おっさん付与術師の冒険指導 ~パーティーを追放された俺は、ギルドに頼まれて新米冒険者のアドバイザーをすることになりました~

日之影ソラ

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15.予想外の脅威

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 その男を、人々は認めなかった。
 勇者と共に立ち上がった四人。
 彼もそのうちの一人。
 天に告げられ、世界から選ばれた存在だった。

 だが、人々は彼を認めない。
 圧倒的な力を持ち、悪魔とも対等に渡り合えても。
 相応しくないと、不釣り合いだと罵り、認めようとしなかった。
 それでも彼は、人々を守るために戦った。
 街を襲った悪魔を討ち滅ぼし、魔物の大群すら一人で退けた。
 彼は何千、何万という人々を救った。
 
 そうして彼は、英雄と呼ばれるようになった。
 彼に助けられ、守られて、ようやく彼を認めたのだ。
 同時に理解した。
 なぜ最初、彼を認めなかったのか。
 人々は彼を認めなかったのではなく、認めたくなかったのだ。
 彼のジョブが、世間では不遇と呼ばれていたから。
 彼の持つ才能が、あまりにも異端で、恐ろしいものだったから。
 それでも彼は英雄となった。

 否――英雄と呼ばせたのだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 最終日。
 彼女たち三人でサザーク森林に足を踏み入れた。
 そこにシオンの姿はない。
 彼は一人、街に残っている。

「何か最終試験って感じだな」
「そうだね! 頑張らなくっちゃ!」
「うん」

 ステラの言った通り、これは最終試験で間違いない。
 指定されたクエスト三つを、自分たちの力だけで達成できるかどうか。
 この二週間の指導、特訓の成果を見せるため、彼女たちは森を進む。

「トラップ見っけ!」
「よし! これで三か所目だね」
「さすがに場所は覚えたもんな~ フィー、薬草のほうは?」

 ソフィーがエイド草の入ったカゴを見せる。
 トラップを回りながら、エイド草を見つけては彼女が回収していた。
 それと同時に、彼女はウルフの痕跡も探している。

「ウルフは?」
「たぶん、この辺にはいない」

 ソフィーはぶんぶんと首を振って答えた。
 その後もトラップをめぐり、最後の一つにたどり着く。

「これで五つ目だね」
「だな。薬草もバッチリだろ?」
「うん」

 ソフィアはかごにたくさん入ったエイド草を見せる。
 トラップの回収も終わり、残るクエストは一つ。

「ウルフだな!」
「うん。まず痕跡を探さないと」
「あっち」

 ソフィアが指をさす。
 二人の視線が一本の木に集まる。
 よく見ると、木の一部が剥がれているのがわかった。

「この爪痕……ウルフだよな?」
「間違いないね。ウルフは縄張りを主張するために、こうやって目印を残す……ってシオンさんも前に言ってたから」

 痕跡を見つけ、他にもないか探っていく。
 足跡、毛、爪痕がないか見回す。
 見つけたら次、さらに次と探っていき、群れの場所を突き止める。

「この先にいそうだね」
「うん」
「なんか楽勝だったな~」
「ちょっとステラ、気を抜いちゃ駄目だよ」
「わかってるって。シオンに怒られるのは嫌だしな」

 そう言って、ステラは苦笑いした。
 この二週間で、おそらく彼女が一番シオンに怒られている。
 彼女は二週間を頭の中で振り返る。

「シオンってすごいよな~ 強化!とか言うだけで味方を強くできちゃうんだもん」
「そうだね。敵の動きを遅くしたりも出来るし」
「何でもあり」
「だよな~」

 唐突に始まった会話が、ここで一旦会話が止まる。
 三人の頭には、同じ言葉が浮かんでいた。

「でもさ? 付与術師ってあんま強くないって言われてるんだろ?」
「そうなんだよねぇ……何でなのかな?」
「さぁ? 終わったら直接聞いてみようぜ」
「……そうだね。今はこっちに集中しよう!」
「おう!」

 その時、近くの茂みから音が聞こえる。
 三人は瞬時に警戒を強め、音のした方向を見る。
 すると――

「ぐっ……うぅ……」

 現れたのは、血だらけの男性だった。

「だ、大丈夫ですか!?」
「何があったんだよ!」

 急いで三人が駆け寄る。
 人を見て多少安心したのか、男性は木にもたれ掛かって足を止めた。

「君たちも……冒険者か?」
「はい!」
「ら、ランクは?」
「Fです」
 
 ミルアの返答を聞いて、男性は絶望したような表情を見せる。

「F……駄目だ。君たちも早く逃げろ」
「な、どういうことだよ! 何があったんだ!?」
「奥から……と……」
「お、おい!」

 ステラが叫ぶように問いかけると、男性は力なく倒れてしまう。
 ギリギリの状態だったらしく、気力だけで立っていた。
 慌てずミルアが脈を確認する。

「大丈夫、まだ生きてる」
「よ、良かった……応急手当だ!」
「準備した」
「さすがフィー、サンキュー!」

 止血し、傷口には薬草から作った薬を塗る。
 応急処置の仕方も、シオンから伝授されていた。
 簡易的な処置だが、やるのとやらないのでは全然違ってくる。

 処置が終わり、ステラが汗をぬぐう。

「一先ずこれで良いね」
「おう。後は――」

「キャアアアアアアアアアアア!」

 これからどうするか。
 話し出そうとした声を、遠くの叫び声がかき消した。

「何だよ今の!」
「悲鳴……女の人の声だったよ!」
「もしかしてこの人の仲間か? 何かに襲われてるとか……何なんだよもう!」
「冷静」
「わかってるよ。これでもあたしは冷静だ」

 そう言って、ステラは深呼吸をした。
 ソフィアには冷静と言いながら、落ち着いていなかったのが丸わかりだ。
 一呼吸おいて、どうするかを考える。

「エイド草が生えてるし、ここって安全だよな?」
「たぶん、そうだと思う」
「だったら助けに――いや、あたしたちじゃ無理だ」

 途中まで言いかけた言葉を、ステラは自分で否定した。
 悲鳴を聞いて、助けたいと思ったのは彼女だけではない。
 だが、同時にこうも思った。
 こんなとき、シオンなら何て言うのか。

「シオンならきっと、自分の身を守れって言うと思う」
「私もそう思う」
「うん」

 シオンの言葉を頭に浮かべる。
 現実ではなく、彼女たちの頭で連想した言葉でしかない。
 それでもやるべきことは定まった。

「街に戻ろう! まずこの人を助けなきゃ!」
「おう! あたしとミルアで担ぐから、フィーは先導して!」
「うん!」

 そうして、彼女たちは動き出した。
 彼女たちの判断は正しかったと、後にシオンも言うだろう。
 だが、同時に運も悪かった。

 なぜなら――

 脅威はもう、すぐそこに迫っていたのだから。
 
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