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8 終わらないブラッシング
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怯えるお兄様を何とか落ち着かせて、お話をしてみると、お兄様はソファーに座り、しばらくは頭を抱えておられましたが、顔を上げられました。
「本当にシークスなのか? エレノアの悪戯の疑いが高かったけれど、シークスはこんな悪戯を好む人間じゃないから」
ソファーの上でお座りしている旦那様に、冷静になった、お兄様が問いかけました。
何か失礼な事を言われた気がしますが、今は口を挟まない事にします。
「ヒート、俺だと言っているだろう。エレノアは、すぐに信じてくれたぞ? 兄妹なのに、どうしてそこまで反応が違うんだ?」
「僕の反応は普通の人の反応だと思うよ。犬に怯えるのは別としてね。それに、シークス。エレノアは変わっていると、何度も話をしただろう。君だって、エレノアが変わっているという事を実感したという事だよ」
「そ、そうだな。かなり実感はしたな」
旦那様は可愛らしいお顔をこちらに向けて下さいました。
目が隠れているのも、とても可愛いです。
もふもふしたいです。
「抱きつくなよ」
抱きつこうとしたのがバレてしまい、旦那さまから先にダメ出しされてしまいました。
減るものではないのですから、少しくらい触らせてほしいです…。
「それにしても、シークス、一体、何があってそんな事になったんだ? まさか、エレノアが何かしたんじゃないだろうな」
「失礼ですよ、お兄様! 私は多少は変わっているかと思いますが、迷惑をかける程ではありません!」
「いや、かけてるだろ! どうせ、シークスが自分の欲しかった犬に似ているから、犬になった不思議よりも、可愛いが勝ったに決まっている!」
「それの何が悪いんですか! 見て下さいよ、この旦那様の愛らしさを!」
「犬だ」
お兄様はきっぱりと答えてから続けます。
「中身がシークスだろうが、見た目は犬なんだよ! しかも大きい!」
「お兄様、しっかりして下さい! 見て下さいよ、お兄様には旦那様の、この可愛さがわからないんですか!?」
「犬嫌いの人間にわかれという方が間違ってるだろう!?」
お兄様と喧嘩をしていると、視界の端で何かが揺れているのに気付き、旦那様の方を振り返ります。
な、なんと、旦那様のふさふさの尻尾が左右に揺れているではないですか!
もしや、私達の喧嘩を楽しんで下さっている?
「旦那様、可愛いです!」
犬の尻尾を触るのは良くないと聞いていますので、旦那様の背中を撫で撫でします。
「や、止めろ! 撫でくりまわすな!」
「旦那様、お腹見せましょうか。そうすれば、お兄様も警戒をといてくれるはずです!」
「君が触りたいだけだろう!」
「それは間違っていません!」
旦那様は嫌がってはいますが、振り払って逃げようとはなさらないので、優しい方なのでしょうね。
そして、私はその優しさに甘えて、もふもふさせてもらいます!
「おい、ヒート。妹をどうにかしてくれ…」
旦那様はぐったりとソファーに横になり、私のすりすり攻撃を受け入れてくれながらも、お兄様に助けを求めました。
硬い毛をめくると、柔らかい毛が出てきて、ふわふわです!
