聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~

日之影ソラ

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次女カリナ

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 最初の朝は、とても憂鬱だった。
 念願だった司書になれたというのに、身体が起きるのを拒んでいる感じがする。
 大きな図書館で本に囲まれながら仕事が出来るなんて、わたしにとっては夢のような環境だ。
 ただ一つ、余計なものが付いていなければ……

「はぁ」
「カリナお姉ちゃんどうしたの?」
「元気ないわね。今日から司書のお仕事でしょ?」
「もっとシャキッとしなきゃダメだよ~」
「……うん」

 妹にも言われてしまった。
 億劫なのを態度に出してはいけない。
 司書のお仕事でも、知らない人と話したりするわけで、本を読んでいればいいわけじゃないから。

「よし!」

 気合を入れよう。
 余計なものに関しては一先ず忘れて、司書としてしっかり働かなくちゃ。

 自分にそう言い聞かせ、わたしは図書館へと足を運んだ。
 三度目になる図書館への来館。
 今度はお客さんとしてではなく、働く従業員としてだ。

「えっと……」

 初日は館長さんが仕事の説明をしてくれる予定になっている。
 わたしは中へ入ってから、受付の近くをキョロキョロしていた。
 すると、後ろからトントンと肩をたたかれる。

「おはよう、貴女がカリナさんね?」
「は、はい!」

 振り向くとお淑やかな年上の女性が立っていた。
 ニコリと優しく微笑んでいる。
 胸に館長と書かれた名札が見える。

「初めまして、私が館長のミーアよ」
「カリナです。よ、よろしくお願いします!」
「はい、よろしくお願いします。じゃあこっちに来てもらえるかしら?」

 そう言って案内されたのは、職員用の更衣室だった。
 縦長の棚が並んでいて、服が綺麗に入っている。

「この服に着替えて」
「はい!」

 わたしは言われた通り、用意された服に着替える。
 受付の人が来ていた服と同じだ。
 決して派手じゃないけど、清楚で図書館で働く人って感じがする。

 ジーっと視線を感じる。
 着替えているわたしを、ミーア館長が見つめていた。

「あ、あの……変ですか?」
「ううん。とっても似合っているわ」
「そ、そうですか」
「ええ。それに聞いていた通り、素敵な髪色ね。目も澄んでいて綺麗だわ」
「ありがとう……ございます」

 急に褒められて戸惑ってしまう。
 どんな反応が正しいのかわからないから、オドオドとして目を逸らす。

 そういえば今……

「聞いていた通り?」
「ええ、ナベリスが教えてくれたのよ。髪と目が綺麗な女性だったって」
「そ、そうだったんですね」

 思わぬ流れで彼の名前を耳にして、素直に驚いてしまう。
 わたしが覚えている限りの印象では、そんな風に人を褒めるような感じはしなかったから。
 
 髪と目が綺麗な女性……
 そっか、そうなんだ。
 
「司書の仕事も彼からの推薦よね?」
「は、はい」
「正直最初は驚いたわ。彼が他人を押すなんて信じられなかったもの」
「そ、そうなんですか?」
「そうよ。彼は物凄く人間嫌いで偏屈なの。だから本当に気に入られたのね」

 何とも複雑な気持ちになる。
 彼のお陰で司書になれたし、感謝はしているけど。
 純粋に喜べないから、今は少し申し訳なくすら思っている。

「午前中はこっちの仕事を頑張ってもらうけど、午後からは彼のいる研究室に行ってね。そういう約束になっているから」
「はい。が、頑張ります」
「ええ。彼のこともよろしく頼むわ」

 そんな感じに、司書兼助手としての仕事が始まった。
 司書のお仕事は、わたしが予想していたよりも覚えることが多かった。
 午前中は心の中で弱音を吐きながら仕事を覚えて、あっという間に正午を過ぎる。

 そして――

「アペレート」

 教えてもらった秘密の合言葉を口にして、彼のいる研究室へ足を運ぶ。

「こ、こんにちは」
「ん? ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」

 四角い部屋の奥に椅子と机がある。
 彼はそこに座っていて、机の上には大量の書類が山積みにされていた。
 床にも本や書類、見たことのない物が散乱していて足の踏み場もない。
 他にもガラス瓶のついた魔道具があったり。
 左右の本棚には、難しい題名の本がびっしりと並んでいる。

「さぁこっちへ来てくれ。今日は聞きたいことがたくさんある」
「聞きたいことですか?」
「ああ。この間の話でいくつか疑問点が浮かんだものでな。それを踏まえ、君のことをより深く理解したいと思っている」

 深く理解って……聖女のことでいいよね?
 何だか内容だけだど、口説かれているようにも聞こえる。
 というか、それよりまず……

「あの……」
「何だ?」
「片付けてもいいですか? そっちに行けないので」
「あぁ……そうだな。では頼む」

 助手としての最初のお仕事は、散らかった部屋の片づけだった。
 これが毎日の日課になるなんて、この時はまだ考えもしていない。

「終わりました」
「うむ、ご苦労だった」

 一時間くらいかけて、部屋の掃除を終わらせた。
 ようやく足の踏み場が出来て、彼の所まで近づける。

「ではさっそく聞かせてくれ」
「えっと……何から話せばいいですか?」
「そうだな。生まれた日、場所、時間、家族構成は必要だな。食生活に運動習慣も聞かせてくれ。それと後で身体測定もさせてもらう予定だ」
「えぇ……」

 初めての出勤は、最高にハードな一日になりそうだ。
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