ただ誰かにとって必要な存在になりたかった

風見ゆうみ

文字の大きさ
8 / 19

第7話  綺麗な夜空を眺めた後は…

しおりを挟む
 マチルダ様を先頭に歩いていたはずだったのだけれど、気が付くと、マチルダ様の横にはジェリー様が成長すればこんな男性になるのではないか、と思わせるくらいにジェリー様に似た、整った顔立ちの男性がいて、そして、私の右にはトーマ様、左にはジェリー様。

 後ろには怒り顔の若い男性と女性が歩いていた。
 そうであって欲しくないけれど、たぶん、後ろを歩いているのはフェルエン侯爵夫妻だと思われた。
 女性の赤色の髪はトーマ様と同じだし、男性の顔立ちがトーマ様にそっくりだから。

 それで思い出したのだけど…。

「あの、トーマ様も一緒に行かれるのですか…?」
「そうだ! 僕は当事者だからな!」
「お気持ちはわかりますが……」

 婚約者の浮気現場なんて子供に見せてはいけないものなのでは…?

 挨拶をする事も出来ないままのフェルエン侯爵夫妻に目をやると、奥様の方と目があった。
 慌てて立ち止まって挨拶しようとすると手を軽く上げて制してくる。

「挨拶は後でかまいませんわ。それよりも大事なことがありましてよ」

 フェルエン侯爵夫人はそう言ってから「トーマ、あなたはわたくし達の後から来るように」と付け加えた。

 ビューホ様と婚約者が子供に見せてはいけない状況になっているかもしれないから、そういう場面なら見せない様にしようと思われた様だった。

 そんな状況だったりしたら私は違う意味でショックを受けて卒倒しそうだわ…。

 ビューホ様が悪いと思ってくれる様な人なら良いけれど、そんなタイプではなさそうだもの…。

 結婚した初日からあんな事を言われたから、ビューホ様はまともな方ではないと思っていたけれど、ここまでだったなんて…。

 ビューホ様の中ではフィナさんが一番だから、結婚相手の条件に愛人を認めるというものがあったのかもしれない。
 普通の令嬢の親なら、娘が望んでも絶対にビューホ様には嫁がせない。
 だから、ビューホ様は今まで結婚していなかったのね…。

「………大丈夫か? やはりショックなら、あなたは行かない方がいいんじゃ…」
「そうだよ。無理しなくていいよ」

 よっぽど顔色が悪い様で、ジェリー様とトーマ様が心配してくれるので申し訳なくなる。
 金銭面を調べた時に女性のよく行く店で買い物をしておられるから、シェーラ様が買い物をしていると思い込んでいたけど、ビューホ様が愛人に貢いでいたという可能性も出てきた。

 フィナ様の事を可愛がっているシェーラ様が聞いたら、ビューホ様は実の息子とはいえ、どうなるかわからないわね…。

 もし、ビューホ様が愛人に貢いでいたとするなら、私がお金の動きを止めた事により、貢ぐ事が出来なくなっているから、フィナさんの為にも少しは女性遊びがマシになるといいのだけれど…。

 そういえば、トーマ様は婚約者の浮気現場をおさえたら、どうされるおつもりなのかしら。
 婚約の事に関しては、やはり、ご両親が決められるのでしょうね…。

 マチルダ様達が向かった先は、パーティー会場と繋がっているバルコニーだった。
 赤いカーテンで隠されているせいで、今、バルコニー内はどうなっているかはわからない。
 マチルダ様は興奮している様子で旦那様が冷静になる様に声を掛けていらっしゃるけれど、どうも気持ちを落ち着かせる事は出来ないみたいだった。

 旦那様がカーテンを引き、バルコニーに続く扉を開けると、マチルダ様が中に入っていき、私達の方を振り返って首を縦に振る。

 子供が見ても大丈夫なようで、私達も続けて中に入った。

 バルコニーに出ると、夜風が心地よく、雲がないのか、空には綺麗な星がたくさん見えている。

 綺麗な星空の下で、ビューホ様は女性を口説いていたらしく、私達が入ってきた事に気付きもせずにピンク色のドレスに身を包んだ女性の肩に手を回し、手すりにもたれかかりながら、私達には背を向けた状態で話をしている。