「何とか出来ていたら、こんな事になってない。それに、今は君の妻でもあるだろう。夫である君がしっかりしないでどうするんだ!」
「エレノアは俺の話を自分の都合の良い様に受け止める天才なんだ…」
「それに関しては、僕が相手の場合もそうだから、諦めた方がいい」
「君が諦めたから、俺がこんな風になってるんじゃないのか?」
「エレノアは変わってはいるが可愛い妹なんだ。文句を言うな」
「俺に味方はいないのか…」
どうにでもしろ、と言わんばかりに、旦那様は、お腹をなでまくっている私の方を見て呟いたのでした。
そんなこんなで、一時は話がだいぶそれてはしまいましたが、お兄様に旦那様の呪いの話をすると、顎に指を当てて難しそうな顔をされました。
「魔女が呪いか…。あまり聞いた事のない話だな」
「そう言われてみればそうですね。魔女なら魔法、と言ってもいい様な…」
「魔法だと術者が死ねば効果がなくなる事が多いが、そうではないし、本人が呪いだと思っていたようだから、呪いかと思ったんだが」
私とお兄様の会話に旦那様がそう答えてくれました。
密かに持ってきていた、旦那様の為に買ったブラシで背中の毛をブラッシングしながら尋ねます。
「はっきり魔女から呪ってやった、とか言われた訳ではないんですか?」
「言われたわけではないな。ただ、遺書には認められた者だけが、犬になる呪いをとけると書いてあったらしい」
「認められた者、というのは、何に対してですか?」
「わからない。だから、どうすれば良いか困ってるんだ」
旦那様はブラッシングが気持ち良いのか、勝手にごろんと体を反対側に向けて下さいました。
今までは、お兄様に顔を見せていましたが、今はソファーの背もたれに顔を向けている感じです。
私のブラッシングに満足いただけたのなら嬉しいです。
「満足していると思っているかもしれないが、そうしないと終わらないからだからな」
「では、終わらないブラッシングを!」
「止めてくれ…。それに、終わらないブラッシングって、一体、何なんだ」
「旦那様が元の姿に戻るまで、ブラッシングし続ける事です」
「…つらい」
旦那様がぼそりと呟きましたが、気にせずにブラッシングを続けていると、お兄様はなぜか、ホッとした様な表情で言います。
「呪い云々は別として、2人が上手くやっているみたいで良かったよ。エレノアは言いたい事を言うタイプだし、シークスも人付き合いが下手だから、心配してたんだ」
「旦那様が人付き合いが下手というのは否定しませんね。愛してほしいと相手から言われたわけでもありませんのに、愛する事が出来ない、なんて、普通の人は言わないと思いますから」
「う…、それは悪かったと思っているよ。普通はこんな人間は嫌がるだろう。何度も言うが、君がこんな性格だとは思っていなかったんだ」
「常識を疑いますね」
「す、すまない…」
旦那様は罰が悪いのか、死んだ魚の様に動かなくなりました。
ですので、ブラッシングを止めて、ずっと触ってみたかった肉球に触ってみます。
思っていたより固いです。
「いや、エレノア。お前も悪いところはあるからな」
「それにつきましては、反省します」
お兄様に謝ると、旦那様がお兄様に話しかけます。
「おい、ヒート。本当にエレノアを止める事は出来ないのか…」
「無理だな。よっぽど嫌なら泣いて頼んでみたらどうだ?」
「泣きたい気持ちではあるが、これくらいでは泣けない」
旦那様の声が悲しげになったので、さすがにこれ以上は駄目かと判断して、名残惜しいですが、旦那様の肉球を触るのを止めて、旦那様の呪いについて、真剣にお兄様に相談する事にしたのでした。
「本当にシークスなのか? エレノアの悪戯の疑いが高かったけれど、シークスはこんな悪戯を好む人間じゃないから」
ソファーの上でお座りしている旦那様に、冷静になった、お兄様が問いかけました。
何か失礼な事を言われた気がしますが、今は口を挟まない事にします。
「ヒート、俺だと言っているだろう。エレノアは、すぐに信じてくれたぞ? 兄妹なのに、どうしてそこまで反応が違うんだ?」
「僕の反応は普通の人の反応だと思うよ。犬に怯えるのは別としてね。それに、シークス。エレノアは変わっていると、何度も話をしただろう。君だって、エレノアが変わっているという事を実感したという事だよ」
「そ、そうだな。かなり実感はしたな」
旦那様は可愛らしいお顔をこちらに向けて下さいました。
目が隠れているのも、とても可愛いです。
もふもふしたいです。
「抱きつくなよ」
抱きつこうとしたのがバレてしまい、旦那さまから先にダメ出しされてしまいました。
減るものではないのですから、少しくらい触らせてほしいです…。
「それにしても、シークス、一体、何があってそんな事になったんだ? まさか、エレノアが何かしたんじゃないだろうな」
「失礼ですよ、お兄様! 私は多少は変わっているかと思いますが、迷惑をかける程ではありません!」
「いや、かけてるだろ! どうせ、シークスが自分の欲しかった犬に似ているから、犬になった不思議よりも、可愛いが勝ったに決まっている!」
「それの何が悪いんですか! 見て下さいよ、この旦那様の愛らしさを!」
「犬だ」
お兄様はきっぱりと答えてから続けます。
「中身がシークスだろうが、見た目は犬なんだよ! しかも大きい!」
「お兄様、しっかりして下さい! 見て下さいよ、お兄様には旦那様の、この可愛さがわからないんですか!?」
「犬嫌いの人間にわかれという方が間違ってるだろう!?」
お兄様と喧嘩をしていると、視界の端で何かが揺れているのに気付き、旦那様の方を振り返ります。
な、なんと、旦那様のふさふさの尻尾が左右に揺れているではないですか!
