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「ど、どういう事だ!? 婚姻が認められた? 意味がわからん!」
我に返った王太子殿下は当主様に向かって叫んだ。
「そのままの意味でございますが? あまりにもミーファに対して執拗に絡んでくる方がいらっしゃいましたので、諦めていただく為に、二人の意思を確認してから、婚姻関係を結ばせました」
当主様は淡々とした口調で言った後、話題を変える。
「王太子殿下、先程、殿下の側近の方から殿下がこちらに来られていないかとの問い合わせをいただいたのですが、何も言わずに出てこられたのですか?」
「そ、それは…! キュララには伝えてある!」
「聖女様が王太子殿下の側近になられたのですか?」
「そんな訳はないだろう! 何を寝ぼけた事を言っているんだ!」
「殿下のスケジュール管理をしている側近に何も言わず、こちらへ押しかけてくるという行動も、あまり褒められたものではないと思いますが?」
当主様に言い返され、今度は王太子殿下が話題を変える。
「今はそんな事はどうでもいい! それより、どうしていきなり二人が婚姻関係を結んだ事になるんだ! 今まで、二人は俺と話をしていたんだぞ!」
「婚姻届を私が代理人として提出して参りましたので」
当主様がしれっと答える。
この国では婚姻届の提出は身分が証明できれば、代理人でも提出は可能で受理もしてもらえる。
後で本人に正式に確認の書類は送られてくる可能性はあるけど、私達の場合は問題ないので、そのままにしておけばいい。
これで、私はリュークと結婚したわけだけど、あまりにも急な展開で実感がわかない。
いや、まずは、それよりも先に目の前にいる王太子殿下に帰ってもらわなくちゃ。
「ミーファ! 許さないぞ! 俺の心をもてあそぶなんて!」
は?
何を言ってるの?
誰がいつ、王太子殿下の心をもてあそんだって?
一瞬、そんな言葉が出そうになったけど、のみこんでから口を開く。
「そんな事はしておりません! 殿下、少し、落ち着いてから私の話を聞いていただけますか」
「俺は落ち着いているから、今すぐ話せ! どうせ言い訳するつもりなんだろう!?」
「言い訳ではありません。正直な気持ちをお伝えしようとしているだけです。殿下は私があなたを好きだったと思い込んでおられるかもしれませんが、そんな事実は一度もありません! 私はもう聖女ではないんです! 王太子殿下には王太子殿下に見合った方がいらっしゃると思いますので、私の事はもう放っておいて下さい!」
「放っておいてだと…?」
「いえ、いっその事、忘れて下さい」
訂正すると、殿下が泣き出しそうな顔になって、カーペットの上に膝から崩れ落ちた。
「あんなに目にかけてやっていたのに、この仕打ちか…」
「ふざけた事を言わないで下さい。あなたが私にしていた事は、ただの嫌がらせです」
「嫌がらせ…」
呆然とした表情で王太子殿下は私を見上げて呟いた。
きつい事を言ってしまったかもしれないけど、これで私の事を忘れてくれるならそれでいい。
ただ、報復してきそうで怖いけど。
「王太子殿下、ミーファは悪くありません。恨むなら私を恨んで下さい」
リュークの言葉を聞いて、王太子殿下は顔をリュークの方に向けて叫ぶ。
「恨むどころか、お前を不敬罪で殺してやる!」
「不敬罪? どういう事でしょうか?」
「俺を馬鹿にしただろう!?」
「恐れながら申し上げますが、王太子殿下は先程までの話を覚えていらっしゃらないのですか? 覚えていらっしゃるなら、今の私の発言は、リーフ殿下とカイン殿下が仰ったと思っていただけているはずです」
「くそ! あいつら! 許さん!」
王太子殿下が叫んだ時だった。
部屋の扉が叩かれたので、リュークが扉に近付き、声を掛けたかと思うと、驚いた顔をして、すぐに部屋から出て行った。
どうしたんだろうと気になっていると、すぐにリュークが若い男性と一緒に部屋に戻ってきた。
ラフな格好をしていたので、一瞬、わからなかったけれど、宰相だという事がわかった。
王太子殿下も突然現れた宰相に驚いて何も言えないでいると、宰相の方から口を開いた。
「王太子殿下、勝手な行動はご遠慮下さいとお願いしていたのですが?」
