その発言、後悔しないで下さいね?

風見ゆうみ

文字の大きさ
9 / 43

7  この犬は旦那様なんです!

しおりを挟む
「久しぶりだな、エレノア」
「まだ、実家を出てから七日くらいしか経っていませんが…」
「何だよ、せっかく可愛い妹に会いに来たのに、そんな言い方しなくてもいいだろう?」

 お兄様は不満そうな言葉を発されましたが、顔は笑顔です。
 妹の私が言うのもなんですが、お兄様は旦那様ほどではないですが眉目秀麗です。

 ですので、結婚前はモテていて、妹の私は兄と近付きたい女性達に寄ってこられ、その方達をとても、鬱陶しく思っておりました。
 今となりますと、兄を慕ってくれていたのですから、感謝すべき人達であったと理解できます。
 嫌われるよりも好かれた方が、お兄様の立場上は良い事ですからね。

 お兄様はまだ、公爵令息という立場ですから、今のうちに自由にされている様ですが、家族の前ではこんな感じですが、他の人の前では、公爵令息らしい立ち居振る舞いをしてくださっている事を祈ります。

「会いに来てくださったのは嬉しいですが、あまり頻繁には来ないでくださいね。屋敷の方の迷惑になりますから」
「わかってるよ。エレノアの様子を見に来たのもあるが、シークスのとゆっくり話したかったのもある」
「そうなんですね」
「シークスとの調子はどうだと聞きたいところだが、それよりも気になる事があるんだが…」

 お兄様はそう言って、ソファーに座る私の横に座っている大きな犬、旦那様を見て、ひきつった顔をしています。

「どうかしましたか?」

 理由はわかっていますが、知らないふりをして聞いてみます。

「僕が犬が嫌いな事を知っているのに、どうして連れてきてるんだよ。嫌がらせか?」
「迷惑ですか? 心配しなくても飛びかかったりしませんよ」
「そう言われたって、苦手なものは苦手なんだよ」

 ローテーブルをはさんでいるというのに、お兄様は今すぐ逃げたそうな顔をされています。
 なので、早速、旦那様に話しかけます。

「旦那様、少しお話をしましょうか」
「そうだな」
「エレノア、犬に旦那様なんて名前つけてるのか?」

 お兄様は旦那様の言葉を聞き取れなかったのでしょうか。
 そうなると、お兄様は旦那様に対して、良い印象を持ってない事になるのですが…。

「旦那様って名前、可愛いと思いませんか?」
「そうかもしれないが…、別に今、ここに連れてこなくてもいいだろ…。それより、シークスはまだ来ないのか?」
「ここにいる」
「ん?」

 旦那様が言葉を発した途端、お兄様の動きが止まりました。
 どうやら、言葉が通じたのかもしれません。

「旦那様、もう一度、お願いできますか」
「ここにいる。ヒート、久しぶりだな」
「……エレノア」
「はい」
「そういう悪戯をするのは良くない」
「悪戯なんてしていませんよ!」

 どうやら現実では考えられない出来事のため、お兄様は私が悪戯をしていると思ったみたいです。

「シークスの声まで使って、こんな手の込んだ悪戯をするくらいに仲が良いのなら、それはそれでいいんだが」

 お兄様は黒の前髪をかきあげながら、呆れた顔をして続けます。

「もう十分だろ。驚いたよ。だから、犬はどこかへやってくれ。こんな悪ふざけに協力するなんて、シークスにも文句を言わないと」
「だから俺がシークスだと言ってるだろう!」