もしや、私達の喧嘩を楽しんで下さっている?
「旦那様、可愛いです!」
犬の尻尾を触るのは良くないと聞いていますので、旦那様の背中を撫で撫でします。
「や、止めろ! 撫でくりまわすな!」
「旦那様、お腹見せましょうか。そうすれば、お兄様も警戒をといてくれるはずです!」
「君が触りたいだけだろう!」
「それは間違っていません!」
旦那様は嫌がってはいますが、振り払って逃げようとはなさらないので、優しい方なのでしょうね。
そして、私はその優しさに甘えて、もふもふさせてもらいます!
「おい、ヒート。妹をどうにかしてくれ…」
旦那様はぐったりとソファーに横になり、私のすりすり攻撃を受け入れてくれながらも、お兄様に助けを求めました。
硬い毛をめくると、柔らかい毛が出てきて、ふわふわです!
「何とか出来ていたら、こんな事になってない。それに、今は君の妻でもあるだろう。夫である君がしっかりしないでどうするんだ!」
「エレノアは俺の話を自分の都合の良い様に受け止める天才なんだ…」
「それに関しては、僕が相手の場合もそうだから、諦めた方がいい」
「君が諦めたから、俺がこんな風になってるんじゃないのか?」
「エレノアは変わってはいるが可愛い妹なんだ。文句を言うな」
「俺に味方はいないのか…」
どうにでもしろ、と言わんばかりに、旦那様は、お腹をなでまくっている私の方を見て呟いたのでした。
そんなこんなで、一時は話がだいぶそれてはしまいましたが、お兄様に旦那様の呪いの話をすると、顎に指を当てて難しそうな顔をされました。
「魔女が呪いか…。あまり聞いた事のない話だな」
「そう言われてみればそうですね。魔女なら魔法、と言ってもいい様な…」
「魔法だと術者が死ねば効果がなくなる事が多いが、そうではないし、本人が呪いだと思っていたようだから、呪いかと思ったんだが」
私とお兄様の会話に旦那様がそう答えてくれました。
密かに持ってきていた、旦那様の為に買ったブラシで背中の毛をブラッシングしながら尋ねます。
「はっきり魔女から呪ってやった、とか言われた訳ではないんですか?」
「言われたわけではないな。ただ、遺書には認められた者だけが、犬になる呪いをとけると書いてあったらしい」
「認められた者、というのは、何に対してですか?」
「わからない。だから、どうすれば良いか困ってるんだ」
旦那様はブラッシングが気持ち良いのか、勝手にごろんと体を反対側に向けて下さいました。
今までは、お兄様に顔を見せていましたが、今はソファーの背もたれに顔を向けている感じです。
私のブラッシングに満足いただけたのなら嬉しいです。
「満足していると思っているかもしれないが、そうしないと終わらないからだからな」
「では、終わらないブラッシングを!」
「止めてくれ…。それに、終わらないブラッシングって、一体、何なんだ」
「旦那様が元の姿に戻るまで、ブラッシングし続ける事です」
「…つらい」
旦那様がぼそりと呟きましたが、気にせずにブラッシングを続けていると、お兄様はなぜか、ホッとした様な表情で言います。
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