「遠慮しろと言っただけだろ!」
「ご遠慮下さいという言葉は遠回しに止めてくださいという意味合いなんですが」
「そ、そんな事は知らん! なぜ遠回しに言うんだ、まどろっこしい!」
「では、この様な事は二度とお止めください」
宰相は細い目をさらに細くさせて、王太子殿下を軽く睨んだ後、当主様に頭を下げた。
「ご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした」
「かまいません。ですが、これ以上の長居は、ご遠慮願えますでしょうか」
「もちろんでございます。王太子殿下、お話がありますので、私と一緒にお戻り願えますか」
どうして側近じゃなく、宰相が迎えに来たのか不思議だったけど、用事があったから探されていたのかもしれない。
「ま、まだだ。まだ話は…」
「殿下、あなたはまだ自分のおかれている状況がおわかりにならないようですね。城に帰ってから、ゆっくりお話させていただきますよ」
「どうして、お前にそんな事を!」
「ここで、あなたとゆっくりお話をしている暇はないのです」
宰相は、よほど腹を立てている様で、当主様や私達に頭を下げた後、王太子殿下の腕を掴んだ。
「私をクビにしたいのなら、そうしていただいてもかまいません。ですが、後で後悔されるのは殿下ですよ」
「……」
さすがの王太子殿下も自分のした事がまずかったと気付いたのか、口を噤んだ後、小さく頷いてから、私の方に振り返った。
「ミーファ、俺の何が悪かったんだ?」
「王太子殿下、何が悪かったかは、自分の行動をよく思い出していただき、私の立場を殿下と置きかえて考えてみて下さい」
「……わかった。考えてはみるが、もしわかったら、俺との事を考え直してくれるのか?」
「それはありえません。先程、当主様が仰った通り、私とリュークは婚姻関係を結びましたから」
「離縁だって出来るだろう!」
「そんな事は、私の方からは絶対にありえません」
王太子殿下はまだ何か言いたそうだったけれど、宰相が私達にもう一度、軽く頭を下げた後、魔道具を使ったのか、一瞬にして二人の姿は見えなくなった。
転移の魔道具は、一般的に制限があって、まず、他国間での移動は出来ない。
家への移動に関しては、自分の家なら中に転移は可能だけれど、他人の家に関しては近くに転移する事は出来ても、家の中や敷地内には転移は出来ない。
たぶん、それを認めてしまうと、色々と問題が出てくるからだろう。
家の中に入ってしまえば、そこからの転移は可能。
宰相が王太子殿下と一緒に帰ったのは、王城の中に転移できるようにする為だろう。
誰も話さなくなった為か、一気に部屋の中が静まり返り、それと同時に疲れが襲ってきた。
「大丈夫か、ミーファ?」
「大丈夫。ありがとう」
リュークがすぐに近付いてきて、私の身体を支えてくれたので頷いてから、笑顔を見せると、彼もホッとした顔をして微笑んでくれた。
「父上、ありがとうございました」
「父として当たり前の事をしたまでだ。それより悪かったな。急かしてしまった上に、届け出も私が出す事になってしまった」
当主様が主に私の方を見て謝ってくれた。
「とんでもないです。当主様だから、本日の処理にまわしていただけたんだと思います」
王太子殿下がやって来た時間帯は提出する役所が閉まる、ギリギリの時間帯だった。
当主様は、役所の方に連絡して、本日付で受理してもらえる様に手配してくれたのだ。
リュークが読んだメモは、受理してもらえたという報告だったらしい。
「宰相閣下はかなり怒っていらっしゃるようでしたし、王太子殿下は反省して、少しはマシになってくれるんでしょうか」
「そう祈るしかないが、ただ、あの王太子殿下だから何とも言えん」
当主様は大きなため息を吐いた後、私に向かって言う。
「今日は特に疲れただろう。それに、ミーファ、夕食の時間だから、腹もへっているんじゃないか?」
「あ、はい。お腹はペコペコです」
「今日は、バタバタしてしまったが、出来るだけ、いつもより豪華な食事にしてもらおう」
当主様が笑顔で言うので、首を傾げて尋ねる。
「どうしてですか?」
「どうして…って、おめでたい日だからだろう?」
呆れた様な顔をして、当主様が答えてくれた。
おめでたい日って、どういう事だろう?