 旦那様はソファーから降りて、お兄様に近付いていきます。

「く、来るなよ」
「安心しろ。俺はシークスだから、犬じゃない」
「いや、思い切り犬だよ!」

 お兄様はソファーから立ち上がって、扉の方に近付いていきます。
 
 これは逃げようとしていますね…。
 ですので、逃げ道をふさぐ為に、私が扉の前に立ちます。

「な、どういう事なんだよ!? エレノア! 自分が小さい頃に何をやったのか覚えていないのか!?」
「お母様達から話を聞いたので、知ってはいますよ。お兄様が私の大切にしていた、ぬいぐるみを興味もないのに私から取ろうとして、クマさんの手が引きちぎれた事を!」
「いや、それは原因だろ! 小さい頃の事なんだから許してくれよ! その時だってちゃんと謝ったじゃないか」
「謝ってもらったそうですが、その時のお兄様は全然、悪いと思っておられなかったそうじゃないですか」
「だからって、友達の家から大きな犬を連れてきて、追い回させなくても良かっただろ!」
「大きいけれど、可愛いわんちゃんだったそうですよ」
「エレノアのせいで、全然、可愛くなかったよ! それに噛んでくる犬が可愛いわけないだろう!」

 お兄様は私が5歳の頃に、私が借りてきた大きな犬に追われただけでなく、噛まれてしまった為、犬、特に大きな犬が苦手なのです。

 借りてきた犬はまだ若かったらしく、身体は大きかったけれど、アマガミの加減を知らなかったようで、その時は大変だったそうです。

 あまり、その時の事は覚えていないのですが、家族から話を聞いて、大きくなってから、自分の行動を色々な意味で悔やんだものです。
 もちろん、お兄様に酷いことをしてしまったという気持ちと、そのせいで犬が飼えなくなってしまったという、また違った気持ちが…。
 
 どうして、子供の頃の私は、友人から犬を借りてきたのでしょう。
 全く覚えていないのですよね…。

「あの時は申し訳ございませんでした。でも、この犬は旦那様なんです!」
「そんな、そんなの信じられるわけないだろう!?」

 こんな情けない表情のお兄様を見たのは、子供の頃以来です。
 もちろん、私と犬しかいないと思っているから、こんな姿を見せるのでしょうけれど。

「まあ、そうなるのもしょうがない。犬は苦手だと聞いていたが、ここまでとはな」

 旦那様は足を止めると、その場でお座りして言います。

「俺がシークスだと、お前が判断できる質問をしてくれ。それに対して答えよう」
「そ、そんな…。嘘だろ」

 犬が話をしている事も信じられない様で、お兄様は呆然とした表情で呟いたのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

【完結】王妃はもうここにいられません

なか
恋愛
「受け入れろ、ラツィア。側妃となって僕をこれからも支えてくれればいいだろう?」  長年王妃として支え続け、貴方の立場を守ってきた。  だけど国王であり、私の伴侶であるクドスは、私ではない女性を王妃とする。  私––ラツィアは、貴方を心から愛していた。  だからずっと、支えてきたのだ。  貴方に被せられた汚名も、寝る間も惜しんで捧げてきた苦労も全て無視をして……  もう振り向いてくれない貴方のため、人生を捧げていたのに。 「君は王妃に相応しくはない」と一蹴して、貴方は私を捨てる。  胸を穿つ悲しみ、耐え切れぬ悔しさ。  周囲の貴族は私を嘲笑している中で……私は思い出す。  自らの前世と、感覚を。 「うそでしょ…………」  取り戻した感覚が、全力でクドスを拒否する。  ある強烈な苦痛が……前世の感覚によって感じるのだ。 「むしろ、廃妃にしてください!」  長年の愛さえ潰えて、耐え切れず、そう言ってしまう程に…………    ◇◇◇  強く、前世の知識を活かして成り上がっていく女性の物語です。  ぜひ読んでくださると嬉しいです!

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

あなただけが私を信じてくれたから

樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。 一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。 しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。 処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように

ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』  運命の日。  ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。 (私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)  今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。  ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。  もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。  そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。  ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。  ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。  でも、帰ってきたのは護衛のみ。  その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。 《登場人物》  ☆ルキナ(16) 公爵令嬢。  ☆ジークレイン(24) ルキナの兄。  ☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。  ★ブリトニー(18) パン屋の娘。

処理中です...