レスティン・トレンヴェルド。ケイティベルの五つ上で、剣の才能に恵まれた豪傑な美丈夫。英明果敢な兄の補佐役として、将来を有望視される素敵な青年だった。
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