「ミーファ、俺達は籍を入れたんだよ」
「……」
リュークに言われて思い出す。
そうだった!
全く、実感がなかった!
二人で一緒に提出したいと思う人が多いだろうけれど、私は特にそういう気持ちがなかったから良かった。
でも、こんな形での結婚を嫌がる人もいるだろうな。
まあ、私とリュークが気にならないのならいいわよね?
「あの、リューク」
「ん?」
「不束者ですが、よろしくお願い致します」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします。あと、絶対に大事にするし、幸せにします!」
「ありがとう! 私もリュークを幸せに出来る様に頑張ります」
リュークの言葉が嬉しくて、ドキドキする胸をおさえながら、彼に微笑むと、リュークも微笑み返してくれた。
王太子殿下の事も、まだはっきり片付いた訳ではないし、彼が私にこだわらないようにする良い方法を考えないと…。
そんな事を考えた時だった。
静かに扉が開き、閉まる音が聞こえた。
当主様が気をきかせてくれたのか、出て行ってしまわれたようだった。
私とリュークは我に返って、慌てて、当主様を追いかける。
「待って下さい!」
「私の事は気にしなくて良い」
「気にしますよ! 申し訳ございませんでした」
リュークと一緒に謝ると、当主様は足を止めて微笑む。
「お前達が幸せならそれで良い」
そう言って下さった時だった。
バトラーが走ってきたと思うと、当主様に手紙を差し出した。
「緊急の様です」
当主様は手紙を受け取り目を通されると、こめかみをおさえてから、大きく息を吐いた。
「出席すると返事をしておいてくれ」
「かしこまりました」
バトラーは恭しく頭を下げると立ち去っていく。
「どうかされましたか?」
リュークが尋ねると、当主様は首を横に振る。
「何でもない。二人共、食事の前にしなければならない事があるなら、先に済ませておいてくれ」
何でもない様には見えなかったけれど、私達には話せない内容なのかと考え、私もリュークもこれ以上は聞かない事にしたのだった。
我に返った王太子殿下は当主様に向かって叫んだ。
「そのままの意味でございますが? あまりにもミーファに対して執拗に絡んでくる方がいらっしゃいましたので、諦めていただく為に、二人の意思を確認してから、婚姻関係を結ばせました」
当主様は淡々とした口調で言った後、話題を変える。
「王太子殿下、先程、殿下の側近の方から殿下がこちらに来られていないかとの問い合わせをいただいたのですが、何も言わずに出てこられたのですか?」
「そ、それは…! キュララには伝えてある!」
「聖女様が王太子殿下の側近になられたのですか?」
「そんな訳はないだろう! 何を寝ぼけた事を言っているんだ!」
「殿下のスケジュール管理をしている側近に何も言わず、こちらへ押しかけてくるという行動も、あまり褒められたものではないと思いますが?」
当主様に言い返され、今度は王太子殿下が話題を変える。
「今はそんな事はどうでもいい! それより、どうしていきなり二人が婚姻関係を結んだ事になるんだ! 今まで、二人は俺と話をしていたんだぞ!」
「婚姻届を私が代理人として提出して参りましたので」
当主様がしれっと答える。
この国では婚姻届の提出は身分が証明できれば、代理人でも提出は可能で受理もしてもらえる。
後で本人に正式に確認の書類は送られてくる可能性はあるけど、私達の場合は問題ないので、そのままにしておけばいい。
これで、私はリュークと結婚したわけだけど、あまりにも急な展開で実感がわかない。
いや、まずは、それよりも先に目の前にいる王太子殿下に帰ってもらわなくちゃ。
「ミーファ! 許さないぞ! 俺の心をもてあそぶなんて!」
は?
何を言ってるの?
誰がいつ、王太子殿下の心をもてあそんだって?