「新しい妻は本当に色気がなくてさ。女性だっていうのに胸の膨らみを感じられないんだ」
「あら、触られた事がございますの?」
「ないよ。見るだけでわかるんだ。触ろうにも触りようがない」
「そんな方と結婚なさったの?」
「しょうがないだろう。こっちは金が目当て。相手は俺の顔だよ」

 別にあなたの顔なんてどうでもいいのですが…。
 私の両親は彼になんと言って私を押し付けたのかしら。

「お金ならいくらでも私が差し上げますのに…。ですから、愛人とはお別れして下さい。それから本妻の方とも…。2人とお別れして私をあなたの妻にして下さい。私には婚約者がいますが、まだ子供なんです。私はあなたの様な素敵な男性が好きなんです」
「イボンヌ、君は本当に可愛いことを言う」

 2人が見つめあい、顔を近付けていったところで、マチルダ様とフェルエン侯爵夫人が、少しずつビューホ様達に近づきながら問い掛ける。

「あなた達、よくもまあ、そんなふざけた話が私達の前で出来るわね!」
「イボンヌ様、私の息子と婚約していながら、既婚者の男性と密会ですの…? どうやらフェルエン侯爵家と争いを起こしたい様ですわね?」
「ひっ!」

 やっと私達に気が付いたビューホ様達だったけれど、マチルダ様達の殺気に情けない声を上げる。

「お、お、お2人がどうしてこんな所に…!?」
「こんな所で失礼しましたわね。ここはフェルエン侯爵邸のダンスホールのバルコニーですが? お気に召しません?」
「そ、そういう訳ではなく…!」

 ビューホ様は涙目になり、トーマ様の婚約者である大人しそうなイボンヌ様はガタガタと震えて、その場にしゃがみ込んでしまう。
 すると、マチルダ様とフェルエン侯爵夫人は、それぞれの旦那様の方に目を向けた。
 その意を察したかの様に、マチルダ様の旦那様は大きな手でトーマ様の視界を遮り、フェルエン侯爵はトーマ様の両耳を手で塞いだ。
 それと同時に、マチルダ様とフェルエン侯爵夫人の叫ぶ声が聞こえた。

「このクズ男!」

 マチルダ様の右手がビューホ様の左頬を、フェルエン侯爵夫人の左手がビューホ様の右頬を打った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す。

ゆずこしょう
恋愛
女騎士として働いてきて、やっと幼馴染で許嫁のアドルフと結婚する事ができたエルヴィール(18) しかし半年後。魔物が大量発生し、今度はアドルフに徴集命令が下った。 「俺は魔物討伐なんか行けない…お前の方が昔から強いじゃないか。か、かわりにお前が行ってきてくれ!」 頑張って伸ばした髪を短く切られ、荷物を持たされるとそのまま有無を言わさず家から追い出された。 そして…5年の任期を終えて帰ってきたエルヴィールは…。

私は愛する婚約者に嘘をつく

白雲八鈴
恋愛
亜麻色の髪の伯爵令嬢。 公爵子息の婚約者という立場。 これは本当の私を示すものではない。 でも私の心だけは私だけのモノ。 婚約者の彼が好き。これだけは真実。 それは本当? 真実と嘘が入り混じり、嘘が真実に置き換わっていく。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字は存在します。 *不快に思われれば、そのまま閉じることをお勧めします。 *小説家になろうでも投稿しています。

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

婚約者から悪役令嬢と呼ばれた公爵令嬢は、初恋相手を手に入れるために完璧な淑女を目指した。

石河 翠
恋愛
アンジェラは、公爵家のご令嬢であり、王太子の婚約者だ。ところがアンジェラと王太子の仲は非常に悪い。王太子には、運命の相手であるという聖女が隣にいるからだ。 その上、自分を敬うことができないのなら婚約破棄をすると言ってきた。ところがアンジェラは王太子の態度を気にした様子がない。むしろ王太子の言葉を喜んで受け入れた。なぜならアンジェラには心に秘めた初恋の相手がいるからだ。 実はアンジェラには未来に行った記憶があって……。 初恋の相手を射止めるために淑女もとい悪役令嬢として奮闘するヒロインと、いつの間にかヒロインの心を射止めてしまっていた巻き込まれヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:22451675)をお借りしています。 こちらは、『婚約者から悪役令嬢と呼ばれた自称天使に、いつの間にか外堀を埋められた。』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/891918330)のヒロイン視点の物語です。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

【完結済】侯爵令息様のお飾り妻

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────

処理中です...