一瞬、そんな言葉が出そうになったけど、のみこんでから口を開く。
「そんな事はしておりません! 殿下、少し、落ち着いてから私の話を聞いていただけますか」
「俺は落ち着いているから、今すぐ話せ! どうせ言い訳するつもりなんだろう!?」
「言い訳ではありません。正直な気持ちをお伝えしようとしているだけです。殿下は私があなたを好きだったと思い込んでおられるかもしれませんが、そんな事実は一度もありません! 私はもう聖女ではないんです! 王太子殿下には王太子殿下に見合った方がいらっしゃると思いますので、私の事はもう放っておいて下さい!」
「放っておいてだと…?」
「いえ、いっその事、忘れて下さい」
訂正すると、殿下が泣き出しそうな顔になって、カーペットの上に膝から崩れ落ちた。
「あんなに目にかけてやっていたのに、この仕打ちか…」
「ふざけた事を言わないで下さい。あなたが私にしていた事は、ただの嫌がらせです」
「嫌がらせ…」
呆然とした表情で王太子殿下は私を見上げて呟いた。
きつい事を言ってしまったかもしれないけど、これで私の事を忘れてくれるならそれでいい。
ただ、報復してきそうで怖いけど。
「王太子殿下、ミーファは悪くありません。恨むなら私を恨んで下さい」
リュークの言葉を聞いて、王太子殿下は顔をリュークの方に向けて叫ぶ。
「恨むどころか、お前を不敬罪で殺してやる!」
「不敬罪? どういう事でしょうか?」
「俺を馬鹿にしただろう!?」
「恐れながら申し上げますが、王太子殿下は先程までの話を覚えていらっしゃらないのですか? 覚えていらっしゃるなら、今の私の発言は、リーフ殿下とカイン殿下が仰ったと思っていただけているはずです」
「くそ! あいつら! 許さん!」
王太子殿下が叫んだ時だった。
部屋の扉が叩かれたので、リュークが扉に近付き、声を掛けたかと思うと、驚いた顔をして、すぐに部屋から出て行った。
どうしたんだろうと気になっていると、すぐにリュークが若い男性と一緒に部屋に戻ってきた。
ラフな格好をしていたので、一瞬、わからなかったけれど、宰相だという事がわかった。
王太子殿下も突然現れた宰相に驚いて何も言えないでいると、宰相の方から口を開いた。
「王太子殿下、勝手な行動はご遠慮下さいとお願いしていたのですが?」
「遠慮しろと言っただけだろ!」
「ご遠慮下さいという言葉は遠回しに止めてくださいという意味合いなんですが」
「そ、そんな事は知らん! なぜ遠回しに言うんだ、まどろっこしい!」
「では、この様な事は二度とお止めください」
宰相は細い目をさらに細くさせて、王太子殿下を軽く睨んだ後、当主様に頭を下げた。
「ご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした」
「かまいません。ですが、これ以上の長居は、ご遠慮願えますでしょうか」
「もちろんでございます。王太子殿下、お話がありますので、私と一緒にお戻り願えますか」
どうして側近じゃなく、宰相が迎えに来たのか不思議だったけど、用事があったから探されていたのかもしれない。
「ま、まだだ。まだ話は…」
「殿下、あなたはまだ自分のおかれている状況がおわかりにならないようですね。城に帰ってから、ゆっくりお話させていただきますよ」
「どうして、お前にそんな事を!」
「ここで、あなたとゆっくりお話をしている暇はないのです」
宰相は、よほど腹を立てている様で、当主様や私達に頭を下げた後、王太子殿下の腕を掴んだ。
「私をクビにしたいのなら、そうしていただいてもかまいません。ですが、後で後悔されるのは殿下ですよ」
「……」
さすがの王太子殿下も自分のした事がまずかったと気付いたのか、口を噤んだ後、小さく頷いてから、私の方に振り返った。
「ミーファ、俺の何が悪かったんだ?」
「王太子殿下、何が悪かったかは、自分の行動をよく思い出していただき、私の立場を殿下と置きかえて考えてみて下さい」
「……わかった。考えてはみるが、もしわかったら、俺との事を考え直してくれるのか?」
「それはありえません。先程、当主様が仰った通り、私とリュークは婚姻関係を結びましたから」
「離縁だって出来るだろう!」
「そんな事は、私の方からは絶対にありえません」
王太子殿下はまだ何か言いたそうだったけれど、宰相が私達にもう一度、軽く頭を下げた後、魔道具を使ったのか、一瞬にして二人の姿は見えなくなった。
転移の魔道具は、一般的に制限があって、まず、他国間での移動は出来ない。
家への移動に関しては、自分の家なら中に転移は可能だけれど、他人の家に関しては近くに転移する事は出来ても、家の中や敷地内には転移は出来ない。
たぶん、それを認めてしまうと、色々と問題が出てくるからだろう。
家の中に入ってしまえば、そこからの転移は可能。
宰相が王太子殿下と一緒に帰ったのは、王城の中に転移できるようにする為だろう。
誰も話さなくなった為か、一気に部屋の中が静まり返り、それと同時に疲れが襲ってきた。
「大丈夫か、ミーファ?」
「大丈夫。ありがとう」
リュークがすぐに近付いてきて、私の身体を支えてくれたので頷いてから、笑顔を見せると、彼もホッとした顔をして微笑んでくれた。
「父上、ありがとうございました」
「父として当たり前の事をしたまでだ。それより悪かったな。急かしてしまった上に、届け出も私が出す事になってしまった」
当主様が主に私の方を見て謝ってくれた。
「とんでもないです。当主様だから、本日の処理にまわしていただけたんだと思います」
王太子殿下がやって来た時間帯は提出する役所が閉まる、ギリギリの時間帯だった。
当主様は、役所の方に連絡して、本日付で受理してもらえる様に手配してくれたのだ。
リュークが読んだメモは、受理してもらえたという報告だったらしい。
「宰相閣下はかなり怒っていらっしゃるようでしたし、王太子殿下は反省して、少しはマシになってくれるんでしょうか」
「そう祈るしかないが、ただ、あの王太子殿下だから何とも言えん」
当主様は大きなため息を吐いた後、私に向かって言う。
「今日は特に疲れただろう。それに、ミーファ、夕食の時間だから、腹もへっているんじゃないか?」
「あ、はい。お腹はペコペコです」
「今日は、バタバタしてしまったが、出来るだけ、いつもより豪華な食事にしてもらおう」
当主様が笑顔で言うので、首を傾げて尋ねる。
「どうしてですか?」
「どうして…って、おめでたい日だからだろう?」
呆れた様な顔をして、当主様が答えてくれた。
おめでたい日って、どういう事だろう?
「ミーファ、俺達は籍を入れたんだよ」
「……」
リュークに言われて思い出す。
そうだった!
全く、実感がなかった!
二人で一緒に提出したいと思う人が多いだろうけれど、私は特にそういう気持ちがなかったから良かった。
でも、こんな形での結婚を嫌がる人もいるだろうな。
まあ、私とリュークが気にならないのならいいわよね?
「あの、リューク」
「ん?」
「不束者ですが、よろしくお願い致します」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします。あと、絶対に大事にするし、幸せにします!」
「ありがとう! 私もリュークを幸せに出来る様に頑張ります」
リュークの言葉が嬉しくて、ドキドキする胸をおさえながら、彼に微笑むと、リュークも微笑み返してくれた。
王太子殿下の事も、まだはっきり片付いた訳ではないし、彼が私にこだわらないようにする良い方法を考えないと…。
そんな事を考えた時だった。
静かに扉が開き、閉まる音が聞こえた。
当主様が気をきかせてくれたのか、出て行ってしまわれたようだった。
私とリュークは我に返って、慌てて、当主様を追いかける。
「待って下さい!」
「私の事は気にしなくて良い」
「気にしますよ! 申し訳ございませんでした」
リュークと一緒に謝ると、当主様は足を止めて微笑む。
「お前達が幸せならそれで良い」
そう言って下さった時だった。
バトラーが走ってきたと思うと、当主様に手紙を差し出した。
「緊急の様です」
当主様は手紙を受け取り目を通されると、こめかみをおさえてから、大きく息を吐いた。
「出席すると返事をしておいてくれ」
「かしこまりました」
バトラーは恭しく頭を下げると立ち去っていく。
「どうかされましたか?」
リュークが尋ねると、当主様は首を横に振る。
「何でもない。二人共、食事の前にしなければならない事があるなら、先に済ませておいてくれ」
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